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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十五章 Do not dependent,
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二百九十一時限目 悪夢のような提案


 根津俊明──。


 中学時代に彼と初めて合ったとき、言いかたはあれだけど『気持ち悪い』と思った。容姿は至って普通だし顔も悪くない。授業態度も悪くはないが成績は赤点ギリギリのラインを行ったり来たり。部活は剣道部だったけれど過酷な練習に堪えられず二週間で辞めるような男だった。まあ、二週間も保ったんだから彼にしてみればよくやったほうだろう。


 柴犬と絡み始めてから僕とも会話をすることが増えたが、それも指折り数えられる程度で、『柴犬の友だちの知り合い』のような付き合いかたをされていた。だから、グループの中心人物である柴犬がいなければ、僕と根津君は言葉を交わさないのである。


 僕が彼を『気持ち悪い』と思ったのは、別にそれが起因となっているわけじゃない。


 根津という男は卑怯者なのだ。


 柴犬も中学時代はそこそこに卑怯者ではあったけれど、根津という男はそれに輪を掛けて酷かった。


 僕が所属していた柴犬グループは、かなり悪目立ちしていただろうといまにして思う。僕は大したことをせず、員に備わるのみとしていたけれど根津君は違った。多分、中学デビューみたいなことをしたかったんだろうな、柴犬に悪行に焚きつけたのは、なにを隠そう根津君なのだ。


 秘密の共有は確固たる絆になる。


 それが友情のスパイスだとするなら、そういう見方もできるけれど、柴犬と根津君の()()は度が過ぎたのだ。あまり公にできないような小悪党な振る舞いをしていた柴犬と根津君に付き合いきれなくなり、僕は彼らグループから離れた。


 その後、インフルエンザの乱があり、柴犬の地位が転落して、根津君も柴犬から離れるのだろうな──なんて思っていたけれど、柴犬と一緒に行動するのが気に入っていたのか、それからも柴犬とともに行動して同じ高校を選んだ。


 それくらい仲がいい、そう思っていたのだけれど──。


「どうして柴犬の腰巾着よろしくな根津君が? 」


 柴犬を親分としていた彼が怒髪天となり、反旗を翻すことになったきっかけがハラカーさんだったのか?


「もしかしたら、凛花のことが好きだったのかもわからない」


 心当たりがあるのか無いのか、どっちなんだ……。


「凛花はその根津君? からアプローチされたりしたことはある?」


「アプローチって告白ってこと? ないない。てか、あまり話したことも無いもん。それに、私が健と一緒にいると絶対に離れるし、二人が会話してるところに私が近づいていくと、早々に話を切り上げてどっかいっちゃうんだよね」


 だから、嫌われてるんだと思う──。


「いや、それだけで嫌われてるってのも違うんじゃねえの。話を訊いただけだと、俺はシバっちに遠慮してるように感じたなあ……普通に」


 佐竹は顎に手を当てながら「だってさ」と続ける。


「その根津ってヤツは、中学時代からの友だちなんだろ? そこまで深い仲なら、根津ってヤツと(コイ)(バナ)くらいするよな? 根津はシバっちが凛花のことが好きなのを知ってて、二人きりにしようとしてたってほうが自然じゃね?」


「私もそう思うなあ」


 天野さんも佐竹と同じ感想を抱いたようだ。


「私が根津君の立ち位置だったらそうするもの」


 ──おい、それはガチで嘘だろ。


 ──なによ佐竹、文句でもあるの?


「まあまあ二人とも、落ち着いて下さい」


 月ノ宮さんが不甲斐ない僕の代わりに場を仕切り直した。


「五分程度の休憩を挟みましょう。クールダウンしてから議論を再開致します」





 僕はトイレに寄ってから席に戻らず、近場にあったカウンター席に腰を下ろした。


「話し合いは順調かな?」


 照史さんは涼しげな表情で、浮かない顔をしているであろう僕に話しかけた。


「ええ。そりゃもう、国会で野次を飛ばすくらいには順調ですよ……」


「訊き流す程度には耳に入ってきたけど、今回の悩みはとても単純そうでよかったよ」 


「ええ、もう本当に……」


 照史さんが皮肉を吐くなんて意外だなあと思いながら、カウンターに肘をつく。


「……あれ、もしかして優志君。まだ答えが見つかっていないのかな?」


「え」


「そうか。じゃあ口出しするのは止めておくよ」


 そうして、照史さんは鼻歌を鳴らしながら、再び明日の仕込みに戻った。


 事情を詳しく知らない照史さんがわかって、事情を理解している僕らが導き出せてない答えなんてあるのか? 見落とし? いままでの会話の中に答えがあるから、照史さんは直ぐにピンときて『単純な悩み』と言い切ったはずだ。


 ──なるほど、そういうことか。


 この答えなら、僕が根津君を『気持ち悪い』と思った本当の理由にも、高校生になった彼が『あんな行動』を取ったことにも合点がいく。


 見落としなんてレベルじゃないぞ。


 根本的に、解釈が違ったんだ。


 根津君が取った行動は到底許される行いじゃないけれど、そういう理由ならばそういうことにもなり得るかもな。


 解は出た。


 後は、石を投じるだけ──。





 * * *





「五分が経過したので、議論を再開致します」


 月ノ宮さんの再開の言葉で、和やかだった休憩ムードから一変、ダンデライオンに緊張感が漂う。


「これからは、発言をする際に挙手をお願いします──では」


 最初に挙手したのは議長になった月ノ宮さんだった。


「今回、お二人に降りかかった火の粉を払うためにどうすればいいのか……ですが、そもそもいじめは傷害事件です。結論から申し上げると、私は警察に届け出ることを推奨します」


「いや、そこまでしなくてもよくねえか?」


 佐竹が手を挙げて発言をした。


「たしかに、いじめって言葉自体には俺も思うところがあるけど、警察に通報してどうするよ? その後、二人に対する嫌がらせ行為は無くなるだろうけど──」


「クラスでの立場が無くなりそうね……」


 あ、忘れてた、と天野さんは発言が終わってから手を挙げた。


 警察に相談することは間違いじゃないと僕も思う。


 月ノ宮さんが言うように、そして、佐竹が思うところがある通り、いじめというのは傷害事件だ。『いじめ』なんて生温い言葉で片付けるから調子に乗って過激化する。


 つまるところ、いじめとは加害者側からすれば『()()』の延長線上に過ぎない。周りが笑っているから、相手の反応が面白いからというだけで、どんどんエスカレートしていくのだ。そして、誇らしげに動画を撮影してヒーロー気取りになる……始末が悪い。だから警察に相談して事態を終わらせることは間違いじゃないだろう。


 けれど、それからどうなる?


 警察に通報したことは全生徒に広がり、学校側も相応に対処しなければならなくなる。最悪、記者会見もま逃れないだろう。当然だと言えば当然と言えるけれど、セカンドレイプという言葉もあるのだ。


 警察と連携して事態を収めた彼らに訪れるのは、ハッピーエンドな世界ではない。


 彼らに対して悪意をぶつけていた首班である根津君は、おそらく学校に居場所がなくなる。


 それは、警察に相談した二人も同じだ。


 いじめを見てぬ振りをしてきたクラスメイトは、次に警察に連れて行かれるのは自分かも知れないと不安になって、二人に接触することを恐れるだろう。するとどうなるか──いじめを受けていたときと変わらず、孤立した日々を過ごすことになり兼ねない。


 そうなれば、警察ではなく、学校側に相談をするべきだと考えるけれど、学校側ができることなど高が知れている。精々『注意深く見守る』という、実質、現状と変わらない対応をするに違いない。だから、月ノ宮さんは極論とも言うべき結論を出したと推察する。


 けれど、もっとやりようがあるんじゃないか──と、僕は思うんだ。


「優志さん、どうぞ」


「月ノ宮さんの意見に僕も賛成だ。でも、それは最終手段でいいんじゃないかな」


「奥の手、ってやつか」


 柴犬がぼそっと呟いた。


 僕はそれに首肯する。


「柴犬は兎も角として、春原さんがされている行為は度が過ぎてるし、即時解決を図るのなら、月ノ宮さんの言ったように警察へ届け出たほうがいい」


 横目でハラカーさんを見ると、ハラカーさんは頭を振った。


「私、まだ大丈夫だよ。これくらいは堪えられる」


「凛花が堪えられても、俺が堪えられねえよ!」


 荒々しい声が静寂を割って耳に反響した。


「……悪い」


 コホン、と小さな咳払い。


「優志さん、話の続きを」


 そうだな、そろそろ僕の本題に入ろう。


 これは柴犬しかできないことであり、


 僕たちにしか導き出せない答えだ。


 そして、柴犬の尊厳を踏み躙る提案でもある──。


「柴犬さ、一日だけ根津君の彼女になってあげたら?」



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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