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モンテレイアの街にて  作者: 雅夢
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歴史 貴族と魔法士

予告通りの第3話です、何とか間に合いました。

歴史 貴族と魔法士


 バルド公爵は、挙兵後間もなくして自らを古代アルカディス帝国皇帝の末裔であり後継者だとして、アルカディス帝国の復活と自らの皇帝への即位を全世界へ宣言しました。

 彼は復活帝・バルド一世を名乗り以後彼の後継者は皇帝として帝国に君臨することを世界に宣言しました。

 この後、帝国は王国に対して『本来王国の国土と国民(帝国風に言えば臣民)の全ては須らく皇帝の所有物であり、不当に国土と臣民を支配する王国を僭称する賊徒は速やかに皇帝の威光に平伏し恭順しその領土と臣民を差し出せ。』と要求、内戦を国土回復運動を正式名称とし王国領へ攻め込んだのです。

 この帝国による王国領への侵攻に対して真っ先に異を唱え、身体を張って抵抗したのは平民出身の魔法士たちでした。

 彼らもまた今回の内乱の要因の一つであり、王国が平民への魔法士への道を開けなければ貴族に支配されるだけの存在でした。

 そして、帝国の主張は帝国の支配下へ入れば魔法士として地位を奪われ再び貴族の顔色を窺って暮らす生活に逆戻りすることを意味していました、それは多くの平民魔法士にとっては恐怖以外の何ものでは有りませんでした。

 対する帝国側ではその成り立ちから主力となる魔法士は貴族でした、彼らは王国当時よりも強い特権を与えられましたがその代償は当然ながら戦場に立つことでした。

 その帝国貴族にとって平民魔法士の頑強な抵抗は予想外のことでした、彼らは内戦初期において圧倒的に優位の魔法士数と経験でもって威圧すれば、経験に劣り数も能力も低いと考えられていた平民魔法士などは尻尾を巻いて逃げるか投降すると考えていたからです。


 帝国軍の主戦力は魔法士集団である貴族達、その貴重で高貴な貴族を護る俗軍である一般臣民からなる徴兵軍。この構図が新生帝国建国時の皇帝と貴族たちが描いた理想図であったと言われています。

 その戦い方は単純で、貴族の趣味とも言える狩りの拡大版でした。徴兵軍を勢子役として敵を追い立てて追い込み、そこへ貴族である魔法士が三類から四類の魔法を打ち込み殲滅する言うものでした。

 しかしながら、こうした構図が成り立ったのは建国十年程であったと言われています。理由は前述の失われた魔法士の補充難しい点と予想以上の貴族の魔法士としての能力の劣化でした。

 これはある意味当然の結果でした、貴族という限られた範囲の人材で魔法士を補充し続けることが可能ならば今回の内戦の最大要因である平民の魔法士への登用は有り得なかったのですから。

 これに対して初期の躓きに学んだ王国軍は多くの平民魔法士を全面的に投入、一般銃兵と魔法士を相互に援護する形で組み込んだ編成は相手に付け入る隙を与えず。当時には四類の下位魔法ですら使い手が稀になっていた帝国貴族たちを各地で圧倒し始めたのです。

 しかしながらそれでも尚、帝国においては平民へ魔法士の門戸の解放は選択肢として上げることは出来ませんでした。

 なにしろ帝国には一般臣民が魔法習得と行使することを法律で禁止していたのですから。

 結局のところ帝国政府と軍務尚書が行きついたのは、魔装兵器である魔装銃と小銃を用いた臣民軍の創設でした。

 帝歴1400年代当時、魔法士軍を持たない周辺国では遠射兵力として黒色火薬を用いたマッチロック式マスケット銃(火縄銃)が普及しつつありましたが、命中精度の悪さと射程の短さ更に装填に時間が掛かる点がその普及の足枷と成っていました。

 これを改造したのが製鉄と金属加工に優れた技術を持っていたバリストア王国でした。バリストアの工匠たちは銃の命中精度を上げるために銃身内部に螺旋状の溝を刻み込み椎の実型にした銃弾を旋回させることで弾道の安定と射程の延伸を図ることに成功しています。

 この前装式施条小銃は、王国・帝国双方で一般兵の装備として採用され戦場へ投入されたが、私たちの時代になると装填に時間が掛かる欠点を解消するために装填が前装から後装へと改良され、発火装置も火縄や火打石のサイドハンマー式から着火が確実な発火用式陣を組み込んだ遊底を持つ鎖閂式(ささんしき=ボルトアクション)へと変わっていました。

 弾丸と発射薬を紙で包んだ紙薬莢と魔法発火機構を持つ鎖閂式小銃ボルトアクション・ゲベールは戦場に於いて帝国軍歩兵の主装兵器となり、歩兵は銃兵と呼ばれる事となりました。

 そして私たちの装備である魔装銃・アーケリスです。

 こちらもゲベール同様にバリストア王国で開発され帝国と王国の戦闘において初めて実戦に投入されています。

 ゲベールは帝国内でも製造されていますがアーケリスはバリストア王国からの供給に完全に依存した兵器でその構造等は秘密の部分も多く点検や補修時に問題も起きていました。

 構造は基本的にゲベールに準じたものなので外見は殆ど同じで、木製の銃床に長大な銃身と鎖閂式閉鎖機構の遊底を持つ本体の組み合せとなっています。

 しかしながら使用方法と、その効果は大きく異なります。

 ゲベールでは紙薬莢が使われますが、アーケリスでは魔法式が刻み込まれた魔導銀製の弾丸が使われ発射薬は有りません。

 魔導銀は、その色から銀という名が付いていますが実際には銀とは違い希少性はなく魔鉱石の精錬過程で産出される副産物でした。古来より魔力を蓄える性質が知られていた魔導銀は魔装具や魔仗の動力源として加工され使用されてきました。

 それに近年新しい使い方が現れた訳です。

 ではこの魔導銀をどうやって発射するのか?との疑問が生まれると思います、何故なら今私は発射薬については一言も触れていないからです。

 実はアーケリスには発射薬を使いません。

 ではどうやって弾丸を発射するのか?

 その答えは魔導銀製の弾丸にあります。

 アーケリス用の魔導銀製の弾丸は、ゲベール用の弾丸と違って長いのが特徴です。長さは約5センチ、ゲベール用の紙薬莢一式とほぼ同じ長さです。

 そしてもう一つの特徴がその表面に刻み込まれた魔法術式です。

 この長寸の魔導銀製の弾丸は、ゲベールと同じように遊底のハンドルを引き上げて後方へ下げ開いた装填口から薬室へ装填されます。

 後の工程はこれまでの逆をするだけで魔装銃の発射準備は完了します。

 そして、引き金を引けば発射となります。

 アーケリスの遊底と薬室内には発射に必要な術式が刻み込まれていて、射手が引き金を引くとこの最初に遊底の起動式に魔力が供給されて術が起動し続いて薬室内の術式が魔導銀の弾丸に刻まれた魔法が発動する仕組みと成っています。

 起動式により弾丸に刻まれた術式は魔導銀を魔力に変換し術式に従って魔法を発動させます、そして薬室内で発動した魔法は銃身を螺旋状に展開した誘導術式によって加速されて銃口から放出されます。


 つまり発射されるのは魔法そのものなのです。


 発射される魔法に関しては、アーケリスを受け取った時の説明によれば、魔導銀の弾丸表面に刻まれた術式に依存するとのことで、一般にはその威力と視覚効果から火竜弾が使われていました。

 なお火竜弾以外の魔法を使う場合は違う魔法の術式を刻み込んだ弾丸を使用すれば良いことになりますが実際には火竜弾以外の魔法が使われる事は有りませんでした。 

 魔法がアーケリスによって発射される際には弾丸内に蓄えらえた魔力で発現しますが、発射の為の術式の起動には射手の魔力が必要とされ、実際にはアーケリスが勝手に魔力を吸い上げる形で起動術式に供給されます、この為にアーケリスの射手になる為には一定以上の魔力の保有者である必要が在りました。

 ここまで読まれた方は気が付かれたかもしれませんが、アーケリスは銃型の魔仗とも言えるもので、射手を能力を限定した魔法士にするための魔装具だったのです。

 この為、アーケリス射手は軍内では簡易魔法士或いは準魔法士と呼ばれていました。

 また第一話で人語を話す豚、いえ、アーガン・ルーメット千兵長が振り回していた魔仗も同じ原理で魔法を発動させる魔装具でした。

 私もまた、幸か不幸かアーケリスを使用するに耐えうる魔力の量と素養が有り射手とに選ばれ現在に至っています、それは外見同様に祖父と父から受け継がれた財産でしたが、同時に呪いとも言える鎖でした。

 後の王国魔法開発局の調査によれば、アーケリスの射手に選抜された要員の魔力保有量は王国に於ける魔法士教育課程への参加に必要なそれと同等であるとされ、王国同様に一般臣民に魔法教育と訓練をしていたら王国と遜色ない魔法士団の保有も可能であったとされています。

 しかしながら、帝国ではその基本法によって。一般臣民の魔法の習得と使用(生活魔法と呼ばれる第五類は除く)は厳しく禁じられており、既得権益を護らんとする帝国貴族の利己主義が最終的に帝国の命運を決めたといってよいでしょう。

 それでも、こうした兵器の投入で帝国軍における主力、所謂第一線で敵軍と対峙する役目は平民である一般臣民で構成される銃兵が担うこととなり、臣民兵、特にアーケリスの使用に耐える簡易魔法士と呼ばれる銃兵の存在は次第に軍内で、やがて帝国社会においても無視を出来ない勢力となってゆきました。

 それはまるで魔法士への門戸を平民に開きその結果として平民の発言力が増した王国のそれをなぞるようで少し皮肉な感じがします。

 しかし、臣民の社会的地位が上昇してくると異を唱えるのが貴族です。

 彼らのからすれば現在の特権は先祖代々戦場で先頭に立って戦い少なくない血を流してきた選ばれた者にとっての当然の権利であり、神聖にして侵されざる権利であったのです。

 しかし、すでにこの時点で魔法士としての力を大きく減じた貴族に対しては、その存在意義に一般臣民が疑問を抱くレベルまでになっていたのです。

 しかしながらそれでも前述の通り既にこの時代の帝国貴族は守るべき義務でさえ特権を保持する為の口実としか捉えてなく臣民からの疑義に関しては鈍化というレベルでした。

 それでも、本来戦場において主役であるはずの自分たち貴族がお荷物として扱われるようになってようやく彼らは打開策を講じる様になったのです。

 それは貴族自身が領民軍を率いて戦場へ赴くといったものでした。

 銃兵化した領民軍を戦場へ投入し、そのことで貴族としての責務を果たすと言う貴族側の言は、長引く内戦で戦費が嵩み国家財政の点で苦慮していた帝国財務省にとっては一つの朗報でしたが、軍務省の視点で見れば軍の統一的運用に対する懸念事項でも有りました。

 やがて銃によって火力が強化された領民軍が、貴族により創意を凝らした服装を纏って戦場へ現れることとなりましたが、これは同時に新たな問題の始まりでもありました。

 投入された領民軍の実態は実質は雇用兵つまり傭兵であり、さらに支払う給金を引き下げる目的で略奪が黙認されたために戦場では略奪行為が横行し、時には戦闘そっちのけで略奪行為を行う領民軍の存在は帝国軍全体の規律と士気を大きく引き下げる結果ともなったのです。

 結局、帝国軍にとって頼りになるのは一部の魔法士貴族と後は数合わせのはずであった一般臣民による銃兵と簡易魔導士軍だけでした。

 その為に戦場では王国の平民と帝国の臣民の銃兵が互いに銃口を向けあうと言う状況も生み出すこととなったのです。

前話に続く説明会で済みません、今回も退屈な内容ですがこれ以降の展開に必要なので頑張って読んでみてください。


作品中に出てくるゲベール(Geweer)はオランダ語で小銃を意味し、日本では前装式のマスケット銃をゲベール銃と呼んでいます。

 これに対して作品中ゲベールは史実上のドライゼ銃に近い紙薬莢使用の後込め式のライフル銃と考えてくださって結構です。発火が魔法を使っていますが・・・。

すみません、変なところで拘りが出てしまって話が長くなりました。


次回第4話は、できれば1週間以内に投稿したいところですがどうでしょうか?

可能な限り頑張ってみます。

次回のタイトルは「オルテシアの呪いと祝福」の予定です。


相変わらずいつものセリフですが、誤字脱字が有りましたら感想へ書き込んでください。

勿論、感想や意見も大歓迎です。


では次回をお楽しみに。

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