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LEKI  作者: 或葉
第一章「緋色の夢」
2/7

緋色の夢 2




俺が住んでるシュレイ村は、ちょっとだけ山奥にあるのどかな村だ。

発展している街や城下町などとは違い、観光客が訪れるような所ではないが、鉱産物に恵まれている為に商人の出入りは多く、村の経営はそこで賄われている部分が大きい。

でも誰も欲張る人はいなくて、いつも通りの生活のまま、過ごす人がほとんどだ。

そんなこの村に産まれ育った俺は、なに不自由なく今も妹と二人で暮らしている。


幼い頃に両親は事故死したらしい。

ある日突然二人は帰って来なくなり、次の日に村長が俺と妹を引き取り、育ててくれた。

何の事故だったのかは誰に聞いても答えてくれなかったけど、その度に皆が悲しい目をするから、只の事故ではなかったんだと容易に想像が出来た。

そして、その原因が僕にあるんじゃないかとも、思い始めた。


俺は、生まれつき性別が無い。

男性器も、女性器も、授かっていない。

あり得ない形で産まれてきた、異端種である。


勿論普通に生活する分には全く問題がないから、特に気にしてはいないけど。

逆に周りに気を使わせてしまった所はあったのかなと、思う。

だから少しでも村の皆の力になりたくて、少し変わった事をやり始めた。


このシュレイ村で採れた鉱石を使って、俺は自然と同調して大気の状態を占ったりする事が出来る。

何だか怪しげな内容に聞こえるかも知れないけど、この世界では希少な職業で、世界を構築してる精霊と交信が出来るとも言われている『霊術師』と呼ばれているものだ。

けれど、誰しもがなれる職業ではない。

占いに使われる秘石との契約が成功した人だけ、その権利が与えられるというもので、契約に失敗した人は、二度と契約を結ぶ事は不可能と言われている。


俺が契約したルディ鉱石は、シュレイ村でも貴重な“力の石”だと村長が教えてくれた。

この世界のどの石よりも強く、どの石よりも人を選ぶ頑固な石だと。

だからこそ、霊術師候補はこの石を求めてこの村を訪れるのだという。

正直、どこまでが本当なのかは分からないけれど。

これで恩返しが出来るのなら、と、霊術師になる事に迷いはなかった。




……迷いは、なかったん…だけど、











「もう、もう無理!死ぬ!!」



水の冷たさに耐えきれず、俺は小さな滝の下から逃げ出した。

いくら身を清めるためとはいえ、今はまだ冬から春に移り行く季節。

雪解け水も混じってか、刺すような冷気が体を包んで離さない。

こんなのは何年やっても慣れない、というか無理だ、無理に決まってる。


いくら性別がないとはいえ体は只の人間。

人間は哺乳類の恒温動物だ、変温動物ではない。

水が冷たいのなら体温を下げれば良いじゃないなんて言い分は通用しない。

妙に小難しい言い訳を考えてしまう位には現実逃避したい水温である。

あぁ、タオルは柔らかくて温かくて気持ちがいい、天国だ。



「こーらー!さぼるなー!!」



タオルの温もりを堪能してると、聞き覚えのある少女の声が聞こえる。

それと同時に後頭部にすこーんと何かが当たった香ばしい音が響き渡った。



「…ってぇぇぇっ!何すんだよキア!!」



滝の岩影に向かって叫ぶと、肩までの茶色の髪と瑠璃色の瞳の少女が姿を現した。

彼女はきっちりと儀式装束を身に纏っており、手には後頭部に当てたものとは別の桶を携えている。



「お兄ちゃんがさぼってるのが悪いんでしょ?」

「だからって兄貴に桶投げつけるか普通!?」

「大丈夫大丈夫、このくらいじゃ死なないから。」

「お前、そう言う問題じゃ…っ。」

「はいはーい、後でお説教は受けますんで、今は取り合えずタオルから離れる離れる。」



巧い事こちらの言い分を流しながらタオルを剥ぎ取り、改めて滝の中に戻された。

また身を切るような寒さに襲われ、歯が噛み合わずカチカチと小気味良い音を鳴らす。



「今日は大事な日なんだし、サボるのは禁止だからね。」



有無を言わせぬとびきりの笑顔を浮かべる少女。

どうやら、時間が来るまで耐え忍ぶ選択肢しか選べないらしい。

俺は大きく項垂れて溜め息を吐き、大人しく目を閉じて滝に打たれるしかなかった。






キアは、幼い頃に一緒に村長が引き取ってくれた、一つ下の妹だ。

彼女も俺と同じく霊術師の道を選んだのだが、秘石との契約は失敗。

今は俺の補佐として共に居てくれる心強いパートナーである。

職業柄、女性だと色々と不都合があるかもしれないと心配して、今では俺の事を“兄”として接してくれる、心優しい一面もある子だ。

透き通るような茶髪に、美しい瑠璃色の瞳。

肉親が褒めるのもあれだが、顔立ちも良い方だと思う。


そんな彼女がレキと呼んでいた兄――俺は、顔立ちこそ似ているものの、色合いは少し異なる。

濃い深みのある茶髪に、ガラス細工のような空色の瞳。

髪の長さも儀式の都合上、肩甲骨より下にあるくらいの長さで、更に骨格に至ってはお世辞にも逞しいとは言い難い体型をしている。

その為、女性だと思われる事が大半であり、それを防止する為の一人称と妹の兄発言であった。


霊術師は大半が女性で構成されている。

大きな街に在住しているのは女性の霊術師がほとんどで、被害を被りやすいのもまた、女性の霊術師であった。

何の被害かと言うと身体的な被害も多いのだが、一番は秘石を盗まれる事だろう。


では、秘石を盗んだ相手がそれを用いて霊術師になれるかというと、そういう訳ではない。

秘石は必ず“契約を結んでいる誰かがいる”という事。

つまり秘石は霊術師にとって力を増幅する為の媒体であり、契約で結ばれている為に、その石は自らの精神とも繋がっている。

言わば、もう一つの本体といっても過言ではないのだ。

そしてその石は心の美しさの象徴とも言われており、裏取引では奪われた秘石が通常では有り得ない金額で出回っている、とも聞いた事がある。


だからキアは、表向きは男性として活動していれば良いと思ったのだろう。

男性の霊術師を狙う輩は勿論、秘石を盗まれたという話も聞かないからだ。

お兄ちゃん、と一番最初に呼ばれたときに戸惑いはしたものの、月並みな表現になるが、真意を知った時は言葉がすぐ浮かばないくらいに感動してしまった。


話が二転三転してしまったが、簡単に説明するとこんな感じだ。

契約方法などまだ細かい話もあるが、今はさほど関係がないので割愛しよう。






「よっし、お疲れ様!もう出ていいよー。」



キアの声が聞こえた瞬間に滝から素早く身を乗り出し、彼女が手にしていたタオルを抱き込んだ。

そのまま倒れるように岸に横になると、冷え切った体がじんじんと痛む。

血色は悪く、もしかしたら凍死寸前じゃないかと疑う程、青白くなっていて、震える俺を見てばつが悪くなったのか、悴む両手を両手で包んでくれた。



「私もお兄ちゃんを甘やかしすぎなのかなぁ…ねぇ?レクシオン。」



微笑みながらキアが視線を横に移せば、そこにはまだ子供の白竜が座っていた。

キュイ、と小さく鳴いてこちらに近付くと、温めてくれるかのように背中に擦り寄ってくる。



「お前あったかいなー…背中が癒される…。」

「私もあっためてるんですけど?」

「うん、キアもあったかいよ。有難うな。」



少しずつ元の体温に戻りつつある両手を握ったり、広げたりして感覚を取り戻そうと試みて。

彼女がゆっくりと立ち上がって側にあった道具を拾い上げていく。



「じゃぁ、私は儀式の準備があるから戻ってるけど…大丈夫?」

「あぁ、多分大丈夫だろ。いざとなったらレクに知らせてもらうさ。」



任せろと言わんばかりにレクシオンがキュイと甲高く鳴くと、キアは笑って分かったと答えた。

そして村へと続く細い道へと足を運び、次第に後姿も見えなくなっていく。

見送った後、再び体を横たわらせれば、また背中に伝わる温かさがじんわりと心地よい。

竜は人間に比べて体温が高いのかと考えを巡らせていると、疲れからか睡魔が襲ってきた。


今はまだ朝早い時刻、儀式は日が変わる夜更けに行われる。

寝たらこっぴどく怒られると思いつつも、その睡魔に抗う術を生憎持ち合わせていない。



(少しだけ…寝てもいい、よな)



ゆっくりと落ちていく瞼は口付けるように閉じていって。

まどろむ意識は、徐々に黒に塗りつぶされていった。




















「君は、本当にそれでいいんだな…サウス、」



白い壁の内装に紅の絨毯が敷かれている部屋で、自らと対峙している黒髪の男性は、苦しそうに声を搾り出した。


美しい月色の瞳で私の体を射抜いたまま、彼はゆっくりと近づいてくる。

自身は微動だにせず、ただ、それを見つめていた。






そんな顔、しないで


貴方を苦しめたい訳なんかじゃないのに


どうして、声が出ないの






「俺は……お前を止める、絶対に。」



彼は腰に携えていた剣を鞘から抜き去り、その鞘を床に放り投げて。

切っ先を真っ直ぐ、こちらに向けた。






違う、違うの


本当は、本当は―――


























ゆさりゆさりと、肩を揺さぶられている感覚がする。

その振動で瞼を開ければ、眼前に白い鱗が視界に入った。

か細い声を出し自らの体全体を使って、必死にこちらを押すように揺さぶっていて。

徐々に体を起こすと高く一鳴きし、早く帰ろう、と服の裾を引っ張って訴えてくる。



「分かった分かった、今行くから。」



レクシオンの頭を撫でてぐっと一伸びすると、木漏れ日が先程より弱くなっているのが分かった。

もしかしたら、あれからかなり時間が経ってしまっているのかもしれない。

ああ、これは間違いなく怒られるかもしれないと、空笑いが思わず唇から零れる。

まるで先導するように前を歩く小さな白竜に和みつつゆっくりと立ち上がり、服についた汚れを払って村へ続く道を歩み出した。










「あ…、おかえりなさい。」

「ただいまー…って、どうした?何かあったか?」



家に帰宅すると少し困惑した面持ちで佇むキアの姿があった。

聞いてみればどうやら妙な事を尋ねてくる客が訪れてきた、という話で、今日は大事な儀式があるからと断っても、どうしても本人と話がしたいの一点張りらしい。



「明日ならって言っても、今日じゃなければ駄目なんだって…どうしよう。」

「その前に、妙な事って何を聞いてきたんだ?」

「…確か、“緋色の夢を見ている人を知らないか”って。」



キアの言葉を聞いた瞬間、静かだった心臓がどくりと跳ねた。

“緋色の夢”とは、昔から見ているあの夢の事なのだろうか。

何故その人物が“緋色の夢”を知っているのだろうか。

あれは、ただの夢の筈なのに。



「…レキ?どうした、の?」



思わず顔に出してしまったからか、キアが怪訝な表情でこちらを見つめてきた。


ああくそ、失敗した。

こんな事で彼女に心配をかけたくなんかなかったのに。



「いや、何でもないよ。それよりキア、その人は何処に居るのかな?」

「え…、一応、奥に通してあるけど…。」

「分かった。ちょっと話してくるから、何かあったら呼んで。」

「………うん…。」



何か言いたげなキアの頭を撫でて、家の奥へと足を進める。

外の道に面している日当たりのいい左端の部屋は仕事用の相談所になっていて、大抵の依頼者はそこで一度話を聞く決まりになっていた。


いつものように話を聞くだけだと自分を言い聞かせても、心臓の鼓動は治まる事を知らない。

そして、どうしてこんなに焦燥しているのかすら、分からない。

けれど、どんな些細な内容だったとしても、あの夢の真相に少しでも近付きたかった。

それほど自分はあの夢に縛られている気がして、堪らないのだ。



「失礼します。済みません、お待たせしまし…た……、」



こんこん、とノックをした後、扉を開けて部屋の中に入ると、そこには夢の中で見た、黒髪の男性が待っていた。






















先程から何度溜息を吐いたのだろうか。

何故こんな不安に駆られるのか分からず、やらなければならない儀式の準備に身が入らない。

そうか、朝から休みなしだからだと思い立ち、外の空気を吸おうと玄関の扉を開けた。



「おや、キアさんじゃないですか。」



すると家の前には自分の名前を呼ぶ、一人の商人が立っていて。

その人の特徴から、すぐに見知った人物だと気付いた。



「お久しぶりです、カーライドさん。」



カーライドという人物は、シュレイ村とカトデリア街を三年前から行き来しているこの村のお得意様。

商人だからこその巧みな話術は勿論とても人当たりの良い性格をしていて、更に金髪碧眼という見事な容姿も兼ね備えている為、男女共にとても人望が厚い。

同じく三年前から霊術師をしているレキや補佐のキアを、とても気にかけてくれている人でもある。



「今日も鉱石の為に?」

「いや、今日は儀式の日だからね。それを見に来たんだ。」



彼はそう言ってにこりと微笑むと、次にレキ君はどこだい?と告げてきた。



「えっと…今、家にお客様が来ていて。」

「儀式の日にお客様、ねぇ。断らなかったの?」

「断ったんですけど、どうしてもって言われてしまって…。」

「非常識な客だなぁ…この村を知っているなら普通は遠慮する筈なのにね。」



珍しく毒のようなものが含まれているなと、キアは少し苦笑する。

けれど儀式がある為占いは遠慮してもらっている事を伝えると、青年はまたふわりと微笑んだ。






「それならいいんだ。」






それはとても、綺麗な笑顔で。

そしてとても、恐ろしい美しさで。


思わず唾を飲んだ音が聞こえてはいないかと、心配になるほどに。

いつもの彼とは明らかに雰囲気が異なっていた。


話題を変えようかと言葉を選んでいると、彼から儀式の準備を手伝わせて欲しいという提案があり

是非お願いしたいと、キアはそれを快く受け入れた。

その時にはカーライドの表情はいつもの優しいものに戻っており、内心ホッと胸を撫で下ろす。



「じゃぁ、行きましょうか。」



儀式に使用する布、鏡などを大きな網かごに入れ、それを彼に手渡して。

キアもまた、他の物道具を詰めたかごを持ち、二人は村の中央にある舞台へと歩いていった。







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