石油王転生 二
『タコ?!』
『違〜う!俺は水棲龍種の最高位、九頭ドラゴンだ』
十三の率直な感想を目の前の化け物タコは全力で否定した。
『いや、お前どう見てもタコだろ?もしくはイカだな』
『バカな。どこに目を付けているんだ?日本人はそんなに節穴なのか?』
十三の意見に大きな丸い頭部から八つの触腕を生やしたクルールーが顔を真っ赤にして口を尖らせて反論する。
(これで鉢巻でも締めていればタコ焼き屋のオブジェの完成だな)
ついついそう連想される。
『おい、今失礼なこと考えただろ?』
すかさずクルールーがツッコむ。
そして墨は吐く!
『これぞドラゴンたる証、ブレスだ!』
『どっからどう見てもタコだろ』
呆れて呟く十三の眼前にクルールーが触腕を伸ばす。
『見て?ほら、見て!ドラゴン』
そう言われてよく見ると十三がタコの触腕だと思っていたものの先に竜の頭が着いていた。触腕一本一本が竜(西洋的なドラゴンではなく東洋の竜)のような姿をしていたのだ。
『なるほど…九頭のドラゴンか』
そう言いクルールーの大きな頭を見る。しかしこの頭はやはり竜というよりタコの頭だ。そのタコのような顔は「やっと理解してくれたか」と満足げに見えた。
『せめて足とかあればもうちょっとドラゴンっぽくなりそうなんだけど』
『足なんて飾りです。偉い人しかわからんとです』
『お前、その手のネタどっから仕入れて来てんだよ?』
『あっ、もう時間がない!少し端折りながら説明するけど、俺はクルールー。ノレイエの守り神だったんだけど、護るべき民がいなくなったんで異世界転生することにした!異世界でどんな愉快なことに出会うか考えると俺ワクワクしてくるぞ!』
呆気にとられる十三にふと思い出したようにクルールーが一方的に説明を始める。
『でも異世界転生の儀式の際にちょっとヘマをしてしまった。まー、お前を巻き込んで事故で死なさせてしまっただけなんだが』
『死なせただけってなんだよ!?』
『見込みあるなら助けようかと思ったけど、お前もう手遅れだったんで』
『手遅れとか言うなよ!努力しろよ!神さま!』
『まー、悪いとは思うんで、俺が元いた世界に転生させることにしたんで。ま、日本に比べたら色々不便はあるかも知れないけど、生まれ変わった気持ちで頑張ってくれ。あ、いや実際生まれ変わるのか』
と、九つの顔が笑う。
さらに抗弁しようとする十三を無視して、
『おまけでお前が成りたがってた石油王にしてやるからそれで勘弁な!詳しいことはこれ食べれば解るから』
と、一方的に告げたクルールーは十三にホタテのようなモノを渡し消えた。
そして十三は目を覚ましたのだったが。
「まさか、夢じゃなかったとはね」
それが現実だとようやく理解した。
(そういや石油王にしてやるって言ってたけど…)