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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十四章 The Sanctuary of you and me,
368/677

二百四十五時限目 未成年は法律によって禁止されています



 そんなことを思いながら、喫煙者たちの隙間を縫うようにして大河さんの元へと向かった。






 * * *





 喫煙スペースの空気は、煙草の煙で空気が澱んでいるように感じる。


 そう、それは都会の空気に似て──なんて、都会なんかろくすっぽ行かない僕が言っても説得力に欠けるね。そうだなぁ……田舎でこの空気を喩えるならば、ゴミ処理場近くの空気とでも言えばいいのか?


 それとも、養豚場付近のえげつない臭いとか?


 さっきから僕は、田舎と都会を比較し過ぎている気がしている。それだけ都会に憧れているわけでもないのになぁ。


 さて、何を話題にしようかと少し悩み、有り体な話題を振ることにした。天気の話題やアシタノワダイなんてしても、興味は無いだろうしと、「煙草、吸うんですね」なんて、それこそ白々しいにも程がある話題を選んだ僕は陰キャ。


 大河さんは、かれこれもう何年も吸い続けているらしく、吸い方も板についていた。


「ええ。……一本吸いますか?」


 と、真顔でひょいっと一本だけ器用に箱から取り出して、飛び出した煙草を僕に向ける。


 日の丸のようなデザインが特徴のパッケージで、この煙草はヤンキーが吸うイメージが強い。


 もちろんヤンキーじゃなくても吸う煙草ではあるけれど、もっとこう、なんて言うか、パッケージに花が描かれていたり、可愛いらしいデザインの煙草を女性は好む傾向にあると思っていた。たまに、めちゃくちゃ細い煙草を吸っている人も見かけるけど、あれは吸った気分になるんだろうか? 喩えるならば極細のストローでマックシェイクを飲むイメージ。うわ、それもう拷問じゃん。ほっぺたがムンクの叫びになるまである。


 ラッキーストライクを吸っているということは、実は大河さんって元ヤンだったりするんだろうか? 


『大河さんは元ヤンですか?』


 なんて、さすがの僕でも訊けないなぁ……。


 元ヤンでメイド、という水と油みたいな関係に違和感を覚えた。


 元ヤンのアイドルや女優ならいくつか訊いたことがあるけど、そのどれも僕の頭の中ではモザイクがかかったようにボヤけて映る。


 一々、女優や俳優の名前なんて覚える?


 女優の誰々が可愛いとか、俳優の誰々がかっこいいとか、男優の加藤鷹さんはゴールドフィンガーだとか、それは郷ひろみだろうとか、僕からすればどうでもいい。


 でも、男子高校生は綺麗な女優さんの名前を覚えているし、女子高生はかっこいい俳優の写真を携帯端末の中に保存して、それを背景にポエミーな言葉を連ねたりする。


 そして、その画像をやみかわいい感じに加工してSNSに投稿するんだろう。


 よくわからない感性だ。


 そもそもやみかわいいってなんだよ。


 闇が可愛いって、それもう闇堕ち好きってことアサギ……ゲフンゲフン。アサギなんて僕は知らない。


 ヤンキーとは、社会からの卒業を目指して、盗んだバイクで走り出したり、真夜中に窓ガラス壊して回ったりするような人種だ。


 当然ながら、そんな行為は犯罪なので、彼らは彼らの思惑通り、『社会からの卒業』を果たせるのだろう。つまり、ヤンキーは逮捕されたがりの集団なの? ドMかな? 語尾に『コラ』を付けて、左肩を下げながら、相手を下から上に見るのが彼らの倣い性ではあるが、その動きにどじょうすくいのBGMを合わせればあら不思議。完全一致ですありがとうございますコラ。


 そんな人が誰かの言いなりになるような職業を選ぶとは考えにくい。


『人を見かけで判断するのはよくないよ!』


 なんて僕が言うな感が凄過ぎて、語彙力がロストした。


「僕はまだ未成年ですから遠慮します」


 差し出された煙草に対し、頭を振って丁重にお断りすると、大河さんは顔色を変えずに、眉すら動かさず、「もし吸うと言われたらどうしようかと思いました」


 退屈そうに煙草をポケットにしまった。


 じゃあ訊くなよ──と、心の中で愚痴を零しながら、煙草を吸い続ける大河さんを観察する。


 大河ゆかり──。


 月ノ宮家に仕えるメイドの一人で、高津さんの部下に当たる。


 年齢は訊いていないけれど、当然ながら二十歳はとっくに越えている大人の女性だ。綺麗系だ、と僕は思う。綺麗系ってどんな系統だよ、とも思う。


 髪は首くらいまでの長さで、文乃さんのようなボブでもなく、『カットだけした』ような雰囲気だ。


 栗色に明るく染めているので、それだけでも充分栄えるけれど、髪型には特にこだわりが無いように思える。


 常に気怠い雰囲気を纏い、対応も素っ気無い大河さんは、雇い主の娘である月ノ宮さんに対してもそうなので、そういう性格なんだろう。つまりそれは、サバサバ系って括りだろうか。


 体躯は細身で、女性にしては背が高いけれど、纏っている雰囲気のせいか、少し野暮ったくも見えてしまう。これでもっと見掛けに拘りを持っていたら、芸能人にも引けを取らないのだろう。


 身長か──僕の中で女性の平均基準が曖昧だったりするわけだが、これ以上身長のことについて考えると、コンプレックスが『ビーマイベイベー、ビーマイベイベー、ビーマイベイベエエエェェェ!』しそうなのでやめた。


 大河さんは慣れた手つきで灰を灰皿に落とすと、再び煙草に口をつけてぷかーっと空へ吐き出す。煙はその場で揺れるように漂い、ふわっと空へ沖すると、空気中に分散されていった。


 短くなった煙草を灰皿の中へ落とすと、じゅうっと消える音がする。


 煙草を吸い終えた大河さんは、僕をじっとりした眼で視ながら、「……カフェオレ、美味しそうですね」と、手元にあるカフェオレに視線を落とした。


 ……欲しいのだろうか?


 これから一泊二日お世話になるのだし、缶コーヒーくらい買ってくるのがマナーだったかもしれない。


 けどまさか、大河さんが煙草を吸うなんて思ってなかったんだから仕方が無いじゃないか! えなりかずき感。


「一口飲みますか?」


 当然断られると思っていた僕は、「いただきます」とわざわざ腰を折って、そのままずずっと一口飲んだ彼女の行動が理解出来ず、その場で呆気に取られるように棒立ち状態になり、起きた現象を理解するまで数秒誤差が発生してしまった。


 ──普通、初対面の相手の飲み物を一口貰うか!?


「甘いですね」


 カフェオレだからそりゃ甘いんだけど、大河さんは味に対しての感想を言ったのか、それとも僕の行動に対しての評価を述べたのか判断が難しい。だから僕は、なにも考えていないように振る舞るうこと努めて、「冗談だったんですけど、本当に飲むとは思いませんでした」と、事実だけ伝えた。


「こういうの気にしない性格なので」


 それはさぞ世の男性を困惑させただろう。


 彼女に対して好意を寄せた男性は、少なからず存在するはずだ。そういう男性たちにも同じように接していたら勘違いさせそうなものなのに……ミステリアスな女性だ。


 これまで出会った年上の女性とはまた違った毛色で、僕以上に何を考えているのかわからない。


 何を考えいるのかわからないフレンド繋がりで言えば、佐竹の姉である琴美さんや、そのガールフレンドである弓野紗子さんもそうだけど、彼女たちには共通して腐っているし、腐蝕具合で言えば弓野さんの方が上ではある。でも、大河さんにはそういう性的欲求は全くと言っていいほど感じない。それが当然であり、ごく一般的な大人の女性はあんな風にしないんだけど。


 では、何も考えていなそうな関根さんとはどうだろう? いや、関根さんは結構計算して動いているからな、大河さんとはまた違う。


 ハラカーさんとは? いやいや、ハラカーさんはミステリアスとは程遠い。柴犬を恋人に選んだのはミステリーだけど、人には人の恋があり、柴犬も大分大人っぽくなってたから──。


「鶴賀様はお嬢様と同じクラスとお訊きしたのですが」


 いきなりの質問に、はっと我に返る。


「はい。いつも仲よくさせて貰ってます」


 仲よく──なんだろうか?


 僕と月ノ宮さんの関係は仲よくと一括りにできるほど単純ではない。


 でも、月ノ宮さんは僕を認めてくれた人でもあるし、一番評価してくれていると言っても過言じゃないよね? 同等の存在なんて言ったら烏滸がましいけれど、僕はそう思っている。


「確か、鶴賀様がお嬢様の留学をお引止めになった、……んですよね」


「え? ま、まあ……そういう流れにはなってますけど」


「よく、あの頑固なお嬢様を説得しましたね」


 棘のある言い方だ、と思った。


 これではまるで、『余計なことをしてくれました』と言われているような気がする。然し、ここで憤りを顕すのは愚の骨頂だと呑み下した。


「大河さんは月ノ宮さんが、……楓さんが嫌いなんですか?」


「いいえ。嫌いではありません。好きでもありませんが」


「それはどういう──」


 どういう意味ですか? と質問しようとしたら、大河さんは先を読んで、その質問を拒むように、


「そろそろ時間ですので失礼します」


 と、足早にその場を離れて車へと向かってしまった。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。


 今回の物語はどうだったでしょうか? 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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