蒼白
「生きてるってなんだと思う」
彼女は空を見上げて言った。
「なんとなく生きてると思えたらいきてるんじゃないかな」
まるで哲学的な問いかけに、具体的な答えも出せず、曖昧な表現で返すしかなかった 。それが何となく彼女の期待している答えとは違うんだとは分かった。恥ずかしさからか、彼女の方を見れず、僕も空を仰ぐ。
青く、蒼く、碧く。
雲がたまに流れる。そんな写真のような空がそこにはあった。
「私思うのよ。実はわたし達は生きていないのかもしれないって」
「えっ」
風が草木を薙ぐ。
「だって、わたし達の体なんて、炭素の塊よ。炭と何も変わらないわ。でも、炭を生きているとは私は思わない。だから、わたし達も生きてると思えなくなりそうなの」
彼女は何を思ってそんなことを言っているのだろう。僕には彼女の気持ちを察することはできなかった。ただ、彼女は、なにか達観しているような、そんか様子に見えた。
「死んだ人間と生きている人間、動いているか動いていないか、本当、それだけの違い。寝ている人間だって見た目じゃあまり変わらないわ。わたし達の命なんてあってないようなものなのよきっと」
ふっと彼女のほうを見ると、少し微笑んでいるかのようだった。
風がまた吹き出した。黒く長い女の髪が風に乗ってキラキラと光を反射して流れている。川のようでとても綺麗だった。僕は少しだけ、心拍数が上がったような気がした。
そして、翌日彼女は死んだ。