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一百三十六時限目 関根泉は嵐のように場を荒らす


 第一回クリスマスパーティー会議と称せば、長方形の会議室に白いホワイトボード、そしてブラインドのカーテンに、折り畳み式の長机とパイプ椅子が眼に浮かぶけれど、僕らの会議室は珈琲の芳ばしい香りとアンティークな小物に囲まれている。そして、木目調のテーブル上にある真っ白いお皿の上には、ヨーグルトソースとミントの葉が添えられた、ナッツたっぷりのマフィン。月ノ宮さんと天野さんは、三角形に切り分けられたニューヨークチーズケーキとレモンティーのセットを堪能している。


 とても優雅な会議室だが、呼んだ覚えの無い人物が二人程混じっていた。


 我がクラスで最も不真面目であり、二言目には『殺すぞ』と殺害予告をしてくるマイルドヤンキーイチゴ味の雨地流星と、我がクラスで最も二次元的であり、超高校級のロリっ子の関根泉。


「流星は兎も角、どうして泉がここにいんだ?」


 佐竹の疑問はごもっともだ。


 流星はダンデライオンの存在を知ってからというもの、この店を隠れ蓑として使っている。なので、僕らが訪ねて来る前よりもずっと前からいて、その流れで合流したのは頷けるけど、天野さんの腰巾着のようについてきた関根さんはどういう了見だろうか?


 佐竹が疑問を口走ると、視線が関根さんに集中した。


「フッフッフ。いい質問だねぇ佐竹っち」


「いい質問なのかしら……」


 演技がかった受け答えをする関根さんの隣で、頭痛がするかのように眉間を抑えている天野さんは、どっと疲れが押し寄せたのか、食傷気味な嘆息を洩らした。


「楽しそうな事をしそうだったからついてきた!」


「おい優志。このちんちくりんな生き物もお前らの仲間なのか」


 どうにかしろと訴えているのは理解しますが、如何せん僕も初対面なので何と申し上げればいいのか頭を悩ませていると、件のちんちくりんな生き物さんが、


「ぶっちゃけ、絡むのは初めてだよ!」


 元気一杯に声を張り上げた。


「しかしですな、雨地君。そういうキミはどうなんだい? 私の推理だとワトソン君と撫子(なでしこ)ちゃん共に、さして面識が無いように思えるが、その件についてはどう釈明してくれるのかな?」


 名探偵あるまじき発言なのですが、それについてはどう釈明してくれるのかな? と僕は思ったが、それを突きつけたら余計に話がこじれそうなので、ここは我慢だと呑み込む。


「面識が無いわけじゃない。梅高祭で軽く知り合ったくらいの仲だ。その点を言えばお前よりは面識があると思うが」


「まあまあ、雨地さん。取り敢えずその話は置いておきましょう。そうじゃないと一向に話が進みませんので」


 四人だけでも大人数だと感じるのに、そこに個性豊かな二人が加わったらもうカオスだ。……というか、この二人もクリスマスパーティーに参加希望なんだろうか? 六人もいたらさすがに僕の家のリビングも狭く感じるだろう。それに、流星は素性が知れているけど、関根さんに関してはからっきしで、当然僕らの事情についても知らないはずだ。


 ──嵐の予感がしてならない。


「つか、お前らもクリスマスパーティーに参加すんのか? 俺は別に構わないけど……どうする?」


 佐竹は月ノ宮さん、天野さん、僕と順番に視線を移して訊ねた。


「私は構いませんよ? 二人増えても問題ありません」


「私もだけど、……優志君の家で開催する話だったから、優志君はどう?」


 月ノ宮さんも天野さんも、どうやら僕が懸念している事に気がついていないらしい。


 流星は少なからず、僕と佐竹の事情は知ってるだろう。佐竹とは親密な仲と言っても過言ではないし、あの流星が気がつかないはずはない。しかし、天野さんと月ノ宮さんの事情については知らないはずだ。


 それを露見させていいのだろうか?


 それとも僕が考え過ぎているだけ?


 関根さんは悪い人ではないとは思うけど口は軽そうだし、できるのであれば僕の事情は知られたくないけど、ここで断るのはかなり難儀だ。


「まあ、二人が反対しない以上、多数決って事で……」


「わーい! ありがとうツルルン!」


「つる、るん……?」


 そのあだ名で呼ぶな、殺すぞ。


 ……ああなるほど、流星の気持ちがようやくわかった気がする。


「ちょっと待て。オレは参加するとは言ってないぞ」


「硬い事言うなって。旅は道連れ世は情けねぇ(・・・・)って言うだろ?」


 ……どうして情けなくなっちゃった?


 だけど、その故事ことわざが出てくるというのは成長している証でもある。


 佐竹も頑張って語彙力を高めてるんだなぁと感心。


「えっと、……佐竹っち、それはボケなのかな?」


 まあ、初めてこれを訊くとそういう反応になるよね。わかる。(天下無双)


「は? ガチに決まってんだろ」


「佐竹っちって天然だったんだねぇ」


 天然というよりも無知の類なんだなぁ……。




 

  * * *





 議題に取りかかったのは、テーブルに飲み物だけが残されてからだった。


 僕、佐竹、流星はブレンドを、月ノ宮さんと天野さんはカフェラテを、関根さんはロイヤルミルクティーを注文して、それぞれのテーブルの上で湯気が揺蕩(たゆた)う。


「クリスマスと言えば、やっぱりプレゼント交換は必須ですなぁ!」


 はいはい! と元気よく手を挙げて発言するその姿は、まるで点呼の時に『はい元気です!』と先生に告げている小学生のそれ。因みに僕が在籍していた小学校では『ちょっと風邪気味です』というのが恰好いいという風潮があり、男子の五割は風邪気味という謎の見栄張りがあった。先生はきっと心の中で苦笑いしていたに違いない。


「いいなそれ! ネタに走るかガチで攻めるか悩むぞ……」


 ネタでもガチでもどっちでもいいけど、折り紙で折った鶴とか(やっこ)さんとか、紙粘土にビー玉を嵌め込んだだけのダークマターはやめて欲しい。これ、小学校低学年のプレゼント交換あるあるね。ハズレ感が尋常じゃない。


「催し物とかは後でもいいでしょ。内装や料理はどうするの?」


「内装に関しては鶴賀さんと相談しながらですね。料理はそれぞれお惣菜を持ち合うというのは如何でしょうか? ピザなどの注文は届くのが遅くなるでしょうから控えた方がよさそうです。ケーキは私が用意しますね」


 ケーキという言葉に反応した関根さんの眼が爛々と輝く。


「撫子ちゃんの特製ケーキ……凄そうですな、ワトソン君!」


「話がややこしくなるから子供は黙ってろ」


 流星はハの字を寄せて辛辣に言うと、


「頭脳は大人だよ!」


 どうせあの名探偵(・・・・・)を意識した発言だろう。ここでツッコミを入れたら負けだと受け流してみたが、


「金田一かよ!」


 佐竹がドヤ顔で斜め上のツッコミを入れた。


 西の名探偵でも東の名探偵でも三十路になった名探偵でもいいから、話を進めないだろうか? ……脱線するにも程がある。二人の相手をしていると、話があっちこっちに飛び交って収拾つかない。


「これでは埒があきませんね。今日は顔合わせという事にして、本格的は話し合いは後日、少人数で行いましょう」


 月ノ宮さんは『少人数』の部分を殊更に強調すると本日はお開きとなり、倦怠感がずっしりと肩にのしかかる。


 僕が感じた『嵐の予感』は、どうも的中してしまったようだ。


 これをフラグ回収と言うのだろうか?


 ……いいや、きっと違う。


 だって、嵐は訪れたばかりなのだから──。




【備考】


 読んで頂きまして誠にありがとうございます。


 こちらの物語を読んで、もし「続きが読みたい!」と思って頂けましたら、


『ブックマーク』『感想』『評価』


 して頂けると今後の活動の糧となりますので、応援して頂けるようでしたら何卒よろしくお願い申し上げます。


 また、〈誤字〝など〟〉を見つけて頂けた場合は〈誤字報告〉にて教えて頂けると助かります。報告内容を確認次第、修正が必要な場合は感謝を込めて修正させて頂きます。


 今後も【女装男子のインビジブルな恋愛事情。】を、よろしくお願いします。


 皆様が当作品を楽しんで頂けたらと、願いを込めて。


 by 瀬野 或


【修正報告】

・2019年3月20日……誤字の修正。

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