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ハクジの目覚め

霧雨と菖蒲が諜報活動にいそしんでいる頃、ハクジはようやく己を取り戻していた。

自分の本来の目的と先日から気にしていた孝子が呑んでいる薬湯の正体を思い出したのだ。


まずい、あの薬湯はすぐにでも止めさせるべきだ。

菖蒲のもとへと走った。


菖蒲は大奥の女中が着るいつもより派手な着物を纏い、ちょうど部屋に下がる頃だった。


『菖蒲!』

「あれ、ハク殿。随分と長いお出かけでしたね」

『菖蒲に知らせたいことがある』


ハクジのいつもと違う声調に菖蒲は何かを感じたのか、真剣な顔つきに変わった。


『菖蒲、孝子様が飲まれている薬湯の事だ』

「はい」

『すぐに止めさせてくれ』

「え?何故」

『あれを飲み続けると、子宮の動きが止まる」

「・・・子宮」

『子を宿す場所だ!』


ハクジが言うにはあの薬草には女の機能を眠らせる作用があると言う。

女の忍びが長期に渡り任務を遂行する時にそれを飲み、月の物を一時的に止めるのだと。

それを飲み続ければ完全に機能は停止し、子を産むことが出来なくなる。


「え!でも、あれは鷹司家からの秘薬だと・・・」

『菖蒲、その女中に目を光らせろ!その者は忍びやもしれん』

「まさかっ」

『おまえも忍びだとは誰からも知られていないだろう?それと同じだ』


動揺していた菖蒲だったが気持ちを取り戻すように、大きく深呼吸をし目を閉じた。

ゆっくりと目を開くと、表情を殺し一点を見つめた。


「ハク殿、お任せください」


任務遂行時の忍びの顔へと変わっていた。


ハクジは菖蒲を見送ると、次は霧雨のもとへと走った。

すると都合の良いことに霧雨は家光ではなく、柳生と一緒にいる。

これは手間が省けたと勇んで駆け寄る。


『霧雨!』

「うおっ!なんだよハクジか驚くじゃないか。ってか、今まで何処に」

『それよりも柳生にも俺がこれから話すことを伝えろ!いいな』

「・・・分かった」


ハクジのいつになく真剣で迫力のある声に霧雨も何かを感じたのだろう。

柳生にハクジから話があると伝えた。


「ああ、狼じゃったか?分かった、此方で話を聞こう」


人気のない空き部屋で二人と一匹は声を潜め話を始めた。


『鷹司家を調べて欲しい』

「鷹司家を調べて欲しいって、何でだ」

『孝子様が嫁いで来られた時に一緒に大奥に上がった女中が妖しい』

「どういう事だ」


ハクジは菖蒲に話したことを霧雨に話した。

その女中が孝子に毎日飲ませている滋養の薬湯は女の機能を停止するものだと言う事。

そしてその薬湯の元は忍びの間でしか知られていないと言うことだった。

その話を聞いた柳生は霧雨にこう言った。


「鷹司家に潜入せよ」

「承知した」


この事は孝子や家光には内密で動くことにした。

何か黒くとても大きな影を感じる。


霧雨が去ったあと、柳生は姿の見えないハクジにこう言った。


「わしにはお主の姿も見えぬし声も聞こえん。しかし二人が幼いころから今もずっと側におる。これはわしの勝手な想像だ。お主は狼の姿を借りたあの時の忍びではないのか?」

『・・・』

「わしは霧雨と菖蒲の瞳の由縁をずっと探っておったのだ。忍びから彼らを護らねばならぬ事は承知していた。しかし、理由が分からなかった。もしや二人は里違いの間に生まれた子ではないかと」

『!?』

「しかも、決して交わってはならない伊賀と甲賀の・・・」


ハクジは背筋がゾワリと波立つのが分かった。この男ただの侍ではないのか、と。


「ただの侍には二人を護りきれぬやもしれん。どうかお主の力を貸してやってくれ」


柳生はそう一方的に話すと、静かに部屋を後にした。

あの二人を託した相手がこの男で良かった、そうハクジが安堵した瞬間だった。


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