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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一章 Change My Mind,
15/677

七時限目 大和撫子とワンチャンと食べ損ねたエビチリ 2/2


 月ノ宮さんは僕以上に口が達者そうだから、上手く言い包められた感じが否めない。 


「僕がいないと天野さんにアタックできないからじゃなくて?」


「それを否定すると嘘になってしまいますが」


 ですよね。


 本来の目的は月ノ宮さんが天野さんと恋仲になることだし、その目的を果たすために自身のプライドを折ったんだろう。それが今回の謝罪の全貌だ。佐竹がいようがいまいが関係無かったはずだ。佐竹がいれば人数が増えて謝罪の効果がちょっとばかし増す──みたいに考えてるに違いない。


 馬鹿とハサミは使いようって言うもんな。


 この状況で佐竹を最大に利用するなら、自分と同じように深々と頭を下げさせるのが最も効果的であり、謝罪会見で一斉に頭を下げるのはパフォーマンスだって感じるのは僕だけだろうか?


「私は純粋に、鶴賀さんともっとお話をしてみたいんです」


 ごめん。


「信用できない」


「そう、ですよね……」


 あんなに上から目線で話を進めていた人物とは思えないほど(しな)びらしい姿だ。だからこそ、裏があるんじゃないかって余計に勘繰ってしまう。


 だけど──それはだれにでも言えることじゃないじゃないか? 表があれば裏もあるのがこの世の真理、と言っても過言ではない。


 僕にだって裏はある。


 優梨という裏の存在は、もう一人の自分でもあるんだ。

 

「知り合い、くらいからでもいいかな?」


 譲歩するなら、それが僕の妥協点。


 友だちと位置付けるには、信頼値が足りな過ぎる。


「ありがとうございます。鶴賀さん」


 だが、納得出来ていない者が約一名。


 佐竹は腕を組みながら、不満げに口を開いた。


「友だちでよくね? 普通に」


 そういうとこ、マジで頑固だよな。


「空気読んで下さい!」 


 月ノ宮さんは、(しゃく)(ぜん)とした態度で笑う佐竹の右足を思いっきり踏みつけた。んげえ! なんて間抜けな悲鳴が校舎裏に反響する。


()()は放っておこうよ」


()()()ってなんだよ!?」


「〝馬鹿で愚かで語彙力の乏しい佐竹〟の略だけど」


()()()に濃縮還元し過ぎだろ!?」


 濃縮還元って言葉も、どうせジュースのラベルに書かれた売り文句をそのまま持ってきただけだろうな。


「言い得て妙なあだ名ですね」


 笑いを堪えるように口元を手で覆いながら言う月ノ宮さんだったが、最後辺りで我慢が限界に達したらしい。バ竹、バ竹……と繰り返して笑壷に入っている。


「お前ら俺を馬鹿にし過ぎじゃね? ワンチャン泣くぞ?」


「犬なら鳴くのも当然ですね」


 おお、負け犬の遠吠えですか。


 月ノ宮さんもなかなかに皮肉が上手い──いや、もしかすると本心でそう言っているのかも知れない。知らないけど。


 僕をここに呼び出したのは、こんな茶番を繰り広げるためじゃないだろう。佐竹の「犬じゃねぇよ!」という遠吠えを無視して本題を切り出した。


「冗談はここまでにして、()()()の話をしようか」


 その一言で、先程まで和やかだった空気がピシッと張り詰める。


「その件については、佐竹さんが説明をしてくれます」


 僕と月ノ宮さんからの視線を真っ向から受けて、少しばかり狼狽(うろた)えた佐竹だったが、観念したとでも言うように演技っぽく深呼吸をして「実は……」と開口した。


「恋莉から連絡が来てよ。〝優梨に会わせろ〟ってさ」


 また女装するのか。


「ここで〝無理〟と断れば余計に怪しまれてしまいますし、鶴賀さんに……()()()()と呼んでも?」


 そのあだ名は許容し難いんだけどなあ。


「いいから続けて?」


 はい、と首肯く。


「ユウさんに再び一肌脱いで頂いて、私との親交を天野さんに伝えて欲しいのです」


 それは構わないけど。


「具体的に、どう伝えれば?」


 作戦次第では『月ノ宮さんと親交がある』と伝えた時点で、僕らの関係性を怪しまれてしまうだろう。


 実行するタイミングはかなりシビアだ。


「そんなこともあると思いまして、こちらを用意しました──チャチャチャチャーン♪」


 まるで国民的人気なアニメキャラのように鞄から取り出したのは桃色の携帯端末だった。


 あのう……キャラがブレてませんかね?


 これも自分が無害だっていう演出なら安売りもいいところだけど──。


「その携帯端末は何用に使うんでしょうか?」


 まだ画面保護フィルムが貼られているし、明らかに最近買った物だ。作戦中はその携帯端末を使って連絡を取り合うとか? だったらもっと目立たない色のほうが都合もよさそうだが……。


「鶴賀さんの物は黒だったので」


 え、なんで知ってるの……? 怖いです。


「それだと優梨さんらしくないと思いまして、急遽、こちらをご用意しました」


 どうぞお使いくださいって気軽に渡されたけど、ありがとうございますって受け取れる物でも無いぞ。


「そんな高価な物はさすがに受け取れないよ。第一、通信料金はどうするのさ? 僕には支払えない」


 お小遣いは余分に貰ってるけど、だからって余計に携帯代金を支払えるほどの余裕は無い。


「通信料金の一万や二万なんて、私のお小遣いから容易く捻出できます」


 月ノ宮お嬢様の資産ってどれくらいあるんだよ。これだから上級国民は。お金で全て片が付くと思ったら大間違いだぞ! それは世間が許しちゃくれませんよ。


「これは未来への投資ですからお気になさらず使ってください」


「マジかよ。楓って本当にすげぇな……」


 正しくは『月ノ宮家の財力が凄い』だ。


「わかった。そこまで言うなら有り難く使わせてもらうけど、全て片付いたら返却するね。さすがに貰うわけにはいかないから」


 受け取った携帯端末を慎重に鞄に入れるとき、垣間見えた『箱』を見て大切なことを思い出した。


 お弁当、食べてないじゃん。


 僕が「弁当……」と口から零すと、二人もハッと我に返るように眼を合わせた。


「間に合わねぇな……クソ、思い出したら腹減ってきた」


「こればかりは仕方ありませんね。放課後まで辛抱しましょう」


「僕のエビチリが……」


 母さんの得意料理、エビチリ。


 ぷりぷりなエビと甘辛いソースが絡み合って、絶妙なハーモニーを奏でる母さんのエビチリは僕の大好物なのだがお預けになってしまった。



 

【修正報告】

・報告無し。

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