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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
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一十三時限目 僕らの作戦会議は珈琲と共に[後]


 ようやく話も一段落して、残すは決行日を決めるだけなのだが、明日、明後日に決行するのはさすがに無茶過ぎる。では、いつ頃が適正なのか? と皆が熟考して沈黙が訪れると、場の空気を読んだのか、照史さんが珈琲のおかわりを持ってきてくれた。


「ありがとうございます、お兄様」


「なんだか楽しそうだね」


 照史さんは三つのカップに丁寧に珈琲を注いでから「ごゆっくりどうぞ」と、爽やかな笑顔を僕らに向けて戻っていった。


「今日はここまでにしましょう。吉日が思いついたら私に連絡してください」


 煮え切らないまま解散となったので、明日もこの店に集まることになりそうだ。





 * * *





 帰宅した僕は私物の携帯端末ではなく、優梨用の携帯端末をケーブルから引き抜いて、天野さんからメッセージが届いていないかチェックした。


 この行動は、いままでの僕にはなかった。


 私物の携帯端末に届くメッセージといえば、定期的に送られてくるメールマガジンの類しかなく、読まずに消去することのほうが常であり、メッセージチェックなんて高校生らしいことはしてこなかった。が、仮にも優梨は〈女子高生〉という設定で、女子高生と携帯端末は切っても切れない関係にある。むしろ、携帯端末こそ女子高生足らしめるまであり、毎回慣れない作業に四苦八苦しながら天野さんに返信していた。


「今日はどうかなっと」


 やっぱりメッセージは届いていた。


 簡単な一言『学校終わった?』とだけ。


 優梨らしく返信しようとするけど、優志の姿では優梨がどういう返事をするのか掴めない。形から入る、というのは馬鹿にできないのだ。雰囲気を掴むには環境を変化させることも手段の一つと言える。家で勉強が捗らず、図書館に出向いて、自由に使える勉強卓で再チャレンジしたらあら不思議、捗らずにいた宿題があっという間に終わった──なんてこともあった。弘法筆を選ばずとは言うけれど、本来の意味ではなく、使えるものは使ったほうがいいに決まっているのだけれど……一々女装して返信していたら切りがない。こういう場合はシンプルに返信すれば問題ないはず。


「〝終わったよ〟っと……」


 無難過ぎたか?


 ピースサインの絵文字は添えたけれど、ちょっと単調過ぎた感は否めない。どなたか僕に、女子高生のメッセージってどう書けばいいのかテンプレートを送ってくれないか? ああ、頼れる人は月ノ宮さんくらいだけど、月ノ宮さんの場合は業務連絡なんだよな。キーボードアプリに予め入っている定型文みたいな、そんな感じのメッセージを送ってくるからね。やっぱり自分でなんとかする以外に方法は無さそうだ。


 数秒後、まるで返信をじっと待っていたかのように既読マークが付いて返信があった。


『もし予定がなかったら、今週の日曜日にどこか行かない? 予定がなければだけど』


 これは……どう返信するべきだろうか。


 僕の予定は空いているけど、そりゃあもう空白以外になにもないのだけれども、天野さんのご指名は優梨だ。佐竹と付き合っている身分なのに『空いてる』なんて気軽に返信したら不自然じゃないか? 日曜日という学校の用事もない休日にデートしないカップルなんて訊いたことがないぞ……あ、そもそも僕に恋人は(おろ)か友人もいないので、そういった黄色い情報が不足しているだけかもしれないけどね! てへぺろりん。


 で、なんて返信するのが正解なんだ?


 あ、そうだ。


「ダブルデートのXデーに使えるんじゃないか?」


 予定を確認するから待ってねと返信して、私物の携帯端末で月ノ宮さんに電話をかけた。コール音が数回鳴った後『もしもし』と訊き覚えのある声が返ってくる。疲れているのか覇気を感じない。


『優志さんから電話をかけてくるなんて珍しいですね? ダブルデートの決行日に、いい頃合いの日取りでも思いつきましたか』


「実はさ」


 簡単に現状を説明した。


『そうですか、なるほど』


 うんうん、と電話越しに頷いているのが浮かぶ。


『これは好都合ですね。では〝佐竹さんと会う約束をしているけど、それでもよろしければ〟と返信してみてください』


「そんな返信をしたら〝邪魔したら悪い〟って断るんじゃないの?」


 無神経な人間じゃなければ、デートを邪魔するような野暮はしない。


『そうですね』


「そうだよ」


『優梨さんの彼氏が〝佐竹さん〟でなければ邪魔しようとも思わないでしょう。でも、優梨さんの彼氏は佐竹さんです。天野さんの負けず嫌いな性格上、ここは拒否する理由はないと思います』


 これには僕が頷いてしまった。


 天野さんは佐竹に告白して断られた経験があるけど、本人は告白したことを後悔してるんだったよな── 待てよ、後悔か。


「わかった。アドバイスありがとう」


『いいえ。では結果をお待ちしていますね』


 電話を切って、再び優梨端末に手を伸ばした。メッセージは僕が送った『待っててね』で止まっている。ここからが正念場だと褌を締め直す気持ちで携帯端末を握る。


「〝その日は佐竹君と会う約束をしてるけど、彼に話したらいいよと言ってたので、よかったらレンちゃんも一緒にどうかな?〟……っと」


 無論、佐竹の了承なんて得ていない。


 特に問題は無いだろう。


 メッセージが返ってきたのは約一〇分後だった。


『本当にいいの?』


 やっぱり多少の遠慮はあるか。然し、この一文から読み解くに、天野さんは来る気満々と見た。


「〝大丈夫だよ。それに、レンちゃんだって佐竹君に伝えなきゃいけないことがあるんじゃないかな?〟」


 佐竹に負い目を感じていることに付け込んだ誘い文句。褒められたもんじゃない。だけど、真面目な天野さんは、遅かれ早かれ佐竹にあやふやな気持ちで告白したことや、売り言葉に買い言葉したことを謝りたいと思っているはず──そういう『正しい気持ち』を利用するのは心苦しいけど、天野さんの心を引きつける理由が思いつかなかった。


『そうだね、ちゃんと謝らないとだよね。雰囲気を壊してしまうかもしれないけど、それでもいい……?』


「〝もしそうなったら、私がフォローするから大丈夫だよ〟」


『ありがと。ユウちゃんは優しいね』


 優しい、か。


 本当に優しい子のなら、そもそも天野さんを騙すような真似はしない。


「〝そんなことないよ〟」


 そう、そんなことはない。


 自己嫌悪しながら、月ノ宮さんに折り返しの電話を入れた。



 

【備考】


 この度は『女装男子のインビジブルな恋愛事情。』をご覧頂きまして、誠にありがとうございます。

 今回の物語はどうだったでしょうか?

 皆様のご期待に添えるように全力で書いていますが、まだまだ実力不足な私です。次はより面白い作品が書けるように、これからも努力して参ります。


【瀬野 或からのお願い】


 この作品を読んで「面白い! 応援したい!」と思って頂けましたら、お手数では御座いますが、『感想・ブックマーク・評価、等』を、どうかよろしくお願いします。


【誤字報告について】


 作品を読んでいて〈誤字〉、もしくは〈間違った言葉の使い方〉を見つけた場合は、どうぞご遠慮なく〈誤字報告〉にてご報告下さい。

 その全てを反映できるかはわかりかねますが(敢えてそういう表現をしている場合も御座います)、『これはさすがに』というミスはご報告を確認次第修正して、下記の【修正報告】に感謝の一言を添えてご報告致します。


「報告したら不快に思われるかも」


 と躊躇されるかも知れませんが、そもそも『ミスしているのは自分の責任』なので、逆恨みするような真似は絶対にしません。どうかご安心してご報告下さいませ。勿論、誤字しないのが一番よいのですが……。


 報告、非常に助かっております。


【改稿・修正作業について】


 メインストーリーを進めながら、時間がある時に過去投稿分の改稿・修正作業を行っております。

 改稿・修正作業はまだまだ終わりませんが、完成した分は『活動報告・Twitter』にて、投稿が済み次第お知らせ致します。



 最後になりますが、現在ブクマして下さっている方々や、更新してないか確認をしに来て下さる方々、本当にありがとうございます。

 完結を目指してこれからも書いて参りますので、引き続き応援して下さると嬉しいです。


 これからも、


【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】


 を、よろしくお願い致します。


 by 瀬野 或


【誤字報告】

・現在報告無し

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