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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
31/677

一十四時限目 迷探偵とワトソン君の真実[中]


「あ」


 そういえば、泉にシャーペンを貸したままだった。明日返して貰えばいいかとも思ったけど、貸し借りだけはちゃんとしておきたい。後々になってから、あの日貸したシャーペンの存在を私は忘れないって言っても、見つかっちゃったで済む空気にはならなそうだし。


 教室をグルっと見渡してみる。


「いない……」


 近くにいる子に訊ねてみると、どうやらホームルームが終わった途端、急ぐように教室を出た……とのこと。


「泉って部活してたっけ?」


 傍にいた子にもう一度訊ねた。


「してないと思うけど……あ!」


 なにかを思い出したように手を鳴らす。パチンって音が、人口の減った教室にやたらと響いた。


「そういえば、泉の様子が朝からおかしかったんだよね。おかしいのはいつものことなんだけど、いつも以上に輪をかけておかしかったというか」


 そう言われてみると、思い当たる節がある。いつも以上に、異常なくらいテンションが高かったかもしれない。


「ありがと。少し校内を探してみる」


 私はその子にお礼を告げて教室を出た。


 泉がまだ在学中か否かを確認するなら、下駄箱を調べるのが手っ取り早い。そう思って、昇降口へと向かった。下駄箱の中には、所々に傷が入ったローファーが眠っている……っていうか、このやたら甘い匂いはなんだ? と思って奥を覗き込むと、手の平サイズの芳香剤が遠慮がちに隅っこの奥まった場所に置いてあった。なるほど、私も真似しよう。


 泉は上履き派で、ローファーがまだ下駄箱の中にあるってことは、校内に残っている可能性が高いけど、泉が行きそうな場所ってどこ? 図書室とか絶対に行かなそうよねあの子。泉が真面目に本を読んでいる姿は想像できないし、放課後に残ってまで勉強しているとも考えられない。なかなかに失礼だけど。もしそこまで勤勉ならば、そもそも自宅に筆箱を忘れるような凡ミスはしないはずだ。職員室? それも考え難い。チャランポランで突拍子もないことを言い出す泉だけど、授業態度はそれなりに真面目。先生から呼び出しを受けるようなことだけはしない子だ。


 だとするなら──体育館、かな。


 体育館へ行くルートは大きく分けて二通りある。一つは校舎一階にある非常口を進むルート。私たち一年生が体育館に向かうときはこのルートを進む。二つ目のルートは二階から伸びる天空廊下──と、梅高生徒は呼んでいる──を渡って、体育館の中二階から入る方法だけど、泉がこのルートを通って体育館に向かったとは考え難い……と言うか、うちの体育館って立派過ぎない? こんなに立派な体育館はこの学校には必要ない気がする。


 この学校を設立した当時、運動系部活に力を入れようと思ったのかも。そうだとしたら残念だけど、この学校の運動部はお世辞にも強いとは言えない。唯一の救いは、運動部に所属している皆がとても楽しそうに活動していること。そう考えれば、この大層ご立派な体育館も無駄ではなかった。


 一階の廊下を進んだ先にある非常口の重たそうなドアは開け放たれていて、そこから先にある体育館正面入り口が見えた。コンクリートの地面にはめ込んである赤煉瓦タイルの割れ目と隙間から、(くるぶし)くらいまで伸びた雑草がちらほらと生えている。風は無く、バスケットボールが床をバスンと叩く小気味よい音が外にまで漏れていた。体育館前には自動販売機が一台設置されている。その前で体育着姿の男子生徒が腰に手を当ててスポーツドリンクをぐいっと呷り、空き缶をゴミ箱放り投げて、私の直ぐ横を走り去った。


 体育館に泉がいる可能性は、三割くらいだと思う。


 泉は私と同様に部活動はしていない。ならばどうして体育館と目星をつけたかと言うと、消去法でしかなかった。いなかったら諦めて、明日、改めて返してもらえばいいか。今日中に返却してと言明しなかった私も悪いものね……。


 部活動の邪魔にならないように、体育館の隅を彷徨いてたら、女子バスの顧問を務めている先生に呼び止められた。


「天野さんどうしたの? もしかして部活見学?」


「いえ、そうじゃなくて」


 ()(とう)(しょう)()先生は、我がクラスの担任と同じく、今年赴任してきた体育科の教員で、大学生時代にバスケ部でエースを務めるほどの実力を持っていたらしい。プロから誘いもあったらしいけど、それを蹴って教師の道を選んだ──と、風の噂で訊いたことがある。


 男子人気は絶大で、親しみを込めて『伊藤ちゃん』と呼ばれているけど、本人も特に気にしてないようで咎めたりはしない。だから一部の女子から『色目を使っている』と陰口を叩かれることもしばしばあるらしいが、女子バスケ部の面々は伊藤先生の実力を知っているし、指導に関しても的確だから、伊藤先生に対して文句を言う子は少ない。『少ない』というだけで『無い』とも言いきれないのが女子世界の陰湿なところである。自分もその世界の一部であると自覚しているので、話を合わせなければならないのが息苦しい。これも社会勉強の一環だと割り切らなければとっくに孤立していただろう。


 そうだ、と思いつく。


 我がクラスの体育を担当しているのは伊藤先生だから、泉の存在も把握している。部活動に入っていない泉が体育館に来ていれば、不審に思って声を掛けるはず──私ってそんなに不審者っぽかったのかしら。


「あの、先生。ここに泉……関根さんが来ませんでしたか?」


「関根さんなら来てたけど……」


 ビンゴ! と心の中でガッツポーズ。仮にも私は()探偵の助手のワトソンなんだから、これくらいは造作もないわ……この設定、泉が隣にいないと落ち着かないわね。


「大岩君に用事があったみたいで、彼とどっか行っちゃったなあ」


「大岩先輩……」


 大岩先輩は三年生で、現在、男子バスケ部のエースらしい。高身長の野性味溢れるワイルド系で、梅高だけなら最強のシュート力を持っている……梅高だけならって肩書きが悲しいわね。性格も見た目に違わずワイルドで、一見怖いと感じるけれど、実は裏表の無い性格というだけらしい。クラスでも話題に上がるほどの有名人だけど、泉は大岩先輩になんの用事だろう? まさか──ね。でも、可能性はゼロじゃない。泉だって女の子だし、年上の先輩に恋心を抱いても不思議じゃない。


 そこから導き出せる答えは──告白だ。


 これ以上の詮索は、止めたほうがいいかも知れないわね。


「ありがとうございました。もし泉を見かけたら教室で待ってるって伝えてください」


「わかった、伝えておくわね」


 ──そこ!


 ディフェンスが甘いわよ!


 もっと腰を深く落として!


 コートに戻った伊藤先生が激を飛ばした。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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