石油王転生 一
磯の香りで十三は目を覚ました。
(ん?いつの間に寝落ちしたんだ?)
ハンドルに覆いかぶさるように寝ていた自分に驚く。無理な体勢で寝ていたせいか、背中や腰が痛い。
元々劇場公演観覧のあとは高速を使わずに下道を帰る都合上同日中には家に着かない。だから毎回途中の道の駅で車中泊をするようにしていて、そのこと自体も十三にとってはちょっとしたキャンプ気分の楽しみとなっていた。
だが、昨夜は道の駅に入った記憶がなかった。
(よく事故らなかったな)
肩を回しながらふとそう思い、…思い出す。
「あれ!?俺、事故らなかったか?!」
たしかよそ見していて歩行者に気付くのが遅れ、慌ててハンドルと切ったものの雨でスリップしてしまいスピンしてガソリンスタンドに突っ込んだはずだった。
不思議に思って周りを見回すと愛車が壊れている様子はなかった。
「ここは昨夜のスタンドっぽいな」
昨夜激突したはずの給油機が愛車の横に立っている。よく状況を理解出来ないままにクルマから降りて見る。
そこは間違いなくガソリンスタンドだった。「ハッピー満タン!」のコピーでお馴染みのコズミック石油の看板が目に入る。
「ってか、ここどこだ?」
スタンドに気を取られていて気付くのに遅れたが、改めて十三が周囲を見ると、視線の先には海があった。
(そういやさっきから磯の香りがしてたな。とはいえ…)
昨夜は山道を運転していたはずだ。いくら夜で暗かったとはいえ海沿いと山道との区別ぐらいはつく。何より公演を観に行くために通い慣れたルートだ。「自分は海辺を運転してなかった」と十三は確信を持って言える。
「どうなってるんだ?」
疑問に思いながらも十三はガソリンスタンドから海の方へと向かう。
「ん?」
足元に違和感を覚え視線を落とす。
(舗装されてない)
海へ続く道は整備こそされてはいるようだったが、アスファルト舗装はされてなかった。
「向こうに見えるのは港か…。一体どうなってるんだ?」
視線の先に港湾施設らしきものを見つけそう呟く。と同時に昨夜見ていた不思議な夢を思い出す。
『オッス!俺、神!ノレイエの守り神であり漂着物の神でもあるクルールーだ!』
アニメや特撮物で見るようなキラキラ光る謎空間に漂う十三の前に現れた巨大な物体が気さくにそう宣言した。
その姿はまるで…