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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一章 Change My Mind,
18/677

九時限目 天野恋莉は心を決める 1/2


 昔から、少女漫画の主人公のような心ときめき躍るような恋に憧れていた。


 白馬の王子様が私を迎えにきてくれるなんて能天気なことは考えていないけど、本を選んでいるときに手が触れて、ラブストーリーが始まるくらいの夢はみていた。


 頑是無い子どもだった私の淡い願望は、異性への興味と共に薄れていって、いまでは自分が『男勝り』なんて呼ばれるのだから皮肉な話ね。


 そりゃ私だって女子高生になったんだから、恋愛くらいしてみたいのに、男子に心を揺れ動かされるようなことも無く、佐竹に告白でもすれば自分の中にある女という性が働くんじゃないかって思ったんだけど、思惑とは裏腹に、違う可能性を引き出す結果になってしまった。


 それが、いまの悩みの種となっている。


 私の恋愛対象は自分と同じ女性──その事実を受け入れるには判断材料が曖昧で、確証を持つには早過ぎる。だから、明確な根拠が欲しい。もう一度あの()()に逢えれば、一時の気の迷いじゃないって思えるはず……あれ?


 私は、彼女を好きになりたいの?


 わからない。


 わからないから、知りたい。


 このままうじうじしていても前に進むことはできないのだから、自分自身を知るためにも、自分の恋愛を探すためにも、立ち止まるのではなく踏み出さなきゃいけない。


 今日こそ、約束を取り付けてみせる。


 それが駄目なら、また明日。


 絶対に、諦めてやるもんか──。





 * * *





 帰りのホームルームが終わった。


 一目散に佐竹が座っている席を目指す。


 今日こそは! と意気込んで、逃げようとしている佐竹の前へ立ち塞がった。


「今日は会わせてもらえるのかしら?」


 好戦的な態度で佐竹を挑発する。


 これも私の悪癖だけど、苛立ちを隠せないのも事実だから、高圧的な態度を取ってしまっても致し方無い──と、臆面も無く自分に言い訳をした。


「あ、いやぁ。なんか忙しいらしくてさ?」


 またこの台詞……もう訊き飽きたわよ。


「そんなにユウちゃんと会わせたくないの?」


 喧嘩でもしているなら連絡し難いのも納得できるのに、佐竹は()()()としか言わない。二人のプライベートに首を突っ込むのはマナー違反だってことは理解しているけど、ユウちゃんとの架け橋になっている佐竹がこんなでは、いつまで経っても会うことは叶わない。


「喧嘩したの?」


 可能性が無いとは言い切れない。


 佐竹のことだから、詰まらないことでユウちゃんを怒らせたってことも充分にあり得る。


「どうなのよ」


 佐竹の机に両手をついて、身を乗り出しながら問い詰めた。さながら、犯人を自白させようとしている刑事ドラマのワンシーンだ。机の上にスタンド照明があれば突き付ける気満々だったけど、そんな物が用意されているはずもない。


「喧嘩はしてねぇ……と思う」


 これまた随分とあやふやな答えね。


「あれだよあれ」


「どれよ」


 右も左も用意されてないのに、方向指示器を点滅させろって言うの?


「音楽性の違い? みたいなやつ」


「それは脱退理由でしょ……事実上の破局じゃない」


 喧嘩より質が悪くなってどうするのよ。


「つまりあの後、アンタとユウちゃんの間になにかあったってことね?」


 はぁ……と(がい)(たん)の息が溢れる。


「そんな感じだな」


 なんで偉そうなのよ、頭おかしいんじゃないの?


「モテるのに、女の子の扱いが下手なのかしら」


 ──う、うるせぇな。


 ──アンタの顔のほうが煩いわよ。


「お前、今日は毒舌がキレッキレだな……ガチで」


 私だって好きで毒舌を吐き散らしているわけじゃない。


 好きかもしれない相手が嫌な思いをしているかもしれない……その原因が佐竹にあるのなら当たりが強くなるのも当然じゃないの。


「別にモテねえし、こっちにも色々と事情ってもんがあんだよ。普通にガチで」


「私はその()()を訊ねてるのだけれど?」


 毎回、似たような言い訳でのらりくらりと躱されてうんざりするわ。


 ユウちゃんに会って自分の気持ちを確かめたいだけなのに、彼女との間には隔たりがあって、手を伸ばしても全く届かないようなもどかしさを感じていた。


 私とユウちゃんと会わせたくない理由、か。


 もしかすると、のっぴきならない事情があるのかしら。


 私と佐竹が沈黙したところを見計らうようにして、女の子が「よろしいですか」と声をかけてきた。


 間に入ってきたのはクラスで人気の女子で、マスコットキャラクターと言っても過言じゃない和風美人。通称・大和撫子の君──。腰まである長い黒髪、細い体のライン、日本人形のように可憐で美しい月ノ宮さんは、最近、佐竹と二人きりで話をするようになった。それも、私がユウちゃんと会った日を境に……。これまで何度か二人が話し込んでいる姿を教室や廊下で見かけたけど、コソコソ、ヒソヒソと密談しているのはどう考えたって怪しい。


「わ、悪いな恋莉。それじゃ」


「すみません。失礼します」


 この二人を見ているとモヤモヤしてくる。


 佐竹はちゃらんぽらんなヤツだけど、浮気をするようなタイプには見えない。だから余計に、二人が接点を持っていることが不思議でならなかった。


「佐竹。ユウちゃんを泣かせるようなことはしないでよね」


 駄目押し程度に釘を刺しておく。


「はあ? 意味わかんねえ」


 わかりなさいよ、それくらい。


 佐竹はそう言い残して、二人とも教室を出ていった。


「帰ろ」


 自分の席に戻って鞄を手に取り、佐竹たちが出て行ったドアの反対側から教室を抜けて昇降口へと向かった。





 グラウンドからサッカー部や野球部といった運動部の威勢のいい掛け声が訊こえてくる。


 放課後の風景は、学校が変わっても好きだ。


 音楽室から漏れ出す吹奏楽部の演奏は、あまり褒められたものじゃないわね──なんて思いながら、部活に入っていない私が偉そうか言える義理は無いと反省。


 中学時代はテニス部に所属していた。


 結局、レギュラーにはなれなかったけど、それなりには楽しく活動していたと思う。激しい運動だから体型維持にもなったし……最近、ちょっと、ほんのちょっぴりだけ太ったかも知れない。自堕落な生活を送っているとは思わないけれど、運動量は明らかに激減した。でも、高校でテニスをする気になれず、いまも私はダラダラと帰宅部に身を投じている。


 新しい学校で新しいことを始めることは、とても素晴らしいことだし、やってみたら楽しいって思うかもだけれど、そんな晴れやかな気分になれないのは、自分が抱えている問題が大き過ぎるせいだろう。


『恋愛がしたい』


 なんて、私らしくもないことを思ってしまったのは理由がある。


 私は、私を知りたい。


 これまで見向きもしなかった『恋愛』に、ちゃんと向き合おうと思ったのは、自分が『女』だってことを自覚したかったからだ。身体的な話じゃなくて気構えと言うか、精神論みたいな感じ? 体つきは結構自信があるんだけどなあ……胸が大き過ぎるから服選びが大変だけど。あと、下着が地味になりがちなのも悩みね。


 普通の女子高生なら恋愛の一つや二つなんて器用にこなせて当然なんだろうけど、私の場合、器用に自分の心を移り変わりすることはできない。だからこそ、一つの恋愛にここまで頭を抱えなきゃならなかった。要領が悪いって自分でも思う。すれ違う友人たちに挨拶を交わしながら、下駄箱に入れてある靴に履き替えた。


 そろそろ、新しいスニーカーが欲しいな。


 徒然と空を眺めながら、バス停へ足を進めた。



 

【修正報告】

・2019年2月19日……読みやすいように修正。

・2019年2月22日……加筆、改稿修正。

・2019年11月14日……加筆修正・改稿。

・2020年1月26日……誤字報告による修正。

 報告ありがとうございます!

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