石油王転生 三
疑問に思えば、脳内にその力の使い方が流れてきた。その説明に従い力を行使する。するとじわりと掌から油が出てきた。
(なるほど、身体から石油を排出する能力を得たようだな。しかもこの感じだと無尽蔵に)
今や十三の身体は枯れることのない油田になったようなものだ。
少し力の使い方を調整すると、最初に滲み出ていた原油そのままだけではなく、分留後のガソリンや軽油に灯油、アスファルトといったものも生み出せることがわかった。さらには排出する量や勢いも調整出来るようだ。まさに彼は石油王の名に相応しい存在となっていた!
(ガソリンがいくらでも作り出せるってことはクルマが燃料切れで動かなくなる心配はないな)
まぁありがたい能力ではある。が、
(ちょっと違う)
十三が「石油王になりたい!」と言っていたのは「石油王と呼ばれるほどのお金が欲しい」と言う意味であって「実際原油を自在に生み出す能力が欲しい」ということとは若干異なる。
(まぁ売れば結果同じか)
そんなことを考えていると自身が石油王になったという実感と高揚感が湧いてくる。
「ふっふっふっ、俺はついに石油王になったぞー!」
ついに念願の石油王となったのだ。ついつい叫んでしまったとして仕方あるまい。
(とりあえず港に行って燃料として買ってくれる人を探すか)
そう思い愛車に乗り込む。舗装されてはないものの、ある程度整備された道なので運転に支障はない。
(なんか寂れてるな。廃港っぽい)
港に近づくにつれ不安になる。
辿り着いてみたらそこは実際廃港だった。それなりに大きな港だったようだが、周辺の街含めて完全に廃墟となっていた。当然人の気配は全くない。
「これは困った」
クルマを停めてしばし呆然とする。
ここに来るまでの間周囲を見ながら運転して来たのだが、見たところ小さな島だと思われるここに他に街らしきものは見当たらなかった。
(もしかして無人島なのか?いや、まだ全体を周ってないから決めつけるのは早い)
状況が分からないのは落ち着かない。
(そう言えばあいつ最後に「これを食べれば詳細が解る」とか言って何か渡したよな)
そう思い出し体をまさぐる。
あった。ズボンのポケットの中だ。そこにホタテのような貝が入っていた。
「なんで?」
いくらなんでもこんな大きな貝がポケットに入っていたことを気付かなかったのはおかしい。
(が、そんなことよりとりあえず今はこの貝だ)
どうやら蓋代わりに貝殻で閉じているだけで、生ではなく焼いた後のようだった。貝殻を取るとこんがり焼き目の付いた大ぶりの身が出てきた。
「おっ?けっこう美味そうだな」
起きてしばらく経つので程よく小腹も空いている。十三は躊躇うことなくその身を食らう。味はやはりホタテのようだった。おそらくホタテだったのだろう。
(異世界でもホタテはホタテか。…くっ!?)
妙に感心していた十三に頭痛が走る。
「痛たたた」
頭が割れるように痛い。
運転席のシートを倒し、頭を押さえて横になる。
そうやって頭痛に耐えているとたくさんの情報が頭に入って来ていることに気付く。この頭痛は一度に膨大なデータを詰め込もうとしていることで脳がオーバーヒート気味になっていることが原因のいわば知恵熱であった。
そもそも九頭のクルールーと違って十三の脳は一つしかないのだ。処理能力が足りないのは当然なのだ。