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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十五章 Do not dependent,
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二百七十九時限目 佐竹ゾーンが生まれるまで ③


「お待たせ。……どこまで話したっけ?」


 ハンカチで手を拭きながら戻ってきた佐竹は、使い終えたハンカチをポケットの中へ突っ込みコーラを一口。ずるるるという音が訊こえた。佐竹は不満気に紙コップの蓋を開いて、氷をぼりぼり齧る。咀嚼音のオンパレードで、さながらASMRというところか。誰得だよ。


「たしか、クラス連中が休み始めた──辺りじゃないか」


「おお、そうだった。アマっちは記憶力だけはいいな、ガチで」


「数一〇分前のことすら覚えてない鶏頭と一緒にするな」


 流星は「早く続きを話せ」と言葉を続ける。


「端的にね?」


「わ、わかった。……多分」


 端的の意味くらいわかるよね……?


 僕は一抹の不安を抱きながら、佐竹が口を開くのを待った──。





 * * *





 ──よし、続けるぞ。


 ヤンキーグループがいなくなったはいいが、ソイツらの残した爪痕は思いのほか深くてな。嫌がらせをされていたヤツが一人、また一人と学校に来なくなって、それが伝染するかのように他のクラスメイトも休みだしたんだ──もしかしたら、ソイツらの親が学校に行かなくていいと言ったのかも知れないが、その真偽は曖昧だ。


 は? 真偽くらい知ってるっての!


 そこまで馬鹿じゃねえよ!?


 そんでまあ、担任も『いじめを見て見ぬ振りをしていた』として立場が無いだろ? だから代わりの先生が俺たちのクラスを引き継いで、元の担任は休職になったんだ。その代打がまたおかしい教師で、なんだろう……言い表すのであればロボットみたいな感じだ。無機質というか無関心というべきか、淡々と授業をして、終わったらさっさと職員室に戻るような教師だった。


 当然、クラス連中は不満が募るばかりだ。あんな事件があって、クラスメイトも次々と休んでいく状況をどうするのか、今後、どうやって生徒と向き合っていくのか……そういうケアが全く無い。壊れた歯車を取り除いたが、代わりの歯車を用意せずに放置するようなもんだ。そりゃ正常に動くはずもないよな。


 せっかく問題児軍団がいなくなって、これからだってときだぞ? このまま事態が悪化すればクラスが崩壊してしまう──そんな危機感を覚えた。


 どうすればいい方向に風が吹くのか考えたが妙案浮かばず、駄目元で姉貴に訊ねたんだ。嫌だったけどな。どうせ姉貴のことだから、ゲラゲラ笑って俺を馬鹿にする。普通にガチで。


 でも、そうじゃなかった。


 俺の必死な態度が伝わったとは思わないけど、姉貴は姉貴なりに俺の話を訊いて、思うところがあったんだろう。


 先ずは後頭部にチョップを喰らわされた。


 そして、姉貴は眉を顰めながらこう言ったんだ。


『アンタがクラスを崩壊させる一因になったんだから、アンタがどうにかするしかないでしょ。教師に告げ口して〝はいおしまい〟じゃ筋が通らないわ。この事件の当事者であるなら最後までその責任を果たしなさい。それができないのなら、最初から傍観者でいるべきよ。中途半端な優しさなんて、事態を悪化させるだけ。いい? 義信。アンタがしなきゃいけないことは、クラスが崩壊していくのを悲観しながら、誰かの助けを待つことじゃないの。アンタ自身がこの状況を打開すること。それ以外になにがあるの? 全く、この愚弟は……。これを解決したら、二度とこんなことが起きないように、死に物狂いで立ち回りなさい』


 正論過ぎて、返す言葉も無かったわ。


 同人誌を書いてるだけの変態だと思ってたけど、こういうときはどうしようもなく『姉貴』だった。


 俺は姉貴のアドバイスと忠告を頭の中で繰り返しならがら、その日の夜、俺ができることを必死になって考えた。そして、一つの答えを出したんだ。


 クラスを崩壊させる一因になってしまった俺にできることは、矢面に立つくらいなもんだ。だれかがクラスを引っ張っていくしかない。それは教師の役目じゃなくて、俺たちクラスの()()()の役目。


 そのだれかが俺だ。


 翌日、俺は朝のホームルームを使って、まだ登校しているクラス連中に頭を下げた。


 このままでいいはずがない。だけど、俺だけの力じゃどうにもならない。だから、俺に力を貸してくれ。休んでる連中、全員連れ戻すから協力してくれ──ってな。


 それからは怒涛の数ヶ月が続いた。


 ぶっちゃけ苦しかったし、何度も投げ出したくなったけど、ここで俺が逃げたら終わりだって踏ん張った。非協力的なヤツもいたけど、なんとか説得してさ。休んでいる連中が戻ってこれる状態に戻して……。


 本当に、マジでキツかったわ……。


 新学期を迎える頃には、休んでる連中も学校に戻り始めてさ。ああだこうだと動いていたら、いつの間にか俺がクラスのリーダーみたいな立場になってて──それも俺が撒いた種みたいなもんだし、がっむしゃらになって責任を果たしてた。





  * * *





「──それで、高校に入学してもその体質が抜けなかったわけか」


「そうだなぁ……多分、怖いんだ。クラスがどんどん死んでいくのを見るのが」


 臆病者ゆえに、未然に問題を防ぐ。その立ち回りが佐竹をリーダーの器に作り変えたんだろう。そりゃモテるよね……そして、高校一年になり、佐竹が僕に言った言葉、「いまは彼女を作りたくない」というのは、自分がなすべきことするためであり、恋愛に現を抜かしている場合じゃなかったんだと思う。それだけ佐竹の心にも『トラウマ』として刻まれているんだ。馬鹿だからこそ成し遂げられた偉業。佐竹の行動の裏には、そういう事情があったんだ。


 佐竹は見た目イケメンだけど、仮にそうじゃなくてもモテた気がする。それは、姉である琴美さんの教育もあってだ。初めて佐竹の家にお邪魔したとき、琴美さんは佐竹が持ち込んできた悩みを一発で言い当てた。『アンタが私に相談するのは女の子絡みでしょ』と。この言葉の意味は、女の子からモテ過ぎてどうしよう──ではなくて、自分が置かれている立場上、断るしか選択肢が無くて、『どうすれば相手に勘違いさせないように断れるのか』……だったんじゃないだろうか。これは憶測でしかないけど、佐竹の話を訊いて、僕はそう思うに至った。


 宇治原君の件にしても、佐竹には許す以外の選択肢が存在しなかったんだ。もし宇治原君を許さなければ、中学時代の繰り返しになり兼ねない──僕を叱りつけたのは、佐竹が恐れる事態を引き起こしてしまう可能性があったから。


 相当に焦ったんだろう……佐竹には悪いことをした気分になったけど、僕は絶対に宇治原君だけは許さない。


「話はこれで終わりだけど、質問はあるか?」


「質問は無いが不満がある」


 なんだよ、と佐竹は始末が悪そうに声を上げる。


「長い」


「はあ!? いまのでもかなり端折ったんだぞガチで!」


「でも、ちょっとだけ佐竹を見直したよ。あと、琴美さんも」


 ──琴美はあんな感じだろ。


 ──え、アマっち……姉貴のこと好きなのか?


 ──そこに直れ、息の根を止めてやる。


 二人が戯れあっている様を傍目に、僕は佐竹の中学時代と、いまの柴犬の状況を重ねていた。


 もし、柴犬のクラスに佐竹のような役割を担っている人がいれば、柴犬と春原さんは守られるだろうけど、そんな都合のいい人物はいない。 


 考えろ、鶴賀優志──。


 僕が彼らにできる最善と、納得できる妥協点がどこにあるのかを。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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