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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
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一十八時限目 突然の告白[中の上]


 佐竹は僕の了承を取らずに、我が物顔で向かいの席に座った。


「照史さーん、いつものオナシャース!」


 ポケットに突っ込んでいた右手を高々と挙げるその様は、先生に名前を呼ばれた小学生に(まさ)るとも劣らず。


 だから、大衆居酒屋じゃないだってば。いつもよりお客さんもいるのだし、節度というものを弁えて欲しい。ほら、隣の席のおばちゃんたちが「元気ねえ」と言いながら、くすくす笑ってるじゃないか! 恥ずかしい。


 佐竹はテーブルの隅に立て掛けてあるメニュー表を手に取って、まじまじと見つめた。


「あ、ダンデライオンか」


「はい?」


 なに言ってんの? みたいな視線を送ると、佐竹は訳知り顔で返した。


「いや、こっちの話だ」


 どっちの話だよ……まあ、佐竹のことだ。


 この店の名前をど忘れして、散歩ついでに確認がてら、ダンデライオンに顔を出した感じじゃないか? 佐竹ならあり得る。洗濯科学のアリエールくらいありえーる。


「なあ、優志。〝ダンデライオン〟ってどんなライオンなんだ?」


 え、まだ己の間違いに気がついてないのか? と長嘆が口から漏れる。 


「活動するのは春から夏手前くらいで、秋になると繁殖するために飛び回るようになるよ」


「は? なにが飛ぶって?」


 ダンデライオンだよって返すと、佐竹は目をまん丸にしながら「エフエフみたいだな」って呟いた。


 ああ、そういえばファイファンにそれっぽいモンスターが登場するもんね。ええっと、たしか……キマイラ、だっけ? コウモリの羽を背中から生やし、尻尾が蛇の怪物だ。中盤のボス、あるいは、ラストダンジョンでエンカウントする雑魚モンスターというイメージが強い。火属性を吸収して、氷属性を無効化する。弱点は風属性と呪怨属性って、それはペル……ソナァ!


 頭の中で大乱闘しそうになるのを堪えて、ゲフンと咳払い。


「繁殖力の強い外来種で、僕らが一番目にしてるのがダンデライオンだね」


 説明を終えると、佐竹は阿呆面丸出しに、口をぽかんと開けていた。


「詳しいな……、ガチで」


「小学校の理科で習うじゃん……、ガチで」


「空飛ぶライオンなんて習ってねえよ!?」


 どうして彼は、ネコ科のライオンに固執しているんだろう……。てか、そろそろ自分の間違いに気がついて欲しい。空飛ぶライオンなんて、存在して堪るものか。


「佐竹君。ダンデライオンは〝百獣の王〟ではなくて、西洋タンポポの英語名だよ」


 照史さんは「はい、お待ちどうさま」と、佐竹のテーブルにブレンドコーヒーを置いた。


「え、マジすか」


「うん。大マジだよ」


 佐竹が僕をぎろりと睨める。


 いやいや、普通の高校生ならわかるでしょ?


 と、睨み返したらふいっとそっぽを向いた。


「因みに、このダンデライオンという呼び方は、フランス語の〝ダン・ド・リオン〟からきている」


「そう訊くと、タンポポってフランスっぽいな?」


 自分で言っておきながら、ピンと来てないじゃないか。


 大体さ、タンポポのどこがフランスっぽいんだ。フランスと言えばゴッホ、ゴッホと言えば向日葵と相場が決まっている。


 まあ、花の形状はタンポポと似なくはないけれど、タンポポと向日葵では、どう考えても向日葵のほうに軍配が上がるでしょ常考。


「お前、知ってて黙ってたな!?」


「いやいや、説明したじゃん」


「その前に間違いを指摘しろって……」


 訊かれていたら答えたよ? でも、訊いてこなかったのは佐竹だから、僕は微塵も悪くないと思いませんか? いや、ちょっとは反省しなくもない。黙っていたほうが面白そうだっていうのは悪意なわけだし。


 ごめんごめんごと詫びを入れた。


「でもさ、高校生にもなってダンデライオンがライオンって発想になるのは……ないなあ」


 ただ謝罪するだけってのは癪だ。


 傷痕だけは残してやろうと悪態を吐いたら、よっぽど悔しかったのか、佐竹は両手で髪の毛をぐしゃぐしゃってして「チクショー!」と叫ぶ。


「ほんっとに、割とガチで心を抉ってくるよな」


 乱れた髪が気になるようで、手の感触を頼りに髪を直しながら、恨み辛みを表情いっぱいに湛えた。


「急所の突き方が楓とそっくりだわ。ガチで」


「心外だな。僕はあそこまで腹黒くないよ」


「そういうとこだぞ……」


 がっくりと肩を落としている佐竹が不憫に思えてきた。


 でも、佐竹ってこんなにメンタル弱かったっけ?


 弄られれば、ツッコミで切り返すのが佐竹の御家芸なのに、どうにもキレが悪いような。


「佐竹、なにかあった?」


 訊ねると、佐竹は髪を弄るのを止めて、テーブルの中央辺りに視線を落とす。


「色々と考えててな」


 考える?


 あの佐竹が?


 考えるより先に、体が動きそうな性格なのに?


「いま、超失礼なことを考えてただろ」


「佐竹が頭を使っても、下手な考え休むに似たりだなあ……なんて、これっぽっちも思ってないから」


 からの、サムズアップしてみせる。


「ま、そうだよな」


 馬鹿でよかったー。


 言い当てられたときは肝を冷やしたけど。


 でも、どうして佐竹は僕の考えが読めたんだろう。不思議だ。野生の勘ってやつ? ああ、そう言えばチーターですもんねっと冗談はさておき、深刻そうに俯く姿は目に余る。


「で、どうしたのさ」


 再び、似たような質問を投げ掛けた。


 お金なら貸せないよ? と揶揄ってみたが、佐竹の頬は緩まない。いや、訊いてなかったと言ったほうが正解だろう。


 注文した珈琲の存在も忘れているようで、照史さんが運んできた、そのままの場所に放置してある。


「昨日の夜、姉貴と話したんだ」


「なにを?」


「恋愛相談」


 その手の話題好きそうだなー、あの人。


「どうだった?」


「喝を入れられた」


 義信、しっかりしなさい! 的な話かな?


 佐竹と琴美さんは、仲が悪いように思えてめちゃくちゃ仲いいから、佐竹も頻繁に相談しているような印象を受ける。


 佐竹琴美という人物は、ちゃらんぽらんに見えるけれど、その実、しっかり者でもある。


 僕に女の子の作法を教授してくれたときにそう感じたから、面倒見はいいほうだと思う。


 教え方はどうであれ、形になるまでは根気よく教えてくれた。


 それは、弟にしてもそうなのだろう。


 伝え方に難があるし、なんなら難しかないのだけれども、どう言葉にすれば伝わるのか言葉を選んでいるようにも見える……いや、めちゃくちゃなんだけどね?



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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