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真実を知る時

その後、家光は毎夜とはいかぬものの頻繁に孝子のもとへ通うようになった。

この大奥では孝子は子が産めないと知られているため、家光の一時の戯れだと思われていた。

春日局もまさかここで本物の愛が培われているとは思ってもいないのだ。


「家光様と孝子様はもう大丈夫だと思います」

「そうか、よかったな」

「本当によかった」


霧雨と菖蒲は二人の心の安寧を強く望んでいた。


『霧雨っ!菖蒲っ!』

「ハクジ!「ハク殿?」


かなり久しぶりにハクジが二人の前に現れたのだ。


「何処に行ってたんだよ!」

「ハク殿、心配いたしました」

『すまん。ちょっと色々と調べることがあってな。二人ともこの後いいか』

「ああ」


ハクジは霧雨と菖蒲を連れ、城から少し離れた山の中にある小屋へ誘導した。

中に入るとどこか懐かしいような不思議な気持ちになった。

ふと目をやると、巻物のようなものがいくつか無造作に並べられてある。


「ハク殿、これは?」

『今からお前たちに真実を話す。それを聞いてどうするかはお前たちの所存に任せる』

「おい、なんだよ」

『お前たちの生い立ちと俺の正体。そして何故、忍びが徳川の周りをうろついているのかを話す」


一瞬空気が弦を張ったように、ピンと鳴った気がした。

ハクジの声には嘘も少しの冗談も隠れていないことが分かったからだ。




『徳川の周りをうろついているのは甲賀の忍びだ。もともと甲賀の忍びは東の者の寄せ集めだった。世が戦国時代と呼ばれていた頃、武田軍に仕え、後に真田軍に仕えた。簡単に言えば徳川の敵となる。徳川には伊賀の忍びがついていた。かの有名な服部半蔵が率いる忍びだ。結果的には徳川が勝ち今に至っている。昔から敵対していた甲賀と伊賀は天下が統一された後でも決して和睦わぼくすることは無かった。甲賀にとってはこの平定された世は地獄その物。伊賀と違い里も荒れ貧困を強いられた。そのため、町で別の道を歩む者と里を再建する者に分かれたのだ』


「伊賀と甲賀?」

『お前たちの親は争いを嫌い町で別の道を歩むことを決めた甲賀の者。その時にそれぞれの伴侶と出会う。しかし、その伴侶とは結ばれてはならない者同士だったのだ』

「・・・それって、まさか」

『ああ、伊賀の忍びの者』


それでも一度惹かれあえば男女の情というものはどうにもならない。

里の者にバレないように愛を育んでいった。その二組の夫婦の間に生まれたのが霧雨と菖蒲だったのだ。

生まれて来た我が子を見て夫婦は驚愕した。

片方の瞳の色が異なっているからだ。それは里違いの子である証でもあった。

特に甲賀は伊賀を憎んでいた為、これが知られれば消される事は間違いなかった。


『伊賀の里では二人を引き取ってもよいという事だった。あちらは徳川に仕えていたため財もあり、考え方も温和だったのだ。お前たちを託すと決めたときに諜報中の甲賀の忍びに知られてしまった。逃げる途中にお前たちの両親は殺されたのだ。運よく、柳生に拾われた。だから今、お前たちは此処に居る』


「そこまで憎んているのか」

「甲賀は何をしようとしているの?」

『・・・天下を、奪うつもりだ』

「!?」

『自分たちが送り込んだ女に次期将軍を産ませる。そして側近を全て甲賀の者に入れ替える。正室の孝子様には間違えても子が出来ぬよう幼い頃から薬を盛った。他の側室から男児が生まれれば消す手はずまでしてあったのだ。周りから固めるつもりで』

「それを俺たちが邪魔したってわけか。だからあの時、生きていたのかって俺に言ったんだな」

『計画は続行中だ、間違いなくお前たちも狙われる。逃げるなら今しかないっ』

「ちょっと待って、どうしてハク殿は詳しいの?」

『・・・』

「おい、ハクジ!なんか言えよ」



甲賀の忍びの十数年に渡る計画だった事は分かった。しかし、どうして狼の死霊であるハクジがここまで詳しく調べることが出来たのかが疑問だった。

ハクジは無言だ、まだ何か知らされていない事があるのだろうか。

二人はハクジが口を開くのをじっと待っていた。


『俺が何故ここまで詳しいのか・・・それは』

「・・・」

「・・・」


ハクジが大きく呼吸をしてこう言った。


『それは俺が甲賀の忍び、霧雨の父親だからだ』


「なにっ!」

「・・・え!?」


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