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諜報活動に尽力せよ

城下に家を構えている柳生が城に上がってきたのは、菖蒲から文を受け取って二日ほどしてからだった。


「殿、お久しゅうございます。益々、雄々しくなられましたの。大変喜ばしく存じます」


うやうやしく頭を下げ挨拶をしている。

相変わらず父上は勤め侍が板についていると関心しているのは、殿の後ろに控えている霧雨だった。


「はははっ!柳生殿、(おもて)を上げられよ。お主が上がってくるとは、両極端な話しかないからな」

「殿には敵いませんな、次からは何もなくとも土産を下げて上がって参ります故、何卒(なにとぞ)

「うむ。皆の者!暫し下がれ」

「はっ!」


家臣たちを払い終えると、柳生はズリッと体を前に滑らせる。

家光も体を柳生に向けて傾ける。


「して、此度(こたび)は何事だ」

「実は・・・」


先日の菖蒲の諜報活動の件を報告し始めた。

側室候補に上げるためにとある大名が忍びを雇い水面下で活動していること。そして、目的は男子を産み、行く行くは世継ぎにしたがっている。これは誰もが予測のつく話だ

たが、もう一つの問題は男子を産み側室に上がったら本理院(孝子様)を消そうという動きがある事だった。


「なにっ!?何処の大名だ!」

「それが、互いに名を呼び合うこともなく姫の名も出さなかった為、特定までに至っておりません。ただ、相手は忍びを雇っております。それもかなりの腕前の」

「菖蒲が危うかったと聞いた。厄介だな」

「今後の活動は霧雨と菖蒲を一緒に動かします故、ご理解を」

「うむ。俺もこんな事で孝子を失いたくはない」

「出来る限りの事を尽くさせて頂く所存でございます」


家光は孝子が命を狙われるなど思ってもいなかった。

拳を握りしめ、自分の運命(さだめ)を初めて恨んだ時だった。


柳生は城を出た先の空き家で霧雨と菖蒲と落ち合った。


「菖蒲、先日はすまなかった。まさか忍びが絡んでいるとは思わなくてな」

「いえ、私のツメが甘かっただけです。まだまだ修行が足りません」

「それより、忍びを雇ってまで側室に上がろうなど。ましてや孝子様を亡きものにしようなど許しがたい(はかりごと)じゃないか!」

「霧雨、お前が()った時にあの男から何か感じなかったか?」

「・・・あ、俺」

「はぁ、まあよい。おおかた頭に血が登ってそこ迄気が回らんかったのだろう」

「申し訳ありません」

「そこが霧雨の弱点でもあり、美点でもあるからの。あまり責めるな」


そんな時、菖蒲はふとある事を思い出した。


「匂いが」

「ん?匂いがどうした」

「あの時、風が吹いて来て・・・あの男の匂い、何処かで」

「身に覚えがあるのか?」

「でも、思い出せないのです」

「あの男も忍びだろう?いつぞやに接触していたやもしれぬの」


霧雨は考えていた、江戸城に上がってから諜報活動や一揆の後始末に出た事があったが忍びと交えたことは無かった。

恐らく、菖蒲も忍びと対面したのは初めてなはずだ。


「俺たちって、今まで忍びと対決したことなかったよな」


霧雨の一言で菖蒲はハッとした。


「そうだ!私たちは殺し屋や浪人と刀を交えた事はあったけれど、忍びはあの時が初めてだった」


柳生は眉を顰めた。

今更、忍びが動くとは何事だ。そして、菖蒲は忍びの放つ気や匂いを以前に感じている。


嫌な予感がしてならなかった。

しかし、漠然とした予感を口にするにはまだ早い。


「兎に角、今後は二人で動くのだ。二人でならお互いの能力で補い合えるだろう。自信を持て、お前たちは無敵じゃ」

「はい!」


霧雨の聴覚、菖蒲の嗅覚、異色の瞳は不思議と二人でいると倍の能力を発揮した。これにあのハクジがいるのだ。

負けるはずがない。


「あれ?菖蒲、ハクジは?」

「そう言えばちょっと出てくるって言ってた」

「あいつ最近変だぞ」

「変?」

「ブツブツ煩いんだ。『思い出せん、何だったか、ここ迄出てるのに!』ってな」


二人は首を傾げた。

ハクジは何か悩み事でもあるのだろうか?と。


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