Episode 幕明 『レコード』1
RECORD
Side:T
「この子はルカだよ。仲良くしてあげなさい」
ある日、教会のおじいちゃんが珍しい耳の男の子を連れてきた。肩までの長さの髪は、黒と灰色とちょっとの白が混じっているような色――まるで、絵本で読んだオオカミみたいな色だった。もしかして、ひょこっと上についている耳もオオカミなのかな? 不思議な子。
もっと不思議なのは、彼の瞳だった。紫色で、宝石みたいに綺麗な瞳。だけど、宝石というよりは原石みたいで、なんというか、輝きがないような感じがする。
でも、なによりその姿は……。
「かっわいい~!」
「こらこら、ティナったら。この子、ぽかんとしちゃってるよ」
「だって、かわいいんだもーん。フィリップもそう思うでしょ?」
「まあ、否定はしないけど……」
「ねえ、おじいちゃん。この耳は?」
「ぼくの話、ちっとも聞いてないし!」
ルカに夢中なあたしの横で、フィリップは溜息を吐く。おじいちゃんは、いつも優しい笑顔でそれを見守ってくれるの。
「それは狼の耳だよ」
「おおかみ!?」
フィリップはびっくり、あたしはワクワクって感じだった。
二人で大声を出すから、ルカもびっくりしちゃったみたい。目を丸くしたまま、固まっている。
そして、おじいちゃんはまた笑顔で見守っている。本当に、ここは安心できる場所……あたしの、大好きなみんなのお家。
「そう、彼は人狼なんだよ」
そんなお家に、かわいい家族が増えました。
Side:P
新しい家族は、オオカミの耳をした男の子だった。それだけじゃなくて、彼には尻尾もあった。ふさふさしてるオオカミの尻尾……それをふるふると横に動かしている。彼があの、人狼かぁ。
ルカの歳は、ぼくたちより下だと思う。
ぼくたちが大人の半分くらいの歳だとすれば、ルカはその半分くらいかな?
うーん、自分でも何言ってるのか分かんないや。
「あたしはティナ、よろしくね!」
「ぼくはフィリップ、よろしくね~」
ルカは、ぼくたちにまだ慣れていないみたい。
興味はあるんだけど、距離感が分からないというか、近づくにはまだちょっと早いなと感じているんだと思う。
そんな彼の頭を、おじいさんが撫でた。不思議そうな顔で、おじいさんを見上げる。
「彼らは二人ともね、魔法使いなんだよ」
「まほう、つかい」
ルカがようやく声を発した。それがよっぽど嬉しかったのか、ティナが目を輝かせる。
「そう! ほら、見てて!」
突然、部屋の中で魔法を使った。ひらひらと、粉雪が舞う。
ルカは驚き、口を開ける。牙が見えた。そして、彼の瞳は雪を鏡のように映す。人の力で、きっとその瞳は輝きを見せていくんだ。
それはいいんだけど――。
「ティナ……やりすぎだよ! もう床が真っ白じゃないか!」
「えへへ……ごめんなさーい!」
彼女は反省してるのかしてないのか……まったく。
それで、おじいさんは笑顔のまま怒らない。いつも、ぼくが言っちゃうからだけど。
はあ、ずるいなぁ。
ティナはそういうところも、本当にかわいいんだからさ。
Side:T
「へえ、狼か。あ、牙もあるんだね」
もう一人の家族が帰ってくると、あたしはすぐにルカを紹介した。
彼、何の躊躇いもなく、ルカを触って観察してる。うう、うらやましい。
けど、いいや。だって、彼だし。そういう人だもん。
「すごいよね! ほんとかわいい~」
「それ何度も聞いた」
「はははは……」
彼の冷静な返しに、フィリップが笑う。
あたしたちと歳は大して変わらないのに、妙に大人びている彼。白銀色の髪に、琥珀色の瞳を持った男――その名前は……。
「ああ、はじめまして。俺はカロルっていうんだ。君は?」
「……えっと」
ルカはまだ、自分の名前を覚えられていないのかな? じゃあ、あたしが代わりに。
「ルカっていうのよ。かわいいでしょー」
「ちょっと! きみが付けたわけじゃないだろ」
「いいじゃーん」
フィリップはいつもそういうこと言うんだから。
「なんだそれ、夫婦漫才みたい」
カロルが言った「めおと」って、夫婦ってことだよね?
「夫婦じゃないよ~」
フィリップは否定したけど、あたしはおもしろいなって思った。本当に家族みたいでしょ。
「いいじゃん。あたしたち、家族だし!」
「俺たちみんな、血は繋がってないけどね」
「関係ないよ。あたしが家族だと思うから家族! 二人ともいやなの?」
「俺はいやじゃないよ」
「ぼ、ぼくもいやじゃないよ」
ほら、二人ともそう言ってくれると思った。だから、大好き。
ルカ、ぽけーっとしちゃって……もちろん、あんたも家族だからね!




