オルテシアの呪いと祝福 前編
少し遅くなりましたが第四話です。
例のごとく長くなりすぎたので前後編で投稿です。
オルテシアの呪いと祝福 前編
突然ですが、「オルテシアの銀」と言う言葉をご存じだろうか?
アルカディス帝国や王国に於いてその言葉は「狂気」或いは「狂気に囚われた者」意味する言葉として古くから使われてきました。
そして、そこに出てくる「オルテシア」は、今日では古代アルカディス帝国によって征服併呑されて歴史の中に消えていった悲劇の王国の名として知られています。
オルテシア王国は、現在の帝国北部の山間に存在した小国で人口はすべて合わせても百万程度、現在の北部辺境州と然程変わらない人口ですが特筆すべきなのはその国民の七割以上が魔法士であったと言われています。
人口僅か百万の国に、少なく見積もっても70万の魔法士軍団が存在した事になります。その数の異常さは、現在の帝国と王国を合わせるよりも遥かに多い数と言う事で理解頂けると思います。
実は、このオルテシア王国を併呑する帝歴200年まで、古代アルカディス帝国に於ける魔法士戦力は皆無と言ってよいレベルでした。
しかしながらこうした事実は、今日私たちが古代帝国の戦力を思い浮かべるときの姿、遠距離より魔法攻撃を加える魔法士軍団、剣を片手に巧み手綱操りながら突破口を切り開く騎馬兵団、そして敵の攻撃をモノともせずに突破口を抉じ開けて敵を蹂躙する重装歩兵兵団、こうした異なった兵科が連携しながら戦う姿とは大きく異なっていることになります。
これは何故でしょうか?
実はその姿は、帝歴300年代以降であれば正解と言える姿です。
魔法戦力を持たない200年代以前、強力な魔法戦力を持つ300年代以降、この違いは何から来ているのか?誰でも疑問を抱くところだと思います。
帝歴200年代、正確には211年にオルテシア王国は古代アルカディス帝国の侵攻を受けて滅亡しています。
これにより古代帝国は、少なくない数のオルテシア産の魔法士を手に入れることになった考えられます。
彼らを中核に強力な魔法士軍団を育て上げた古代帝国は、私たちが思い浮かべる前述の三種の兵科を重層的に配した波状攻撃でもって周辺諸国軍を圧倒し、最終的にアルカス地方の派遣を握り更に域外にも勢力範囲を広げることを可能としたと考える事ができるのです。
しかし、そうであれば尚のこと新たな疑問が生まれるです。
それは、オルテシア王国の滅亡あるいは古代帝国への併呑に関する歴史的資料があまりに少ない事です。
古代アルカディス帝国に限らず現在の新帝国や王国に於いても微に入り細に渡り記録を取るのは、最早アルカス人の民族的性と言ってよいほどに行為でした。
それ故か、古代帝国は反逆の末に部族民全てが虐殺された例や、逆に敵の反攻に会い指揮官以下全軍団が討ち死にした事例までも克明に記録に記してきました。
しかし、このオルテシア王国に関する限り公式のみならず私的な記録に至るまでその数は極めて少なく、後に帝国の戦力の中核を担いまた支配層・特権階級となる魔法士に関する事柄であるだけに不自然さが感じられるのです。
勿論、私の様な素人がそう考えるのです、その道の専門家である伝承作家や研究者を含め多くの探究者がその疑問に関して真相を探り答えを求めてきました、しかし今日までアルカディス王家だけでなく多くの貴族もその問いに対しては口を閉じたままだったのです。
しかしながら今を去ること30年前、この疑問に答えを与える新たな資料が発見されたのです。
皮肉なと言うべきか運命と言うべきか、その資料を見つけ一つの伝承へと纏めたのは私の祖父とその友人でした。
その発端は内戦の勃発に有りました。
現在、アルカディス帝国は建国宣言の後、北の要衝である旧バルト公爵領の領都ヒルデスハイムを仮の帝都としていました。
王都ハルメルク奪還までの仮の都ですが統治のため皇帝の御座を置く皇宮は必要です、そこで選ばれたのが北の離宮と呼ばれるアルカディス王家の夏の離宮であるヒルデスハイム宮でした。
ヒルデスハイムは古代アルカディス帝国の要塞から発展し、その要塞は王国建国後一時的に王都が置かれた際に王宮として改装され、その後王都がハルメルクへ遷都した後は夏の避暑の離宮として使われてきました。
従ってヒルデスハイム宮には、王宮程では無いにしろ多くの財宝や美術品と共に多数の公文書や記録が収蔵されていました。
こうしてヒルデスハイム離宮は新生帝国の仮皇宮として使われる事となりました。
離宮は皇宮となりその管理は王家から帝室へと代わり皇宮の警備は帝国軍の仕事となりました。当時既に近衛隊が存在しましたが、彼らは高位貴族の子弟からなる儀仗兵的立場で皇宮の警備の様な雑事(彼らから見れば)は一般の帝国軍の仕事となった訳です。
その警備を任された部隊の一員に、と言うよりもその責任者として祖父は赴任していたのです。
当時、低位の貴族である騎士爵でありながら戦場で頭角を現しつつあった祖父は、それを妬んだ貴族により名誉は有っても戦功の上げることが難しい皇宮の警備の任務へ回されていたのです。
しかし、この警備の任務の中で彼は自分の運命ともいえるオルテシア滅亡に関する記述が記された文書を見つけたのです。
正確には見つけたのは祖父の部下で友人で会ったオイコアと言う人物でした、彼は任務中に入り込んだ書庫でオルテシアに関連する書付を見つけ出したとされていて、それを祖父に見咎められたのが事の始まりだと言うことです。
オイコア氏は本業が伝承作家兼研究家であったことから王宮に秘蔵された所蔵物に興味を持ち皇宮の警備を志願した変わり者でした。
部下の違法行為に気が付いた祖父でしたが、彼もまたオルテシア滅亡に関心を持つ人物でした。
その理由に関しては後述するとして、先に進めましょう。
祖父はオイコア氏に秘密裏に写本を取ることを命じ、それを基に一つの伝承として纏めることにしたのです、一部関係者の中で発見場所からヒルデスハイム文書と呼ばれる伝承はこうして作成されたのです。
祖父は、このヒルデスハイム文書を纏めた翌月には前線へと転属しておりある意味ギリギリのタイミングでもありました。
ヒルデスハイム文書には幾つか写本が存在しますが、私が持つ文書は初期に書かれた原本の一つで、それは祖父から父へ、そして私へと受け継がれてきました。
ここではその内容を掻い摘んでお聞かせしましょう。
ヒルデスハイム文書によれば、古代アルカディス帝国は相当古くからオルテシア王国の存在は認識していました、帝国建国以前の共和国の時代より至る記録には「オルテシア」及び「オルテシア王国」の名は度々出てきたと言います。
しかし、当初帝国はこの小王国に対して然程の関心を持ってはいませんでした、と言うよりも帝国の建国以後帝歴で200年頃までは、周辺国や部族との間に武力を交えた領土や領地紛争を内外に多数抱えおり、現状に於いて脅威になり得ないオルテシア王国に関心を向ける余裕が無かったと言うのが正直なところでしょう。
実際にこの時点では、その小王国は帝国に対して恭順はしないものの敵対行為はしていなかったのですから。
然しながら紛争となっていた周辺諸国や部族の領土や領地の問題が解決され、それらが古代帝国に編入併呑、或いは属国化することで国内外の紛争が終息を見ると、帝国領内に取り残されるように存在した小王国の領土は酷く不自然で不快な存在に変わって行きました。
そこで帝歴211年、ヒルデスハイム文書によれば帝国元老院はオルテシア王国へ対して帝国へ使者を寄こし恭順を示すように求める書簡を送ったことを記しています。
しかし、この要求に対するオルテシア王国側の反応は古代帝国の予想を大きく逸脱するものでした。
彼らはアルカスの支配者となった古代帝国の恭順を迫る書簡に対して何の関心を示さず無視したのです。
それでも大国の威信から短絡的に武力で威圧することを控え、再三使節や書簡を送り帝国はオルテシア王国に恭順を求めました。
こうした自重した帝国側の努力は結局実を結ぶ事は有りませんでした。
度々の要求を無視された帝国皇帝と元老院は、これ以上の自制は帝国の威信を傷付けるだけだとして、ついに武力による恭順を求めるために軍の派遣を決定したのです。
しかしながら、その決定をした後、帝国の皇帝と元老たちは自分たちがオルテシア王国に関して何も知らないことに気が付きました。
そこで帝国元老院は、商人を中心にオルテシア王国についての知識を持つ者たちに情報の提供を求め、オルテシア王国の実態調査を始めたのです。
戦を前に迂遠な行為と考える者も多いかもしれませんが、こうした手順こそが帝国を世界でも類を見ない大帝国に育て上げた原動力と言えるものでした。
戦を始まる前に敵を知ること、これが帝国軍の行動の基本でした。これは先に記した執拗なまでに記録を取る民族性のもう一つの表れと言うべき性癖でした。
この点に関しては勢いのまま、感情のままに戦を仕掛ける新帝国との大きな違いであると言ってもよいでしょう。
数か月の準備期間に得られた情報は数は多くはないまでも、重要なものであったヒルデスハイム文書は記しています。
国の版図は小さく、国土は山間地な上に涼冷で周辺の山々は一年の半分近くを雪が覆っていたと言われています。
政治体制はその名の通り王国制をとっていますが、王位は世襲制では有りません。
では誰が王になるのか?それは国民の内最も魔法士として優れた人物とされていました。やや漠然とした基準ですが、王に相応しい人物には外見上の共通の印が有ったと言われています。
それは白に近い銀髪と赤みが強い琥珀色の瞳であったと言われています。
この印を持つ人物は例外無く魔力保持量が多く制御にも長けていたと言われ、常に王位に就いていたことから、この印を「御印」と呼び御印を持つ人物を王に成るべき人を「御印持ち」或いは「オルテシアの銀」と呼び畏れ敬ったとヒルデスハイム文章は記しています。
また前述の通り涼冷な上に土地が肥えていない為に、小麦が育たずライ麦や蕎麦等の雑穀を主食とし常に飢餓と隣り合わせであったとも記録には記されていました。
先の記述通り人口は百万、長期にわたってこの数字は超えることが有りませんでした、これは食糧事情の悪さが一要因と当時の元老院は推測していましたがおそらくその通りでしょう。
それでいてやはり国民の七割が何等かの魔法を使えることも事実でした。
但し、彼らはそうした魔法を戦争の道具として使うことも生活を豊かにすることに使うことも忌避していた言われています。
それでいて、他国では考えられない程に高い次元で魔法の研究や探求が行われてもいました。
それでは何のために?それに対する答えは私たちの予想を大きく超える為のものでした。
それは、「神の頂に至るため、肉体を捨て無垢なる魂へと昇華する為。」であると、ヒルデスハイム文章は記していました。
相変わらず説明が長くて申し訳ない。
長くなって前後編に分けたので後編は明日、遅くても火曜日には投稿の予定です。
それで、説明回はこれで終了の予定です。
第六話以降は戦闘中心になります・・・、たぶん。
と言うことでここまでお読みいただきありがとうございます。まだ少し続きますのでよろしくお付き合いください。
尚、誤字脱字表現がおかしいところが有ったら感想へ書き込んでください。




