宮下家の朝
目が覚めた。最初は暖かくて優しい空間だったのに、一気に恐ろしい地獄のような空間になった。
それでも願いが叶ったと、少女は救われたとほっとしてしまった。
「やな夢を見た気がします…」
正直今から二度寝をしてもいい夢を見られる気がしない。
今起きても早すぎる訳では無い。たまには早めに起きて支度をしよう。
「夢の内容覚えてれば話のネタにでもなるんですけどねぇ…」
制服のボタンを上から一つ一つ止めていく。
スカートを履こうと手をかけたところでガチャ、と部屋の扉が開く。
「あれ、雅起きてる。」
「起きてますよぉ。宮下もたまにはちゃんと早起きするのです。」
「わかったから早くスカート履いて」
「勝手に入ってきておいてなんていい草」
小さな身長に猫耳を生やした少年。
それが私の化身、みけさんだ。
私は異能力を持っている。
その能力が発現したのは中学2年生の終わり頃。
授業中にその時ハマっていたアニメの同人誌ネタを考えているとき、突如どこからかポンッ、と気の抜ける音がして、周りを見てみると自分の机の上にいくつかの薔薇の花が落ちていた。
なるほどBLなだけにバラの花かと納得したと同時に私は異能力に目覚めた。
なんとも馬鹿らしい異能力の目覚めだと自分でも思う。
そしてもう少し身長が伸びてから異能力に目覚めたかった。
はぁ、とため息をつくと、みけさんが私の制服の裾を引っ張ってきた。
「早く起きたならご飯。みんなと一緒に食べよう」
「そうですね。」
みけさんはいつも私が起きるのを待って、私と一緒にご飯を食べてくれる。
可愛らしく健気なパートナーだ。
「あれ、雅。今日は起きるの早いね。学校が楽しみだった?」
ホストのような見た目だけチャラいのにも関わらずエプロンをしてご飯を作っているのは黒猫のねくだ。
チャラいのは本当に見た目だけで我が家の母親的役割だ。
ちなみに実際の母親は全く母親らしくない。
そして実はもう1人、自分の席に大人しく座っている少女が妹の杏だ。
「楽しみなわけありますか…田中影千がいるんですよ?あのクソサディスティック童貞眼鏡…」
「…どーて?」
「童貞ってこら。杏が居るんだから!それに今まで中学生だったんだから童貞でもおかしくは………ってそういう話じゃないやめなさい」
「善処しま〜す」
善処する気もないがそう言って席に着くと、リビングの扉が開き1つ上の兄と双子の兄が部屋に入ってくる。
「雅が起きてるぞ」
「今日は雪かなぁ?」
「私が早起きすることがそんなに恐ろしい事です??」
「二人ともおはよう。ちょうどご飯できたから座って。お父さんと…起きないだろうけどお母さんも起こしてくるから」
「はーい」
ねくは父と母を起こし部屋を出ていった。
「「「いただきます」」」
予想通り、母は起きてこなかった。
それを見越して母の目玉焼きはまだ焼いていなかったのだろう。いつも私が出ていく時に起きてご飯を食べている。
「ねくのご飯は最高ですねぇ…」
「このな…目玉焼きの黄身の加減がほんと絶妙…」
「皆の好みの柔らかさにできるのすごいよねぇ」
「さすがれのんのパートナーと言える…」
「私も今度作りたいな…」
「そんなに褒めてもなんも出ないよ。杏は今度一緒に作ろうね」
「うん」
毎朝のようにねくのご飯をべた褒めし、兄達に髪を結んでもらって学校へ行く準備をする。
「あぁ、行く前今度こそにれのん……お母さん起こしてくるから待って」
前に起こさずに皆が学校に行ってしまった時、お母さんは拗ねて部屋から出てこなかったらしい。
まるで子供だ。
「れのん起きて、子供達と真咲にいってらっしゃいだ」
「ひ、陽の光が眩しいでござるぅ…」
「いってらっしゃいは?」
「はっ……もうそんな時間!?皆いってらっしゃいっ!!」
米俵のように担がれる見た目も、行動もまるで子供だ。
この身体で私たちを産んだと思うとなんとも言えない。私たち四人、よく産まれてきたね…
いってらっしゃいと言う母の幼い笑顔にいってきます、と手を振り返し、私達は四人は学校へ、父は仕事場へと歩いていく。
私達は聖堂学園への…編入生という部類に入ると思う。