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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一十三章 Please find me,
347/677

二百二十四時限目 風吹けば名無しの手紙


 地獄のような期末試験が幕を閉じた。


 翌日より三日間の休みがあり、短縮授業が三日続く。それが終われば八日間の試験休みとなり、終業式を終えて春休みが始まる。とは言えど、今はようやっと最後の試験が終わったばかり。


 学校中から疲労の溜め息が訊こえてくるようだが、一年三組も満身創痍で、ホームルームが終わってからも、教室でぐったりしている者が多い。うちのクラスのムードメーカーですら机に突っ伏して、


「やべ」


 とか、


「まじやべぇ」


 と、小さな声で嘆いていた。


 ……ああ、鬱陶しい!


 そんなに『やべぇ』なら、普段からしっかりこつこつ勉強をしていればいい。


 カラオケやファミレスに入り浸り、連日の如く馬鹿騒ぎしているのが悪いんだから、自業自得としか言えない。


 天野さんが僕にアドバイスを訊ねた翌日から、天野さんは行動に移していた。積極的に月ノ宮さんと絡むようになり、月ノ宮さんも蟠りが解けて喜んでいた。


 が、その一方で──


『やっぱり私は諦め切れません。優志さん、第二ラウンドと参りましょう!』


 と、再び僕に宣戦布告。


 よくも悪くも、いつも通りの月ノ宮さんが戻ってっきた。


 僕も胸の(つか)えが下りたの思いだが、これで一安心とできないのはどうしてだろう。


 ……まだ、なにか燻っているような、漠然とした不安が僕の心を蝕んでいる。


 勘違いであって欲しい……でも、どうだろうな。終業式まで何事も無く、平穏無事な生活が送れたらそれでいいんだけど。


 これは贅沢な願いでもないだろう? 三億円が欲しいって言っているわけじゃないんだから。





 * * *





「なあ、ゆうしぃ……」


 未だ机に突っ伏したまま、佐竹が情けない声で僕を呼んだ。


「なに」


 僕の声に反応して、佐竹は机から身を剥がし、ゆっくり椅子ごと方向転換させる。


「あのさ」


「却下」


「まだなにも言ってないだろ!?」


 佐竹が『あのさ』と僕に訊ねる時は、大抵、碌でもないことばっかりだ。


「まあまあ、いいから訊けって。……期末試験を終わらせた俺らには、癒しが必要だと思うんだ」


 癒し──と言われて、真っ先に思い浮かぶのは温泉だった。


 温泉か、と僕は過去の記憶を呼び起こす。


 かれこれ数年は、温泉に浸かっていない。


 自宅から自転車で行こうと思えば行けなくもない場所に一軒、行けなくはないが自転車では遠い場所に一軒、合計二軒の温泉施設がある。


 人気の温泉は遠いほうで、サウナやジャグジーなどの設備は無く、内風呂と露天のみというシンプルな温泉だが、入った瞬間に肌が喜ぶのがわかる温泉だ。


 自転車でなんとか行ける距離にある温泉は、寝湯や五右衛門風呂など、様々なレパートリーがあるものの、自宅のお湯となにが違うのかよくわからない。もし温泉に行くなら、遠いほうに限るのだけれど、車が無ければ移動は困難だ。


 僕の癒しはさて置いて、佐竹の言う『癒し』とは何だろう?


 世に(まん)(えん)している〈ウェイの者たち〉は、日常に刺激を求めているのが大半だ。


 例えば、未成年にも関わらずお酒を飲んで、『酒うめぇ』とSNSに写真をアップして炎上させたり、友人の原付きバイクを橋の上から放り投げて炎上させたり、バイト中に売り物のおでんを口に含んでから吐き出して、パンケーキを食べたがって炎上したり。


 ──よくもまあ、容易く燃えるものだ。


 それを『ネタ』という言葉で片付けるのだから質が悪い。場を和ませようとしたにしても、もう少し考えて行動するべきだけど、彼らは『炎上』することを『かっこいい』と勘違いしているのか、言葉通り、命を燃やして炎上させる。


「カラオケにはいかないよ」


 佐竹の言う『癒し』は、これ以外に無いだろう。


 一にカラオケ、二にカラオケ、三、四もカラオケ、五にファミレス。


「それはもう望まねぇよ。そうじゃなくてだな」


 違った、だと……?


「明日から三日間休みだろ? 春休みだって間近だし」


 そこで佐竹は言葉を区切り、勿体振るかのように間を開けて──


「春休みを満喫するための計画を練ろうぜ!」


「ええ……」


 この男は一体、何を考えているのだろうか?


 つい先ほど、『癒しが必要だ』と言っていたはずなのに、それがどうなって『春休みの計画を練る』に発展した?


 僕には皆目見当つかず、佐竹義信という男の脳内は、やっぱり『ウェイ』であることが立証されただけだった。


 春休みなのだから春休みらしく、春休みを謳歌すればいい。


 部屋で読書に興じたり、ソシャゲのイベントをぶん回したり、飽きたら勉強して、アニメ、ドラマ……あれ? それは普段の休みとさして変わらないのでは? ──いや、そうではない。


 僕の休みは常に春休み同等の価値があると言える。さすがに苦しい言い訳だな。


「それで? 具体的には何がしたいの」


「それをこれから考えるんだろう?」


 ──ぱどぅーん?


「……はあ。わかったよ。どうせ拒否しても泣きついてくるんでしょ? ダンデライオンでいいの?」


「おう! 他のヤツにも声かけておくわ」


 思い立ったら吉日とばかりに、佐竹は月ノ宮さんと天野さんの元へ。その行動力を、もっと他のことに使えれば、佐竹も少しは期末試験に苦労せずに済むのにな。これは怠惰ですね? 実に怠惰ですよー?


 かく言う僕も、それなりに怠惰である。


 佐竹が月ノ宮さんたちと話をしているのを、じいっと待っているのは退屈だけど、〈話に加わる〉という選択肢は無い。


 僕が佐竹に屈したような形にはしたくないので、僕は『致し方無く付き合っている』という体で、この話を進めたかった。


 先にバス停で待ってよう。


 僕はちゃちゃっと帰り支度を済ませて、教室の後方のドアから出た。廊下には数人の生徒が立ち話をしている。内容は『期末試験どうだった?』で、他の生徒たちもその話でもちきりだ。


 試験というのは嫌でも他人と比べられる。


 要領よく勉強している者は、そこそこの点数が取れるが、甘く見ていた者は地獄に落とされた気分になり、その後、楽しい補習生活が待っているのだ。そんな余計な時間は取りたくないので、僕は予習復習を欠かさない。


 昇降口に着いて下駄箱を開けると──


「ん?」


 そこには桃色の便箋が一枚、靴の上に置いてあった。


 これは、ラブレターというやつだろうか? おそらく、入れる下駄箱を間違えたのだろう。……可哀想に。手紙を書いた本人の下駄箱に戻しておこうと裏目を視てみるが、名前の記載は無い。そりゃそうか、目に見える場所に名前を書いたら、落とした時に大惨事だ。まあ、落とした所で既に大惨事ではあるんだけど。


 このままラブレターを持ち帰るわけにもいかないので、手紙だけを靴箱に残しておこうと、靴箱に置いて手を離した時、手を離した場所に名前が記載してあった。


『鶴賀様へ』


 このラブレターは、どうやら僕宛てで間違いなさそうだ。


 いやまさか……そんなはずは無い。


 同じクラスの人だろうか? それも無いだろう。だって、クラスの人気投票をすれば、確実に佐竹が一位だ。佐竹以外にもイケメンな男子は存在するので、僕みたいなヒエラルキー下位にいる者を選ぶはずがない。天野さんか? それも違うだろう。天野さんが手紙を書く理由が見当たらない。


「……って、ここで考察するのは危険だな」


 手紙を鞄の中へ入れて、バス停へと向かった。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。


 今回の物語はどうだったでしょうか? 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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