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女装男子のインビジブルな恋愛事情。  作者: 瀬野 或
一章 Change My Mind,
13/677

六時限目 僕以上、僕未満 2/2


「天野さんはとっくに帰ってるんだし、僕らに用事は無いはずだよね?」


「いいえ」


 月ノ宮さんは言葉尻を強くしてそれを否定した。


「用があるからここにいるんです。その理由をお話しさせて頂きます」


 そして、自分が見た通りのことを洗いざらい全て説明した。





 僕は血の気が引く思いでその話を訊いていた。


 気になったのは、月ノ宮さんがその話の中に挟んでいた『計画』という言葉だ。いい印象を受けない。ましてやこの状況、絶対にいい話ではないだろう。


「お二人のことを黙っている代わりに協力して頂きますね」


 是非は無さそうだ。   


「これは〝脅迫〟ではなく、お互いに利害が一致した()()()()()()()とご理解ください」


 おい、これが正当なはずないだろ。月ノ宮さんにしか利益がないように思えるけど? 取り引きの正当性を強調したいなら、僕らにも同等なメリットを提示するのが筋じゃないか。


 僕は佐竹に『どう思う?』と睥睨する。


 顔面蒼白、口元は半開き、間抜け面、そして佐竹──駄目だこれは。平常心に欠けている佐竹になにを訊いても無駄だと結論に至った。こういう切羽詰まったときに力をはっきできないのなら、イケメンも大したことないね。ツイストサーブを顔面にぶつけてノックアウトしてやりたい気持ちをなんとか堪える。


「では、計画についてお話し致します」


 赤裸々に語り出す訳でもなく、月ノ宮さんはさも当然のように同性である天野さんに恋をしていると語り、更にはその恋のキューピットを僕、いや、優梨にさせることを呈示してきた。


 ──佐竹、これ本気?


 ──ガチだ。


 ──日本語でお願い。


 ──普通にマジだって。


 オーケー。


 佐竹の日本語が異次元な言語だってことは充分理解できたよ。


 どうして最近のイケメン共は『ガチ』『マジ』『普通』『ヤバい』を多用するんだろうか。そんな言葉で会話が成立するんだから日本語なんて超イージーですね。日本の未来は明るいですなあ、世界共通語になる日も近いまである。


 佐竹に訊ねても普通にヤバいので、僕はガチで月ノ宮さんに向き直った。


 なんだこれ、絶対に頭悪いだろ。


 偏差値三〇も無い語彙力だぞ。


「僕らのメリットが〝口止め〟だけって言うのは、少しメリットとして弱いんじゃないかなと思うんですけど」


 思考停止している佐竹に代わり、僕は月ノ宮さんに質問する。


「そうですか」


 そこで一度、月ノ宮さんは言葉を区切り、顎に手を当てて暫し考えた後、なにか思いついたと言わんばかりに小さく手を叩いた。


「では! 私が鶴賀さんの友だちになって差し上げます」


「はい?」


 なにを言ってるの、この人。


 もしかして、佐竹ぐらいぶっ飛んだ思考の持ち主の民?


「アドレスも交換して、教室でもお話をしましょう。ご友人がいらっしゃらない鶴賀さんには相当なメリットになると思うのですが如何ですか?」


 如何もなにもあるものか。


 完全に舐められる。


 僕が欲しいのは友人じゃないし、いままで通り空気として生活できればそれで満足なんだ。


 性格は破綻しているけど月ノ宮さんの容姿は綺麗だ。クラスでの人気も高いだろう。そんな人と一緒に高校生活を送るなんて真っ平御免だ。なにより、考えかたが気に喰わない。


 大体、なんでこの人はこんなに上から目線なんだ?


 偉そうなのは名前だけじゃないってこと?


 名は体を表すという言葉があるけど、目の前にいる月ノ宮楓という女の子はその象徴とも言えるだろう。


「お断りし──」


「やったな、ユウ! これで友だちが二人になったじゃねぇか。俺と楓とお前で明日から仲よくやろうぜ?」


「は?」


 改めて、佐竹義信という男に殺意が湧いた瞬間である。


「それにさ、同性が好きだって俺たちに告白して、それを支えてくれってお願いされてんだぜ? ここは一肌脱ぐっきゃねぇだろ?」


「それはそうだけど、状況を考えると──」


「お前だってあんなに楽しそうにやってたじゃねぇか。〝優梨になる〟のって、お前が自分らしさを表現出来る方法でもあるんじゃねぇの? ガチで」


「なんだよそれ」


 確かに、同意できる部分はある。


 優梨になりきっているときは『演じる』というよりも、自分の気持ちを素直に表現できていた気はする。だからと言ってそれが『僕らしさ』と言ってしまっていいのだろうか? あれはあくまでも演技の一環で、認めたくないけど楽しいと感じる場面はあった。そうだとしてもそれとこれとは別の話で、佐竹は論点をすり替えようとしているとしか思えない。


 僕が不快だと思ったのは、月ノ宮さんが僕を哀れんでいるということで『可哀想だから友だちになってあげる』みたいなニュアンスを醸し出していることだ。


 僕は、友だちが欲しいわけじゃない。


 友人がいれば、それはそれは高校生活を豊かにしてくれるだろう。そこに関して言えば納得できるし否定もしない。でも、哀れみや同情から派生する関係に友情は芽生えるのだろうか? そこに発生するのはボランティアと同じで、そういう関係を僕は望まない。


「ユウ?」


「鶴賀さん?」


 二人は心配そうな表情で、僕の様子を訊ねる。


 この二人に、僕の気持ちが理解できると思えない。


 二人もきっと、僕の気持ちを理解することはできない。


 僕らは元々、住んでいる世界が違うんだ。


「わかった。月ノ宮さんと天野さんが仲よくなれるように、微力ながら協力させてもらうよ」


「ありがとうございます。では、これで私たちは友だ──」


「それは無理」


 月ノ宮さんの言葉を打ち消すように、僕は矢継ぎ早に拒絶した。


「お、おい。ユウ!?」


「僕は佐竹とも友人になるつもりはないよ。だって、利害関係とか、メリットとか、そういうのを考えている時点でそれは〝友だち〟って言えないだろ。佐竹はそういう風に考えながらクラスの人たちと友だちになったの?」


「いや、そんなことねぇけど……でも!」


 利害関係とか、メリットとか、それらの関係で最も適した表現。


 それは、ビジネスパートナーだ。


「僕はこれから〝ビジネスパートナー〟という関係で二人と付き合っていくよ。だって、月ノ宮さんもそれが目的なんでしょ。だったらドライな関係で構わないよね」


「え、えっと……わ、私はそういうつもりで言ったわけでは」


 まるで僕が悪者みたいな構図だ。


 でも、それでいい。


 彼らには彼らの住む世界があって、僕はそこに足を踏み入れることはできないし、してはならない。住み分けはしっかりとしておくべきだ。僕にとっても、彼らにとっても。なにより僕は僕であり、僕以外の誰でもないことを絶対に忘れてはいけない。



 

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