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10話目
初っ端の担任の言葉のおかげか所為か。
俺は初めての学校生活にそこまで苦労しなかった。
つーか、むしろ家の方が苦労する。
ギャアアァァ!!!!!
何度聞いてもビクッとしてしまう弟の巧の泣き声。
最初に人見知りと聞いたけど、異常だ。
母親に懐かないのに、
「ああ、凪ちゃんごめんなさいね…」
俺には懐いた。
「うあ、あああ」
巧のヒステリックな声が落ち着く場所がある。
それが母親の腕の中ではなく俺なのだ。
「いえ、大丈夫です」
だから家ではもっぱら巧の世話だ。
と言ってもそんな大したことはしてない。
あぐらかいていたら膝の上。
ゴロゴロしてたらその隣。
巧がただ俺の近くにいるだけだ。
『何だっけなぁ』
唯一懐かれた身として複雑な感情があるが、何かを思わずにはいられない。
『この、澄んだ目は…何だっけ?』
初めて会った時から感じている。
『おい巧、お前は何を知ってる?』
俺の記憶は3ヶ月分貯まろうとしている。
だけど何も戻って来ない。