第三話 人間の里
人間の里は人間にとって安全地帯である。なぜなら妖怪はもともと人間の恐怖心から生まれた存在であり、人間に忘れられると存在が維持できない。そのため基本的に里の人間は食べてはいけない決まりになっている。幻想郷で食べられる人間は自殺志願者や犯罪者といった死ぬ価値がないとされる人間だ。そのため人間が妖怪に家に招かれたり、あるいはその逆ということはわりとある。ここにも巨大な船が現れていたので早くも騒ぎになっている。異変で人間の里が巻き込まれることはよくあるとはいえやはり不安なのだろう。里のほとんどの人間が集まっている。建物に比べて大きいので少し離れていてもよく見える。そんな人ごみの前の方にまるで魔女のような格好をした少女と彼女に比べかなり背の高い白髪の眼鏡をかけた青年が居る。
「なっ、香霖言ったとおりだろ、それにしても外の世界にはこんなにも大きな物があるんだな。これじゃ借りられないぜ。」
「そのとおりだね。店より大きいから入らないし、買う物好きがいても持っていけそうにないからね。まあ、これが見れただけどもよしとしておこう。」
少女のほうは霧雨 魔理沙、格好のとおり人間だが魔法使いで、魔法の森で何でも屋を営んでいる。もっとも場所が場所なので直接訪ねる客はいないが。
青年のほうは森近 霖之助、妖怪と人間のハーフで魔法の森のそばで外の世界の道具を扱う店を開いている。道具の名前と用途を知る能力持っているが使用方法が分からないので商品を買っても使い方を聞くことは出来ない。とはいえ使用方法が分かった道具の大半は非売品にしてしまうので、こちらもあまり店をきちんと経営しているというわけではない。ただ二人とも人間の里に暮らしていないが、住んでいる場所が妖怪があまり近づかないところだったり、妖怪の血が混じっているので妖怪に襲われることはなく、外の世界の品物や妖怪退治でむしろ里の人間より豊かな生活をしている。
「ところで香霖。これってなんだか分かるか?」
「名前と用途はね、そのために僕を呼んだんだろう。航空母艦『飛龍』、航空機の運搬、発艦、着艦及び整備や修理を行う外の世界の船だね。」
「外ではこんなに大きな船があるのか。ってことは外の世界の海っていうのは大きいんだな。こんなのが動けるんだから。」
「まるで別の海を見たことがあるような言い草だね。まあ地球儀を見れば分かると思うよ。僕の店にもあったんだけど、ちょっと今手元にないんだ。世界地図は正確じゃないからねえ。」
「ところでおぬしら、ちょっといいかの。」
「「うん?いいぜ(よ)。」」
ここで声をかけてきたのは、めがねをかけた女性だ。隣には魔理沙と同じくらいの年の、本を何冊か抱えた少女もいる。
めがねをかけた女性のほうは、二ツ岩 マミゾウ、人間の里では人間のように振舞っているが、れっきとした化け狸である。
少女のほうは本居 小鈴、外来本を扱っているそこそこ人気な貸し本屋の娘である。ただ、店のお金を勝手に使って妖魔本を集めており、妖魔本に関連した騒動を何件か起こしている。そのため霊夢や魔理沙からは要注意人物として扱われている。
「先ほどこの船を、飛龍と呼んでおったがそれは間違いないのかのう?」
「ああ、間違いないよ。僕の能力ではこの船の名がそうだと言っている。それが何か問題でも?」
「大問題じゃ。この船どこも壊れている様子がないじゃろ。じゃがこの船が飛龍なのならもっとぼろぼろのはずなのじゃ。」
「そうですね。昇降機が爆弾によって吹き飛び艦橋の前に刺さったり、火災が起こったり、最終的には魚雷によって沈んだってこの資料には書いていますから。」
「だったら同じ名前の別の船じゃないか?もしくは再現して作ったとか?」
「残っている資料と同じ形をしていますし、70年程前の船にわざわざ再現する価値はありませんよ。」
「おまけに動いていたとはとても考えにくい綺麗さじゃ。完成してから進水もせず、造船所の中に仕舞っておったとしか思えん。じゃが外の世界がいくら広いといってもそんな余裕がある造船所があるはずもない。ましてや忘れられるなどもっとない。」