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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十四章 The Sanctuary of you and me,
394/677

二百七十一時限目 鶴賀優志が望むモノ


 紆余曲折はあったけれど、本来の目的であるお土産を二人に渡した。水瀬先輩のお土産は温泉饅頭を選んだ。黒糖が練りこまれた生地にあんこと豆乳クリームが入っている。これはなかなかセンスのいい土産ではないか? と試食して思いつき、両親のお土産も同じ物を購入した。


「とても美味しそうです! ありがとう。大切に頂きます」


 桃色の包み紙には花柄模様が描かれている。その包み紙を見ながら、水瀬先輩は微笑んだ。


「破かないように開けないと」


「綺麗な包み紙ですよね」


 そして、流星には──。


「どうしてガルボなんだ」


 百均で購入した包み紙に包んだのは、コンビニで購入したガルボ。味はノーマルを選んだ。


「ガルボ好きでしょ」


「お前の気持ちはよくわかった。殺してやるから表に出ろ」


 まあまあ、冗談じゃないかと、興奮した馬を宥めるようにして、「お土産はその裏側だよ」と付け加えた。


「裏側……ああ」


 流星のお土産はキーホルダーを選んだ。聖剣シリーズも捨て難かったけど、そんな物を選んだらその聖剣で一刀両断され兼ねないと思い、東照宮で購入したお守りキーホルダーにしたのだ。


「気持ちは嬉しいが、商売繁盛とは皮肉か」


「学業成就のほうがよかった? それとも恋愛?」


「健康祈願でいいだろ」


 ──それじゃ普通過ぎて面白くない。


 ──お守りに面白さを求めるな。


 ぶうぶうと文句を垂れながらも、流星はバッグの中にしまった。


 二人にお土産を渡し終えて、今度は照史さんに渡すべくカウンターへと向かう。


 照史さんはドライカレーの仕込みの最中で、微塵切りにした大量の玉ねぎを、中華鍋のようなフライパンで炒めていた。飴色になるまで、まだまだ時間が掛かりそうだ。


「照史さん、日光へ行ったお土産です」


「おや、ボクにもくれるのかい? 嬉しいな」


 照史さんには珈琲関連の物を選びたかったけれど、それはソムリエにワインを渡すようなものだ。なので、珈琲に合いそうな一口サイズの豆乳ミルクチョコレートを選んだ。


「楓からも貰えたから、気を遣わなくてもよかったんだよ?」


 因みに、月ノ宮さんは豆腐、湯葉、豆乳の三点セットを選んでいた。渋いチョイスだと思う。一人暮らしの男性には貴重な栄養源になるだろう。僕のような一般庶民は購入を躊躇うくらい値の張った価格だったが、月ノ宮さんは値札すら見ずに即決。その判断力と大胆さは、経営者にとって必要不可欠な要素なのだろうか。でも、にこにこ微笑みながらレジに向かっていたので、値段よりも愛する兄の喜ぶ顔が見たいという心が先んじていた気がする。


「遠目から様子を窺っていたけれど、優志君のセンスは、男の子よりも女の子のセンスに近い気がするよ。あ、変な意味じゃないから誤解しないで欲しいんだけど、ほら、女性ってお土産を選ぶのが上手いからさ」


 まあ、佐竹が選んだお土産よりはマシだと思うけど──佐竹は琴美さんのお土産に、『日光』と書かれた銅のキーホルダーを購入していた。四角い銅のプレートには猿の絵と、なぜか小さなコンパスが付いている。『こんな物、子どもですら欲しがらないだろう、誰が買うんだ?』と思っていた矢先に、佐竹がそれを手にとってレジへと向かったので、どうしてか『なるほど』と納得してしまった。


「もしかすると、優志君は女性的な部分が強いのかもしれないね」


「ホルモン的な話ですか?」


「まあ、そう言ってしまえばそうなんだけど……ね」


 体型にしても、この声にしても、僕はそこら辺にる男子よりも男性ホルモンが少ない気はしている。体毛も薄いし、女の子に間違えられることも多々あるので自覚はあったけれど、ついに感受性までも女性寄りになってきたのだろうか……。


「優志君は男らしくなりたいかい?」


「最近、よくわからなくなってきました。以前はそう思うこともあったんですけど、この容姿を認めてくれる友人たちに出会って、男らしさとか、そういうことに対して考え方があやふやになっている気がします」


「そうか。キミは自分自身を認めるのが怖いんだね。だから弱さを肯定したくなる」


「弱さを肯定──そうかも知れません」


 照史さんは木の(へら)で鍋を二、三回掻き混ぜてから、鍋の縁にこんこんっと、箆にくっ付いた玉ねぎを落とした。


「焦る必要は無いさ。焦りたくなる気持ちは理解できるけど、急がば回れという(ことわざ)もある。それに、高校生活はまだまだあるのだから、その内に答えを決めればいいとボクは思うよ」


「ありがとうございます」


 だけど。


 それでは遅過ぎるんじゃないか。


 そう思って止まない──。





 席に戻ると、二人は新学期について話していた。


「文乃は大学に進学するのか」


「はい、そのつもりです」


 志望する大学はどこだ、という流星の問いに対して、水瀬先輩は「京大です」と答えた。


「バイトする余裕あるのか。京大と言ったら難関も難関だぞ」


「でも、先生には〝お前なら大丈夫〟と太鼓判を押して貰ってますので、おそらくは大丈夫かと」


 ごめんなさい、水瀬先輩──。


 先輩はどちらかと言うとアホの子的な立ち位置で、中の中くらいの大学を受けるものとばかり思っていました……。


「水瀬先輩って、成績優秀なんですね」


「生徒会長を任されている以上、学業を疎かにできませんから、地道にこつこつ勉強していたんです……あ、してたの!」


 地味な作業は性に合うから、と恥ずかしそうに付け加えた。


「生徒会長がメイド喫茶で働く……」


 そんなアニメがあったような、なかったような。多分あった。女子向けだった気がする。まあ、お堅い生徒会長がメイド喫茶で働くのはテンプレだもんな。逆に、メイド喫茶で働かない生徒会長なんて存在意義が無いまである……偏見が過ぎた。


「学校では〝メイド会長〟って呼ばれてますよ」


 ──バレてるのか。


 ──隠す必要あるんですか?


「お前、自らゲロったのか」


「はい。でも、成績は悪くないので文句を言われたことは無いですね……」


 京大進学に太鼓判を押されるような成績の人間に、文句を言える生徒、教師がいるだろうか? しかも生徒会とバイトまで掛け持ちして両立しているのだから、影で努力しているのは誰でもわかる。


「もう嫌味にしか訊こえないな」


「そんなつもりは……お二人は二年生ですね。クラス替えはあるのでしょうか?」


 流星がちらっと僕を見た。


 その目が『知らん』と僕に訴えかけている。


「他の高校はわかりませんけど、僕たちの学校にクラス替えは無いみたいです」


「面倒が無くていいが、三年間同じ面を見続けるのも苦痛だな」


 苦痛とまでは言わないけれど新鮮味は無い。


 それに、僕らのクラスは佐竹がしっかりとまとめているのでいいが、いじめのような陰湿な行為を行うクラスがあるのなら、その責め苦を三年間受け続けなければならない。『いじめなんて無い』と言い切りたいのは山々だ。然し、僕が知らないところで、確実にいじめは発生している。それが学校という閉鎖的な施設の理だ。


「仲のよい人たちと離れなくていいなら、精神的にも余裕が生まれますね。私の通う高校はクラス替えがあるので不安ですよ」


 水瀬先輩はそう言うと、水の入ったグラスに手を伸ばして一口。口紅の跡が半月状になって縁に残る。


「でも、気を許せる()()はいないので、三年になっても特に変わりはしないんですけどね」


「意外だな」


 流星は感心も慈悲も無く、淡々とした声音で言う。


「文乃はもっと社交的に関わり合う性格だと思った」


 それは、自分という役を演じているにすぎませんから──と、水瀬先輩は憂いを帯びた笑みを零した。


「だから〝らぶらどぉる〟は居心地がいいです。ちょっと特殊なお仕事ですが、私は気に入っています。雨地さんにも会えるし、たまに鶴賀くん──優梨ちゃんとも会えるから」


「店長もぶっ飛んだヤツだしな」


「そうですか? 私は素晴らしい経営者だと思うんですけど……」


 それから雑談を広げて、気がつけば窓の外は赤みを帯びた光に包まれている。


「そろそろ帰るか」


 流星が切り出した。


「そうですね」


 水瀬先輩は身支度を整えて立ち上がる。


「新学期、楽しい一年になるといいですね」


 特に変わらないだろ、と流星は吐き捨てた。


「いいえ、変わりますよ。きっと」


 二人が変化を求めるならば──。


「お前、変化が欲しいか?」


「まるで〝力が欲しいか〟みたいな訊ね方だね。……どうだろうな、よくわからない」


 もしも変化があるとすならば、それこそ僕があらゆる決断をしたときだろう。


 大人になれば選択肢が増えると大河さんは言っていた。


 その決断には責任が伴い、片方は必ず不幸になるとも言っていた。


 全員が全員、幸せになるハッピーなエンドは存在しない。


 そう、だと僕も思う。


 だけれど──。


 その理をひっくり返してしまえるような、革命みたいな力を得られるとしたら、僕は変化を望むだろう。


 いつまでも子どもではいられないのだから。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。


 今回の物語はどうだったでしょうか? 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・2019年10月7日……誤字報告による修正。(ひらがな表記にしました)

 報告ありがとうございました!

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