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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
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一十四時限目 迷探偵とワトソン君の真実[前]

 

 いつも覇気を感じない担任が朝の職員会議を終えて教室に来るまで、男子も女子も好きな者同士で共通の話題に盛り上がる。昨日のドラマの続きがどうのって言うのは誘い文句で、本当に話したいのは俳優さん裏事情。実は不倫しているとか、彼女、彼氏がいるとか。情報源は週刊誌の中吊り広告やネットニュースなんだろうけど、語られる情報が全て真実とは限らない。


 SNSの愚痴を多く耳に挟んだ。


『あの反応はなくなーい?』


『私、変なおっさんから粘着されてるんだけど。まじウケる』


 こういった話題を主にするのは、クラスでも垢抜けた女子グループだ。佐竹のグループと仲がいい。所謂〈ギャル〉と呼ばれる女の子たちで、私はあまり得意じゃない。会ったら二、三言葉を交わす程度の表面上での付き合いで済ませている。だって、変なおじさんに粘着されているのに『ウケる』で片付けてしまえる神経が理解できないから。どこにウケる要素があるのかしら……? 犯罪の臭いさえしてくるけれど、私よりも彼女たちのほうが色々と経験してて、まともな恋愛をしたこと無い私に、とやかく言われたくないだろうと押し黙る。慎重に行動せず、とんでもない失態を犯したのだから、反面教師になるのは彼女たちじゃなくて私自身だ。


 自分本意な告白をして、撃沈して、売り言葉に買い言葉した。そのおかげとは言わずもがな、佐竹の恋人〈ユウちゃん〉に会えて、自分の恋愛が同性を対象としているって理解できたのは百歩譲ってよしとする。問題はそこじゃなくて、私が佐竹に告白したって噂話が広まっていないかが心配だった。


 幸いにも、現場をだれかに見られていなかったから、ヒソヒソ話の中に私の名前は含まれていない。『だれそれが告白して、振られた』って噂は一瞬で拡散されるものだ。七十五日耐えてやると覚悟していたけれど、私が告白したって話はクラスの皆に知られていなかった。佐竹が対策を取ったのかも……。気が利いたことをしてくれて助かるわと、心の中で謝意を述べる。


 そんな佐竹は、最近、妙に月ノ宮さんと鶴賀君に懐いている。あの三人、あんなに仲がよかったっけ? 月ノ宮さんは常にだれかが周囲にいて、アイドル並みの人気を博しているけど、その内輪に鶴賀君は含まれていない。他人と関わるのが苦手そうだもんね。常に本を読みながら音楽を訊いて、自分の世界に浸っているイメージが強い。話掛けても素っ気なくて、淡白な反応しか返ってこないから、入学数週間で孤立していた。


 そんな彼が、気兼ねなくだれかと会話している姿を見て安心したけど、月ノ宮さんと打ち解けた経緯はなにかしら? 例えば……そうね、趣味が同じとか? 鶴賀君は読書が好きで、月ノ宮さんもそれなりには読むだろうし、本を通じて知り合ったのかも知れないって思えば納得できるけど、それが全てとも言い切れないような気がする。女の勘ってやつだ。まあ、彼が支障なく学校生活を送れるようになってよかった。


 授業の準備をしていると、(せき)()(いずみ)が横からひょっこりと顔を出した。


「どしたの恋莉くん……悩みかね?」


「なにその口調」


 泉は私を揶揄(からか)うように話しかけてくる。


 その揶揄い方は特徴的で、自分がアニメのキャラクターでもあるかのような学者っぽい口調? を好んで使う。口調が泉の容姿とあまりにミスマッチ過ぎて、クラスの中で『変なヤツ』にカテゴライズされていた。


 悪い子じゃないんだけど奇行が目立つし、それも致し方無いと思う。


 可愛いのに、勿体無い。


 童顔で背も低く、頭部の両サイドから垂れ下がるツインテールは、ネットの歌姫を彷彿とさせる。幼さを強調する容姿は『飛び級した小学生』受け合いで、本人曰く『若く見られることはいいこと』らしい。それもそうかって思う。私は年上に見られることのほうが多いから、多少の妬みもあるんだろうって自覚があった。


「佐竹っちに熱い視線を送ってたから、恋の悩みかと思ったんだけどなあ」


「そんなんじゃない」


 恋の悩みという単語が、心にぐさっと突き刺さる。泉は冗談半分なんだろうけど、いまの私には厳しい話題だ。


「本当にいー?」


「佐竹なんてどうでもいい……てか、顔が近いんだけど」


 泉はこういうとき、ねちっこくなる嫌いがあった。


「ほう。ならばどうして、特定の男子に熱視線を送っているのかね?」


 しつこいな、と泉を引き剥がす。


「鶴賀君がだれかと話してるのが珍しいって思っただけよ。他意は無いわ」


「あー、たしかに」


 気になってた! みたいな口振りだけど、口の端ほども興味なかったんじゃない? 私だって、佐竹の動向を目で追うようになってから気がついたんだし。


「最近の鶴賀君って、佐竹っちと撫子(なでしこ)ちゃんと仲よさそうだよねー」


 最近の鶴賀君って……来週のサザエさんは? じゃないんだから。


「これは事件かもしれんですな。ワトソン君」


「どんな事件よ……」


 泉のノリに当てられて、ちょっと疲れてきた。


「でも、少し気になるのは否定できない……かな」


「ワトソン君。真実はいつもなんとなく一つなのだよ!」


 決まらない台詞をびしっと決めても決まらないのよね……。突きつけられた右手の人差し指を、腫れ物に触るように掴んで下ろす。


「曖昧過ぎる真実なんて、真実と言えないわよ」


「まあまあ、堅いこと言いなさんな」


 私が下ろした腕を上げて、肩をぽんぽんって二回叩かれた。


「そんなに気になるなら話し掛ければ?」


 そう、ね。


 それが一番手取り早いんだけど、鶴賀君はどうも近寄り難い雰囲気がある。まるで、鶴賀君の周りには分厚く高い壁があって、どうやってもよじ登ることができない難攻不落の要塞みたいだ。鶴賀君自身がそれを望んでいるようにも思うので、近寄ることを(はばか)ってしまう──泉は気にしないの? 私の考え過ぎ? でもなあ……特に用事もないのに話しかけるのって難しい。


「そこまでは……いいかな」


「ふーん……それはそうと、(こい)ちゃん」


 ちょっと待った、と私は手の平を泉に突きつける。


「可能なら、呼び方を統一して欲しいんだけど」


「じゃあ、ワトソン君」


 なんでそっちなのよ……。


「恋ちゃんでお願いします」


 そのあだ名は一番無い。


 泉から『ワトソン君』なんて呼ば続けたら、私も変人だと思われてしまう。それは不本意だ。私は普通でいい。教室に咲く一輪の薔薇の花にならずとも、蒲公英(たんぽぽ)くらいの親しみがある存在がいい。


「で、要件はなに?」


「なんの話だっけ?」


「それはそうと、の後よ」


 ああ、そうだった! と手を鳴らす。


「シャーペンを貸して頂けたら嬉しく思います。……筆箱を忘れちゃってさ?」


「はいはい、どうぞ」


 どうせ、そんなところだとは検討ついてたわ。


 予備に持っていたシャーペンを泉に渡した。


「ありがとう恋ソン君! この借りは必ず返してやるからな!」


「もう、なんでもいいわよ……」


 まるで台風の如く現れた彼女の去った後に残ったのは、適応し難い疲労感だけだった──恋ソンって、なに……?





 帰りのホームルームが終わり、ようやく帰れると席を立つ。うちのクラスで部活動に入っているのは約七割くらい。部活を強要する校則があったら、私はなに部に所属するかしらって、流れるように教室から出て行くクラスメイトたちを傍観しながら考えてみた。


 テニスはもういいかな……、中学では三年間やってたけど才能が開花することもなかったし、テニスの経験を生かすならばバドミントン部だけど、梅高にバドミントン部ってあるのかしら? うーん、運動部はもういいかな。これからは女を磨くと決意したから、料理研究会とかの家庭科系を……とは思う。でも、ある程度は料理できるし、わざわざ放課後の時間を費やしてまで料理を研究したいかって問われるとそうでもない。裁縫ならどうだろう? パッチワークができれば副業にもなる。絵心を養うなら美術部もいい。実用的な部活を選ぶなら、英会話やフランス語などのスキルアップ系。外国語を話せれば世界でもやっていける……国外に進出する予定が無かった。



 

【備考】

 お読み頂きまして、誠にありがとうございます。

 これから応援よろしくお願い致します!


 by 瀬野 或


【修正(誤字)】

・2019年2月3日……誤字報告による修正。

・2019年7月17日……本文の見直し、誤字脱字修正。

・2020年12月9日……誤字報告による修正。

 報告ありがとうございます!

【修正(その他)】

・2019年2月19日……読みやすいように修正。

・2019年5月17日……文章を改稿修正。

・2019年11月22日……加筆修正・改稿。

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