変態王子!
変態要素が少ないと思いますが、それでもOKという方は読んでくれると嬉しいです。
夢をみたい歳頃である私は、例えばファンだった芸能人が実はオカマでした、みたいなガッカリ感のある展開を味わいたくない。
だから、今。
学校の女子生徒の注目を集めまくっているはずの王子様と呼ばれたイケメンが、息を荒くしながら、体育をやっている女子をガン見しているのを見て。
「(やっべー現場を見てしまった…!)」
衝撃的な事実に、頭を抱えたくなってしまうのも無理はないと思います…!
なぜ、選りに選ってタイミング悪く私が体育の授業で怪我をして保健室に来たら、保健室に居るの⁉︎
「…あの子の足、綺麗だな…」
王子様がボソりと呟いた言葉。
「(変態確定だー⁉︎)」
ひ、一先ず退散しよう…。
保健室には先生がいなかった!
よしOK、それでいこ…
ドンッ
あ。ヤバい、体を扉にぶつけてしまった。
ギギギとブリキの人形のように首だけを王子様が居た方向に向ければ、王子様が此方を見ていらっしゃいました。
「(ぎゃーーー⁈私のアホー‼︎)」
「ねえ、」
王子様はそれはそれはステキな笑みを浮かべて。
「見た?」
コテリと首を傾げました。
「ヒッ…!み、見てません見てません!
これっぽっちも、一ミリたりとも何も見てなんかいません!」
反射的に首を高速で横に振りながら、両手を前に突き出して横に振る。
私の長年の感が告げている…!
見たと言った瞬間、何かヤバイことがおきてしまうと…。
「いや、君のその姿勢からして見てなかったとか無理があるから」
王子様は笑顔のまんま、私の姿勢…つまりは保健室から出ようと体は扉の方に向いているが、首から上は保健室の方…王子様が居る方向へ向けていた。
そして、私には王子様の声が二重にしてはっきりと聞こえていた。
「見ていたんだろ?さっさと言え」とね!
笑顔は真っ黒な悪魔の笑みにしか私には見えないし、気分は最悪だ。
「黙っているけど、どうかしたのかな?」
黙っているのはアンタが威圧感をかけてくるからだよ、この確信犯…!
冷や汗をかきながら、私はこの場を切り抜けるために決心した。
私の得意技だ。それは…。
「すみませんでしたっ!
悪気はなかったんです!
ただ怪我をしたから見てしまっただけで、誰にもバラしませんから見逃して下さい‼︎」
謝る。頭を下げる。命乞い。
かっこ悪いとか、意志が弱いとか、なんとでもいっていい。
この場から逃げられるならね!
「ぷっ、あははっ」
「え?」
突然お腹を抱えて笑い出した王子様。
おかしそうにしながら、彼は笑顔で私の怪我をしている右膝を指差した。
「あの〜、なんですか…?」
「見逃す代わりに、足を手当てさせて」
「はっ⁈」
きゅ、急に何を言ってるんだこの人…‼︎
「じゃなきゃ見逃さないよ?」
イタズラでもするような、意地の悪い表情で彼は言う。
〜っ、あ、足を手当てしてもらうだけ!
そう…それさえやってしまえば見逃されるというなら…。
「わ、かりました…」
私がそう返事を返すと、王子様は「じゃあそこに座って」と言って、ベットを指差す。
渋々ベットに腰をかけ、消毒液などを普通に用意してる様子を見ていた。
というか、勝手に道具とか出して大丈夫なの…?
「あ、あの〜…流石に先生がいないのに道具を弄るのはどうかと、思います、けど…」
段々と勇気がなくなって語尾が小さくなった言葉を、きちんと聞いていた王子様は不思議そうに首を傾げながら、道具を持ってこちらに来た。
「その先生から、誰かが来たら手当てをよろしくって頼まれたんだ。
それに、僕自身も一応保健委員だしね」
「え!…あ〜、なるほど…。
でも、今は授業中なんですけど…」
「体調が悪いって言って、抜けてきた。
僕のクラスは自習だから、勉強面については心配いらないよ」
つまりはサボり、ですか…。しかもちゃっかり、自習の時間に抜けてきてる…。
「そんな事よりもほら、足出して」
「あ、はい…」
意外にも手際良くテキパキと治療をしてくれている王子様。よかったー、流石に怪我人だから放っておけなかっただけか…。
安心したその時、何故か足が撫でられている感触がした。
…まさか、まさか。
下を向いたら、私の足を撫でている王子様がいらっしゃいました。
「(…あ、そう言えば。へ、変態だったー‼︎)」
そうだよ王子様!さっきの呟きで、足が綺麗だとか言ってたよね王子様!
私の馬鹿野郎‼︎なんで忘れていたんだ!
「ねえ。君の足、綺麗だね」
「は⁈」
意味がわかりません!マジで誰か、誰か助けて下さい!先生、カムバック‼︎
「君さ、僕と、」ガラッ
扉を開く音がして「任せちゃってごめんなさいね〜」と言う、保健室の先生の声がした。
「あら?怪我人?」
よっしゃ、チャンス!
「はい、そうなんです!
ちょっと転んでしまって…。
でも、もう手当ては終わったんで、帰りますね!ありがとうございました!」
マシンガントークで私は愛想笑いをしながら、扉へ急ぐ。扉の前に行った瞬間、気が抜けてしまったのが悪いのだろうか?
「あ、ちょっと待って」
王子様に呼び止められ、首から上だけをそちらの方向へ向ける。
「逃がさないから、って言えばわかる?」
獲物を狩るような鋭い目つきをして、満面の笑みを私に向けている王子様が居た。
「っ…」
何故か、心臓がバクバクと激しく鼓動していた。その意味がわからないほど、鈍くなんてない。
私は「あははー、伝えておきますね」と誤魔化して、保健室の扉に手をかける。
「失礼しました!」
保健室から出て、少し離れた場所で私は頭を抱え込んだ。
伝えておくって、誰にだよ!あれは絶対に私への宣戦布告的な言葉でしょ!
……でも。
心臓は今だにバクバク言って、苦しくて。
多分、顔は真っ赤になっていると思う。
「…違う!ぜんっぜん、まったく、これっぽっちも違う!」
気のせい、そう、この気持ちは。
「勘違い。ただの勘違い!」
あんな変態王子への想いなんて、勘違いに決まってる‼︎