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LEKI  作者: 或葉
第一章「緋色の夢」
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緋色の夢 6




少年の手の中で輝き続ける宝石が一際大きく煌めき、そして一瞬にして宝石はその輝きを最後に光を失った。

光がなくなると同時に、村の家屋を包んでいた猛々しい炎も強風に吹き飛ばされたように消え去っていく。



「何故だ、何故消えた…!?」



闇色の青年と交戦を続けていたディセンダが辺りを見回し、突然の出来事に疑問の声を上げた。

隙を見出だしたグロスは先程のおかえしと言わんばかりに一際強い剣撃を与えると、月色の青年の剣は弾かれて宙を舞い、手が伸ばせない地面へと突き刺さる。

その際に隣をすり抜けるように駆け出して彼らの包囲を抜ければ、光が発していた兄妹の元へと辿りつくことが出来た――――――が、



「……これは…。」



思わず息を飲んでしまう程、有り得ない光景が目の前に広がっていた。









「………う…、」



体の奥底から何かが這い出てくるような形容しがたい苦しさが、すっと和らいでくる。

何故だろうと閉ざしていた瞼を開くと、粉々に砕け散った何かの結晶が手の中に残っていた。

自らの手に誰かの手も添えられており、一体誰のものだろうと視線を右にずらせば、見慣れた妹の横顔がそこにあった。



「……キア…?」



眠るように瞼を閉じて自らに寄り掛かっている妹の名を小さく呟く。

すると、添えられていた手がするりと滑り、体もゆっくりとバランスを崩して、大地に倒れ込んだ。


一体何が起こっているのか、分からない。


彼女は酷い傷を負っていて、俺は急いで霊術をかけた筈で。

それなのに何故、彼女は自らを抱き締めていたのだろうか。


訳が分からなくて頭を手で押さえ髪の毛をぐしゃりと掴むと、赤い糸がちらちらと視界の端で揺らめき、これはなんだと指でそれを摘まんでみた。

ちくりと頭皮の一部が引っ張られたような小さな痛みを感じ、おもむろに結わえてた髪の毛をほどけば、ばさりと大量の赤色が視界を埋め尽くす。

より訳が分からなくなった俺に闇色の青年が肩に手を乗せて少し落ち着けと声をかけ、彼は妹の傍らに膝を付くと彼女の体をそっと抱き寄せた。



「よく頑張ったな。………助けてやれず、済まなかった。」



その言葉にキアは瞼を弱々しく開き、とても優しく、柔らかな微笑みを浮かべる。

同じく妹の傍らへと膝をついて手を取り、涙を流し始める兄を見て彼女は「だいすき」と、唇だけで言葉を紡いだ。


瞼が小さく震えてゆっくりと美しい空色の瞳は閉ざされていく。

手に込められていた微かな力も抜けて、彼女の呼吸が静かに、止まった。



「………っ、……キア…………ッ!!」



強く、掻き抱くように、もう動く事はない妹の体を抱き締める。

血が抜けて青白くなっている肌からは、仄かな温かみすら徐々に失われていった。












「…帰るぞ、ドルローチェ。」



少年の嗚咽が響く中、今までのやり取りを見詰めていたディセンダは配下である少女に声をかけた。

踵を返し立ち去ろうとしている青年に彼女はお待ち下さいと静止を促し、彼の元へと駆け付ける。



「宜しいのですか?あのままでは、まだ… 。」



少し口ごもりつつ、ドルローチェは青年にそう問いかけた。

しかし青年は少女を一瞥した後、再び歩み始める。



「結果はどうであれ、一番の目的は達成した。…それに、どうやら我々に会いに来た客人もいるようだからな。」



彼の言葉に少女が視界を前に移すと、そこには長く美しい銀髪と透き通った銀色の瞳のまだ幼さを残す少年がこちらを見つめていた。

ディセンダは薄く笑った後に深々と礼をすれば、銀の少年は頭を下げることはないと落ち着いた声で青年に話しかける。

少年には小さな龍の翼のようなものが耳上から生えており、シルクのような純白の衣服と相まって、とても神々しい存在に感じられた。



「お久しぶりです。まさか貴方の姿をまた拝見できるとは思ってもいませんでしたよ、レクシオン様。」

「……こちらこそ、貴方を見かけた時は只の生まれ変わりだと思っていました。どうやって、生きていたのですか?」



レクシオン、と呼ばれた銀色の少年は、月色の青年に対し訝しげな視線を向けて問いかけた。

しかし青年はクツクツと喉奥で厭らしく笑うととても愉しそうな、あまり好意の抱けないそんな表情を浮かべている。

何がおかしいと更に問いかければ彼は少年の目の前まで歩を進めて、 息がかかる距離まで顔を近付けて小さな声で呟いた。



「それを“貴方と同じ”我々に問いかけるとは、随分と意地が悪い。」



その言葉に少年は目を見開き、誰から見ても分かる程明らかに動揺の色を浮かべている。

確証を得ていなかった内容ではあるが、どうやら考えていた事は間違っていなかったらしい。

上がった口角をそのままに、そっと耳打ちをする。



「いや…貴方はもう“我々以上に”変わられてしまっているようだ。」

「…まさか、」



青年は今の反応自体が内容の肯定だと察して近付けていた顔を離せば、酷く愉しげな表情で高らかに笑った。

ドルローチェは密やかな二人の会話が聞き取れなかった為、何の話なのかと探るような視線を向けつつ、二人の言動を静かに見つめている。



「そうですか、貴方ともあろうお方がまさかとは思いましたが……いや、貴方だからこそ…と言った方が正しいのかもしれません。」

「……。」

「私達はこれで失礼致します。次お会いする時は敵同士、かもしれませんね。」



ディセンダは再び銀色の少年に深々と頭を下げて、その場を立ち去ろうと歩を進めた。

ドルローチェも彼に続いて歩み出し、そこには酷く複雑な表情をした少年だけが取り残される。


青年達の状況はある種想定内の範疇ではあった。

しかしまさか自らの状態まで青年に悟られるとは思っていなかったレクシオンは、どうしたものかと溜め息を吐く。

別に知られたとしても困るような状況に今すぐ陥るとは考えにくいが、己が望む結末への妨害に繋がってしまうのではないかという不安がちくりと胸を掠めた。



(…それでも、動かなければならない…か)



おそらく青年達の圧力は道のりを進むにつれて強くなってくるだろう。

けれど、だからといって立ち止まるなど、出来るはずもない。

何の為に今自分は此処に存在しているのかの意義を思い返し、今出来る限りの事をするべきだと、妹の死に対し嗚咽を上げている少年の元へと足を運び始める。

昨日まで美しかったシュレイ村の夕焼けは未だ黒煙に侵食されていて、まるで黒煙の魔物が夕焼けを食らい尽くそうとしているかのように感じた。







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