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お世継ぎ問題に潜む影

この頃、大奥内がざわざわしている。

とうとうお世継ぎ問題が持ち上げられてしまったようだ。


「失礼いたします。後程、春日局様が参られますのでご準備を」

「はい」


深々と頭を下げ、中年寄(そこそこ偉い人)を送り出し、孝子様を振り返った。

表情こそはいつもと変わらなかったが、御心は穏やかではないはず。

お局様は何を申されるのだろうか。

半刻ほど経った頃、家光様の乳母であるお局様がやってきた。


(うわっ、何度会っても苦手だな。この方を欺くのはいくら忍びでも覚悟がいるわ)


「お久しいですね、本理院(孝子の院号)。体調はいかがか?」

「はい、こうして居られるのも春日局様のお陰でございます」

「回りくどい事は好まないのでな、お伝えする。わたくしの目に留まった女子は側室候補へあげて行くつもりでいます。ご異論はあるまい」

「・・・はい、ございません。殿の御心のままに・・・」


そう言い終わると、顔色一つ変えずお局様は静かに部屋を出て行った。

たったこれだけの為にかなりの精神力を消耗した気分だ。


「孝子様、大丈夫ですか?」

「ええ」


そっと手を取れば、答えるように握り返えした冷たい手には緊張からか汗が滲んでいた。

お局様の言葉は「貴女がお子を産まないので、他の女子を殿にあてがいます。文句は言わせませんよ?分かりましたね」と言っているのと同じだった。


孝子様は自嘲気味に笑うと、


「殿さえお嫌でなければ、たくさんの姫たちとおたわむれになり、お世継ぎが生まれれば幕府の安寧へと繋がります。これでよいのです」

「孝子様・・・」


それを言われると何も返せない。孝子様はお子を産むことが出来ないのだから。



その時、パサパサと音がし障子に小さな影が映った。

(あ!父上の隼っ)

任務の文が届けられた。

其処に書かれてある文字は特殊で解読されないように暗号化されてあるものだ。


【周辺で不穏の動きあり、側室候補の御家より間者疑い。正なら消せ、誤なら解け】


私に出来ることは孝子様の周囲を平和に保つ事のみ!


夕刻を待って、菖蒲は忍びの衣を身に着け、そっと左目の眼帯を外すと闇に消えた。




「霧雨殿、お久しゅうございます」

「孝子様、お変わりなく。・・・菖蒲は?」

「今夜は何か用があるとか、出かけてしまいました」

「そうですか、では改めます」


ここは大奥、家光以外は男子禁制である。

素早くその場を離れた。


『入れ違いだったようだな』

「ああ、父上のはやぶさが一歩早かったみたいだ」

『手伝う機会を逃したな。くそっ、霧雨!殿の躾をしっかりしろ』

「だからそれは俺の仕事じゃねえだろ」


いつもの事だと霧雨とハクジ(狼の死霊)は菖蒲の事をさほど心配していなかった。

単なる側室争いの根源を探りに行っているだけだ、そう思っていた。



その頃菖蒲は、不穏な動きがあると知らされた商家の一室に目を光らせていた。

大奥に是非ともうちの娘を、礼は弾む、などと黒い会話がされていた。


(女は道具じゃないんだからね!)


お家を守る為、娘に生まれたら誰もが背負う運命なのだ。


「側室候補に上がったら、本理院を亡きものに」

(!?)

「また物騒な、ご正室に手を掛けるのは如何かと」

「病死させればよい。もともと人前にはあまり出てないのだろう、好都合だ」

「しかし・・・」

「里を、潰したくはないだろう?」

「・・・承知した」

(孝子様を殺すって・・・)


男たちは突然黙り込んだ。菖蒲は何かを察しその場を離れた。


「鼠が紛れ込んだやもしれませんので、失礼いたす」


気配は消していた、だから気づかれるはずはない。

屋敷から離れ、ただひたすらに走った。


「っ!?」

「さすが、徳川の隠密。もう嗅ぎつけるとは」


いつの間にか目の前に男が立っていた。

腰には二本の刀が差してあり、高く結い上げられた髪は身なりの良い何処かの侍に見える

しかし、其処からは殺気以外のものは何も感じられなかった。


「・・・」


男は口元を僅かに上げ、冷たく笑った。


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