表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
46/677

一十九時限目 ダブルデートは波乱の幕開け[前]


 日曜日というだけあって、都会から離れた埼玉の田舎駅も、平日よりは賑わいをみせている。


 でも、所詮は田舎だ。人の往来が二割程度増した……くらいの話で、著しく変化したわけじゃない。


 待ち合わせしてる人の姿もチラホラと見受けるけど、人と人との間隔はかなり開いてる。


 ここがもし都内の駅であれば、言葉通りすし詰め状態になり、鬱陶しくて適わないと、私は待ち合わせ場所の変更を要求していたに違いない。


 そうしないのは、ここが渋谷のハチ公前じゃなく、池袋東口にあるいけふくろう前でもないから。


 有名なシンボルで待ち合わせするのが、田舎者の憧れみたいな風潮もある……多分だけど。


 東梅ノ原駅の改札は一つのみで、私が立っている場所からは、ホームから階段を上ってくる全ての乗客を視認できる。


 その中に、彼の姿はない。


 指定された時刻より一十五分早く到着したのは、待ち合わせ時間に余裕を持たせるためであり、小言を言ってやろうと息巻いてきたわけじゃない。それでも、デート相手を待たせるのはマナー違反じゃないの? とは思う。


「ダブルデート、か」


 これが初デートなのに、全くもってわくわく感が無い。そればかりか、先行きが気になって、(あん)(たん)な溜め息を()いている。


「三〇分前行動を期待するだけ無駄だよねえ」


 彼が、そういった甲斐甲斐しいところの一つや二つ見せてくれれば、私の気分もそこそこ晴れるのに、と不満げに(こう)(ふん)を洩らした。


 レンちゃんと合流するのは一十三時。


 今回の作戦は、佐竹君がキーマンなのだから、もう少し考えて行動して欲しい。


「暇だなあ……」


 改札前で待ち(ぼう)け、というのも手持ち無沙汰だ。


 駅のフリーwi-fiがあれば、ソシャゲで適当に時間を潰せるのに、利用客の少ない田舎駅でそれを期待するのは酷というもの。他にやることと言ったら、寝る前の日課であるオリジナルファンタジーの続きを妄想するくらいなもので、それにもほどほど飽きてしまった。


 バッグから二つ折りの手鏡を取り出して、念には念を、と化粧のチェック。うん、これは女の子っぽい! 電車の中で化粧直しは絶対にするなって、琴美さんから注意を受けたけど、ナチュラルメイクで済ませたから、前髪を整える程度に毛先を弄った。


『大丈夫。優梨ちゃんは可愛いから』


 そう太鼓判を押してくれたのは、佐竹君の姉であり、女性としての矜持を──半ば強引ではあったが──教えてくれた師匠でもある琴美さんだ。


 あれ以来、佐竹君の家に訪問する機会がないので会ってないけど、自分から訪ねようと思うほど、私は、琴美さんを快くは思えなかった。


 どちらかと言えば苦手な人種だ。


 ああいう女性を『さばさばしている』と、言うんだろうなあ。


 巷でよく見かける『ファッションさばさば系女子』とは一線を画する存在も、また珍しい。


 SNSのプロフィールに記載している『自称・さばさば系』は、自分の悪態の免罪符として使用される場合が多い。


 相手に対して暴言を吐き、それを指摘されたら「私、さばさばした性格だから」と誇らしげに語るのは、なんともまあ、滑稽に思えてならないので、早々にアカウント削除して作り直したほうがいいまである。


 アナタのしていることは、単なる誹謗中傷に他ならず、自覚しているならば(さっ)(きゅう)に直す努力をすればいいのに……と、何度となく思うけど、指摘したら指摘したで、はた面倒なことにもなり兼ねないから全力でスルーみが深い。


 それに比べて。


 佐竹琴美という女性は、本物のさばさば系女子と言える。なんなら、鯖くらいのヒカリモノだ。食べるときは小骨に気をつけないと痛い目をみるぞ……なんて、ちょっと卑猥な想像をした自分を戒めるように、両頬をペチペチ叩いた。


 下らないことを考えて暇を潰していると、待ち合わせ時刻をオーバーして、二本目となる下り電車がホームに停車した。


 これに乗ってなかったら、もう知らない。


 佐竹君なんて放っておいて、レンちゃんと合流してやる! ……なんて、ようやく女の子らしい不満を爆発させようとしたのに、空気を読んだのか、佐竹君が改札へ続く階段を、脱兎の如く駆け上がってきた。


「悪い! ガチで寝坊した!」


 改札に引っかかって通れず、慌てふためく彼の様子を見て、怒る気力も失せたというのに、『ガチで寝坊した』なんて言い訳を訊かされたら、苦々しい文句を言ってやりたくなった。


「こういう日に、()()()()()とか、やめてくれる?」


「ほんっとに、すまん!」


 佐竹君は、両手のしわとしわを合わせて南無という具合に頭を下げた。


 私の苗字が『はせがわ』だったら、慈悲深い微笑みを湛えて、お線香を添えるが如く許しを与えただろう。それを見た彼は『ふれあいの心だ』って、青い空に浮かぶ雲を仰いだはずだ。


 でも、ガチで寝坊って、寝坊する気満々みたな言い方に訊こえない? ……私だけ?


「昨日、なかなか寝つけなくてさ」


 まだ許さないぞって厳しい顔をしていると、佐竹君は遠足前の小学生みたいな言い訳を、付け加えるように言った。


「楽しみで眠れなかったとか?」


 リアルにそれだ、と佐竹君は大袈裟に、うんうん頷きながら私の言葉に同意してみせた。


「デートって意識したら……、どうにもな」


 照れくさそうに笑う。


「そんな風に言われたら、怒るに怒れないじゃん……ばーか」


 佐竹君も佐竹君なりに、今日という日を待ち侘びていたんだって思うと、これ以上腹を立てても間がもてない。


 それに、私もあまり寝てなかった。


 より優梨(わたし)らしく振る舞うにはどうすればいいのかと、無料の漫画アプリで、人気の少女漫画を読み漁ってたからだ。


 おかげでかなり勉強になったけど、その途中で、夜更かしは肌に悪いと琴美さんに注意されたのを思い出し、いけないいけないとベッドに潜り込んだのは記憶に久しい。


「つか、更に磨きがかかってないか?」


()()()()()()()、だよ」


 然し、佐竹君は頭を振るう。


「外見の話じゃなくて、なんかこう……ガチっぽい感じがする」


 ガチっぽいって……。


 もうちょっと気の利いた言葉を選んでよ。


 ムードの欠片も無いんだから。


「佐竹君のためだよ」


「俺のため?」


 佐竹君が昨日、優志(わたし)にした告白は、一種の気の迷いのようなものだから、彼がちゃんとした恋愛ができるように、しっかり導いてあげなきゃならない。


 女の子の優しさとか、可愛さとか、もう一度彼に再認識させることで、現実に連れ戻すのが今日の私の役割だ。


 もし、彼が道を踏み外したままになれば、優志(わたし)が現実に打ちのめされたように、絶対に後悔する未来が待ち受けている。それゆえに、羞恥心を捨てて、あざとい仕草をしながらカノジョを演じているのだ。


 付け焼き刃の知識で不安だけど、精一杯、可愛らしくしていれば、彼を更生できるだろう。


「そこまでしてくれんのは嬉しいけど」


「けど?」


「気を遣う必要ねえからな?」


 とか言いながらも、喜びの色を隠し切れていない。


 落ち着きのない子どものように、あっちこっっちに瞳が動き回っていた。


 やがて、愉悦に浮ついた心を(いさ)めるように、ふうっと息を吐いた。


 ──マジな話。


「俺は、お前を好きになったわけで、優梨だから好きになったとか、そういうんじゃねえから」


 なんなのコイツ、バカなの死ぬの?


 映画だったら、間違いなく死亡フラグなんですけど? ……あ、ダメだ。


 こういう考え方は私じゃない。

 

 もっと、可愛らしくしないと……。


「こんなとこで口説かれても、嬉しくないですよー」


 ──でも、ありがと。嬉しい。


 ──お、おう!


 素直で、可愛いくて、明るくて、少しだけ意地悪な女の子、それが私。


 大丈夫、何度もイメージトレーニングはした。


 ()()が訊いたら吐き気さえ覚える言葉でも、私なら抵抗なく受け入れることができる……はず。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或



【修正報告】

・2018年12月25日……誤字報告による誤字修正。

 報告ありがとうございます!

・2019年2月21日……読みやすく修正。

・2019年7月17日……誤字脱字の修正。

・2019年12月2日……加筆修正、改稿。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ