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モンテレイアの街にて  作者: 雅夢
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戦端 王国と帝国 前編

今回は王国側の視点です。

戦端 王国と帝国 前編


 その時、世界が軋む音を聞いた、そんな気がした。


 俺は、「反乱軍(帝国軍の王国側呼称)来寇!」の報を受けて、本陣としていた宿営地を出て単騎で前線へ向かった。

 向かった先はモンテレイアの街が見渡せる丘に残された林の一つ、そこには侵攻してきた反乱軍の動静を監視する部隊が潜伏し監視哨としていた。

 しかし、あと一つ丘を越えれば目的地の監視哨と言うところで、突然何かに押し潰されるような圧迫感を感じた。

 最初に感じたのは息苦しさだ、やがて身体中を内蔵を掻き回される不快感がそれに続いて、頭が締め付けられるような激しい頭痛と吐き気が襲った。

 急な体調の急変に、当然だが俺は騎乗を続けることが出来なく成った。

 不幸中の幸いと言うべきか、騎乗していたのは気心の知れた愛馬であったので、彼は俺の不調を感じ取ると歩みを緩め、やがて止まってくれた。

 しかし、愛馬がその脚を止めたときには俺は限界を迎えており、馬体に凭れ掛かる様に倒れ込み、そのまま地面にずり落ちていった。

 この症状は間違いなく魔力酔いだ。

 そう俺は判断したが、もちろん疑問はある。

 まず第一に、本来魔法士にとって魔力酔いは、その修行の過程で経験する通過儀礼的な馴染みの存在であった。

 従って熟練の域に居るこの俺が成る筈が無いものであった。

 そして第二として、何故ここで?と言う疑問だ。

 魔力酔いは、身近で突然強力な魔法が使われたりした場合に良く起こる症状だ。

 当然だが、俺自身を含めて周囲に魔法を使っている存在は居なかった。

 そんな疑問が頭の中をめぐる間に、俺は馬上より大地に向かって落下していった。

 落馬の途中で仰向けに成った俺は強か背中と腰を打っ事と成ったが、その落下の痛みも俺には気に成らなかった。

 何故ならば、この魔力酔いの元凶とも言える存在が見上げる彼方に有ったからだ。

 愛馬からずり落ち、仰向けに大地に転がった私の目に映ったもの。

 それは真昼の空を覆いつくす様に流れる星の姿だった。

「真昼の流れ星」と言えば大層ロマンチックは響きを持つが、空一杯のそれは正しく凶事の前触れの如く禍々しい存在であった。


 そもそも、それは流れ星ですら無い。


 流れ星の如く火の尾を引いて流れる火球は火竜弾等の火炎系遠射魔法の最上位である火砕弾であった。

 周囲の魔素と魔力を根こそぎ掻き集めて炎に転換し、天空より敵を殲滅する災禍の火を無数に降らす術式の行使結果なのだ。

 そしてその規模故位に術式の発動には膨大な魔力が必要であった。成程、魔力酔いにもなる筈だ。

 しかしながら気になるのはその災禍の星が流れゆく先だ。

 それは、ここより南の地。

 王都ハルメルク。

 最悪な結果が予測できる。

「何故だ!」

 俺の口から出たのは、その言葉だった。

 天空より無数の火砕弾を降らして対象を広範囲に焼き尽くすそれは、特一類の魔法術式にに指定され王国と反乱軍の間で取り決めたガーネ協約により使用が禁じられた術式の筈であった。

 通称、戦略級魔法と称されるその魔法は、この世界に於いてはアルカディス王国がほぼ独占する術式であった。

 唯一それに対抗できるのは帝国を僭称する叛徒の軍勢であったがその差は歴然としており戦略級魔法の撃ち合いと成れば叛徒に勝ち目はない、それは誰の目にも明らかであった。

 故にガーネ協約によって守られていたのは叛徒の方であるのに何故それを破ってまで行使する理由が俺には理解できなかったのだ。

「いったい何が起こっているんだ?」

 火砕弾が流れ去ると次第に魔力酔いの症状は緩和され、暫くすると落馬による背中や腰を打った痛みも和らぎ何とか立ち上がれるようになった。

 すぐそばで様子を見守っていてくれた愛馬に一言礼を言うと、俺は再び馬上の人となり目的地の監視哨へ向かった。


 モントレイアの周囲は穀倉地帯であり、市壁の四方も主食である小麦や野菜を作る畑作地に囲まれているた、この為街は遠方より眺望すると海原にポツンと浮かぶ小島のように見える。

 そして、その畑作地帯を抜けて外周部へ行くと次第に高低差のある丘陵地帯或いは山岳地帯となる。

 そこには嘗て森林地帯であった頃の名残りである林や森が幾つか有った。

 モンテレイアから南の要衝カラールへ向かう街道もこの丘陵地帯を通ていたため、反乱軍が南に向かう場合は必ず通る地点と見られたいた。

 故に王国軍はこうした林や森に兵を潜ませて監視哨として活用していたのだ。

 俺がその一つに乗り付けると、そこはひっそりとしていた。

 普段であれば林の入り口には、兵が立って警備に当たって居るはずなのだが見当たらなかった。

 不思議に思って林の中へ入って行くと、彼方此方に呻き声が聞こえてきた。

 声のする方を確認すると、臙脂の制服を着た者達が蹲っていた。

 彼らはこの監視哨で監視の任務に当たっていた騎馬兵隊の兵や士官であった、確かここには一個分隊が常駐していた筈だった。

「魔法士殿、これはいったいどういう事なのでしょうか?」

 蹲っている者たちの様子を見ながら林の中へを進んでゆくと、仲間を介抱していた若い士官が青ざめた顔でそう聞いてきた。彼はこの監視哨の責任者である偵察騎馬隊の准尉であった。

「さっきの流れ星は見たか?」

 准尉の問いに対して俺は問いで返したが、准尉は俺の問いに頷いた。

 見ているなら話は早い。

「アイツは、拠点殲滅用の特一類魔法の発動結果だ。」

 一瞬、俺が何を言っているか理解できなかった准尉だったが、流石に第一線の軍人らしくその言葉の意味の危険性を直ぐに察知した。

「特一類って、使ってはいけないのでは?」

「そうだ、協約で使用が禁止されている禁忌の魔法術式だ。」

 俺の話をそこまで聞くと、彼は更にその顔色を悪くして言葉を続けた。

「では、皆が変になったのは。」

「それは、魔力酔いだな、それも急性の。」

「魔力酔い?」

「身近で強力な魔法が発動されると周囲の魔素や魔力の状態が大きく乱される場合が有る。」

 俺がそう説明すると、周りを見回すが残念なことに魔素や魔力は人の目では見ることは出来ない。

「それで、魔法士と言うのは魔力を内部に取り込み制御する関係から魔力の変化に敏感であるので、時として魔力の変動により体調を崩す事が有る。

 こいつを総じて魔力酔いと呼んでいるんだ。

 大丈夫だこいつは一過性だからすぐにみな元気になる。」

 俺の説明に対して、准尉は理解の外の事柄と言った表情を浮かべて困惑していたが、最後に一過性で皆すぐに回復すると聞いて安堵の表情を浮かべた。

「お前さんは、平気だったか?」

「いえ、頭痛と吐き気がして動けなくなりました、今は何とか動けるようにはなりましたが・・。」

 俺は顔色から准尉も魔力酔いに成っていることをわかっていたが確認の為にそう聞いた。 会話を続けながらも敵の動きが気に成って、俺は自前の双眼鏡を取り出して監視ポイントへ移動した。勿論准尉も一緒だ。

「そいつが魔力酔いだ。

お前さん、魔法士の資質が有ったんだな。」

「私にですか?」

 それは意外な言葉だったのだろう、信じられないと言った表情で准尉は聞き返してきた。

「魔法士の最低限の資質は魔力を感じることが出来るか否かだ。

大規模の魔法術式の行使で魔素や魔力が大きく乱されると魔法士自身の体調にまで影響が出る場合が有るそれが魔力酔いだな、つまり・・・。」

「つまり魔力酔いになった私にもその資質が最低限ながら有ると。」

 俺と准尉は、林の中の獣道を街が見える位置へ移動し双眼鏡を構えた。

「そうだ、まあ使えるかはもっと詳しく調べる必要が有るし、使うなら修行も必要だがな。」

 俺の説明に一応の納得が行ったのか、街を覗く私の傍らでこれまでの反乱軍の動きを掻い摘んで報告してくれた。

 彼の報告によれば、反乱軍の奴らは夜明けと同時にモンテレイアへの攻撃を開始、最初は長距離砲の砲撃と火竜弾や火砕弾等の法術攻撃が行われ、続いて銃兵を先頭に歩兵が市壁の中へ突入していったと言う事だ。

 特に最初の砲撃は、境界線の彼方から行われたと言う。

「射程二〇〇〇メートルの新型大砲か、何処から撃ってきたか判るか?」

「はい、既に確認済みです。」

 私の問いに准尉は懐から出した地図の書き込みを示してそう答えた。それを見る限り新型砲は境界線(国境線)の向こう側にあって動いていないようだ。

 どうやら事前に運び込んであったらしい。

「しかし、連中。新型砲まで持ち出したのに空振りでは立場が無いな。」

「あそこは空っぽですからね。」

 准尉が言うあそことはモンテレイアの事だ。

 彼の言う通りモンテレイアには何も残っていない筈だ、当然建物はそのまま残っているが、人も食料も物資も一週間以上前に後方の街へ移送済みだった。

 実は、今回の二〇年ぶりとも言える反乱軍の大規模侵攻を一月も前から王国軍は察知していた。

 正確には、予見していた言うべきか。

「本当に先見様々だな。」

「夢見の聖女ジル様ですね。」

 先見は、予見や遠視の魔法或いはそれを使う魔法士の総称だ。

 今回はその先見魔法士の内、現在時点で王国魔法士軍最強の使い手ジルが明瞭な先見、彼女の場合は夢見がタイミングよく現れたおかげで反乱軍の侵攻を事前に察知することができたのだ。

 ジルはまだ一六歳の少女だったが、強力な先見の能力を買われてその若さで特一士団(特一類魔法士団の略)の人員へ加わっていた。

 他のメンバーが特一類魔法、所謂戦略級の攻撃魔法を使用できる人員であることを考えると彼女の能力の重要性が判ると思う。但しジルは軍属ではない、彼女は「塔」と名付けられた軍所属の魔法士組織とは別系統の魔法士組織である諜報機関に所属する先見専任の魔法士だ。

 しかし、あのジルが前線の兵から❝聖女❞呼ばわりされているのは傑作だな、小柄で幼く見え、儚げな外見だがその実態は慇懃無礼の毒舌野郎だ、小娘だけどな。

 ともかく今回はその先見の聖女ジルが、明瞭にその侵攻ルートを予見していた。

 反乱軍はこのモンテレイア以外にも4カ所、合わせて五つの侵攻ルートから王国内へ雪崩れ込むとジルは先見をしていたのだ。

 これに対して王国は一見すると消極的な戦術でこれに対した。

 それは焦土戦術の一種だ。

 作戦は単純明快だった、侵攻ルートとその周辺から人、家畜、物資、食料を撤去移送して、それらを後方の街へと送ったのだ。

 結果的に国境付近には王国民が住まない無人地帯が形成され、その外縁部ギリギリの地点に王国軍は陣を敷いて反乱軍を待ち構えていた。

 王国軍はこの空白地帯を利用して、各ルート当たり2~3名が配置された上級魔法士の遠距離攻撃用の大規模魔法で吹き飛ばす手筈を整えていたのだ。

 今回、王国軍は徹底的に叛徒どもの軍勢を叩き、二度と反旗など翻せないようにするつもりだった。

 そして、それが可能なのも侵攻開始の一ヶ月も前からジルが予見して敵の手の内を知り尽くしていたからである、そう考えると確かに先見の聖女と言うべき働きだな。

 本人は「聖女」と呼ばれることは死ぬほど嫌がるだろうがな。

 但し、前述の通り「塔」は軍とは別の組織だからこちらに伝えられた先見の結果が全てでは無い可能性はある。どうも作戦会議時のジルの言動に普段に無い妙な歯切れの悪さが有るのだ、何か重要な予見結果を隠している、そんな気がしてならない。

 当然だが、作戦が内示された段階で現場の指揮官からは異論が出された、何しろ守るべき街を戦わずに叛徒の手に渡すのだから。

 そおれはこの准尉も同様だったが、ここまで俺の見立て通りに戦いが推移したことで納得はしてくれたみたいだ。

「そう言えばお前さん、あの街の生まれか?」

「いえ、でも長いことモンテレイアには居ますから。

知り合いや世話になった人、気になる娘は居ましたので。」

 第二の故郷です、と言ってその街が敵に蹂躙されていることが悔しそうだった。

「じゃあ、ちゃんと取り返さないとな。」


「出てきました!」

 見張りについていた兵が双眼鏡を覗きながらそう小さく叫んだ。

 一瞬にして周囲の空気が緊張を持ったものに変わった。

「ざっと見て一五〇〇と言ったところでしょうか?」

 准尉は同じように双眼鏡でその姿を見ながら凡その敵の数を算出した。

「連中、この先の陣地には気が付いているよな。」

「はい、既に偵察と思われる騎馬兵が複数南下していますので、おそらく。」

 流石に反乱軍も素人では無い様で、本隊は街の中に止めていたが、この先の敵情偵察の為に複数の騎馬兵が南へと向かう街道とその周辺を探っていた様だ。

 反乱軍は南門から出ると、隊別に体形を組んで前進していたが、やがて刈り入れが終わった畑作地へ出ると兵種別に分かれて方陣を組んだ。

 彼らは今と成ってはやや古典的な槍兵の方陣を中央に左右両翼に銃兵の方陣が位置する隊形で前進を開始した。

 しかし、よく見ると一〇名単位の小集団が散開して周辺の警戒をしていた、散兵も一部取り入れているらしい。

 この他、騎馬兵は今のところは槍兵の方陣群の後方に控えおり、数が少ないと見られる魔法士は銃兵の方陣の後方に控えていた。

 そして、その後方には色合いの違う連中が方陣と言うには締まらない隊形で続いていた、王国軍兵士が「盗賊軍」と呼ぶ貴族の領民兵だ。

 参加した貴族が動員した領民を兵とした軍だと言う事になっているが、実態は貴族が金銭で動員した雇用兵、つまり傭兵だ。

 既に魔法士として戦力に成り得ない貴族たちが自分たちの地位を守るために戦力として投入されている。

 彼らは戦働きによって収入を得ることから、その働きが目立つように色とりどりの衣服を身に着けていたので他の正規軍との簡単に見分けがついた。

 ただ実際には、叛徒貴族達の台所事情は思わしくない様で、契約金額が満足に払われず戦場での略奪行為で収入の不足を補っていると言われており、それが「盗賊軍」などと言う不名誉な名称の起こりと成っていた。

 王国側から見れば、領民軍による金銭的、人的被害は決して軽微ではなく、道義的にも許容できるものでは無い、故に王国軍魔法士は戦場に於いて真っ先にこの「盗賊軍」を殲滅していた。

 我々が見ている前で陣形を組み直した反乱軍は号令の下、南へ向かう街道沿いに進軍を開始した。

「魔法士殿、敵の進軍をかくにんしました。

我々の仕事はここ迄です、撤退します。」

 俺が頷くと、准尉は最低限の見張りを残して全員に移動を命じた。俺も准尉に続いて林の後方、街から影になる位置に繋げてあった愛馬の元へと急いだ。

「そういえば、准尉。

名前を聞いていなかったな。」

 手綱を手に鞍へよじ登りながら既に手早く騎乗した准尉にそう問いかけた。

「アラン・マクニール、

マクニール准尉です。

ええっと魔法士殿?」

 俺もこの時、自分が名乗っていなかった事を思い出した、戦場では「魔法士」で通していたからな。

「俺は、そうだなヴァンとでも呼んでくれ。」

「ヴァン殿ですか?」

「そうだ、敵が来る急ごう。」

 このころには既に、居残りの数名を覗いた全員が騎乗を終えておりマクニール准尉の号令で本陣のある宿営地へ急いだ。


今回は王国側の視点で話が進んでいます。既に話は出来ていたのにものすごく手間取りました。

余計な枝葉があちらこちらから生えまくりでシンプルに纏めるのに苦労しました。

実際は、途中で手を出したネットゲームWorld cf Warshipsに嵌まり込んだのが最大原因でしたが><

スミマセン。


と言うわけで後編もなるべく早く投稿の予定です。少々お待ちください。

例の如く誤字脱字が有りましたら、感想等で一報ください。

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