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短編(超短編)

八月のオレンジ

作者: 芝田 弦也

『もう、終わるね』

日に日に日照時間が短くなり、見上げた空には夏の風物詩である入道雲の姿はなく、春や秋に見ることが多い、巻雲と呼ばれる繊維状に伸びた薄い雲で埋め尽くされていた。先日までの茹だるような暑さが嘘のように引いていき、冷たさの混じった風が吹き抜けていく。

夕暮れ時にもの哀しさの旋律を奏でていたヒグラシの一団も影を潜め始めていた。


友達の何気ない一言が、心の奥底に刻まれていく。

あんなに長く感じた夢一杯に溢れていた日々が終わりの時を迎えようとしている。

振り返ってみても大した事を何一つしていない、平凡すぎる時間を淡々と積み重ね、貴重な時を無下に費やしていたのを思い返し悲しくなった。


まるで、夢でも見ているようだ。

これから始まる開放的な一時(ひととき )に胸が高鳴って、

色んな事をしようと妄想していたのが昨日の事のように思い返せるのに、

気がつけば終わりの時が目前に差し迫っていたなんて。

やりたいことは沢山あったのに、やり残していることで溢れかえっている。

息がつまるほど悲しくて、ため息しか出てこない。


『短いなぁ』

『全然足りないよ』

同じタイミングで似た様な事を言ったからか、反射的にお互いの顔を見合っていたらなんだか可笑しくなってきて、くつくつと笑いが生まれた。

確かにやり残している事は沢山あるけど、この瞬間が楽しいと思えるなら、今はそれで十分だろう。

また明日からは今まで通りの日常が重ねられていくのだろうけど、君が居ればなんとかなりそうだね。


二人の笑い声は秋の空に馴染んでいく。

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