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妖刀村正

義父親(ちちうえ)!!」


のんびりと庵に腰掛けた柳生は菖蒲の呼び声に驚いた。

菖蒲がこんなに声を荒げる事はない。


「何事じゃ」

「甲賀の里は何処ですか?霧雨を、霧雨をっ」

「落ち着け菖蒲。順に話せ」


菖蒲はもう眼帯をしていない。その事も異常事態を感じされる一つの原因だった。しかし、柳生は落ち着いていた。

いや、冷静を装っているのだ。


菖蒲はハクジから聞いた話と、手にした血判書の事。

そして、霧雨が自分に術を施し甲賀の里に立った事を話した。


「やはりあの死霊は霧雨の父親じゃったか」

「存じていたのですか!」

「いや、単なる勘でしかなかったがな。それより霧雨の術が菖蒲に掛かったとは、そして、それを菖蒲は解いたのだな」

「はい」

「やはり、お前たちの忍びの力はわしの想像を越える。で、菖蒲は甲賀の里に行くのか」

「はい、霧雨を一人で死なせない。だからこの血判書は義父親(ちちうえ)に預けます。私たちが戻らなければ家光様へ」


柳生は暫く考えたが黙ってそれを受け取った。

もう自分の手には及ばぬ次元で二人は生きている。いつか来るかもしれないと思いながらも、来なければよいと願っていた。

運命(さだめ)とは、やはり変えられないものなのだろうか。


「行くのか、甲賀の里に」

「はい」

「死ぬやもしれんぞ」

「霧雨と一緒なら、それが死でも構わない」

「・・・そうか。ならば義父親(ちち)は止めぬ」


柳生は静かに立ち上がり奥の部屋へ入ると、何かを手にして戻って来た。一つは紙切れのようなもの、そしてもうひつは武器のようなもの。


「菖蒲、これを」

「これは?」

「この紙には伊賀と甲賀の事が書かれてある。恐らく、里の在り処も分かるはずじゃ。そしてこの刀と投剣(手裏剣)だか、お前達が落ちてきた時に側に落ちてあった。霧雨の父親のものかもしれん、何かの役にたつじゃろう」

「ありがとうございます」


その刀は赤地の鞘に納まっていた。

半分ほどその刀を抜くと刀身は怪しげに光を放った。


「妖刀村正だ」

「えっ!」


真田家に伝わる刀であり、真田幸村と徳川家康との戦いにおいて多くの血を吸った刀である。

徳川にとっては邪悪な刀である。大阪冬の陣、夏の陣で真田幸村率いる軍にかなりの痛手を負わされたのだ。


「甲賀の忍びが持っていたなんて・・・」

「それで全てを終わらせよ」

「はい!」


もう、霧雨と菖蒲には会え無いかもしれない。

父親らしい事は何か出来たのだろうか。この刀をまだ若き菖蒲に託すことしか出来ない自分を恨むしかない。


「五日待つ。それまでに戻らねば家光様に渡す」

「はい」

「菖蒲」

「・・・」

「生きて戻れ!!」

「御意」


最後の任務に赴くかのように、菖蒲は深々と頭を下げた。

それを黙って見守る事しか出来ない柳生。


菖蒲は闇に吸い込まれるように、音もなく消えた。

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