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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十四章 The Sanctuary of you and me,
372/677

二百四十九時限目 またたび屋の幽霊とは


「そろそろ向かいの部屋にいる楓たちと連絡を取るべ」


 佐竹はポケットから携帯端末を取り出し、それを片手で操作しながら、もう片方の手は卓袱台に肘をついて頬杖をついた。掌が頬を押して、折角のイケメンが残念な顔になっている。


 携帯端末を耳元に当てること数秒の間があって、数コール見送られたあと、通話相手と繋がったらしい。「もしもし、オレオレー」と、オレオレ詐欺の常套句のように応答を求めた。


「そっちはどんな感じだ? ──おう、わかった。鍵開けて待ってるわ」


 向こうもあらかた準備は完了したらしい。


 鍵を開けて待つと佐竹は電話で言っていたので、僕たちが向かうのではなく、女性陣二人がこの部屋を訪ねてくるらしい。


 僕は佐竹の通話が終わると同時に立ち上がりドアの鍵を開けると、タイミングよく誰かがドアを三回ノックする。


 開けたドアの隙間から見えたそのシルエットは、向かいの部屋を選んだ天野さんだった。


「佐竹から連絡があって来たけど、優志君も大丈夫かしら?」


「うん。部屋の確認も済んだし」


 それは『どこになにがあるのかの確認が取れて、あわよくばお茶まで飲んでいた』という意味だったけれど、天野さんはどうも違う意味に捉えたようで、「()()()()()()()()()のね」と、胸を撫で下ろしていた。


「それって、もしかして()()のこと?」


「ええ──こっちは楓が隈なく探してくれたわ」


 僕らが話していると、月ノ宮さんが一歩遅れて部屋から出てきた。今まで忙しなく動いていたのか、ほんのりと頬を赤く染めている。


「問題を放置するわけにはいきませんから、屋根裏までライトで照らしながら調べました」


「ああ、そうなんだ……」


 だから少し汗ばんでいるのか。


 天野さんが絡んでくると、この人は一切手を抜かないんだよな。天野さんは帰り際に、月ノ宮さんの持ち物チェックをしたほうがいい。ストーカー癖のある月ノ宮さんは、天野さんが使用したストローなどをジップロックに入れて持ち帰るまであるあ──いやいや、さすがにその一線は越えないか。さすがにね、さすがに……。


「そちらはどうでしたか?」


 月ノ宮さんの問いかけに反応したのは、僕の後ろにいる佐竹だった。


「まだそんなこと言ってんのか? どうせ何も出るわけねえって。ガチで」


 僕が靴を履いて廊下に出ると佐竹も僕に続く。


「──ってことは調べてないのね? 調べるまでそっちの部屋、入らないから」


「大袈裟だな。まあ、それならそれでいいけどよ」


 じゃあ、これからどうすんだ? と、佐竹は演技っぽく両手を返して肩を上げる。『ぱどぅーん?』とでも言いたげな表情に苛っとしたのは天野さんも同じらしい。


 天野さんは佐竹の腹部に右手の人差し指を突き刺すと、それが会心の一撃になったようで、佐竹はひーひー言いながら腹を摩って痛みを誤魔化そうとしている。その姿に気が晴れたのか、天野さんは満足そうに「いい気味よ」と言い放った。デュクシはデュクシでも、天野さんのデュクシは『デュク死』になり得るので、佐竹を反面教師にして、僕も気をつけようと思いました。でも、楽しかったです。まる!


 この旅行は観光を目的としていなかったので、特に予定は決めていなかった。


 大河さんは別の場所で待機してくれているので、電話を入れたら車を回してくれるだろうけれど、()()まで送って貰って、ついさっき別れたばかりだ。


 まだ時間もそれ程経過していないのに、もう一度呼び出すのは気が引けてしまう。それが彼女の仕事だとしても、休息くらいはさせてあげたい。月ノ宮さんも同様に考えているのか、〈大河さんを呼ぶ〉という選択肢は選ばなかった。


「温泉に入りませんか? 折角の温泉旅館ですから、温泉を存分に楽しみませんと!」


 そうですね。


 温泉を存分に楽しむのであって、天野さんの裸体を楽しむってわけじゃないですよね。


 お嬢様、それはとても慎むべき行為ですからね? という意味を込めて、半分冗談に視線を送ると、月ノ宮さんはキョトン顔で「なんですか?」と、あくまで白を切り、知らぬ存ぜぬを貫き通すつもりのようだ。


「いや、なんでないよ」


「そうですか、おかしな優志さんですね」


 まあいいか、よくないけど。


「目的は温泉だし、早速、温泉にいこうかしら」


 そっちはどうするの? と僕に視線を向けたあと、ギロりと佐竹を睨みつける。


「佐竹は部屋を調べなさい。これは絶対だから」


「げ、マジかよ……だりぃな」


 どんまい佐竹と、肩を叩いてやった。


「え、まさか俺一人でやんのか!?」


「僕はやりたいことがあるから忙しいんだよ、悪いね。代わりに風呂上がりの牛乳奢るからさ」


「それならまあ、いいか」


 ちょろい……いや、現金な男である。


「では、暫く自由行動ということで。何かあれば連絡して下さい」


 二人は再び部屋に戻り、温泉に行く準備を始めるのだろう。


「なあ、優志」


「なに?」


「ガチで御札が見つかったらどうりゃいいんだ?」


「フロントにでも連絡してみたら?」


 しかねえよなぁ……、でもなぁ……と、佐竹はぶつぶつ言いながら部屋に戻っていった。


 ドンマイ・佐竹──まるで芸名みたいだ、なんて僕は思った。




 * * *





 やりたいことがあると、有り体に含蓄のある言葉を言い放って逃れたけれど、いざ一人になって廊下に取り残されると、これから僕がしようとしていることは、それはそれは途轍もなくどうでもいいことなんじゃないか? と思えてしまう。


 そうは思っても、気になったら調べずにはいられない性分な僕は、自分で自分に「不憫な性格だなぁ」と文句を吐きながら足を動かす。


 硫黄の臭いが微かに漂うまたたび屋の廊下。


 ここは二階で、温泉は一階にある渡り廊下を進んだ離れの小屋にある。一度外に出なければならないのは、冬場のこの時期だとちょっと厳しいけれど、硫黄温泉で体が温まったあとは、冷たい風も心地よくなるんだろう。


 この旅館はそこまで大きな施設ではないので、小一時間もあれば全ての場所を網羅できてしまうはずだ。


 佐竹が部屋を調べ終わる頃に、僕も部屋に戻る予定。


 その後に二人で温泉に行けばいいので、今は離れを調べずに旅館内だけに的を絞ったのだが──階段手前まで戻ってきて、僕は違和感を感じて足を止める。


 この旅館は二階建ての建物だったような気がするけれど、どうして三階に通じる階段があるんだろうか。……いやまあ、そういうこともあるかもしれない。三階は物置的な用途で使われているんだろう。二階と三階の中間にある踊り場を上がった奥には、屋上へ通じるドアがある可能性だってある。


 学校の階段とかそんな感じだけど、屋上という可能性は直ぐに捨てた。


 だって、ここの屋根は瓦だぞ?


 学校や病院という施設ならそれも考えられるけれど、瓦屋根の旅館に屋上があるとは考え難い。


 もし仮に、瓦屋根にも関わらず屋上があるとしても、屋上は危険であり、危険を促す必要がある場所だ。


 だが、立ち入り禁止のロープや、張り紙すらも張ってない。


 不自然極まりない話だが、『この階段を上ったところで先へは進めない、だからロープを張る理由も無い』と思って張らなかったのならば、この旅館のリスク管理は()(さん)過ぎるが、まあ、それも考え難いことではある。


 旅館では火事だって起こり得るわけなんだから、細かいリスクに気づかない──なんてことは無いはずだ。『地面がぬかるんでいる場合があるため、足元には充分ご注意下さい』と張り紙をしているのは、この旅館に限った話ではなく、他の温泉施設も同じだ。


 温泉という一番の危険があるのだから、他の危険を見逃していることも無いだろう──とは思う。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。


 今回の物語はどうだったでしょうか? 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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