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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
二章 It'e a lie, 〜 OLD MAN,
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一十三時限目 僕らの作戦会議は珈琲と共に[中]


「──続けても宜しいでしょうか?」


 誠に申しすめんなさい、続けてどうぞと月ノ宮さんに頭を下げた。


「佐竹さんの言う通りではありますが、私は殿方に囲まれるのが日常で、天野さんに声をかける余裕がありません」


 この場にクラスの女子がいたら嫌味にしか訊こえないような発言にぞっとする。言葉を選んで下さい月ノ宮お嬢様。小麦が無いのにケーキを焼けるはずがないでしょう? そういうことだよどういうことだよ。


「そこで、私と天野さん。佐竹さんと優梨さんの四人で(しん)(ぼく)を深めよう──というのが表向きの理由で、〝私と天野さんの距離を縮める〟というのが作戦の本懐となります」


 その作戦は前途多難になりそうだ。


「具体的な計画は?」


 具体的な内容が知りたいんだけど、月ノ宮さんはなかなか口を開こうとしない。そればかりか、難しい顔をして俯いてしまった。


「おい、楓?」


 佐竹から声をかけられて渋々面を上げたが、気分は優れない様子。お腹でも痛くなったのかな? って、すっ(とぼ)けても決まりが悪い主人公じゃあるまいし。


「思いつかないんです」


 こういう顔もするんだな。飄々となんでも(こな)すイメージだっただけに意外だ。恋愛ごとに関しては高校生相応で安心だけど、ストーキングだけは感心しない。


「どうやって打ち解ければいいのか、その方法がどうしてもわからなくて」


「そんなの普通にすりゃいいじゃねぇか」


「それができるのは佐竹くらいだよ」


 僕には月ノ宮さんの気持ちが少しわかる。


 普段話さない他人に対して、どうやって興味を引くか、どんな話題を提供するべきかの判断はとても難しい。


 佐竹のようなウェーイ勢は『普通』にできるらしいが他人にもできるとは限らない。『俺ができたんだからお前にもできる』なんて根性論で解決するなら、だれも悩んだりしないだろう。


「実行できていたら、とっくに天野さんと結ばれています」


 断言したよこの人、凄い自信だな。


 意気込みはご立派だけど、未だ達成するまでのプロセスが導き出せていないって感じか。好きな人に話しかけるのは、佐竹が思うほど簡単じゃない。僕がクラスメイトのだれかに声をかけるのと同じくらい難しいことであり、月ノ宮さんの中では一番の障害なんだろう。え? それってもう詰んでるような気がするんだけど、そう感じているのは僕だけらしい。


「作戦は無きにしも非ずなんです」


「と、言うと?」


 その真意を確かめるべく訊ねた。


「優梨さんは、以前にも天野さんと会っていますので面識がありますし、何度もメッセージを交わしていますよね?」


 まあそうなんだけど、なんで知ってるんですかねえ?


「その繋がりを利用して天野さんを誘って欲しいのですが、私が登場するのは余りにも不自然ではないかと」


「そんなの簡単じゃね?」


 佐竹はテーブルに身を乗り出した。


「俺らがデートしてるときにばったり会って、そこから〝一緒に遊びに行こうぜ〟的な流れに持っていけばいい話だろ? 普通に」


 ──そう簡単にきますか?


 ──ノリでなんとかなんだろ。 


 ──佐竹(パリピ)ならできるかもね。


「おい、苗字を呼ぶ発音でパリピって呼ぶな!?」


 そういう発想は、少なくとも僕にはない。


 道で知り合いとすれ違ったら絶対に声をかけないし、なんなら隠れるまである。声を殺して、気配を消して、忍者の如くその場から一早く立ち去るだろう。然し、佐竹のような『ウェーイ勢』は一味も二味も違う。


 例えば。


「ウェーイ?」


「ウェーイ?」


「ウェーイ!」


「タッシェェェイッ!」


 みたいな軽い()()で、彼ら特有の言語で意思疎通を図り、そのままカラオケやファミレスなんかに直行するんだろう──たっしぇーいって、どこの部族の言語だよ。コミュニケーションにステータスを全振りしている佐竹は、道ですれ違ったら気さくに話しかけてくるんだろう。取り敢えず僕には話しかけて欲しくない。プライベートだよ? 迷惑だからやめな?


「自然な流れでそういう状況にできますか?」


「多分、余裕じゃね?」


「余裕、ですか」


「なんとかなるだろ」


 そういうもんじゃねえの? って得意そうに言ってるけれど、どういう理論で構築された『なんとかなる』なのだろうか? 少なくとも僕が知っている理論では解けない特殊なパリピ理論だ。曖昧な理屈で『できる』と言われても説得力は無いのになあ。


「それしか案が出ない以上、その作戦で行くしかないですね。途轍も無く不安ですが」


「不安以外なにもない作戦だけど、仕方がないかな」


「お前ら、少しは俺を信用しろ!?」


 佐竹を信用するくらいなら、童話に登場するオオカミ少年を信用した方がマシまであるが、僕も月ノ宮さんもこういうことに関しては無知である。結局、不本意ながら佐竹の『ウェーイ作戦』を遂行することになった。


「後は、天野さんを呼び出す動機だけど……、それに関してはどうするの?」


 出鼻を挫けば後が続かない。


「そこは〝優梨さんの腕次第〟ですから、よろしくお願いしますね?」


 ええ……。


「作戦内容がずさん過ぎて不安しかないんだけど。というか、月ノ宮さんって作戦参謀的な役割の人かと思ってたよ」


 あー、なんだっけと佐竹は頭を捻る。


「三國志でそんなキャラいなかったか?」


 キャラって……。


「諸葛孔明ですね」 


 三國志の登場人物に対して『キャラ』と言い切ってしまう辺り、佐竹の脳内には(さん)(ごく)を無双している『諸葛孔明』しかないのだろう。


 僕も大概ゲーム脳だけど、歴史上の人物をキャラクターとしては見ていないなあ。



 

【修正報告】

・2021年7月11日……誤字報告箇所の修正。

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