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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十六章 I will not go back today,
433/677

三百十時限目 帰り道は眠気との戦い


 だらだらっとホームルームが終わり、佐竹は僕に「またな」と言って、足早に宇治原君たちが集まる掃除用具入れ前へ向かっていった。


「佐竹。今日はどうする?」


「雨だからな……カラオケ?」


 コイツらカラオケ好き過ぎるだろ。


 カラオケにいかないと死ぬ呪いにでもかかってるの? まあ、どこにもいけない呪いよりはマシか。いくつも嘘を吐いて、歩いて行かなきゃならなくなるしなあ。


 そんなサンタマリアはなにも言わないとしても、僕は憐れみ混じりな小言をぼやいて、いつもより人口密度が高い教室をぐるりと見渡す。


 校庭を使用する部活に所属している連中、特にサッカー部と野球部の連中はどうするんだろう? って様子を窺っていると、今日は部室でミーティングらしい。次の大会の対策とか話し合うのかも知れないが、策を講じてどうこうなるレベルなのか疑問だ。


 超弱いからなあ、梅高の運動部って。予選一回戦に勝てたら、甲子園で優勝したかのように、泣きながら砂をビニール袋に入れて持ち帰るまである。……それ、敗者のすることなんだよなあ。


 まあ、熱中できる趣味があるのは悪いことじゃない。目標があるかまではわからないけれど、爽やかな汗をかいて、自由自在に体を動かす彼らに(どう)(けい)の念すら抱く。


 僕は体を動かす系の趣味は無いし、スポーツは限りなく苦手だ。インドア極めてるまであるけれど、水泳だけは人並み程度に泳げる。バタフライからのクイックターンみたいなコンボはできないけど、泳ぎなんてクロールと平泳ぎができたら充分だろ。


 そうやって言い訳を続けてきた果てが、この華奢な体であり、か細いことマッチ棒の如し。


 然し、この体躯が上手く作用することもある。


 それが、女装。


「なんだけどなあ……」


 ぶはあと大きく溜め息を吐いて、机に突っ伏した。


 昼休みに会った八戸先輩の件を思い出すと、今もなお降り注ぐ雨よりじめじめした感情が心を塞ぐ。


 男の娘が好き、というのは百歩譲って許す。


 趣味趣向は多様性があり、オタクが十人集まれば、十人十色の〈俺の嫁〉が携帯端末の待ち受けにされている。カップリングだって違うのだから、僕には到底ついていけない領域だ。


 けれど、理解を示すことはできうる。


 連日のようにカラオケやファミレスで放課後のひとときを過ごす彼らにしても、その行為こそが繋がりなのだ。十人十色の嫁がいても、相手とカップリングが真逆だったとしても、その作品が好きで、熱意を持って応援していると言えるだろう。


 であればこそ、男の娘が好きな先輩がいても不思議じゃない。ただ、ちょっと変わり者だとは思うけど……なんなら、あまりお近づきになりたくないと心の片隅で思ってしまうが、その趣味自体に悪は無いのだ。 


 でもなあ……、ほぼ初対面の相手をデートに誘うか?


 八戸先輩は悪い人ではないにしろ、色々と残念な部分が多い。知的な雰囲気を匂わせているのに、それを活かしきれていないような気がする。ああ、あれだ。佐竹に『オタク属性』を付加すれば八戸先輩に近い気がする。


 うわあ、なにそれ。超面倒臭いじゃん……。


 てか、佐竹には琴美さんという姉がいるから悪影響を受けても不思議じゃないのに、佐竹は『ああいった物』に興味を示さないのもどうなんだ?


 琴美さんを反面教師にしてるのかもなあと思いながら、黒板上にある時計を見やると、時間がいい感じに進んでいた。





 * * *





 じめっとしたバスの車内は静かで、だれかの寝息がすうすうと訊こえる。


 ゆりかごにしてはかなり劣悪な環境だけど、勉強に疲れた脳を休ませるには、三〇分以上もかかる道のりは丁度いい距離かもしれない。


 かくいう僕も潜みに倣って目を閉じてみたが、これがどうにも、都合よく睡魔が訪れることなく梅ノ原駅のバスターミナルへと到着した。


 ここから電車とバスで片道一時間くらいかと思うと、どっと疲れが込み上げてくる。明日辺り、隕石が衝突して地球が滅亡しないかな……などと、学生が不意に思うランキング第一位を思ったり思わなかったりしながら改札を抜けて、普段、あまり利用しない電車をホームのベンチに座りながら電車を待った。


 木製のベンチは所々の塗装が剥げていて、だれかの悪戯か、背凭れに卑猥な言葉が彫られてある。これを掘った者はきっと、有終の美を飾ったかのように『下ネタを彫るおれおもしれー』と誇らしげだったに違いない。そして、数十年のときを経てこの文字を見た彼は、『青春ならぬ性春ってか!』と、阿呆面を臆面もなく晒け出すのだろう。


 ねえ知ってる? 公共物を故意で傷つけると器物破損罪が適用されて、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金が科されるんだよ? そればかりか、悪意のある犯行が認められると住居侵入罪も付加されたり、報道されればSNSで拡散されたり、住居を特定されたり、通う学校に非難の電話が殺到のフルコンボだドン! まあ、少年法がうんたらかんたらあるけれど、いまのご時世では少年法が少年Aを守っても、世間が許しちゃくれませんよ。……なんて、僕がウィキペディアで調べながらドヤ顔で供述している模様です。


 とこうしているうちに電車が到着し、バスでは訪れなかった睡魔に意識を持っていかれて、危うく最寄駅を乗り過ごすところだった。


「夕飯どうしようかな」


 駅から下りた先にある牛丼屋が目に止まり、ふらっと立ち寄ってみると、店内には甘しょっぱい匂いで満ちていた。空腹を擽る。券売機で牛丼の並と生卵を購入してから、カウンター席に座ると、中年のおじさんが半券を持ってキッチンへ。あっという間に、牛丼と味噌汁、生卵が入った小鉢が僕の前にどんと置かれた。牛丼だけに。


 ずずりと味噌汁を啜ると、寝惚けた頭が活性化していくのを感じる。さすが、ジャパニーズソウルフードミソスープ! ジェームス・ブラウンよろしくなソウルパワーだ。味は普通。


 牛丼を食べるとき、まずはTKGを作る要領で中心に生卵を白みごとぶち込み、七味唐辛子を気持ち多めに生卵に振りかける。余談ではあるが、七味唐辛子の七味は〈(なな)()〉と読むらしい。


 ななみんを振りかけた卵を、丼の底でねるねるねるねしてかき混ぜる。このとき、ご飯だけをかき混ぜるようにするのが重要だ。カレーじゃないんだから、ぐちゃぐちゃに混ぜてしまうと味気ないだろう? もっとも、カレーをぐちゃぐちゃにして食べる人種とは反りが合わないだろうけれど。


 最後に、紅生姜を満遍なく乗せるのが僕の流儀。僕は位置について、横一列でスタートを切った。





 帰宅前に食べた牛丼がお腹に溜まって、自宅に到着した頃には電車の中よりも酷い眠気が僕を襲う。おっかしいなあ、JBのソウルパワーはどこにいったんだ? と小首を傾げながら自室の明かりを点けて、制服をハンガーに通し、壁の突起に干した。


 このまま惰眠を貪れば、さぞかし気持ちがいいだろう。けど、そういうわけにもいかないのが学生というものだ。鞄から課題を取り出して勉強卓に広げると、あらやだ、眠過ぎて頭が働かないわよ奥さん。え? 働いてないのはいつものことようふふふって、嫌みたらしく笑う五十代主婦の井戸端会議を脳内で再現ビデオするくらいには、意識が混濁していた。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが『感想』『ブックマーク』『評価(最新話の下部にあります)等』をして下さると、大変励みになりますので、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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