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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十五章 Do not dependent,
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二百九十時限目 主犯格の正体


 昼頃から降り始めた雨は放課後になると本降りとなり、ダンデライオンの窓をがたがた打ち付ける。満開に咲いた桜も、この雨に打たれれば一溜まりも無いだろう。結局、桜が開花しても満足に楽しむ時間は少ないのだ。桜雨が美しい桃色の花弁を落として、道路の縁に溜まっているのを、ここまでの道中で何度も見てきた。


「これは……、今日はもうお客様は来なそうだなあ」


 苦笑いを浮かべながら、照史さんがうら悲しそうにぼやく。


 店内をぐるりと見渡せば、常連さんの姿は無い。いつも通りのダンデライオン。閑古鳥の代わりに、店内のスピーカーからライドベルがカチンと響いた。……本当にこの店の営業は大丈夫なんだろうか? 照史さんの苦笑いを見る度にそう思って止まない。僕が梅高に在学しているまでは保ってくれよ、ダンデライオンッ──! と祈るばかりだが、初めてこの店に訪れてから徐々に客も増えている気がする。


 流星も通っているし、どうやら関根さんもお忍びで通っているようだ。


 彼女は彼女で、素の自分に戻る時間が必要なんだろうなあと一考すると、普段の奇抜な態度に労いの言葉の一つや二つをかけてやりたくもなるもんだ。まあ、そんな言葉をかけても『なんのことかさっぱりわけわかめ高校ですな』とはぐらかすに違いない。そして僕は、彼女がマサルさんを読んだことがある事実を知って、クリンナップクリンミセス! と敬礼するだろう。しないけど。


 僕らがダンデライオンに到着してから、珈琲をお代わりしようかという適時に、小気味好いドアベルの音が──今回の件の依頼人である柴田健と、恋人である春原凛花が入店した。昨夜、天野さんに連絡した後、柴犬とハラカーさんにもダンデライオンに来るように連絡を入れておいたのだ。『これからの作戦を立てるから来てくれ』と伝えると、二人とも二つ返事で承諾してくれていまに至る──。


「随分と人数が増えたな」


 柴犬がカウンターから二つ椅子を運びながら、特に気にしていない様子で呟く。ハラカーさんは何度も対面している相手だから、気軽に「おひさー」と手を振り挨拶を交わしているけれど柴犬はこれが二度目だ。心を開くにはまだ時間が必よ──。


「よう、シバっち!」


「おう」


 あ、……あれれえ? おかしいぞう?


「二人も、今日はよろしく頼む」


 柴犬が頭を下げると……


「力になれるかわかりませんが、善処致します」


「よろしくね、柴田君」


 どうしてそんなにフレンドリーなの?


 アットホームな職場で社員は家族なの? 


 できない理由を追求するより、できる理由を探す系ブラック企業かな?


「なんだよ、その顔」


「あ、いや。なんでもない」


 僕の常識とはかけ離れた世界に足を踏み込んだ気がして居心地が悪いと思っていたら、柴犬にツッコまれてしまった。──いやいや、だって二回目ですよ? どんな顔して話せばいいのかわからない気まずさで死にたくなるものじゃないの? メンタルどうなってんだよ。グフなの? ザクとは違うのか……。


「照史さん、お久しぶりです。えっと、俺はホットのブラックを。凛花はカフェラテ──お前らは?」


 それじゃあ、と僕らも追加オーダーを取る。


 なんだこの流れ……。


 気が利くにしても限度があるだろ?


 あの頃の柴犬はどこに行っちゃったんだ……。


「優志さん。優志さん……訊こえてますか?」


「あ、ごめん。ちょっとフォースの暗黒面に染まりそうになってた」


 ──そういや、ジェダイって柔道から名前を取ってんだってよ。ガチで。


 ──ヨーダのモデルは()()(よし)(たか)だもんな。


 ──その説は監督が否定してるよ。


「スターウォーズ談義はそこまでにして、本題に入りませんか?」


「男子ってスターウォーズ好きだから止まらないのよね」 


 その通り。


 スターウォーズ好きの男子なら、映画一本分は語れるだろう。子どもの頃のアナキン可愛いとか、オビワンの師匠クワイ=ガン・ジンが噛ませ役過ぎるとか、ルークのメンタル弱過ぎ問題とか──ディスってるわけじゃなくて、人間味が溢れるキャラクターこそ魅力溢れるのだ……という話なのだけれど、たしかによくよく関係の無い話である。


 話が段落を落とす頃、照史さんが爽やかスマイルで珈琲を運んできた。そして、「ごゆっくり──フォースと共にあらんことを」と残して、カウンターへと戻って行った。


 



「作戦を立てるって話だったけど、具体的にはどういった感じ?」


 春原さんは柴犬の隣で、カフェオラテを両手で顔の前に持ちながら湯気越しに訊ねた。


「あと、月ノ宮さんと天野さんがいる理由はわかるが、どうして義信もいるんだ?」


「シバっち、俺の扱いが雑になるの早くね!?」


 冗談だよ、そういきり立つなって──柴犬がイタズラっぽく笑った。


「佐竹は兎も角、ここに皆を集めたのはより詳しい情報と、より上質な意見を参考にしたいからだよ。僕だけの考えを押し付けるよりも、皆の意見を参考にしたほうが納得できるでしょ」


「そうか──まあ、そうだな」


 ……そうなのかよ。


 柴犬は悩む仕草をしたが、直ぐに納得したようだ。


「凛花はもっと私を頼ってよ」


「あー、ううぅ……ごめん」


 そんなやり取りを何度か交わしていると、痺れを切らした月ノ宮さんが咳払いで場を整えて、ちらりと僕を睥睨する。はい、わかってます……司会進行しろって言いたいんだろ。こういうのは適切なタイミングがあるんだよ。


 ──あ、それがいまか。


「先ずは今日の報告を訊きたいんだけど、柴犬と春原さん、頼めるかな」


 二人は顔を見合わせて静かに首肯く。


「俺が見ている範囲では……シカト以外だと、俺たちに誰も寄り付かなくなった。昨日までは嫌味を吐き散らしていたヤツも、まるで俺らを空気扱いだ。それならそれでいいんだけどよ……まるで嵐の前の静けさみたいで薄気味悪さが否めないって感じだ」


 なるほど。


「春原さんはどう? 柴犬の目が届かないところでなにかされた?」


「えっと……」


 僕の質問に答え難いのか、ハラカーさんは言葉を選ぶように(とつ)(とつ)と語り始めた。


「トイレに入ったとき、ドアを開かないように固定されたり、体育着に着替えるときに、その……」 


「優志、これ以上は酷だろ。マジで」


 ぎろりと佐竹に睨まれてしまった。


「話してくれてありがとう」


 どうやら、男子よりも女子のほうが陰湿な行為をしているようだ──予想はしていたけれどいい気分はしない。隣に座っている柴犬を横目に見ると、怒りで肩が震えていた。


 誰もが口を閉ざした静寂(しじま)、月ノ宮さんが「いいですか」と手を上げる。


「今回の主犯格は誰なのでしょうか? そこを知らなければ対策のしようがありません」


「そうだね……柴犬、どうなの?」


 柴犬の表情が曇る。


 いじめの主犯格なのだから、ソイツのことを考えるだけで苦痛なのは察せられるけれど、それにしたって言葉が詰まるくらい発したくない名前なのか? 柴犬は心を落ち着かせようと、手元にあったカップを取り一口。


「え、あまっ!?」


「それ、私のだよ……」


「悪い」


 なにそれ、新手の惚気ですか──いまの動作で酷く動揺しているのがよくわかった。


 柴犬はもう一度、自分のコーヒーカップかを確認してから二口三口啜る。はあ……と吐き出した吐息は、重苦しい色をしているようにも感じ取れた。


「主犯格は、優志、お前もよく知ってるヤツだよ」


 僕もよく知っている……?


「中学時代、俺の相棒だった」


 柴犬の、相棒……。


「──()()(とし)(ろう)だ」



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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