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モンテレイアの街にて  作者: 雅夢
7/19

狭間 狂気と正気

遅くなりました。

狭間 狂気と正気


「とにかく、移動準備だ。

皆、移動だ準備を急げ。」

 マシュド百兵長はそう指揮下の百兵隊の面々に命じると自身も素早くアーケリスや背嚢を担ぎ上げて移動準備を初めました。

 その命令に百兵隊の各員も短く返事をし、各々の装備の確認と装着を始めます。

 私も同様に、ここまで来るときに自分が背負ってきた背嚢を確認して背負い、アーケリスの魔法媒体である魔導銀の弾丸が詰まったポーチを腰に巻いてアーケリスの負い紐を肩に掛けて移動準備を終わらせます。

「兎に角、ここは命令に従っておこう。

何だろうな?

今回に限って嫌な予感がする。」

いつの間にか私の傍らに立って居た百兵長はそう呟くように告げると、集合を始めていた各隊の百兵長の中へ入って行った。


 それは私も同感でした、今回の出兵には関しては最初から言葉に出来ない違和感を感じていました。


 出兵直前の前皇帝の退位と新皇帝の即位に始まり、急遽のはずなのにお膳立てが整えられていた出兵。

 そして、貴重であるはずの中立都市の破壊。

 これまでに無い事柄が次々と起きていました。

 そう言えば、急遽退位された第九代皇帝のマリウス・カトン帝は周囲からは凡庸な皇帝と言われてきましたが、帝歴1621年で在位三〇年と歴代皇帝の中では異例の長期在位記録を更新していました。

 カトン帝は即位後の五年こそ積極的に王国領への進攻を行いましたが、1598年を最後に大規模な進攻を止めて既存の帝国領土の保全を優先する政策に切り替えています。

 これは最初の五年で把握した帝国軍の能力から既に王国軍に勝利する能力が帝国軍には無いとの認識を持ったからだと祖父は語っていました。

 彼が帝位に付いたのは凡庸で愚鈍と評され後ろ盾に有力貴族が付いていないことから操り安とみられたからで即位後も凡庸或いは日和見、優柔不断などと陰口を叩かれていたそうです。

 しかし、私の祖父の様にその素顔を知る人間からすれば、カトン帝が被った仮面を看破できなかった貴族達の方がよほど愚鈍で無能ではないか、と聞き及んでいます。

 実際のカトン帝は聡明で怜悧なほどの現実主義者であったと祖父は話していました。彼は即位前から自分たち帝国と王国を戦わせて戦力と国力を消耗させ、共倒れを狙う周辺諸国の思惑の中で踊らされていることに気づいていたと言います。

 そこで凡庸や無能との誹りを甘んじて受けながらマリウス・カトン帝は、自身の手柄欲しさに出兵を訴える貴族たちの要求をノラリクラリと躱しながら、戦争を防戦を中心とした帝国内での戦闘へと比重を変え無理な出兵を控えて戦力と国力の消耗を抑える一方で、ゲベールや後にアーケリスと言った新兵器の採用とその射手に平民である一般臣民を活用することで、戦力と成らない貴族たち魔法士の補完(排除とも言う)を行い結果的に帝国軍をもう一度戦える近代的な軍隊へ育て上げることに成功しました。

 カトラス将軍や私の祖父や父が戦の中で名を上げる事が出来た背景にはこうした事情があったのですあ。

 そして、カトン帝は祖父たちの様に地位の低い貴族や平民でも戦いの中で戦功を上げた人間を将軍や指揮官に登用するなど思い切った施策を行い、閉塞していた帝国軍の組織を刷新を図りましたが、その道はあと一歩と言うところでで閉ざされる結果と成ってしまいました。

 それは有力貴族の離反が原因でした。

 実際の実力以上の自尊心を抱える貴族にとって、カトラス将軍や私の祖父や父らを重用するカトン帝のやり方は自分達を否定した先の王国の施策とも同根でありました、その結果、今上帝の一連の施策を反帝国的であると断罪した一部若手強硬派の貴族によりカトゥルス帝は帝位を追われ、その後釜には保守的なネリュウス公爵が第十代の皇帝として即位する結果となりました、後に聞いた話ではネリウス公爵はごく初期にその気性と性癖から次期皇帝の後継者の候補者から外されていましたが、カトン帝を追い落とした若手貴族たちが遊び仲間であった彼を皇帝に推したと言われています、その為か新皇帝は悪友の希望を満たすために平気で法を無視する人物だとも言われていました。

 新帝国では、初代バルト帝が武力で帝位についた事例に倣ってか、不満を持った有力貴族が武力でもって帝位を簒奪することが度々有り、百年の歴史の中で十人の皇帝が即位ししていたのです。


 私は、百兵長に命じられるまま素早く装備を整えると、もう一度軍帽の被り直して百兵隊の面々の元へ向かいます。

 しかし、そうした動作の中でも私は、先ほど貴族たちが口にした「戦争が終わってしまう。」と言う言葉の意味を考えます。

 もし、言葉がその通りの意味であったら何よりも有難い話です。しかしながら、貴族たちは単に終わるのではなく、この戦いが帝国の勝利で終わることを言外に口にしていました。

 しかし、それは現在の情勢を考えるなら不可能であると結論付ける以外に答えは有りません。

 その事実は彼らも認識しているはずです、では何故帝国の勝利で戦争を終わらせることが出来るのでしょうか?

 私は、彼らの口にする「戦争が終わってしまう。」と言う一言に、何か良からぬ事が背後で、それも水面下で動いている予感がしました。

 それが何なのか、そう遠くない未来に判るであろう事も予期していたのです。

 しかし、それは結果的に予想よりも遥かに早く私の目の前に現れたのです。


 予兆はありました、突然熱も無いのに悪寒がして全身に鳥肌がたったのです。

 それに加えて何か強大な力に押し潰されるような感覚がして立って居られなくなり私はその場に蹲ってしまいました。

 周辺を見るとアーケリス隊や魔法士の中に同じく苦しそうな表情をした者たちを見つけました。

 間違いなくこれは大規模魔法術式の発動を意味していました。

「見ろよ、星が落ちて行くぞ!」

 そう最初に口にしたのが誰だったのか記憶も記録もありませんが、その誰かの言葉に皆が一斉に空を見上げました。

 それは昼過ぎの未だ明るい空一面を覆いつくすように流れる星の姿でした。

 北から南へ幾筋もの光の尾を引いた星はやがて南の地平線の彼方へ消えましたが、その直後、南の地平線の彼方に光が走りそして消えてゆきました。

 私はその光景に戦慄を覚えました。

 理解しがたい現象が起きて恐怖に怯えたからではありません。

 私にはこの現象の意味が判っていたからです。

 この超常的現象は自然現象ではありません。

 それは大気や大地、周囲の万物全ての物に宿る魔力を根こそぎ火球へと変換せる火竜弾系の最上位魔法である火砕弾、それを無数に生成して目標に降らせて焼き尽くす広域破壊用の大規模術式の発動でした。

 その術の名は「星天烈破」、通称「スターバースト」或いは「星降らし」とも呼ばれ特一類に分類されるそれは、一般に戦略級魔法と呼ばれる使用が禁止されていた禁忌の魔法術式でした。


「ほう、時間通りだな。」

 そう言うルーメット千兵長の口調は、期待通りの事が期待通りに起きたと言う事実を伝えていました。

「成程、これは急いで出発せねば成りませんな。

閣下の言われる通り戦争が終わってしまうやもしれません。」

「確かに、しかし、あの御老体は最後のお勤めでやっと帝国に殉じた訳ですな。」

 私はルーメット千兵長に追従する貴族の言葉の中に不穏な言葉を聞き出しました。

 『ご老体』と彼らは言っていました。

 その言葉がさす人物。

 そして不可思議な真昼の流星雨。

 それだけでは有りません。

 進攻に消極的な先帝の突然な退位と、世間知らずで身勝手な新皇帝の即位とそれを支える過激な若手貴族たち。

 突然でありながら準備が整えられていた出兵。

 有用なはずの中立都市の破壊。

 それらこれまで謎と思っていた事柄が私の中で、パズルのピースが急速に組み合わさり全体像が姿を現してきました。

 それは破滅への道を選ぶ愚行。

 歯止めの利かない戦火の拡大。

 帝国全土が戦火に飲み込まれる地獄。

 そして、彼ら貴族たちは禁忌の戦略級魔法が使われる事を知っていた。


 帝国初代皇帝のバルト帝には有能な臣下が居ました、特に外務部門を司っていたリュッケン・マウリッツ伯爵はバルト公爵の正妻(後に皇后)の父であると同時に有能な外交官僚でした。

 後に新帝国の初代外務尚書となる彼の最も重大な外交的成果はカルナック自由都市協商連合の都市ガーネで取り決めた通称ガーネ協約でしょう。

 戦略級魔法の使用を禁止するこの協約により、圧倒的に有利であった王国の戦力は過半が存在価値を失った言われており、結果的に帝国と王国の戦力が拮抗する最大要因となったのですから。

 しかしながら、マウリッツ伯はこれでもって帝国が王国に勝てるとは考えていなかったと言われいます。彼の考えたシナリオは、帝国と王国のどちらも簡単に勝てない構図を作りだし睨み合っているいる間に互いに頭を冷やす時間を確保し歩み寄る事であったとも言われています。

 伯が最も恐れたのは、帝国と王国が内戦で手間取っている間に周辺国に国土を蚕食される事でしたが、この協約で互角と成ったことで帝国は自軍有利と考え戦闘は激化し長期化していってしまう結果となっていました。

 それでも初期段階で戦略級魔法を撃ち合って双方の国土が焦土と化すことを考えればまだましだったのかもしれません。

 そう言った見方からすれば帝国はガーネ協約によって守られていた言えるのです。


 しかし、今回の出来事は彼の功績を無に帰す地獄の窯の蓋を開ける行為でした。

 そう結論付けると私の身体は動き出していました。

「待って下さい。」

 誰にでは有りません、私はそこに居た貴族たちに問い質すつもりでいたのですから。

「なんだ?」

 一般臣民である私に呼び止められたのが不満であったのでしょう、彼らの反応は極めて高圧的で不機嫌なものでした。

 しかし、私はそんな事に構わず問い質しました。

「『星天烈破』を使ったのですか?」

「それを聞いてどうする?

俗兵の分際で。」

 私に一番近いところに立って居た貴族が吐き捨てる様に答えました、背が高く極彩色の上着を纏った青年はスマートと言うよりも痩身な上に腕にも足にも筋肉らしいものが見当たらず、これで剣が振れるのか疑問に思えるほど華奢な身体つきをしていました。

「戦略級魔法を使ったのですね。

正気ですか?」

 私は返事を聞かずに次の言葉を口にした。

 しかし、この言葉は詰問であり貴族にとっては一般臣民から問われることは許せない類のものだったらしい。

「貴様、俗兵の分際で身分を弁えろ!」

 先ほどと違う貴族が私の言葉を遮って顔を寄せてきました、彼は先ほどの貴族とは違い背が高くガッシリとした体形をしていました。

「ほお、よく見れば女か?

それも結構上玉だな。」

 その貴族は、私の顔を覗き込むように見ながら私が女だと判ると声色を変え、顔から胸そして下半身へと舐めるような視線を向けてきました。

「答えて、戦略級魔法を使ったの?」

 しかし、私はその貴族に気後れすることなくそう問い詰めました。

「貴様、言わせておけば。

俗兵の分際で!」

 どうもガッシリとした体形の貴族は言葉よりも先に手が出るらしく、激昂して私の胸倉を掴み上げましたが、そのショックで私の軍帽が外れ帽子の中に収めてあった髪が流れ落ちました。

 一瞬、周囲の貴族を含めた皆が息を呑むのが判りました。

「オルテシアの銀・・・。」

 私の胸倉を掴んでいた貴族はそう言うと掴んでいた手が緩みました。

 私はそれをチャンスと、掴んでいた手を振り払うと一歩後ろへ下がって間合いを開けました。

「貴方達は何をしたか判っているのですか?」

「当然だ。」

 そう答えたのは義理の従兄妹殿のアーガン・ルーメット千兵長でした。

「星降らしで敵の王都を焼き尽くした、

最初からこうすれば良かったのだ。

これで我らの勝ちだな。」

 彼は勝ち誇ってそう言った。

「従兄妹殿、私は貴方がここまで愚かとは思わなかった。」

「貴様、ドブネズミの分際で!」

「こちらが戦略級魔法を使えば、当然報復で王国も使う。

帝国全土が火の海になるんだぞ。

そんなことも考えないのか⁉」

 私がそう言うと、意外なことに貴族たちは笑い出した。

「何が可笑しい?」

「愚かな臣民どもはこれだからな。」

「教えてやろう。

王国に戦略級魔法士は居ない。」

 貴族たちが勝ち誇ったように語る話、それは初耳でした。

「王国に戦略級魔法士は居ないって、

ではさっきの広報映像は!」

 確かに王国には帝国以上の戦略級魔法士は存在するはずです、先ほどの広報映像がそれを如実に描き出していました。

「馬鹿か!

敵の虚仮脅しに踊らされよって。」

 ルーメット千兵長は馬鹿にするように吐き捨てました。

 この時私の混乱は最高潮に達したと言ってよいでしょう。私は敵の欺瞞情報に踊らされた?でもあのスクリーン越しにも感じられる魔力の強さと映し出された魔法の術式陣の緻密さとその数、作り物に出来るとは考え難いものでした。

 しかし、私の混乱は千兵長の次の一言で霧散し、それは混乱にあった私の心は困惑へと方向を変えたのです。

「もし、王国が戦略級魔法士を持っていたら当の昔に使っていただろうよ。

我らは代々奴らに謀れたのだ。」

「そうだ、ネリュウス陛下がその欺瞞に気が付かれ御英断を下されたのだ。」

 真剣に悩んで混乱して損した、それがこの時の偽ざる心情でした。

 彼ら貴族たちは、自分たちがガーネ協約によって守られていた事実を認識すらしていなかったのだ。

 現実を見ず聞かず、自分の見たものだけを見て聞きたいものだけを聞く、彼らもそして新しい皇帝も、そう言った人種だったらしい。

 しかし、もう一つ聞いておかなければ成らない事が有った。

「『星天烈破』を使ったのは誰?」

 それまで下品な笑い声を上げていた貴族たちは一度そこで笑うのを止めて私の方を向いた。

「それはお前にも判っているだろう?」

「もちろんあの頑固爺だ。」

 帝歴1621年の時点で、帝国に於いて戦略級魔法を使える高能力魔法士は三名のみ、中でもこの大規模魔法術式を行使出来る魔法士は国には一人しか居ません。

 それは帝国魔法士の要であり全魔法士の指導者でもある魔法士長の、スレイナム・アルトリア・ハリオ師その人でした。

「老師が?」

 しかし、私の知るハリオ師はこのような国を亡ぼす無謀を選択する人ではなかったはずです。

 ハリオ師は、帝国の有力貴族の出身でしたが権力闘争に互いの足を引っ張り合う姿に愛想を尽かして貴族社会に背を向け、魔法の研究と若い魔法士の発掘と育成に打ち込む日々を送って来ました。

 既に八十歳を超える老齢と、多くの若い魔法士を育てたハリオ師の実績に対して、彼の教え子の多くは彼を尊敬の念を込めて『老師』と呼んでいました。

 ここにいる貴族たちも魔法士の端くれである以上、彼に手解きを受けたはずですが、彼らが老師を語る言葉には尊敬の念は感じられず、逆に侮蔑の念すら感じられました。

 私は祖父と父が老師の教え子で在った関係で、幼いころ老師の手ほどきを受けて魔法士の道を歩み始めていたので、他の教え子と同様に彼に対する深い尊敬の念を持っていました。

 私の記憶の中に居る老師は、教えてもらった魔法を懸命に覚えようとする私を暖かな目で見守ってくれた好々爺でした。

 しかし、ハリオ老師は高齢故に既に公務からは身を引いたと聞いていたのです。

 それが何故この様な無謀で無益な策に加担したのでしょうか?

 いえ、それ以上に『星天烈破』を発動させるのには大量の魔力が必要です、老齢のカリタ老師の身体がそれに耐えられるとは考えられません。

 そうなると、考えられるのは・・。

「老師はご無事なの?」

 私の言葉は酷く冴え冴えとしていました、自分でもそれが自分の声とは信じたくない程に。

「お前も判っているだろ、老い耄れは国に殉じて新しい世界の礎となったのだよ。」

 得意げに語るアーガン・ルーメット千兵長の口から出た言葉は、故人の死を悼むのではなく愚弄するような言葉でした。

「安心したまえ、彼の家族に後を追わせたから寂しくは無いだろう。」

「ご家族を?」

「あの老い耄れは、歳だなんだと理屈をつけて魔法士長の役目から逃げていたからな、奴の家族に協力いただいたのだよ。」

「まあ、その後で全員御老体の後を追ってもらいましたが、孫娘は少々勿体無かったですな。」

 そう言ったのは先に言い争っていたコーゼル男爵でした。

「確かに、コーゼル卿は随分とご執心の様子でしたね。」

「馬鹿を言わないでくれ、あんな小娘。」

 そう混ぜ返したのはアクロナス子爵、同じくアーガン・ルーメットの腰巾着で先ほどコーゼル男爵と言い争いをしていた貴族です。

 しかし、ここまで話を聞いた段階で私の意思は外部との接触を断ってしまったようで何も覚えていません。

 カリタ老師の孫娘は、確か私よりも二つ年長の治療魔法が得意の優しく親切な女性だったと記憶しています。

 貴族達の話を纏めると、彼らと新皇帝は、戦略級魔法の使用を渋る老師に命令を聞かせる為に家族の命を謂わば人質にとって置きながら術の発動後に家族は全て抹殺した事に成ります。

 私の頭の中で何かが弾けました。

 そして、ドクンと何が胸の中で脈打ち、次の瞬間私を黒い波動が飲み込みます、これは術に飲み込まれて魔力が暴走する兆しでした、通常なら心を落ち着かせて魔力の放出を抑えて暴走を防ぐのですが今回はそのままその暴走に身を任せても構わないと思っていました。

「キサマラ、ナニヲシタ、ナニヲサセタ。」

 声に成らない言葉が私の頭の中で繰り返し響きます。

 心が軋むような痛みに晒され。

 血の涙があふれ出して世界が怒りに歪んで見えました。

「ユルサナイ、オモマエタチ、オマエタチ!」

 そんな声に成らない言葉と共に私の身体からどす黒い魔力が溢れ出します。

 もう私には止められません。

 止めたくても、魔力の暴走に飲み込まれた私にはその術が有りませんでした。

「落ち着け、コーノ銃兵!」

 遠くで誰かのの声がします。

 知っている声、でも今の私にはそれが誰の声なのかわかりません。

 でも、私の肩にそっと何か温かいものが触れ、急に聴覚が戻って来ました。

「目を覚ませ、

リア!

アリシリア!」

 そこで、私は正気を取り戻しました。

 気が付くと私の目前にはカサンドラ・マシュド、父の教え子で幼馴染の顔が有りました。


 私は正気を取り戻すと、自分が随分と拙い状況にある事に気が付きました。

 既に魔力の暴走は収まり魔力の大半は私の内に戻りましたが、噴き出た魔力はまだ存在していました、濃度が濃くて簡単に発散しないのです。

 周囲には魔導銀を身に着けたアーケリスの射手達が多数居て、私の魔力に反応して暴発したら大惨事となることは明白でした。

 ですから、私は素早く魔力を手繰って、貴族たちの持つ魔仗、その柄に嵌め込まれた魔石や宝珠へ流し込みました。

 彼らは既に他の話題でお喋りに興じていて、私がした事には気づいていない様子でしたが、許容限度を超えた魔力を注入された魔石や宝珠は瞬く間に崩壊を始めました。

 それはちょっとした火砕弾を見るようで多くは破裂した魔石や宝珠から噴き出て持ち主をも焼いて中空へ消えてゆきました。

 貴族たちは突然の出来事に叫び声を上げながら、或いは焼け焦げた衣装を脱ぎ捨てながら逃げまどいましたが、私は彼らの所業を考えれば何の同情もわかず、同じ心情らしいマシュド百兵長と共に仲間たちの元へ戻り隊列を組んで前進を始めました。

 向かうのモンテレイアの南、先に偵察隊が見つけたと言う王国軍の陣地でした。


 モンテレイやの市壁の南に設けた門が軋む音を立てながら開けられました。

 目に入ったのは門の先には緩やかに連なる丘と、周辺の森と街道だけでした。

 しかし、この先に確かに王国軍は居ます。

 協約を破って自国の王都を焼き払らった帝国軍に報復の鉄槌を打ち込む為に。


申し訳ない、もう少しすんなりと更新できると思っていたのですが、言い回しにこだわっている内にギリギリに成ってしまいました。


急いだので誤字脱字があるかもしれません、もし気が付かれましたらいつも通り感想の方へ書き込み下さい。

そして、ぜひ感想お願いします。

ではここまでお読み頂きありがとうございます、もう少し続きますのでお付き合いください。


7/3(月)主人公が切れた辺りを少し手直ししました。

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