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ハクジが存在する理由とは

その後、霧雨と菖蒲は二人で闇に紛れ近々大奥に上がる予定の姫たちを調べ上げた。

なんと、同じ日に五人も上がってくるという、前代未聞である。


「五人同時か・・・特定させないように誰かが根回しをしているな」

「大奥の中に間者がいるってこと?」

「可能性はある」


近頃の大奥は側室候補の女中だったものが、殿に見初められ側室候補へと上がり夜伽よとぎを務めるという予測不能な事が起こっていた。

現に永光院、通称お万の方の女中(お夏の方)が殿の湯殿係に命じられ、そのまましとねへと上がった。

それを耳にした女中(飯炊きの女中までも)はもしやと淡い期待を持ち始めている。

殿に見初められたとは女中の間での単なる噂で、そう仕向けたのは春日局だ。

今の大奥はあちらこちらで色気が漂っている状態だ。


「凄いのよ、最近の大奥は」

「どう凄いんだ」

みな色めきだっている。身分に関係なく」

「・・・恐ろしいな」


そう言ってチラリと菖蒲を見た。


「なに?」


相変わらず化粧もせず、香袋も持たない彼女を見ては安心する霧雨だった。


「いや、何でもない」

「とりあえず私は、大奥の中に間者が居ないかを探らないといけない」

「そうだな」

「一応、それなりの装いはしないと怪しまれるよね。憂鬱だな」

「お、お前もその、化粧とかああいう恰好をするのかっ!」

「え?同じように紛れ込まないと逆に怪しまれるでしょう?諜報の基本じゃない」

「そうだけど、間違ってお前が上げられたりしないだろうな!」

「ふははっ!霧雨っ、それはないでしょ。ふふふっ」


いや、殿に限ってお前に夜伽の相手をしろとは言わないだろうけど、春日局や他の年寄たちはお前の変装は見抜けないだろっ。

側室候補に上げられたらどうするんだよ!


けらけらと笑う菖蒲を他所に、霧雨の眉間の皺はより濃く刻まれるのであった。



その頃、ハクジはと言うと相変わらずウンウン唸っていた。

霧雨の側で唸ると諜報の邪魔になる為、一人で居るのだ。


一人でいると妙に辛気臭くなる。

俺はそもそも何故、霧雨に憑くようにったのか?

それ以前に俺はいつの時代にどうやって命を落とし、どういう経緯で死霊となってまでこの世に留まるのか。


薬草からこんな事まで考えるまでになってしまった。

よくよく考えると自分でも自身の事を何も知らなかったのだ。


『俺は一体、何物なのだ?』


気づいたら、森の奥深い場所に迷い込んでいた。

細い道を抜けると目の前に岩の壁が立ちはだかる。

上を見上げると、果てしなく高く(いただき)きは見えない。

時々、カラカラと小石が落ちてくる。


『ん?』


ハクジは不思議とこの場から動く事が出来ない。


(・・・この娘をーーーー。)


ハクジは目を閉じ耳をピンと立てる、何かが聞こえる。


(ササササッー、キン、キーン、ズサッ)

(すぐに後を追う!)


(あなた・・・先に参りますーーーー)


ーーーーーーーーーー、

「伊賀の、忍びっ・・・から隠しって、くれ」

「隠すってどういう事だ、この二人は兄妹か?」

「血の繋がりは、な、い。たの・・・む」

「おい!」

ーーーーーーーーーー。




『はっ!こ、これはっ!』


ハクジはぶるぶると身体を震わせた。

自分がなぜ此処に辿り着いたのか、なぜ霧雨に憑いているのか。

そして、自分が何故この世に存在しているのか。


今、全ての謎が解けたのだ。

岩壁の頂きを見上げたハクジの瞳からは、涙が一筋流れた。


『すまなかった。俺はなんて大切な事を忘れていたのか!俺たちの想いを引き継いだのはこの俺だ。俺が護らねばならぬのだ』


ハクジは岩壁に頭を垂れるように伏せをした。

曾ての仲間と愛妻に向けての詫びと、己がすべき事を此処に誓った。


『この魂に代えて、必ずや護る!』


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