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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
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一十八時限目 突然の告白[中の下]


『さーってやってすーって伸ばしながら塗ると、ぱーっと明るい印象になるのよ』


 って、メイクを教わっていたときに言われた台詞は、はっきり言って意味がわからず思案投げ首だった。でも、いざ実行してみると、たしかに、さーってやってすーって伸ばしながら塗ると、ぱーって明るい印象になった。


 多分、僕ならこれで伝わると考えて、敢えて大雑把に伝えたんだと思う。


 然し、佐竹はまた別だ。


 佐竹は、他人のことになると頭角を現すけれど、自分のことに関しては滅法駄目人間になる。


 特に苦手なのは勉強の類だ。


 一を訊いて十を知るのは不可能だとしても、予習と復習を積み重ねて、応用ができるようになれば幾分はマシになる。だが、彼にはそれができない。人間関係に関してはプロと言っても過言じゃないけど、それを自分に向けた途端へなちょこになるのだ。


 で、あればこそ、琴美さんは回りくどい言い方をせず、球速150キロのストレートで佐竹に伝えるしかない。


 どうしてなのか、ではなく、なになにである、という具体的な文体を使って論ずるわけだ。


 佐竹は、大リーグ級の豪速球を、平手打ちで返すようなものだ。骨折どころの騒ぎではない。なんなら、腕が吹き飛んで再起不能になるまである。


 成仏してクレメンス……ではあるものの、目の前で嘆息を漏らされたら胸が悪くなるというもの。


「まあ、その……あれだよ。どんまい!」


 僕も僕で、他人を慰めるのがど下手くそか。どんと参る。


「一体全体、なにを言われたのさ」 


 悩み相談を請け負った試しは無いけれど、吐いちゃえよ、楽になるぞ、お前がやったんだろと罪を擦りつけるのは超得意だ。


 佐竹は視線をそのままに、コーヒーカップを手に取って口を付けた。もう、大分冷めてしまった珈琲は、それでも、安定した美味しさを舌で味わえる。


 カップを置いて、続け様に水を口に含むと、いくらか喉も弛緩したのか、佐竹がようやく唇を動かした。


「あのさ」


 いきなりステーキくらいの突然具合に飛び出した伝家の宝刀は、いつもより弱々しい。


 佐竹が『あのさ』と訊ねてくるときは、大抵が碌でもない事案だけど、本調子ではない佐竹に向かってそんなことを言うのは気が引ける。


「なに?」


 と、だけ返した。


「俺とお前って、どういう関係なんだ?」


 随分と藪から棒に訊くもので、一瞬、体が硬直したかのように動かなくなった。


「うーん……。友だち?」


 一般的な回答だったら、僕らの関係は友だちと呼んで相違ない。でも、僕からすれば利害関係が一致したビジネスパートナーだ。それを、いま口にするべきじゃないと判断して答えたつもりだが、どうにも疑問が付き纏う。


「……そうか」


 佐竹は納得したのか、こくりと頷いた。


 僕の応答は正解だったんだろうか? 首肯の意味を解するのは困難を極める。


 友だちの定義は酷く曖昧だ。


 なにをもってすれば友だちと呼べるのか、僕には見当もつかない。


 佐竹の中には、感得できる部分でもあるんだろうか。


 それは、月ノ宮さんにも言える。


 個人的にはビジネスパートナーとか、そういう言い方が合っていると思う。


 月ノ宮さんとの関係も、世間一般で例えるならば、友だちというカテゴリに属するだろう。


 でも、これは妥協の上での話だ。


 佐竹には佐竹の友人たちがいて、月ノ宮さんには月ノ宮さんの友人たち──取り巻きとも呼べる──がいる。


 僕を強引に友だち認定した天野さんだって、仲のいい友だちは、クラスに結構いたりする。


 天野さんの場合、女友だちの割合が高いけれど、本人が思っているより彼女は人気だ。


 僕に限ってはそうじゃない。


 僕は空気であり、彼らとの差は歴然としている。


 コミュニケーション能力に全振りしたであろう彼らと僕では、月とすっぽん、スライムとエリアボスくらいの差があるはずだ。


 そんな彼らを差し置いて、僕は佐竹の友人を名乗っていいのだろうか?


 そうは思わない。


 例えば、これまでコツコツと積み上げていたブロックが、突然現れた新種のブロックに高さで追い抜かれたらどう思うだろう?


 追い抜かずとも、いきなり同列に並ばれたらいい気分はしない。


 嫉妬するし、あわよくば崩してやる──そう思うのが当然の話で、人間という生き物はそれが本性だと思う。


 だから、ここで僕が『佐竹は友だちだ』と断言すると、これまで佐竹と一緒に積み上げてきた彼らに失礼な気がする。


「もう一つ、いいか」


 佐竹の手元にあった水のコップは、いつの間にやら底をついていた。


「なに?」


「お前にとって〝優梨〟ってなんだ?」


 僕にとっての優梨、か。


 なんなんだろう……?


 優梨としての僕は、当然ながら僕である。でも、優梨を演じていると心が(たい)らかになるのも事実だ。


 気分転換になる? そうじゃない。


 佐竹め、この質問は如何ともし難いぞ……。


「僕以外の何者でもない、かな」


 万策尽きた結果、それらしい愚答しかできず、放り出すように明後日の方角を向いた。


「……そっか」


 と、言った佐竹をちらと見やる。


 佐竹は足を組んで、膝に頬杖を付きながら、もう片方の手で貧乏ゆすりをするように、こつこつとテーブルを突いていた。


「煩いウザい面倒臭い」


「フルコースじゃねえか!?」


 ああ、そうだよ。


 いつまでもそうしていられると迷惑なんだ。


「結局さ、なにが言いたいわけ?」


 苛立ちを必死に堪えながら、眼前で伏し沈む佐竹に訊ねた。すると、佐竹は眦を決して僕を真正面から捉えた。


 ──俺、決めたんだ。


 ──なにを?


「自分の気持ちと向き合うって」


「ふーん、それで?」


「やっぱり、俺はお前が好きなんだと思う」


 ふうーん……。


「は?」





 背筋に悪寒が走り、全身に鳥肌が立つのを感じた。


 なにを言い出しちゃってんの、コイツ。


 思考回路がぶっ飛び過ぎてて、僕みたいな凡人とは明らかに思考パターンがおかしい。


 というか、いまのって告白?


 初めて告白された相手が男って、それ、残酷過ぎやしませんかねえ、神様よう。


「俺は、優梨であるお前も、優志であるお前も好きになるって決めたんだ」


 ──冗談だよね?


 ──普通にガチだ。


「普通なのか本気なのか、どっち?」


「マジって意味だよ」


 いやいや、普通にガチで無理でしょー。


 僕にはそういう趣味ないしー。


 あれか。


『俺はノンケでも喰っちまうぜ』


 みたいなノリなの?


 くそみそなテクニックをお持ちなんですかねえ?


 冷静になって考えてみよう……。


 僕の恋愛対象って女性だよな?


 ……うん、女性だ。


 大人しい感じの優しい子がタイプだ……と、思う。


 実際、そんな女の子がいるのかと問われたら、二次元でしか見たことないんですけどね!



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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