戦端 帝国と王国
今回は戦闘シーン多めでお送りいたします。
戦端 帝国と王国
「ええいっ!黙れ俗兵どもめ‼
敵がそこに居る、それを討つのに何を躊躇して居る‼」
甲高くヒステリックなルーメット千兵長の声がモンテレイアの市壁に響きます。
既に口論は小一時間続いていました、我が従兄妹殿と口論してるのは正規軍の百兵長や他の部隊の千兵長です。
「ですから、敵の本営であると確認も無いまま全軍で攻撃すのは危険すぎると言っているのです。
もう一度騎馬兵による偵察をより広範囲に行う必要が有るのです。」
「黙れ、敗北主義者!
この私が、ルーメットが攻撃しろと言っているのだ!
貴様等は、黙って命令に従えば良いのだ!」
従兄妹殿の相手をしているのは1011銃兵隊の百兵長でした、彼は軍内に比較的多い下級貴族である騎士爵出の士官で、現場叩き上げの熟練兵で実直で堅実な人柄から部下にも上官にも広く信頼されていた人物でした。
彼は名ばかりで実力を持たない貴族出の士官に対しても邪険にすることは有りませんでしたが、部下として上官に意見することを躊躇することもありませんでした。
故に、我が従兄妹殿に対しても出来る限り道筋を説いて説得しようとしているようでしたが、相手はそんな心配りや常識が通じる相手では有りませんでした。
我が従兄妹である、アーガン・ルーメットは帝国の盾と称えられたオシュア・ルーメットの孫で現ルーメット公爵の次男と言う生まれで、何事もルーメットの名を出せば自分の意のままに成ると思ってる、そんな人物でしたから。
私はその一連の会話を聞きながらため息を漏らしました。
「たいした貴族様だな。」
私のため息に気づいたアンジ銃兵が、こぼす様に呟いて嘲笑を浮かべた。
私はそれを見て横に立つアンジに同意の笑みを浮かべて肩をすくめた。
「私も、一応同じ血が四分の一流れているのですけどね。」
しかしながら、従兄妹殿の忍耐の方が百兵長よりも先に尽きた様で、前後左右も判らぬ脂肪まみれの肉体を鞍上に置いた彼は一度大きく魔仗を振り下ろすと、背後に居た腰巾着の名を口にしました、因みに先程私の過剰魔力を受けて炎上した魔仗は既に予備の物に代わっています。
「コーゼル!」
「はっ、ルーメット閣下。」
先程の痩身と言うよりも貧弱な体格の貴族が歩み出ました。
「どうも、この部隊は戦意が不足しているようだ。
前進させる為に君の部隊で援護してくれないか?」
「承知しました。
カスペル!打ち方用意。」
完全に虎の威を借る狐状態のコーゼル卿は、雇っている傭兵隊の隊長に何の躊躇もなく射撃の準備をさせました。
勿論、的と成るのは1011銃兵隊です。
「ルーメット百兵長!
正気か?」
第九千兵隊の千兵長が思わず詰め寄りました、が従兄妹殿は平然として顔で言い放ちました。
「勿論、正気ですよ。
皇帝陛下は口論より戦果を求めておられます。」
先任の千兵長に対する、ルーメット千兵長の高圧的な物言いに周囲が一瞬どよめきました。しかし、従兄妹殿はその様子にも動じる事もなく言葉を続けました。
「貴官も口の利き方を気を付けられるが良いでしょう。
私は、皇帝陛下より今回の解放作戦の指揮を親任された身、
貴官と同じ千兵長でも格が違うのですよ。」
薄く笑みを浮かべた、アーガン・ルーメット千兵長はそう言いつつ魔仗を百兵長に突きつけました。
「さて、援護の準備も出来た、さっさと行くがいい。」
彼は得意げにそう言うと、手にしていた魔仗を他の兵たちに振り向けて言葉を続けました。
「他の領民軍も、各隊への援護の準備は出来ている。
前進を躊躇したり後退するような不心得者は、彼らの援護を受けてもらう事に成ると心得たまえ。」
長年帝国に於いて帝位に付いていた、カトン帝を追い落とし帝位に付いたネリュウス帝は先に記したように、次期皇帝選出の相当初期の段階で篩い落とされていました、その理由は「短慮、無思慮、傲慢、協調性の欠如。」など皇帝以前に人間として失格と言った理由でした。
そんな彼が、先鋭化した若手貴族に担ぎ上げられて帝位に付いた背景には、安定よりも戦乱を求める周辺諸国の思惑が有ったことは確かでしょう、しかし、軍人として戦場を踏む経験を持たないネリュウス帝は乱を起こすための武力、軍の上層部である統帥府や軍務省の支持を持たない存在でも有りました。
確かに彼を担いだ貴族の中には其れなりの武力を持ち、統帥府や軍務省にもパイプを持つ者もいましたが当然ながら限定的であり全軍を動かす、或いは支配する力は持ちませんでした。
そこで彼は今回の侵攻に際して、多数の自分に近しい貴族を自分の名代として指揮官として親任して正式な指揮系統を飛び越えて侵攻軍の指揮を執らせたのです、誰の入れ知恵か判りませんが現場の将兵としては極めて迷惑な措置により私たちは殆ど戦場での指揮の経験、と言うよりも我が従兄妹に至っては戦場に出たことが無いと記憶していますが、そんな無知で無思慮で我儘な能無したちに軍は振り回される結果と成ったのです。
自身が、傭兵と言えども友軍から撃たれる事態は決して歓迎できることでは有りません、従って各部隊は不承不承と言った表情で前進を開始しました。
各部隊は、街に居残った少数の部隊を除いて既に市壁外へ出ており、モンテレイアより南に有る要衝カラールへ向かう街道に沿う形で左右に大きく広がった陣形で前進を開始しました。
中央に槍兵の分厚く左右に広い方陣、正確には中規模の方陣を左右に連ねた形で配置し、その後方にゲベールを持った銃兵が二列応対で続きます、その左右にはそれ以外の銃兵が五×五の小規模方陣を築き側面からの攻撃、特に突破力の高い騎馬兵の襲撃に備えます。
我々の騎馬隊はその槍兵と銃兵の横帯陣の後方に控える形で従いながら適時そこから出て周囲の警戒に当たる事に成っています。
そして魔法士は、中央横帯陣の後方、銃兵の後ろと一部が左右の小規模方陣の中央に配置されていました。
そして、私たち魔装銃アーケリスを装備した魔装銃兵隊は横帯陣の前面に散開する形で先行した居ました。
更にその横帯陣より一〇メートルほど離れて、各貴族の領民軍が既に陣形とは呼べない形で隊列を組んで後続していました、彼らの中でも銃兵は既に旧式化したマスケット銃を前を進むの横帯陣に向けてチャンスが有れば引き金を引く気満々で前進を続けていました。
「そう、それで良い。
もし、行く先に妙齢のご婦人が居たら私のところへ連れてくるようにな。」
自分が思い描いたように人が動くことが随分と嬉しい様で、ルーメット千兵長は軽口を叩いて周辺を笑わせていたが、どうして下世話で面白くも無い軽口に笑えるのか貴族の持つ謎スキルを垣間見た気がしました。
「本当に大丈夫か?
この先の陣地が敵の本拠地って確認して居ないのだろう?」
私の左に位置していたイーノウ銃兵が不安げな表情で問い掛けて来ました。私たちアーケリス隊は横帯陣の前面へ薄く広がる形で散開しながら前進していましたので、遭遇戦と成れば最初に銃火を交える可能性が有ったのですから、不安にもなります。
とは言え、一銃兵である私に是非を語れる筈も有りません。
しかし、私が何か反論する為に声を上げようとした、その時、不意に周囲で声が上がりました。
「前方、人影!」
その声に皆が前進を停止して、前方、そして左右を警戒します。
横帯陣が進む先、カラールへ向かう街道はモンテレイアを囲む周囲の丘の向こうに続いていて、その人影はその丘の上にポツンと立っているようでした。
私も、急いで腰のポーチから単眼鏡を引っ張り出して前方に向けました。
焦点を合わせる時間がもどかしく思う内に、単眼鏡の視界の中に人影がハッキリと見えて来ました。
その姿は、一人の男性、歳は若くは無いが老人ではなさそう。
そして、その人物は濃い緑色の軍用ローブを纏い、その下に賊徒軍の士官用制服を着ているのが見えました。
そして、右手には何か棒のようなもの。
私は、その人物がどの様な存在であるのかハッキリして来るに従って私は言葉を失い立ち尽くしました。
私はその姿に見覚えがあったのです。
「コーノ銃兵、どうした?
何突っ立ている!」
私の異変に気付いたのは、我が隊の隊長であるマシュド百兵長でした。彼は、私の直ぐ傍まで駆け寄って肩を掴み良さぶりました。
「・・げないと。」
「コーノ銃兵?」
心配して声を掛けてくるマシュド百兵長に私は呟くように答えました。
「に・・げない・・と。」
「どうしたんだ、リア?」
「あれは戦略級魔法士!
逃げないと皆殺される‼」
そう、あの広報映像は本物だった。
それが証拠に、いまあの映像の中の人物が目の前に居る、恐ろしいまでの密度と量の魔力を纏って。
だから、私は力を振り絞って声を上げた、
「皆、逃げて!」
しかし・・・。
「銃兵前へ!」
後方で声がして振り向くと、横帯陣にはパイク(長槍)を手にした槍兵によって槍衾が築かれていて、その槍兵の間をゲベールを手にした銃兵が陣の前面へ走り出て来ました。
「弾込め!」
各部隊の百兵長の掛け声に呼応すように、銃兵各員は左手で銃を構えたままその場でしゃがみ右手で遊底の槓桿を引き上げて後退させると、腰のポーチから弾丸と装薬が一体と成った紙薬莢を引き出してそのまま薬室に押し込みます、薬莢が薬室へ収まったのを確認した銃兵たちは慎重にそして素早く遊底を前進させて槓桿を押し下げて遊底を閉鎖させます。
これでゲベールは発砲可能になりました、彼ら銃兵たちが装填完了までに有した時間は五秒足らず、しかも彼らは標的である丘の上の人影に視線を固定したまま、手元を殆ど見ないで一連の作業を終わらせています。
これは彼らの練度の高さの一端を示していると誇っても良いでしょう、しかし、それでも攻撃が彼に有効でしょうか?
私は、改めて単眼鏡を覗き込みましたがそこには無数とも言えるゲベールを向けても平然とした表情の魔法士の姿が有るだけでした。
と、その魔法士がニヤリと笑みを浮かべると手にした魔仗を振り上げました。同時に周囲に魔力が集中してゆくのが判ります。
「隊長、皆を下がらせて。
真面に戦ったら勝ち目がない!」
私は、直ぐ近くに居る筈のマシュド百兵長に向けて叫びました、そう、今彼と真面に戦ったら秒単位で消し飛ばされる、それ程の魔力が感じられました。
そして、丘の上に立つ人物の周囲に一瞬にして五つの術式陣が浮き上がったのです。
「間に合わない、伏せて!」
私がそう叫んだ時、その術式陣は火球を吐き出しました。
大きさは然程大きい訳では有りませんが、密度の濃さと温度の高さは術式陣の術式の密度の濃さと魔力の了解ら想像できるそのままでした、しかし、私はその火球が術式陣を離れ飛翔する段階に成って初めて私の見立てが間違っていたことを理解しました。
火球、おそらく第二類に分類される「火砕弾」であろうそれは地に蹲る私たちの遥か頭上を通り過ぎて行ったのです。
行く先は、北の空、国境を越えて帝国領へ向かってゆきました。
私は、それが何を意味するか、理解できないでいましたが、やがて見えた着弾光と少し間を置いて吹き上がる爆炎と爆発音でそれが我が軍の陣地を狙い撃ったものだと理解しました。
その後、彼は瞬く間と言ってよい間隔で火砕弾を生成して、国境の向こうに撃ち込みました。
私は、攻撃を受けている陣地が何の為に物かは知れませんでしたが、これで大きな損害を受けたのは理解しました。
「構え!」
その爆発音に我を取り戻したのか、銃兵隊の指揮官の声がしました。
銃兵たちもその怒号に近い号令に慌てて装填済みの銃を構えて立ち上がりました。
立ち上がって銃を構えたのは、横帯陣の前面に二列横隊で布陣した銃兵たちの前の列の者たちでした。残りはそのままの体勢のまま待機ですが、前列が斉射を終えて弾丸を再装填する為にしゃがむと後列が立ち上がって射撃となります、前列はその間に再装填を終えて次の射撃に備えるのです。以後この繰り返しで敵に途切れなく弾を打ち込むことが可能と成るのです。
「撃て~!」
指揮官の号令と共に百兵隊のゲベールが一斉に火を噴きます、射撃は百兵隊ごとですので少しづつ間を開けて銃声が響きます。
しかしながら、私は撃っている銃兵隊の方よりも的とされている王国軍の魔法士に視線を向け続けていました。
帝国の横帯陣と王国の魔法士、その彼我の距離は約五〇〇メートル、その間を弾丸は二秒足らずで駆け抜ける事に成ります。
私は事の顛末を見届ける覚悟で、彼がどうなるか見続けていたのですが、それは私の想像を超え呆気ない終わり方をしたのです。
彼の足元や周囲へ弾丸が着弾した事により、土煙が上がって一時視界を遮りましたが、それも間も無く晴れてゆき、それが隠していたものが見えてきました。
誰もが、そこに有るのは無数の弾丸に貫かれた王国魔法士の死体だと思ったでしょう、勿論私もです。
しかし、そこに有ったのは、いえ、立って居たのは紛れもなく先程までそこに居た魔法士で、彼は自身のローブに降り掛かった土ぼこりを迷惑そうに払い落としていました。
何が起きたのか?
それを考える間も無く第二射が放たれました、しかし、再びその射撃も彼には届かず彼は平然とした顔で立って居ました。
「なっ、何が起きたんだ?」
マシュド百兵長が驚愕の声を上げました、何故ならば第二射目には他の部隊ですがアーケリスの火竜弾も混ざっていたのです、先程の一射目とは威力は比べ物にならない筈でした。 しかし、彼は無事、と言うよりも無傷と言うべきでしょうか?
でも、私にはカラクリが見えていました。
「サーペントウィップ(海蛇の鞭)です。」
ですから、私は見たままを口にしました。
「水で出来た鞭が、あの人の前で飛来した弾丸や火竜弾を叩き落としていたのです。」
「サーペントウィップ?」
マシュド百兵長は信じがたい胸の内を言葉にしましたが、私にはその水の鞭は見えていました。気が付くと丘の上の人影が増えていました。
新たに表れた人物は、先に立って居た魔法士と比べると若く見えました、歳はマシュド百兵長とあまり変わらない感じで、美しいく纏められた金髪とここからでも見える金モールの入ったローブなど先の魔法士、ここでは仮に中年魔法士としておきましょう、その彼よりも上質な装いからからの方が偉い貴族様と思いましたが、その若い魔法士は一言二言中年魔法士に酷く低姿勢に声を掛けていたのであの中年魔法士は相当偉い人物であるような気がしてきました。
ただ、若い魔法士からは水属性の魔法の残滓を感じたので恐らく彼がサーペントウィップの使い手だったのでしょう。
中年魔法士が、若い魔法士に一言何か言うと彼は素早く彼から離れました、しかし、こちらが攻撃を仕掛ければ再びサーペントウィップを使うで有ろうことは予期できました。
この段階で我が軍の銃兵たちからの射撃は一旦止まっていました、何度打ち込んでも防がれるのであれば何か手を打たなければ弾の無駄になるからです、しかし・・・。
「ええい!
何をしておるか、撃て!撃て‼」
本来、攻撃が有効でない場合、打開策を提示するはずの指揮官はそう言って叫ぶだけです、そして挙句の果て。
「命令を聞けぬなら構わん、撃たせろ!」
ヒステリックに叫ぶ始末です、しかしながら、今はこんな馬鹿やっている場合ではない筈です。
突然、肌がヒリヒリする様な刺激を感じて慌てて丘の上を見ると先ほどの中年魔法士の周辺が無数の術式陣で埋まっていました。
それはあの広報映像で見たのと全く同じで、大きさは手のひら大、但し実物をよく見ると小さく作られた代わりに立体的に複数の術式陣が重なっているのが見えました、これが密度と威力が高い要因だったのです。
「隊長、来ます!
伏せて!」
私はそう叫んで、自ら地面に伏せました。
伏せて、それでも尚その目は魔法士から離すことはしません。
術式が構成されて更に魔力が込められると、辺り一面の術式陣から数えきれないほどの火竜弾が弾き出されました。
その術式弾は、伏せている私たちや前後の恐怖に身動きが取れなくなっている銃兵隊の頭上を越えて、少し離れたところに固まっていた領民軍、つまり傭兵隊の上へ降り注ぎました。基本的に今の貴族たちが雇える傭兵隊は三流と言ったところでしょう、装備は貧弱、武器も一部ゲベールを持つ者もいるようですが、大体は旧式のマスケット銃を持つ程度で実際にゲベールと撃ち合いに成ったら彼らに勝ち目は無いでしょう、それでも彼らが偉そうにしているのは彼らの雇い主が貴族だからで彼らもまた弱い者にしか手を出さない連中でした。
ですから、一発で簡単に身体を撃ち抜くような火竜弾に襲われても彼らには対応する術を以っては居ませんでした。
着弾後の土煙が収まると、そこは死屍累々と言った表現がぴったしな情景が現れました、おそらく生き残っている領民兵は居なかったと思います、ただ一部急所を外れたのか呻き声を上げている者も居ましたが、その声も間も無く消えて行きました。
しかしそれよりも、私としては酷く冷淡な自分に驚きました、領民軍には五〇〇の兵が居たはずです、その大半の命が一瞬で失われたのにですから。
しかし、戦場で一瞬でも周囲への警戒を怠ることは死を意味します、ですから・・・。
「おいおい、戦闘中に敵を目の前にして余所見はダメだろ。」
そんな声がして、次の瞬間、激しい衝撃で私は吹き飛ばされました。
「ガハッ!」
振り替える間も無く、地面に叩き付けられた私は、その衝撃で肺腑より一気に空気が抜け、暫く息も出来ず悲鳴も上げれないままその場に蹲りました。
しかし、敵の目前で無防備な姿を晒す事は危険です、私はやっと息が出来るようになり咳き込みながらも有りっ丈の気力を掻き集めて起こして立ち上がりました。
私は体中の痛みに耐え、アーケリスを杖代わりに立ち上がった私は、急いで敵の魔導士を探しました、間合いも判らないままで居ることは危険だと判断した結果の行動でした。
先ほど彼が立って居た丘の方に視線を向けると、彼は丘の麓に立って居ました。
一気に彼我の距離を縮められた事になります。
『いつの間に。』
そう言おうとしましたが声が出ません。
しかし、例の中年魔法士は私を面白そうに見ながら笑いかけてきました、但し手の中の魔仗は何時でも術式を起動できるように魔力を帯びたままでした。
「お前さんやるね、叛徒の貴族にしては珍しく戦闘に慣れているようだ。」
「貴族じゃない!」
私はやっと出る様になった声で叫び、再び咳き込みました。
「ほおっ、珍しいなお前さんは魔法が使えるのに平民なのか?」
戦意よりも好奇心を前面に出してそう語り掛けてくる敵の魔法士にどう答えていいか判らない私は沈黙を貫きました。
「お前さんは、魔力を見て感じて、術式の構成文も読める。
違うか?」
彼はそう言うと一瞬にして表情を変えて魔仗を突き付けてきた。
「事情は分からんが、こいつは避けれるか⁈」
私はその時には、身体を投げ出し倒れ込みながらアーケリスを彼に向けました。
この一連の動きで被っていた軍帽が飛ばされました、先程の衝撃で顎紐が切れていた様です。
軍帽が脱げたことで中に隠してあった「オルテシアの銀」を象徴する銀の髪が露わに成りましたが、私はそれを気にすることなく、いえ余裕もなくと言った方が正しいでしょう、私はそのままで必死にアーケリスの照準を敵の魔法士に合わせました。
何故なら、既に敵の魔法士の頭上には術式陣が浮かび上がっていたのです、あれの照準は確実に私に合わされていました。
術式は第四類、所謂、初級魔法魔法の火竜弾です、しかし、その術式の緻密さと込められた魔力の量から直撃一つで私の命など一瞬で摘み取れるものであることが判ります。
一瞬、照準の向こうで魔法士が驚愕の表情をしているのに気が付きましたが私はそれを無視して引き金を引きました。
撃たれる前に撃つために。
やっと戦闘シーンが出てきました、架空戦記でも太平洋戦争が舞台の作品が多いのでこうした魔法が出てくる作品は書きながら試行錯誤です。
悩みながら書いていますので感想を頂けると励みになります、お願いください。
後二話で完結の予定です、春の架空戦記創作大会用の作品なのに夏まで掛かってしまいました。
これが完結したら、「南溟の怪魔」シリーズに戻る予定です。
いつもと同じですが誤字脱字が有りましたら感想等で指摘ください。
では次話をお楽しみに。




