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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十六章 I will not go back today,
456/677

三百三十一時限目 大葉蘭華はギャルらしい


「田中君、ちょっと訊いてもいいかな」


 一年生たちがボール遊びしていた中庭で、隣を歩く田中君に声をかけた。


「うっす。質問なら大いに歓迎だよ」


「犬飼先輩のことなんだけど」


「ああ、その話かあ……」


 犬飼先輩の名前を出した途端、これまで浮かべていた笑みが引き攣った笑みに変わった。


 田中君も犬飼先輩と因縁があったりするのだろうか? よそよそしい態度から察するに、犬飼先輩と仲が深いわけではないようだ。


『近寄り難い雰囲気がある』


 と、関根メモには記してあった。友だちは少ないらしい。気難しい性格だったら尚更だ。田中君とは正反対の性格っぽいので、馬が合わなかったのかも知れない。


「なにを訊きたいの?」


「生徒会での犬飼先輩は、どういう人だったのかなって思って」


 田中君は足を止めるて、考える素振りを見せた。


「仕事に対しては真面目に取り組む人だよ。いつも(ひょう)(ひょう)としている八戸先輩とは真逆だって考えるといいかも」


 八戸先輩を基準にすれば、梅高生徒のほぼ全員が真逆の性格になるのではないか? って思ってしまうのは(せん)(かた)無い。口を挟まずに待っていると、田中君は表情だけで「まだ続けるの?」と訴えてきた。それに頷いたら苦笑いして、困り顔のまま言葉を続けた。


「悪い人じゃないよ」


「どうしてそう言い切れるの?」


「真面目過ぎるだけだと思うからさ。他人との距離を掴みきれないだけだよ。犬飼先輩は不器用な人だから」


 そこのところ、八戸先輩は達者なんだろう。いくら陰で『変態紳士』と呼ばれようとも、それを否定することなく、堂々と『男の娘が好きでなにが悪い』って宣言するくらいの人だからなあ。開き直っていると言えばそれまでだけど。


 でも、田中君の証言だけで『いい人』と決めるのは早計な気がする。世の中には、真面目でも犯罪を犯す人はいるのだ。むしろ、真面目な人ほど『魔が差す』もので、昨日は笑顔で挨拶を交わした隣人が、殺人事件の容疑者になる場合もあり得る。


 殺人事件、か──。


 八戸先輩は『犬飼を殺した』と言っていたけど、その真意は未だ解明できていない。田中君ならわかるだろうか? と思い、八戸先輩の言葉のままに伝えてみた。


「八戸先輩が犬飼先輩を、殺した……?」


「そう言ってたんだけど、心当たりある?」


「ない、かなあ……。いや、あの件か? でもそれは……」


 田中君は再び足を止めた。


 目の前には下駄箱が並んでいる。外に出ていた生徒たちが自分のクラスに戻り始める時間だ。玄関口の床には湿った土がいくつも落ちている。その土は一年生の下駄箱まで続いているので、先程注意した彼らの靴から剥がれ落ちた土かも知れない。昇降口の清掃担当は一年生だから、まあいいか。


 それよりも僕は、田中君が口走った()()()が気になっていた。八戸先輩から訊いた件と関係があるだろうか。


「あの件って、会長の件の話?」


「ううん……あ、いや。そうだね」


「否定したあとに肯定されると、余計に怪しく感じるんだけど」


 そんなつもりはないと言いたげに、田中君は頭を振った。


「そうじゃなくて、そうじゃないんだ」


「どういうこと?」


「これより先は大場さんのほうが詳しいと思う。昼休みに訊いてみるといいよ。……話してくれるかはわからないけど」


 そして、田中君は『これ以上は語らない』と意思表示するように口を噤んだ。





 * * *





 もやもやした気分のまま授業を受けて、ようやく昼休みが訪れた。大場さんを迎えに行かなければ、と椅子から立ち上がる。すると、僕が立ち上がるのを待っていたかのように声をかけようとした佐竹を片手で強引に跳ね除けた天野さんが、僕の進行方向を妨げた。


「優志君、ちょっといい?」


「ごめん、急いでるんだ」


「そっか……。もし、私になにかできることがあったら言ってね?」


 わかったとだけ返して、天野さんの横を通り抜ける。ふと目の端に映った彼女の表情は寂しげに見えた。悪いことはしていないのに、罪悪感が込み上げる。声をかけるべきだろうか。でも、なにを伝えればいい? 僕がなにをしているのかを伝えたら安心してくれるとも限らない。


 僕は後ろを振り返らず、二組の教室を目指した。





「すみません、大場さんを呼んでください」


 近場にいる男子生徒にお願いすると、彼は「おおばー! お客さんだぞー!」と声を大にした。 


 大場さんは黒板付近の窓際で、女友だち数人とお喋りをしていた。そのどれも、ギャルっぽいメイクをしている。ギャルメイクを古風に喩えるならば、(おい)(らん)に近いのではないだろうか? ちょっと違うか。でも、異性の気を引こうとしている点では似ていなくもない……かも知れない。ギャルメイクか、ちょっと練習してみようかな? 不足の事態に備えておくのは自己防衛だよね!


 ギャル溜まりの一人が「蘭華、趣味変わったー?」と茶化した。大場さんは「そんなんじないから!」って大々的に否定する。その流れを見ていた彼は、僕を憐れむように見つめて「強く生きろよ」とサムズアップした。その台詞とサムズアップはどこかで見たような気がする。ああ、リゼロだ。……てか、余計なお世話だこのやろう。


「遅くね?」


「これでも急いだんだけど」


「秒で来いし」


 無茶言うなよ……。


「ま、いいけど。お昼は見回りが終わってからだから、速攻で終わらせるから」


 からからからと連呼しているけど、カラカラなのかな? お母さんはガルーラですか。それも噂でしかありませんけど、僕と大場さんはそもそも噂にすらならないから心配しなくてもいいから。


「えっと、名前なんだっけ」


「鶴賀です」


「ああ、そうそう。正月みたいな名前ってのは覚えてたんだけどねー」


 それは『謹賀』だ、とはツッコまない。


 大場さんはいいたいことだけ言い切ると、僕の先頭を早歩きで進む。遅れてはまずいと必死についていくと、前を歩いている大場さんは、曲がり角に差し掛かる手前で前触れもなく足を止めた。


「距離を取ろうとしてるのわからないわけ?」


「す、すみません」


「空気読めないとかウケる」


 ウケないし、空気読まないのはそちらですけどねえ!? って憤りをなんとか堪えた。


 田中君は「大場さんに訊いてくれ」って言っていたけど、大場さんと意思の疎通ができる気がしない。田中君とは全然違うなあ。田中君マジで神対応だったもんなあ。田中不足で参っちゃう……。素が出ると体育会系みたいな言葉遣いになるのは、中学時代の名残りだろうか。田中君が運動部に所属していたのは想像できないけど、人は見かけによらぬもの。実はサッカー部でゴールキーパーか、ディフェンダーをやっていた可能性もある。そうだ、今度、機会があったら『ザ・ウォール』って真似をしてもらおう。


 現実逃避をしていなかったら、大場さんとの見回りは耐えられなかった。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【修正報告】

・2020年3月23日……誤字報告により修正。

 報告ありがとうございます!

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