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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十五章 Do not dependent,
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二百八十一時限目 柴田健とは何者なのか


 帰宅後に携帯端末を開くと、柴犬から連絡が入っていた。


 玄関で読む内容じゃないだろうと、携帯端末を一旦ポケットに突っ込んだ。内容はまだ見ていない。然し、大体の予想はできる。柴犬とハラカーさんへの嫌がらせが過熱したまで言わずもがな、状況は芳しくない方向へ進んでることはたしかだ。柴犬はその全てを報告する旨を僕に伝えていたので、届いたメッセージ内容はそれに準ずる。


 他者から受けた悪意を読み書きするのは気持ちがいいものじゃない。被害を受けている二人は嫌なことを思い出さなければならないのだから、相当にメンタルがやられるだろう。


 読む側の僕だって胸糞の悪い嫌がらせの詳細を待ち望んでいるわけじゃない。報告は無いに越したことはないが、そうもいかないのが現実だ。協力することにした以上は、それらにも向き合う必要がある。


 自室の扉を開くと、ほのかに香る甘い匂い。今更言うのも難ではあるけど、男子高校生の部屋の匂いじゃないな。この匂いの正体はいくつか思い当たるけれど、両親に僕の秘密を打ち明けてしまった以上、隠す必要は無い。以前はなんとか誤魔化そうと、天気が晴れの日は窓を開けて外出したり、芳香剤やお香なんかを焚いていた──なんて涙ぐましい努力なんだ。その努力も、今になってはこの有り様である。


 制服をハンガーに掛けて、動きやすい服に着替えた。肌に馴染む白のパーカーに黒のスウェットパンツ。中学一年の頃から着用しているものだが、どうにも僕の身長はそこで止まってしまったらしい。高校に入学して、自分の中にある性を知ってしまった僕にとって、身長が止まったのは都合がいいけれど、あと二、三センチは欲しかった人生でした。


 キャスター付きの回転椅子の腰を下ろして、悪意に触れる覚悟を決める──よし。心の中で呟いて、制服のポケットから取り出して置いた携帯端末を両手で握り締めた。





 * * *





 今日の報告だ。


 登校時、やっぱ無視は続いていた。俺も凛花も蚊帳の外って感じだ。嫌な疎外感を感じながらも我慢して授業を受けていたが、昼休みになってから今回の騒動を引き起こした張本人が俺に接触してきた。内容はまあ、在り来りな嫌味だな。どうして学校に来るんだ、来ても意味が無いだろう、お前の居場所はもう無いぞ……みたいなやつだ。なんつーか、既視感があったわ。俺も似たようなことを言っていたし、決まり文句にでもなってるんだろう。


 登校前は凛花と適度に距離を置いて、なるべく被害を受けないようにと思ってたんだ。でも、既に凛花もターゲットになっているらしく、離れるのは逆に危険だと判断した。折角考えてくれた案だったのに、昨日の今日で破って悪い。でも、近くにいれば俺が凛花を守れると思ってな。現場判断ってやつだ。


 最後に、今日受けた嫌がらせ行為を纏めておく。なんの参考になるかわからないが気に留めておいてくれ。


 ・クラス全員からシカト。


 ・俺に対する暴言。


 ・凛花への嫌がらせは今のところ無し。


 追伸。


 俺が凛花の傍にいれば、女子は凛花に嫌がらせをしないようだ。


 以上。 





 * * *





 柴犬から送られてきたメッセージは六つ分けられて送信されていたが、それにしても長いな……もう少し、要点だけを書いてくれればいいんだけど。佐竹にしても、柴犬にしても、伝えるべき内容だけを選出するのは苦手のようだが、まあ、最悪の事態には陥っていないと一安心。ふうっと胸を撫で下ろした。


 さて、柴犬の報告を踏まえて、僕ができる最善の策は──ふっと、中学一年生の頃の記憶が頭を過ぎった。





 柴田健は当初、クラスのリーダー的ポジションになろうとしていた。いいリーダーではなかったにしろ、過半数は柴犬をリーダーとしていた……が、どのクラスにもカリスマ性を持った人間はいるものだ。


 ある日、柴犬はインフルエンザで一週間くらい学校を休んだ。


 インフルエンザが流行る時期ということもあって、クラスでも数人欠席者が出ていた。


 柴犬もその中の一人だった。


 リーダーを失った我がクラスの面々は、右か左か判断するのに大きく手間取っていた。いつもなら柴犬があの手この手で権力を振りかざして決めていたから、僕らはその指示に従っていた。


 柴犬は強引な男だったけれど、それが全て悪いとも言い難い。彼の強気な態度に任せるのは楽だったし、それで物事が早く片付くのだから時間の節約にもなった。不満が無い者がいなかったわけじゃないけど、実質的な権力を持つ柴犬に物申すなんて、だれもしなかった。


 そんなある日、転機が訪れた。


 休んでいたクラスメイトが復帰して、残すは柴犬のみとなったとき、学園祭の出し物を決めなければならない期日が最終日を迎えたのだ。なるべくクラス全員で話し合うほうがいいだろうと先延ばしにしていたが、こればかりはどうしようもない。


 そこで立ち上がったのが、いまのいままで爪を隠していた男子生徒──名前はたしか(こま)()だったかな。


 皆から『コマ』と呼ばれていた男で、成績は上の中くらい、身体能力も平均だった。そんな彼だったが、ついに頭角を表したのだ。


 冷静な判断力と、放つ言葉の説得力。そして、『柴田君にはボクから話をする。だから期日を守ろう』という言葉が、このクラスに蔓延っていた〈不安〉を一気に解消したのだった──。


 そこからはもう『駒井君かっこいい』みたいな黄色い声援があちらこちらから訊こえてくるような日々が続き、柴犬が復活した頃には形勢逆転。柴犬は『ヒーローの帰還だ』とばかりに胸を高鳴らせていたようだけど、がらりと様変わりしていたクラスを唖然としながら見つめ、取り巻きだった友人を取っ捕まえて状況を訊き出し顔を青ざめていた。


 このときほど、僕は〈革命〉という言葉を意識したことはない。


 学園祭以降、柴犬の立場は『リーダー』から『面倒くさいヤツ』に変わり、柴犬も居心地が悪かったんだろう。悪い先輩と付き合うようになって、素行の荒さが目立つようになった。





 今にして思えば、柴犬も悪いけれど、早々に駒井君に乗り換えたクラス連中も悪いところがある。僕は員に備わるのみとしていたけど、それだって柴犬を裏切る行為だろう。然り(しこう)して、柴犬は頂点から中段くらいにランクダウン。現在はそこからも落下して最底辺……いやいや、彼女がいる時点で底辺ではない。ギリギリのところで他人の靴を舐めるような生活を送らずに済んでいるわけだ。


 過去の悪行から考えると、やっぱり柴犬って救えないヤツなんじゃないか? と踏み止まってしまうけれど、まあなんだ。依頼料も貰ってるし? 僕の指示を素直に訊く点は評価しよう。


 ならば、だ──。


 一度頭を縦に振ったら、手の平返しはご法度と言うもの。僕と柴犬のいざこざなんて、豆柴とチワワがキャンキャン吠え合ってるようなもので『今日も元気だドギーマン♪』然らしめる。


 ふむ、またしても脱線してしまった。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・2019年10月21日……誤字報告により修正。

 報告ありがとうございました!

・2020年3月18日……誤字報告による本文の修正。

 報告ありがとうございます!

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