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~1章~

俺達が出会ったのは10年前、雪が解けて冬眠をしていた動物がおき始める頃、

百姓である当時14歳の俺、桜嗣(おうしは毎日畑仕事の手伝いをしていた。

この時期になると、土を掘り返したり、種まきをする。

こんな作業は小さいときから慣れているが、雄一慣れないのは・・・・

「おい、侍さんが通るぞ。頭を下げ」

畑を耕していた親父が小声で種まきをする俺を呼びかける。

左から刀をさして堂々と2人の侍が通ってくる。俺たちは道の端まで行き、軽く頭を下げた。

すると、侍の一人が俺達のことを気づいて声をかけてきた。

「おーー!久しぶりだのー、元気にしておったか?」

「へ、へぃ、おかげさまでこの通りピンピンしております。」

「そうかあのときは災難じゃったのう!まさか、水田に落ちて風邪で寝込むとは思わなかったわ。がはは!」

大声で笑い、そばにいた侍も口を押さえてクスクスと笑う。

親父は恥ずかしいのかずっと頭を下げたままだった。

今ここにいる侍は、親父を蹴落とした張本人だ。

俺は少し頭を上げ、侍に睨む。

「ん、なんだ?小僧、その目は?」

低い声で問う侍。

親父が横目で俺を見ると、顔を青くして俺の頭を掴んで深く頭を下げさせた。

「す、すみませんお侍様。なにぶん、子供ゆえどうか許してください」

親父は震えた声で謝った。侍は鼻で笑い、腕を組んだ。

「ふん!今回は許してやる。わしの寛大な心に感謝するんだな。

だが、次に同じ事をしたら、子供いえど容赦はしないぞ。」

侍はそういう残してその場を去った。

頭を上げ、姿が見えなくなったことを確認すると、親父は俺に向き合った。

「あの態度は何だ?」

低い声で問いかける親父。俺は下を向いたまま答えない。

「昨年わしが言ったことを忘れたのか?相手は侍でわしらは百姓だ。許してはくれたものの、もし許してくれんかったら、お前もわしも斬られたかもしれんのたぞ」

「・・・・・」

「・・・お前まさか、あのときのことをまだ怒っているのか?あれはもう過ぎたことだ。もう忘れろ」

「・・・忘れるかよ」

その場を離れるように走った。後ろから親父の声が聞こえ、足を止めた。

「桜嗣!どこにいくんじゃ!」

「田んぼの手伝いは終わった!どこに行ったていいだろう!」

そう答えるて、再び走った。

小川沿いを走って、山近くの階段を走りながら駆け上がってたどり着いたのは一本杉のご神木がある神社だった。

気づかないうちに息が上がっていた。

空は茜色に染まって、東から月が昇ってきている。

「あーー、もうそんな時間か・・・」

休憩しようと本殿近くの階段に座る。

「たっく・・・・・俺たちは何も悪いことしてねぇのに親父はすぐにペコペコと頭を下げやがって、なんであんなひ弱な人になっちまったんだよ・・・」

ボソボソとつぶやいていると、近くで泣き声が聞こえてきた。

誰か泣いてるのかと気になって、声が聞こえる方に行ってみた。

本殿の左にしゃがんで泣いている子供がいた。

「おい、こんなところで何してんだ?」

子供はビクッと肩を跳ね上げ、ゆっくりとこっちを見た。

――――これが、光夜との出逢いだった―――

パッチリとした目に泣いた後が残っている。結い上げた髪が女のように見えた。

子供はただ、俺を見ている。

「お前、泣いてたのか?」

「な、泣いてなんかいない・・・」

子供は立ち上がって、目をこすった。泣いてといって声が鼻声になっている。

「ここじゃ、見ない顔が何かあったのか?」

「・・・・・さっき、ここの村人にいじめられて着物がボロボロになったから怒られるの怖くて・・・」

鼻をすすりながら話してくれた。よく見たら着物に土埃に泥がついていた。

俺は子供に近づき、しゃがんで土埃を払った。

「ほれ、これで着物綺麗になったぞ。だから、いつまでメソメソするなよ」

「・・・・・ありがとう・・」

照れくさそうにお礼を言う。払い終えて立ち上がり子供を撫でた。

「これでいいぞ、もうなくんじゃねぇよ。」

「はい、ありがとうごさ・・・・ありがとう・・・・」

なにか言いかけて言い直し、頭を下げた。

・・・・・礼儀いいなこいつ・・・

「あの、お名前を聞いてもいいですか?」

「んあ?あーいいぞ。俺は桜嗣だ。見ての通りの百姓だ」

「僕は、光夜です。あの、いつもここにきているんですか?」

「んーー、たまにここで剣術の練習に来るな」

「剣術の練習をしてるんですか!」

光夜が身を乗り出してなんだか興奮している。思わず、後ずさりしてしまった。

「あ、あー、そうだけど。何?興味あるの?」

「うん、前からやってみたいと思ったの!でも父上が許してくれなかったから、なかなか通わせてくれなくて」

今度は落ち込んでしまった。

変わっているな。こいつ・・・・

さっきまで泣いていないのに、急に元気になったり落ち込んだり。忙しい奴だ。

「親の許可を入れなくても、勝手に練習すればいいだろう。そこらへんに剣術道場があるんだしさ。」

俺の場合は、貧弱で頼りない親父の変わりに家を守ろうと家族には内緒で近所の道場に通うようにした。

剣術の先生には太刀筋が上手とほめられる。

「でも、あとで親に知られてしまったら・・・・あ、そうだ!」

何か思いついたのか、目を大きく見開いて大きな声で叫んだ。

「桜嗣さん、僕に剣術を教えてください!」

「・・・・・・はっ?」

少し間を開けて聞き返した。

いきなりなに言い出してんだ。俺に剣術を教えてくれって、何考えてんだよ。

「もちろん、ただには教えようと思いません。何か欲しい物がありましたら、何でも差し上げます。

それが、剣術を授業料です。」

「・・・・何でも・・か?」

「はい!」

いい返事をする光夜。それほど、集められる自信があるのだろうか?

少し試してみるか。

「それじゃー・・・・薪が欲しい」

「薪ですか?随分手に手に入りやすいものが欲しいんですね」

「こっちはいつも畑仕事で忙しくて、薪を割る暇なんてないんだよ。薪があと少ししかないから大量の薪が欲しいんだよなー」

光夜は唖然と俺を見る。

ちょっとわざとらしかったか・・・・・?

「薪でいいのですか?」

俺は半ば不安だったが、光夜はキョトンと首をかしげた。

「え?あーー・・・・うん、薪がほしい」

「わかりました!明日昼にここに持ってきます!」

満面の笑顔でいうなり、神社から去った。

・・・・・・めんどくせぇことになっちまったな・・・・・・







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