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カテゴリ【異世界もの】

成長魔法を開発したら全ロリコンが敵になった

作者:寛喜堂秀介

 常春の王国、エルバニア。
 戦のない平和なこの国で、ある偉大な魔法が開発された。


「やった! やりました、成功です!」


 王都魔法院の一室、若い女魔術師は魔法陣と、その上にある魔術の成果の前で顔を輝かせた。

 ここまで来るのは苦労の連続だった。
 魔法陣の細かいチューニングのために、徹夜の連続は当たり前。
 触媒となる素材を模索するため、あるときは大枚をはたいて、あるときは自ら現場で戦い、あらゆる素材を手に入れた。

 なにより、天才と呼ばれる彼女――リリスが実に五年の歳月をかけて、やっと成しとげた。
 その事実が、この魔法開発の非常な困難さを示している。

 魔法陣の上では、ウサギが無の表情でもふもふと草をかじっている。
 つい先ほどまで、子ウサギだったそれは、完全に成体になっている。


「……成長魔法」

「あ、これは、マーリン老師せんせい!」


 リリスは、部屋に入ってきた白ひげの老魔法使いに背筋を正す。

 王都魔法院の院長、マーリン。
 白く長い髭に、ゆったりとしたローブ。樫の長い杖と、おとぎ話そのままの姿の老魔法使いは、若い魔術師の師でもある。


「対象の発育を促進する魔法……ついに、ついに成してしまったか……」

「老師?」


 恐れるような声で身を震わせる師に、若い魔術師は首を傾ける。


「……恐ろしい。ワシは恐ろしい。その魔法が世に出ることが……」

「ろ、老師。大げさですよ。たしかに自分でもすごい呪文だと思いますけど……使い道なんてあんまりありませんし、なにより動機が、まあ……む、胸を大きくすることでしたし」

「それがいかんと言っとるんじゃーっ!!」


 マーリンが吼えた。
 絶叫だ。魂の叫びだ。


「リリス君! お主が自分の発育が人より遅れていたのを非常に気にしていたのは知っておる! 近所のちょっと気になるお兄ちゃんに妹扱いされっぱなしで歯噛みしてたのも知っておる! 異性として見られるために成長魔法の開発を思い立ったのも知っておる! そのお兄ちゃんが他の女と結婚して自分もそれなりに成長して目的を見失いながらも、おなじ思いを抱く人間のためにと歯を食いしばって研究を続けたことも知っておるっ! じゃがな、じゃがなっ!」


 リリスの肩をつかみながら、老魔術師は涙さえ流して、吼えた。


「――ロリを成長させちゃだめじゃろおおおおおおおっ!!」

「……は?」


 普段は厳格な師の、思いもしない魂の咆哮に、リリスはあっけにとられた。


「幼い少女は幼い少女だからこそ価値があるのじゃっ! まだ未発達な体は大人とはまた違った、世の男たちを惹きつける魅力が確実にあるのじゃ! 大好きなお兄ちゃんから妹扱いされてむくれてる姿なんて震えが来るほどかわいいじゃろ!? それを成長させる? ロリババアならぬババアロリなんて誰得じゃよ!!」

「ま、マーリン老師?」

「いかん! いかんぞリリス君! 幼き頃の君が金髪ロリとあまりにもストライクじゃったからいろいろと支援しまくってきたが、これだけはいかん! まさか開発出来るとは思っておらんかったが、成功してしまった以上、もはや世に出すわけにはいかなくなったのじゃ! この魔法も――お主も!!」


 ふいに。
 リリスを突き離したマーリンが、杖に白い光を帯びさせる。
 マーリンが得意とする、炎系の最上級呪文の光だ。


「ちょ、ちょっとまって下さい!?」

「怨むなら己の天才性と胸以外成長しちゃった自分の体を怨めえっ!!」

「そんな理不尽なあああっ!?」


 王立魔術院の一角を、爆炎が焼き尽くした。
 魔法陣で守られたウサギは、あたりの惨状など気にもせず、無の表情のままもふもふと野菜をかじっている。







「はぁっ、はぁっ……た、助かったぁ」


 追跡呪文トレーサー対策に転移呪文テレポートと全力ダッシュを繰り返してかろうじてマーリンの追跡から逃れたリリスは、息を切らせながら路地裏の壁にもたれかける。


「ようリリス。どうしたんだ?」


 地面に腰を落として、息を整えていると、そんな声がかけられた。
 見れば、ヒグマのような巨漢が通りから顔をのぞかせている。


「あ、グリードさん」


 素材収拾などで世話になっていたベテラン冒険者だ。
 古つわものの貫録を持つ巨漢は、頭をかきながら、リリスに歩み寄ってくる。


「――ちょっと老師に追いかけられてまして」

「マーリン様にか? どうしたんだお前」

「それが……」


 リリスは、事の経緯を説明する。
 成長魔法の開発に成功したこと。
 マーリンがそれに対し、異常に敵愾心を持っていたこと。
 呪文を永遠に封じようとするマーリンに追いかけられていること。


「なるほどな」


 腕組みしながら、それまで黙って聞いていたグリードは、そう言ってゆっくりとうなずいた。


「――それを聞いて納得したぜ」

「わかってくれました? まったく、老師もおかし――」

「マーリン様は正しいっ!!」

「えっ!?」


 思わぬ言葉に、リリスは目を見開いた。


「お前、その呪文を使って自分の胸を大きくするつもりだろ! いかん! それはいかんぞっ! 貧乳は素晴らしい! 貧乳こそ正義! 自分の貧乳を気にしてる女の子とか最高だろ!? 金髪貧乳ツインテールな今のお前が俺のドストライクなんだよ! それが大きくなっちまうなんてとんでもない!!」


 リリスはあっけにとられて声も出ない。


「――しかも! しかもだっ! それが世に出回ってみろっ! この国から貧乳が消えてしまう! この国を、そんな地獄絵図にするわけにはいかねえんだよ!!」

「ちょ、ちょっと、グリードさんっ!?」

「リリス! 悪ぃが逃がすわけにはいかねぇ! ちっぱいのために、正義のために、そんな呪文はあってはならねぇんだっ!!」


 やおら拳を構えた巨漢に、リリスは悲鳴をあげ、腰を浮かせる。


「ぶっ捕まえてマーリン様に突き出させてもらうぜぇ!!」

「うわあああっ! なんでこうなるのっ!?」


 通りに出て全力で駆けだすが、背後から幽霊のような声が響いてくる。


「リーリースーくーん! 観念したまえー!!」


 飛行呪文を駆使してすっ飛んで来るマーリン老師だ。


「うわーん! わたしは小さい子の夢を、ちょっとだけ後押ししたいだけなのにーっ!!」

「それがいかんというのだよっ!!」


 リリスは逃げた。超逃げた。
 追跡を振り切り、王都を離れ、辺境まで来てようやく逃げのびた。

 だが、育成魔法の開発成功。
 この一大ニュースは、一連の追跡劇により、周知の事実となった。
 ロリコンにとって、ちっぱい好きにとって、天敵のようなこの魔法の開発を知った男たちは……立ち上がった!


「諸君! 聞くのじゃ! 同士諸君!」


 王都の中央。鷹の広場。
 ごまんと集まった群衆を前に、顔まで隠した白ローブの男たちが演説する。


「先日、ある魔法が開発された。成長魔法……我らにとって忌むべき魔法じゃ。わかるか、諸君。成長じゃ。幼い子供が、我らの愛するロリが! 大人になってしまうんじゃ!!」


「マジかよ開発者刈ってくるわ」

「ゆるせねえな。ゆるせねえよ」

「見えるぞ、私にも敵が見える!」

「……いや、でも大人なのに中身幼いって結構よくね?」

「異端がいるぞ! 処刑しろ!」


 あぶりだされた異端者が胸毛ふかふかの刑に処せられているのはさておき。


「それだけではない!」


 と、言葉を継いだのは、同じく全身白ローブ姿の、顔を隠した巨漢。


「成長魔法は少女の胸をも成長させる! 胸のささやかさを気にする貧乳少女が、この世から消えてしまうんだ! 許せるのかそんな暴挙を!! 耐えられるか、ちっぱいの居ない世界を!!」


「なんてやつだ許せねえ!」

「マジでキレちまったよ……」

「……でもロリ巨乳ってよくね?」

「これは無罪」

「いや有罪だ」

「キサマ原理主義者か!?」


 なにやら集団でもめ始めたのはともかくとして。
 あらたな白づくめが前に出る。今度のはえらく恰幅かっぷくがいい。


「成長魔法は人類にとって害悪である! そしてその開発者である魔術師リリスは、もはや人類の敵と言ってよい! みなのもの、なんとしてでもかの魔女を捕えるのだ!! そしてお仕置きするのだ!!」


「おい、あれ王様じゃね?」

「ああ、あの声に体格。まちがいねえな」

「王様なにやってんすか」

「いや俺王様支持するよ? 国どころか人類の一大事じゃん」

「完全に正論だな」


 常春の国。平和だったエルバニアに、暗雲が立ち込める。
 だが、男たちが立ち上がった。邪悪な魔法で世界を地獄に変えようとする悪の魔女のもくろみを阻止するために。

 そして物語が始まる。
 男たちが、人類の敵に立ち向かう物語が。


「うわああんなんでこうなるのーっ!!」


 がんばれリリス超がんばれ。
 少なくない数の女の子たちが君の味方だ!




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