5話目
今日、初めて自分の左手を見た。
そう言うと不思議な感じだが、実際そう感じたのだ。
どういうことかと言うと、包帯でいつも巻かれている左手の包帯を外した。
そして、直で左手を見た。
自分の左手は…一言で言うならボロボロだった。
意識不明の3ヶ月半と目覚めてからも、動かしもしなかった。
その為、筋肉が落ちてやせ細っていた。
それに加え、事故で出来た長さ20cmくらいの生々しい傷跡。
手首に走る数本の傷跡。
それから他のところにも多数ある痣が左手にもあった。
『どんな大事故だったんだろ…。』
そんなことも考えて傷跡を眺めていた。
でも手首の数本の傷跡は…何か可笑しい。
「ん?あぁ…その傷は古い傷ですよ。最近のじゃないです。」
通りすがりの看護師はそう言った。
そして俺をチラッと見て去って行った。
『全く…過去の自分は何をしていた?』
「えッ!?顔の傷跡を残すの?」
お母さんがそう叫んだ。
お母さんやお父さんと呼ぶのには抵抗がある。
赤の他人がいきなり「親なのよ」ときた感じ。
いや、そんなことより顔の傷の話。
俺は事故で右頬にスパッと10cmくらいの傷がある。
この親たちはそれを手術で治すと考えていた。
俺はそれを知ったから断ったところだ。
「凪ちゃん、どうしてだ?」
お父さんも驚いて聞いてくる。
「顔の傷は目立っちゃうのよ!?女の子なのに…。」
お母さんはオドオドと泣き出しそうになっていた。
「目立ってもいいです。自分で残すと決めたので。」
俺は静かに言い放った。
実際、俺はまだ顔の傷は見たことない。
自分の顔は鏡で見たが、包帯で右半分は見たことがなかった。
だからどれくらい目立つか知らない。
でも…いいんだ。