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後編

入院から数ヶ月が過ぎた。


やっとちせへのことを思い出しても少し落ち着いて考えられる感じになっていたころ、男友達が見舞いにきた。


親友には事実を話していた。


ただ、誰にもばれないようにできたら病院には来ないでくれ、と伝えていた。


なんできたんだよ?


慌てて、入ってきていきなり彼は言った。


ちせちゃん大変なことなってるぞ!


心がざわついた。


何があったんだ?


…学校きてないよ。


どうして?


援交の噂が広まったこと、疫病神扱いされたこと、

そして不登校になったこと…


全て話してくれた。



がく然とした。


ぜんぶおれのせいだ。


今すぐちせに連絡を取りたかった。


友達に頼んでメールを送ってもらう。


おい、メール戻ってくるぞ。


携帯もかけてもらうが、つながらない。


おれも拒否られている。


当たり前か…


おれが先に拒否ったんだ。おれが勝手に消えたんだ。

おれには何もできない。


お前、ほんとに連絡を取りたいか?

と小さな声で呟く。


なんか彼女、ブログしてるみたいだから…アクセスしてみたら取れるかも。


ブログ?


知らなかった。

初めて聞いた。


彼が続けて言う。


ただ、元カレの立場としては読みたくないかもな。


そんなこと気にしない!

そのサイト教えてくれよ!

そこに、ちせは存在する。

ただ自分の目ではもう読むことができない。


彼に頼んだが、それはちょっとごめん、と言って申し訳なさそうに帰っていく。


呆然としていたとき、


体調はどう?


母親が入ってきた。


母さんお願いがあるんだ!叫びに近かった。


面会に来た母親に、友達から聞いたサイトにアクセスしてもらうよう話した。


母さんは、はいはい、と言ってちせのブログにアクセスしてくれた。


しかし何も声がない。


しばらくして母親がやっと口を開いた。


これ、ほんとにちせちゃんなの?


おれは頷く。


なんでこんなことに…

母親は驚いた様子。


ぜんぶおれのせいだよ。

おれが告白してしまったから。


…それにしても完全に別人じゃない。


いや、ちせは変わってないはず。


自分の道が見えなくなってるんだ。


おれの目が見えなくなったように。


気持ちは、わかるけど今のあなたに何ができるの?


ちせちゃんには悪いけど、もう忘れなさい。


おれは頭をふる。


母さん、いいから書いてることぜんぶ読んでいって。


すべてを読みおえて、母親はため息をついた。



おれはただ呆然として涙さえでない。


たちの悪いアダルト小説を聞いてる感じだった、妙にリアル過ぎる内容。


しかも、あのちせがと思うと悪い夢を見てるとしか思えなかった。


心がカラカラと音をたてる。


大切なひとの人生を、おれが変えてしまった。


そして、いま、彼女を死に導いている。


死のカウントダウン…

おれのせいで、愛するひとを殺すのか。


おれがあのとき声をかけたせいで。



母親は冷静に言う。


ここまで来たらもう無理でしょ、少なくともあなたにはもう何もできないんだし。


しばらく考えて出た言葉は…


母さん、おれの分身になってもらえない?


もうおれ母さんにしか頼めないんだ。


おれがちせを救わないと、誰が救うんだよ!


でも、どうやって?


母さん、書き込みしてくれないかな?


なんて書くのよ?


タイトルは、山姥よりって

母親が目を見開く。


なんで山姥なの?


わたしお婆ちゃんじゃないのに。それに今どき山姥ってねぇ。


嫌そうに愚痴をこぼす。


今のちせを消し去るには、人間じゃだめなんだ。


普通の相手じゃあいつの心にもう届かない。


冗談で言ってるんじゃない、そう理解してくれた母親は、山姥としてちせとやり取りをしてくれた。


おれが言うとおりメッセージを打ってくれた。


何度かのやり取りで目的は果たせた。


はい、ちゃんと呼び出したわよ。これでよかったのね。


で、わたしが彼女に会ってあなたが消えたわけ、目が見えなくなったことを伝えたらいいのね。


うん、お願い…


悪かったって謝っておいて。おれずっと見守ってるから、死なないで生きるようにって。



あそこまで落ちて、それはどうだろうね。


母親はそう言い残して病室を出ていった。



待っている間、あの二週間のことを思い出していた。

楽しかった時間。

あの時間が続けば、ちせは前のままだったのだろうか。


たとえこんなおれだと気づいても笑顔でいてくれたのだろうか。


ちせ…

小さく呟く。


時間だけが過ぎていく。

同時に不安は増していく。時計の針は止まらない。

薬が効いてうとうとする。


コツン。


音がして母親が起きてるかと、声をかけてきた。


母さん、こんな夜中までどこに行ってたの!


母親がおれを睨み付ける。


何言ってるの、頼まれたことちゃんとしてきたんだからね。


おれはほっとした。


もう大丈夫なんだ。

ちせは死なないんだ。


安心しすぎて、それから自分が何を話して、母さんが何て返事をしたのか覚えてなかった。


ちせのことでいっぱいの頭には何も入ってこない。


真っ暗な目の前に笑顔のちせが映る。


また、あの笑顔のままの彼女に戻ってくれる。


ちせの笑顔に浸っていた。


そのとき母親とは違う声が耳に届いた。



なんで話してくれなかったの?


わたしじゃ頼りにならなかったの?


突然の声。


これは…



見えなくても、わかる。


愛しいこの声。


おれの心の居場所が、そこにあった。

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