卑劣白書!~俺たちのクライシス・モメント3~
こんにちは。こちらのページを開いていただきありがとうございます。
こちらは『半目勝負!~俺たちのクライシス・モメント~』と『紳士協定!~俺たちのクライシス・モメント2~』の続編のような短編になります。
今回は卑劣なクラスメイトをやっつける話です。
状況説明もちょこっと入っていますので、この短編だけでも問題なく読めると思いますが、よろしければ前作の六人が登場しますので、そちらもお暇な時にお読みいただけたら嬉しいです。
2月。バレンタインの三日前のこと。
―――「なるほど。つまりあのクズがそう言ってお前を馬鹿にしてきたと?」
雄士が腕組みしながらこう訊いた。
今、雄士が誰の話を聞いているかって?
おとなしめで弱弱しい感じのヤマダ君という子。
咲太郎は苦笑いをして溜息をついてるし、烈は面倒くさそうに雄士の後ろの席で片手を前に投げ出して、その上に頭を乗せて一応話だけは聞いている。
俺はというと、一応真面目な顔で聞いてはいるけどはっきり言って面倒くさい。
ものすごく追い詰められたような表情で、俺たちに話したいことがあるというから一体なにごとがおこったのかと思うだろ、普通は。
何か俺たちに意見したいとか、忠告であるとか、そういうことかもしれないと思ったからわざわざ残ったってのに、クラスで酷い目に合いそうだから助けてくれだと?
俺らからしたら、こいつ、なんて図々しいことを言ってくるもんだと思う。
咲太郎が酷い目にあった時もそうだけど、俺が悲惨なことになった後だって、何か言葉をかけてくれたわけでもなかったし、一緒に憤ってくれたとか、そういったアクションが一切なかった奴なのに、よくもまあ俺らにそんな相談をもちかけられるものだと思うよ。
相談内容は、この弱弱しいヤマダ君を苛めてくる奴がいるらしいってこと。
あーそりゃおかわいそうに!
そのいじめっ子、というのが烈がものすごく嫌っている奴だ。
そいつは以前、俺らの仲間の一人、燐に後ろからそっと近づいて牛乳を頭からかけた卑怯者。
それをすることで奴の親分たちを喜ばせたってわけ。
つまり典型的な子分気質のキョロ充野郎だ。
くだらなすぎて頭が痛くなるような話なんだけど、そのキョロ充野郎というのが田尻という奴で、そいつがうちの学年の男子複数名と他校の女子とでカラオケ合コンをしたらしい。
それでその幹事をヤマダ君にやらせたそうだ。
ヤマダ君はひょろひょろのガリだけど、背は標準くらいで顔はわりとカワイイ系。
女子によっては『おっ、優しそうでいいかも?』って思うような容姿の子。
だから女子との連絡役にはもってこいの人選だったんじゃないかとは思う。
その結果、カワイイ系のヤマダ君が田尻のクソ野郎が狙っていた女の子から告白されたことがきっかけでちょっとしたトラブルになったらしいんだ。
クラス中の噂になってたけど、マジくだらねえ。
ヤマダ君によると、田尻の野郎がもはや堂々とこう言ってきたらしい。
――『今後も俺らと一緒にいたいなら、自分の立ち位置を甘んじて受け入れろ。今の段階では対等だと思うな』だと。
何様か?キョロ充野郎め。
田尻の野郎は最近やっと落ち着き先ができたらしい。
その落ち着き先の仲良しグループでは、以前のように奴が憧れるクラスの中心人物なる勘違い野郎は一人もいないので、必死になって媚びをうったり、ヨイショをする必要ながなくなったらしく、田尻はかなり張り切って過ごしているようだ。
実は、その田尻の憧れのクラスの中心人物さんたちは、卑劣な事件を起こして退学になった。
そのせいで田尻の居場所はなくなり、しばらくの間あっちこっちフラフラと居場所を求めて彷徨っていたんだが、その苦痛の日々は終わりを告げたそうな。
田尻が選んだのは小柄で細めの体格で、それなりにお調子者気質がある奴ら。
それでいてリーダーシップはなく、まわりの顔色を窺いながら物事を決めるタイプ。
互いの家での泊まりを含んだ交流を好み、親も交えたネットワークができているらしい。
成績は中の中から中の下。金はあるので塾通いにも熱心らしく、どうやら塾でのネットワークから田尻はこの居場所を確保したらしい。
俺は、ヤマダ君を含め田尻と一緒にいる奴ら、そのほとんどを好きになれない。
別に咲太郎や俺が退学した野郎共にひどい目にあわされた時に、そいつらが見て見ぬふりをしていたからってわけじゃない……と思う、多分。
確かにそのこともひっかかってはいるさ。
そいつらの顔つきとか態度とか、そういったもの全てがちょっと……という感じ。
正直言って窮地に立たされていた時に、俺たちはそいつらに相談したいとか、協力してもらいたいとか一切思わなかった。
この気持ちは本当に本当だ。
俺たち6人は全員がそう思っていたはずだ。
田尻の新しいお友達さんには温かみとか優しさ、ってものが感じられない。
苦しんでる奴がいると、近くに寄って行きわざと楽し気に振る舞うような奴らだ。
咲太郎が苦しんでいるすぐ横で文化祭の準備をいそいそと始めたりするわざとらしさ!
学校生活を楽しんでいる自分たちに酔ってる薄気味悪さ。
俺が脚を引きずっていた時、なんかコソコソ話した後に『かわいそ』と言ってちょっと笑ったことを恨みに思っているとかじゃないよ?
体育の授業の時に先生に『久慈が腰かけるのにパイプ椅子を持ってきてもいいですか?』とわざわざ訊ねて、先生に『お前いいとこあるな、先生は嬉しいよ』とか言われてニタついてたのを見たからでもないさ。
文化祭でやけにはしゃいでウェイウェイ2号をやってたからでもない(ウェイ1号は退学した。ザマァ)
女々しいと言われようが、卑屈と言われようが、やっぱ根に持ってんだなと言われようが構わないぜ。
なんか嫌いなんだからしょうがないじゃないか!
そんなことを考えてたら自分が情けなくなったけど、急に烈が振り向いてにっこり笑いかけてきた。
時々烈って、こんな風に笑うことがあるんだよな。
俺がなんかこう、恨みがましいことを考えてる時とか、いい感じのダジャレを思いついた時とかに。
俺って思考が顔に出ちゃってんのかな?
あのパイプ椅子の時はマジでムカついたからな。
それともまさか!俺の眉間に皺が?
エリカちゃんに嫌われちまう、ジェントルマンの俺に戻れ!
あ、ほらまた笑ってる!なんだよこいつは、心が読める超能力者か?
まあ、笑いたくもなるか……烈もこのアホの話にうんざりしてんだろうな。
田尻のグループ問題なんて俺たちには関係ないじゃないか!
でもたとえ今、苛められて困ってるからって、よく俺らに相談を持ち掛けられると思うよ。
雄士もよくもまあ辛抱強く聞いてるよ。
このヤンキー1号(俺が密かに命名)は意外と面倒見がいいんだよな。
今度の学年末の研究発表のグループ分けが『5人』か『4人』になるらしいんだが、ヤマダ君が田尻のグループからははじかれそうだから、俺たち4人のところに入れてほしいということが言いたかったらしいけど、驚いたことにその先があったんだ。
なんとヤマダ君はこんなことを言ってきやがった。
もし可能なら、俺らには2人と2人に分かれてもらって、そのどちらかに自分とその他に別の2人を入れて5人グループを作ってほしいんだとさ。
はあ?って思ったけど、雄士がなぜか辛抱強く話を聞いてるんだ。
ヤンキー1号のくせにどうしたんだよ雄士。
誰も口を挟まないので、ヤマダ君の独壇場なんだけど、こんなことを言うんだ。
――『僕の他に二人、かなりおとなしくて暗い子っていうか、控えめな子がグループのことで困ってるんだ。その子達と一緒に組もうって話になって……でもそうなるとあと二人必要で、だから』
そんで俺たちが2人と2人になれと?
くだらなすぎて楽しくなったぜ。
話したいことってのは班分けのことだたってわけか!くだらねえ。
先生に三人で組みたいと言って、無理やりに頼み込めば済むことじゃねえか!
そしてついにジェントルマンは横やりを入れた。
「あのさ、俺らのとこに入れてくれっていうならわかるよ?でもなに?俺らを2人2人に分けさせて、自分を含めた3人と組めとかって。ちょっと勝手すぎるんじゃないか?じゃあ残った俺らのうちの二人はどうなんの?これから誰か相手を探せとでも言うの?」
烈と雄士と咲太郎が振り向いた。
冷静で穏やかなジェントルマンの俺がこんなこと言ったから幻滅したか?知るか!
「それに、なんでいきなり俺らに頼んだのかがわからないよ。はっきり言って一年から同じクラスだったけど、ろくに話したこともなかったよね?なんでまた急に俺らに言ってきたの?」
ちょっとイヤな言い方だったかもしれないけど、このまま人の良い咲太郎あたりがOKしちゃったら俺はヤダ。絶対にそれは拒否したい。だから言ったんだよ。
「そ、それは、和泉とかとは結構話したことあるし、和泉は結構親切だし。だから、」
そりゃそうだよな。咲太郎に狙いを定めて頼み込むのが賢いやり方だろうよ。
ヤマダ君みたいな子にそう言われたら、咲太郎は『別にいいよ』というだろうさ、くっ!
あーあ、俺は余計なことを言ったのか?馬鹿をやったっての?
「久慈はきっと、怪我した時に僕がかばってあげられなかったことを怒っているのかもしれないけど、和泉とはよく話してたよ、本当に気の毒だって。こんなことになって、僕だって本当にかわいそうだって思って、」
「おいてめえ!いまなんつった?気の毒でかわいそうって言ったか?」
ああ、ヤンキー1号が復活か?
なんか後光が差してる。雄士よいつまでも1号でいてくれ。
「えっ、いきなり何?だって気の毒じゃないか、僕はそう思ってよく和泉にもそう言ってたよ。僕はそう言ってたよね?」
ヤマダ君はこう言って咲太郎の方を見た。
咲太郎は答えない。
ヤマダ君がもう一度言う。
「僕はずっとそう思って、和泉によく言ってたじゃないか、久慈が気の毒だって。あの時はあの人達がわざとやったなんて思いもしなかったから、そりゃ味方になってあげられなかったけど、今はちゃんと両方から公平に事情を聞いて、それで結果が出たんだから。だから悪いのはあの人達だったってわかるけど、あの時はみんな知らなかったんだから、だから、」
「はあ?知らなかった?てめえ、同じクラスだっただろうが!見ていただろうがよ!知らなかったとか嘘言うんじゃねえよ。明らかにあいつらが卑劣な真似をしたって誰が見たってわかってただろうがよ。てめえ、あの時かばってあげられなかったことを透が怒ってるとか言ったか?ふざけたこと言いやがって、何様のつもりだ!」
「なんでそんな怒るの?怒鳴ったりして怖いよ。僕が心から同情したことがいけないってこと?でも
僕は、」
ヤマダ君、いやヤマダのキモスが炸裂したぜ。
ヤンキー1号の雄姿も爆発だ。
雄士の雄姿大爆発だぜ。
これ、エリカちゃんに言おうかな。
「大人しく聞いてりゃ上から目線で何を言い出すんだ?わざとかどうかがわからないから味方になってあげられなかっただと?てめえ、それがどんなにみっともない発言かわかってないんだな。そんな奴の相談だかなんだかを真面目に聞いて損したぜ。とっとと消えろクズ野郎」
雄士の雄姿を俺は忘れない。
ありがとう1号、ありがとうヒーロー。
しかしヤマダ君しぶといんだ。まだ言ったよ。
「和泉はどう思うの?僕が心配していたこと知っているよね?」
こいつ!大人しくて穏やかそうだと思った俺は馬鹿だった。
単にアホなだけだったのか。
咲太郎を攻め落とせばなんとかなると思ってんだな、ヤマダめ!
「あんた透の前でよくそんなこと言えるね。ちょっと口を慎んだ方がいいと思うよ。人の苦しみや悲しみとか、悔しさとか、あんたそういうことを全く想像できないんだね」
咲太郎がはっきりとこう言ってくれた。
意外っていうか――いや、もうね、おれは結構泣けた。
心の涙を流したぜ。
でもヤマダめ!まだ言うんだこいつ。しつこ、しつ子さんと呼ぼう!
急にまたどうして強気になったんだか知らんけど、こいつ言いやがった。
なんていったかって?
こうだよ。
――「和泉は温厚だし、いきなり怒鳴り出したりしないちゃんとした人だと思ってたけど、結構毒されたんだね」
「毒された?誰が誰に毒されたって?」
ああ、ついに烈のひと言が入りました。
なんか怖い、怒り狂う前の顔してる。
「べ、別に誰に毒されたとか言ってないよ。環境ってやつだよ、特に誰かを指しているわけじゃないから」
ヤマダよ。なんかもう化けの皮がはがれた感じだな。
びくびくしてるくせに、プライドだけは高いのか?
失言を認めろよこのカスが。
と思っていたら烈がもうひと言。
「お行儀の悪い俺たちに毒されたって言いたいんだろ?ヤマダ君、咲太郎をみくびるなよ?咲太郎はめちゃくちゃ口の悪いおばさんに毎日毎日鍛えられてんだよ。その気になれば雄士をも超えるヤンキー3号になれるんだよ。咲をつっついて俺たちを思い通りにしようとか思うなよ。誰に指図されてこんなことを言いに来たか知らないけど……あれぇ、おかしいな?ヤマダ君を苛めてるっていう田尻クンがあそこでコソコソこっちを見ているよ?なんでかな?」
ヤマダが振り向く。
俺らもそっちを向いた。
あらら、田尻とお仲間がこっちを見てニヤニヤしてる。どういうことこれ?
烈がもう一発!
「ヤマダ君の目的はなんなの?俺らに頼んだけど聞いてもらえなかったって言いふらして同情を買いたいとか?もしそうなら、なんか君ちょっとかわいいね。それとも俺らがまたお行儀悪く怒鳴り散らかしたって言いつけるのか?それならどうぞ言ってみちゃってよ。誰彼構わずいくらでも言っちゃって」
「佐倉君って本当にすぐカッとなるんだね。そういう人だって聞いた時はまさか、って思ったけどそんなふうに睨んで怒鳴ったりして怖いよ。そういえば、佐倉君は親御さんからすごく大切に育てられたんだってね。きっと悪さをしても怒られることもなかったんじゃない?歳いって産んだ子はかわいくてしょうがないっていうからね。かなりの高齢出産で大変だったって聞いたよ、普通は無理な年齢だったのにすごいよね、僕は、」
烈のもう一発が出る前に、俺たちからの三発が炸裂した。
――『田尻の差し金か!なるほど、烈への嫌がらせが目的か、このカスが!』
――『あんたみっともない人だね。烈はいま全く怒鳴ってないから』
――『いきなりなんだ?母親の話は関係ないだろうがお前には!』
烈は何も言わない。ただ山田を見つめるだけ。
だから俺たちが言うんだよ。ここで言わなきゃ男が廃るってもんだ。
「田尻の野郎が烈のお母さんのことを昔から色々言ってたのは有名な話だよな?あのクズが親と一緒になってグダグダ言いやがって。だから何だっての?それをここで持ち出してどういう方向に持って行きたいの?まさか、高齢の親に甘やかされて育った烈が、山田君に暴言を吐いて傷付けたとかそんな感じにしたかったのか?あまりにも失礼じゃないかお前」
俺は結構言っちまった。
俺のことだって咲太郎のことだって、あんなに駆けずり回って助けてくれた烈をくだらない言葉で貶めるのは許さないぜ。
烈も言ってたが、自分のことを自分で弁護して守ろうとしたり、これはおかしいと主張するのって本当に難しいことなんだ。
だから俺たちがやるんだ。このクズ野郎が。
しかしまだ山田はしゃべり続ける―――
何かがおかしい。
もしかしてコレ、何かの罰ゲームだったりする?
それか、俺たちからの暴言引き出し大作戦か?
そしてまた烈が俺を見る。そして頷く……
やはりこいつは読心術の使い手!忍!忍!忍!忍者サックラ君か⁈
「それから八木君(雄士)、そんなふうにあんまり乱暴な口をきいてばかりだと、奨学金もらえなくなるよ?もらえないと困るんでしょ?ここの中学は学費はわりと高めだからね。君と同小の子から聞いたけど、受験した時は塾もろくに行かないで親戚のお兄さんに勉強みてもらってたんだってね?すごいね、尊敬するよ。でもこれからどんどんお金かかるし大変だよね、奨学金はあまりに素行が悪いと取り消されることがあるって聞いたよ。人を脅したり、苛めたりとか、そういうことも評価に関わるから気を付けないとね。成績だけじゃないってことを僕は忠告したよ?人に暴言を吐くのは正しくないことだから奨学生は特に気を付けないといけないからね」
そして、ヤマダが笑う―――
雄士も何も言わない。烈と同じように山田を見つめるだけ。
この二人を黙らせたってことで満足したか?
してやったりと思ったか?
ああ、あそこで田尻が笑ってら。
ヤマダは大満足で教室を出てゆく。
田尻達のいるほうへ。
ーーー(ちゃんと録ったか?)
誰かがこう言ったのが聞こえた。
そしてヤマダが頷く。
それを見た田尻が満足そうに言う。
「よし!班には入れてやるから安心しろ。よくやった」
今回は烈と雄士がターゲットか。
なるほど録音ね。だから話が噛み合わなかったのか。
うまい具合に編集でもするつもりなんだろうよ。
クズはどこまでもクズ。
◇◇◇◇◇
さて、俺たち。
「咲太郎、録った?」
「もちろん」
「雄士は?」
「録画もした。最初から全部」
「烈は……撮ってるか、いつも通りに」
「頭の中でも、スマホでも録画した」
当然俺も。
◇◇◇◇◇
素敵な研究発表会がやってきた。
田尻とヤマダのグループの発表がまたすごかった。
テーマは『高齢出産と教育費』――
いくら学校生活に関わることならなんでもOKの研究発表だからってこれはないだろう。
奴は、烈と雄士をとことん傷つけたかったんだろうな。このクズめ。
なんといってもこの二人は田尻の口に“牛乳を拭いたティッシュを突っ込んだという大罪”があるからな。
別のクラスの俺らの仲間、燐に、後ろからこっそり近づいて頭から牛乳をかけてきた田尻への報復で、烈と雄士が大量のティッシュで牛乳を拭いてやり、それを田尻の口に突っ込んで『もったいないから飲め!』と言った事件があったんだよ、秋ごろに。
悪いのは絶対に田尻なのに、このことで怒られたのは烈と雄士だった。
このことでは烈と雄士の親まで呼び出されて厳重注意を受けた。
田尻は“ティッシュ牛乳”で泣いちゃったために、クソ担任の河島から『ふざけすぎるのはよくないよ』と言われただけなのに……
こんなカス担任がいるなんて信じられるか?
でも河島はもうこの学校にはいない。
遠い遠い提携校に飛ばされてさようならしたからもう顔を見ることもない。
さて、この発表。
なかなかわかりやすく仕上がっていた。かなり詳しく調べられていて、先生たちも感心してる様子だったしな。
そして、烈と雄士は無言。
やや俯き加減で辛そうな表情をしている。
隣の席の堀川が「あの二人、さっきから具合悪そうだけど保健室行ったほうがいいんじゃないか?熱でもあるんじゃない?インフルもまだ流行ってるし」と心配そうに言ってきた。
こいつは俺がケガした時も咲太郎が疑われた時にも、俺たちの味方をしてくれた奴だ。
だから俺たちもこいつとその友達とはすごく良い関係だ。
俺が「ああ、ちょっとそうみえるよね」と言うと、堀川が先生に声をかけてくれた。
「先生、八木と佐倉が具合悪そうだから、保健室に連れてった方がいい気がします」
根が優しいやつなんだよな。
でも烈と雄士が弱弱しく笑ってこう言う。
「サンキュ、大丈夫大丈夫。俺たち二人揃って寝坊して朝飯抜きでヘロヘロなだけだからさ」
「いつもの通り遅刻ギリギリってやつ」
「……そうか、それならいいけど」
ああ、田尻とヤマダ、そのお仲間が嬉しそうだ。
してやったりざまあみろ、ってな感じか?
新しい仲間の間で生き生きとリーダーさんをやっている田尻め。
このカスは発表の最後をこんな風にまとめたんだ。
『子どもの進学などで教育費が多くかかる時期に、既に働き盛りを過ぎている高齢出産家庭の親は、平均的な年齢で出産をした親と比較すると一番大切な時期に収入が大きく下回ってしまう可能性が出てくるため教育資金作りが鍵になります。子供に十分な教育を受けさせるためにも長期的な資金計画が必要になると思いますし、生まれてくる子供の健康のためにも無計画な出産は控える方がいいと思いました。発達障害のリスクが高まると言われているのにも関わらず、何も考えずに出産するようなことは控えるべきかと思います。経済が安定した健康的な家庭環境は明るい学校生活にも繋がりますし、教育資金が足りなくて奨学金を借りすぎるというような不幸な子供をつくらないためにも、これから親になる僕たちは真剣に考えていかなければならない問題だと思っています』
この発表に拍手したのはクラスのほぼ半分。
先生も拍手したのは半分弱。
俺たちのヨシノ先生も副担任の家庭科の緑子先生も憮然としている。
俺ら四人を含めクラスの半分は拍手もしないし、むしろ田尻達に軽蔑の視線を送っている。
アホじゃなければ、これが烈や雄士、そして奨学金組への嫌がらせだとわかるからだ。
うちの学校は受験時に幅広く奨学生を募集する。
その種類も豊富で、全額・半額・入学金のみなど――卒業生からの寄付も多いこともあり、かなり手厚く充実している。
いずれも奨学金をとるにはかなりのレベルが必要だけれど、うちの学校レベルの私立中でここほど奨学金の充実した学校はない。
東大進学率も高く、できる奴なら必ず志望を検討する学校だ。
それでも、こんな奴らが入ってしまうんだ。
中学受験なんて、早くから準備して金をかければなんとかなる部分が大きいんじゃないか?
俺はここに入ってそんなことを思ったよ。
だってさ、あんなアホが入ってくるんだぜ?
だから雄士がどれほどすごいかわかる。
地頭と努力が半端じゃないんだ。
自慢じゃないけど俺ら六人はかなり成績がいいから、学力面では先生の覚えがめでたいが、田尻のようなカスや退学になったクズ共とはトラブルばかり起こしていたから、そっち方面では問題児だ。
でも、ヨシノ先生がいつもかばってくれたように、こういう卑劣な真似をしたことは一度だってないからな。
さて、発表が続く。
隣の席の堀川のグループの題目は『本当に楽しい体育の授業とは』――
運動な苦手な堀川は二年になって生まれて初めて体育で『4』を取ったそうだ。
五段階評価での『4』。
一年の時の先生とは違い、二年になってからの体育の先生は運動部の学生寄りの評価を一切しなかった。
競技ごと――例えばバレーだったら最初にまず生徒の実力を見極め、簡単に評価数値を付ける。そして、その競技の最終授業でどれほどその生徒が上手くなったか、努力したか、それを確認して評価を付けてくれるんだ。
最初は軽いサーブもレシーブできなかった堀川が、最終授業で田尻のへなちょこスパイクを見事に上げて、それを俺と烈の連携で点を取った。
あの時、堀川が本当に嬉しそうに笑っていたのを覚えている。
俺は小学校からずっと体育は5だったが、一年の三学期は評価3だった。
そりゃ足を怪我してたから仕方ないかもしれないけど、すごくがっかりして辛かったのも覚えてる。
俺も、二年になってかなり足も良くなってきたけど、長距離や短距離は前みたいには走れない。
それなのに、俺はまた『5』を取れた。
バレーや卓球、バスケも、かなりの伸びがあったと、そう言ってくれた。
だから堀川の気持ち、俺はすごくよくわかる。
こういった評価方法は大学などでは取り入れているところが多いけど、中高ではいまだに生徒の運動能力を横並びにして評価する先生が多いからね。
堀川が皆に『体育の授業で何か印象深いことがある人は教えて』と言ったので、俺はすぐ手をあげたよ。そして言ったんだ。
あの時、バレーの苦手な堀川がレシーブして、俺がトスを上げて烈がスパイクした時、堀川がほんとに嬉しそうだったことを覚えてるっって言ったんだ。
このことを堀川は発表の中では言わなかった。まあ恥ずかしいよな?
でも俺は覚えてるんだ。
烈も「そうそう!あの時はすごく気持ちよかったよな。堀川が頑張ってたのは知ってたから」と言ったりしてさ。
体育の先生もこれを聞いて嬉しそうだった。
この発表には田尻以外のほとんどが拍手したよ。そりゃ当然だろうよ。
◇◇◇◇◇
さて、ついに俺たちの番がやって来た。
気落ちした様子の烈と雄士、そして咲太郎と俺。
題目はこれ。
『いじめ白書/被害者を装う卑劣と仕立て上げられた加害者』――
これを雄士が読み上げた時、ヤマダの顔が歪んだのを見たよ。
その後は俺が続けた。
「昨日、俺たち四人の声が録音された音声が先生に届けられたと聞きました。緑子先生は受け取ってますよね?」
家庭科の緑子先生が頷く。いつも明るい緑子先生の表情は暗い。
「そのことは先生からではなくクラス内の噂で知りました。録音の内容ですが、俺たちがあるクラスメイトを侮辱して暴言を吐いたというものだそうです。そして、怒鳴りつけたり嫌な言い方で脅しているような内容だと聞きました。しかし、俺たちはそんなことをしていません。これは本当のことです。咲太郎が盗んでもいないのに犯人にされかけた時に俺たちが怒り狂った事件はみんなも記憶に新しいかと思うので、俺たちなら怒鳴ったり叫んだりするんじゃないかと思うのかもしれませんが、俺たちは何もされていないのに人を怒鳴ったりしたことはありません。こういった卑劣な嘘で貶められるのは我慢なりません。もともといじめをテーマに発表する予定で内容を細かく詰めていたのですが、昨日、録音の話を聞き、急遽内容を変更いたしました」
こう言うと、早速田尻が手をあげた。
「先生、苛められたというクラスメイトを発表の内容に入れるのはどうかと思います。そんなことをさせるべきではないと思います。そう思いませんか?」
なんともまあ、生き生きしちゃってさ。
先生は何も言わない。
ヨシノ先生も黙って何か考えているようだ。
今日ずっと俯きがちで、発表が始まってからは具合が悪そうにしていた烈と雄士が顔を見合わせた。
そしてまず烈がこう言った。
「緑子先生。河島先生が提携校に転任になり、今は副担任だった緑子先生が俺たちの担任になってくださいました。一年の時から先生を知っていますが、俺は先生をすごくいい先生だと思っていますし、信じているのでこれを言います。先生、提出された俺たちの暴言、今ここで流してもらえませんか?みんなに聞いてもらいたいんです。先生に提出するくらいだから録音した人は余程頭に来てたんだと思いますけど、コソコソ出されるくらいなら、今ここで公開してください。これは俺たちの研究テーマと合致しますので。音声を公開したことでみんなが俺たちを軽蔑したとしても、それが本当のことであるならば……俺たちはその軽蔑を甘んじて受けます」
緑子先生はおろおろして、ヨシノ先生を見つめた。
ヨシノ先生はこのクラスの担任でもないのだが、うちの学校の花形のベテラン教師。誰も無視できない先生だ。
ヨシノ先生がはーっとため息をつく。
「本当に――またあなたたちですね。どうしてこう、あなたがたにはこういうことが降りかかるんでしょうかね?自業自得なんですか?悪いのはあなたたちなんですか?そうなら、もし本当にそうならば、潔く裁かれるべきでしょう」
ヨシノ先生がギロリと睨む。誰をって?もちろん俺たちをさ!
田尻の口元が歪む。片側が大きく持ち上がる。
今度は雄士が言う。
「はい。理由もなく酷い暴言を吐いたというのが事実であるなら受け入れなければなりません。自分でも言ったことを覚えていない場合があるかもしれませんが、それでも、一方的に俺たちが悪いなら、仮に処罰されても仕方ありません」
「その通りですよ。潔く、判断してもらうと言うなら私はそれを止めませんよ。別に、男の子がこのヤローだとか、卑怯者は死ねだとか、あるいは……そうですねクソ野郎とか、消えろクズ野郎とか、カスだ、みっともないだ、みくびるんじゃねえとか?そのうちヤンキー炸裂するぜ、とか?そんなことを言われたくらいじゃ別に私はビクともしませんがね。何もされていないのにそんなことを突然叫び出すような馬鹿がそうそういるとも思えないし、まあそのくらいなら大したことでもないでしょうしね。ですがそれ以上の、卑劣な、卑怯な暴言が録音されているんでしょうねきっと!今すぐ流しなさい、緑子先生。ここにいるみんなが証人になりますし、そういうことを言った人間を厳しく指導するチャンスでもありますから」
ヨシノ先生の視線が突き刺さるぜ!
田尻がちょっとひいてる。そしてオドオドとこう言いだす。
「で、でも先生。苛められた子がかわいそうじゃないですか?こんなところで公開されたら」
「何を言っているんです?その子は録音したんですよ?それをすると言うことは、彼らに酷いことを言われる可能性を考えてあらかじめ録音の準備していたということですよ?余程怖かったんでしょう……彼らに何かを言われた時に証拠となるように、怖くて準備していたんじゃありませんか!相手を信用していないからこそそうしたんですよ。無関係の者がかわいそうだとか、そういうことを言ってもたもたしている間に、もっとひどいことが起きる可能性だってあるんですよ?くだらないことを言わないように。緑子先生、流しなさい!」
ヨシノ先生の剣幕に、緑子先生が蚊の鳴くような声で「はい」と答えた。
そして、俺たちの音声が流された。
幼稚な編集だった。
ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー
――『グループのことで困ってるんだ。その子達と一緒に組もうって話になって……でもそうなるとあと二人必要で、だから、』
ーー(ちょっと勝手すぎるんじゃないか?)
ーー(なんでいきなり俺らに頼んだのかがわからないよ。はっきり言って一年から同じクラスだったけど、ろくに話したこともなかったよね?なんでまた急に俺らに言ってきたの?)
――『そ、それは、和泉とかとは結構話したことあるし、和泉は結構親切だし。だから、』
ーー(おいてめえ!いまなんつった?)
――『えっ、いきなり何?』
ーー(ふざけたこと言いやがって、何様のつもりだ!)
――『なんでそんな怒るの?怖いよ』
ーー(それがどんなにみっともない発言かわかってないんだな。そんな奴の相談だかなんだかを真面目に聞いて損したぜ。とっとと消えろクズ野郎)
――『和泉は温厚だし、いきなり怒鳴り出したりしないちゃんとした人だと思ったけど、』
ーー(ヤマダ君、咲太郎をみくびるなよ?咲太郎はめちゃくちゃ口の悪いおばさんに毎日毎日鍛えられてんだよ。その気になれば雄士をも超えるヤンキー3号になれるんだよ)
ーー(俺らに頼んだけど聞いてもらえなかったって言いふらして同情を買いたいとか?もしそうなら、なんか君ちょっとかわいいね。それとも俺らがまたお行儀悪く怒鳴り散らかしたって言いつけるのか?それならどうぞ言ってみちゃってよ。誰彼構わずいくらでも言っちゃって)
――『佐倉君って本当にすぐカッとなるんだね。そういう人だって聞いた時はまさか、って思ったけどそんなふうに睨んで怒鳴ったりして怖いよ』
ーー(このカスが)
ーーー ーーー ーーー ーーー ーーー
ヨシノ先生が口元を押さえて下を向いている。
笑っているわけじゃない、と思うが妙な顔つきだ。
ヨシノ先生の代わりってわけじゃないが、堀川がこう言った。
「なんかこれ……ブツブツ切れてておかしいと思いますけど。それに話の流れがおかしいよ。こんなふうにいきなり八木が怒り出すはずがないし、佐倉は別に怒鳴ったりカッとなったりしてないじゃないか」
自分の情けない声が流されてしまったヤマダが言い訳がましく言う。
「八木君がいきなり怒鳴ったのはほんとだよ。それに佐倉君はまるで、まるでヤクザみたいに睨みつけてきたんだ。誰だってあそこにいたら絶対に恐ろしいと感じるはずだよ」
「山田とその他三人の会話がブツブツ切れまくってるし、だいたい和泉の声が全くないけど、和泉はここにいたの?」堀川が問う。
「ああいたよ、俺も結構ペラペラしゃべったから」咲太郎がへらっと答えた。
ヤマダはちょっと慌てているようだ。でもとぼけてこう言うんだ。
「でも、和泉はいつも通りあまりしゃべってなかったよ。音の状況が悪いみたいだから切れているように聞こえるのはしょうがないよ」
「でも妙じゃないか?先生もおかしいと思いませんか?」
堀川が一生懸命言ってくれた。ありがとう堀川よ!
ここでヨシノ先生が口を開いた。
「おかしいですね。この四人は確かにヤンキー化しがちですが……こんな頭の悪そうな脈絡を無視した会話をする子達ではありませんでしたから。ちょっとこれは……ある意味カオスですよ。和泉君のことを親切だと言った山田君に対して、いきなり八木君が『おいてめえ、ふざけんな、みっともない、消えろクズ野郎』と言うなんて普通の神経じゃありませんね。その後は佐倉君がいきなり『咲太郎をみくびるな、口の悪いおばさんと罵り合ってヤンキー3号になるぞ、山田君ってかわいいね?誰彼構わず言っちゃえ』って、そんなアホな受け答えをする連中がよくここに入れましたね。まるっきりキチガイですよ。あなたたち、ついに、おかしくなったんですか?」
先生、俺たちはそんなことは言ってないんですけど。
別に咲太郎はお母さんと罵り合ったりは……
「山田君、あなたもさぞかし怖かったでしょう?こんな頭のおかしいクラスメートに四対一で向き合うなんて!あなたはとても勇敢だと思いますよ。それに、事前に危険を察知して録音の準備をする。これは身を守る手段として大切なことかもしれませんね。感心しました。それに比べ……あなた方はなんですか!友人を褒めた山田君に向って、みっともない、消えちまえこのカスが、人間のクズが!って。いきなりそんな暴言を吐くなんてありえませんよ。それから佐倉君!あなた、クラスメートに向って『君ってかわいいよ』って!これは恐怖ですよ?山田君も驚いたことでしょうね。人によってはセクハラに感じるかもしれませんよ」
ヨシノ先生……ちょっとどうしちゃったの。
緑子先生がおたおたしてる。
「いいですか、こんなふうにいやらしい脅しをするような連中は厳しい罰を受けてしかるべきです。自分たちの発言をよく考えてみなさい!」
いやらしいって、あ、烈のことか?
ヨシノ先生狂ってしまったんでしょうか。
何も言わない烈や雄士。咲太郎は呆然。
こうなったら俺が言うしかないだろう?だから言ったよ。
「先生、この録音は重要な部分がカットされています。だいたい俺たちがなぜ呼び出されたか、山田が何を頼んできたのか、の部分が切り取られていますから。これじゃ確かにキチガイの会話ですよ。山田が俺たち四人に頼んできたのは、田尻に仲間はずれにされて研究発表のグループに入れてもらえないから、俺たちと組みたいってことなんですよ。それで、」
するとヤマダが慌てて口を挟んだ。
「だから、あと二人必要だからよかったらってお願いしただけじゃないか!そうしたら君がろくに話もしたことがないくせにって怒ってきたんじゃないか」
「いや、俺たちはそんなことで怒ったりしないよ。困ってるんだったら班に入れたって別によかったんだ。でもヤマダが、俺たち四人を二人と二人に分けて、どちらかが自分たちと組むように言ってきたから呆れたんだよ。そりゃあまりにも勝手じゃないか?俺たちの残りの二人はどうすんのって俺は訊いただろ?これから誰かを探さなきゃなんないのかって」
俺の発言でクラスがざわついたけど、ヤマダはまだわめく。
「そんなこと知らないよ。僕はそんなことを言ってないよ。結局は田尻が班に入れてくれたけど、あの時はちょっとゴタついていたから必死で、」
「ちょっと聞きたいんだけど、あの時言ってたヤマダが組もうとしていた他の二人って誰なの?ヤマダは田尻の班に入れたかもしれないけど、その二人は大丈夫だったのか?そいつらは一体誰と組んだの?なんかおとなしい奴だとか、あーだこーだと他にも色々言ってたじゃないか」
俺がこう訊ねると、さすがにヤマダも慌てたらしい。
そして、ついに禁断のワードを口にしてくれましたとさ。
「ちゃんと班が見つかったよ。だいたい僕が何か言ったとか、そんな適当なことを言わないでほしいよ。僕の発言の証拠なんてないじゃないか」
でも、咲太郎がとぼけた声で「あるよ」と答えた。
ヤマダは一瞬驚いた様子だったけど、すぐに気を取り直した。
「いい加減なことを言わないでよ。君たちはあの時スマホなんて持ってなかったじゃないか」
「いや撮ってたよ。今、先生も言ったよね?『事前に危険を察知したら録音などの準備をすることは身を守る手段として大切』って。俺はそれをしたよ。この前は散々な目にあったから防衛本能ってやつさ」
ヤマダ震える。田尻引き攣る。そのお仲間も真っ青。
ってことで咲太郎が続ける。
「実を言うと、おかしいと思ってたんだよ。あんた田尻たちから距離を置かれてたけど、なぜか時々視線で合図しあってたでしょ?あれはおかしいと思った、それで俺たちを呼び出しでしょ?おかしいと思わないほうがおかしいんじゃない?言っとくけど、録画もしてるよ。見る?」
田尻が叫ぶ。“録画するなんて卑怯者だ”と。
クッ!言ってろよ。
さて、我らがヨシノ先生のご登場だ。
「和泉君、あなた、本当に録音録画をしていたのですか?」
「はい。実はそうしたほうがいいよってみんなにも言って録音録画させましたよ」
「なぜそれを早く言わないんです?今すぐ見せなさい!」
ヤマダの血の気が引いていくのが見えた。
田尻はどうするんだか、もしかしたら知らんぷりを決め込むか?
そうはさせないよ。
今回は烈と雄士は暗く沈んでてもらうことになってるから俺が言う。
「あー、先生実は」
「なんです?」
「実は、慶次が廊下で録画録音していたものもあるんです。咲太郎のを見せ終わったらそちらもお見せしますので」
「廊下、廊下の映像……あるなら見せなさい。さっさと全て見せなさい!」
ヨシノ先生怒り狂った感じだけど、なんでだ?なんか楽しそう。
他の先生方、なんか怯えてるし。
さて、スクリーンに投影だ。
咲太郎が準備している間、クラスはざわつく。
そりゃそうだよな。
一瞬ざわついた教室は、映像が流れ始めるとしん、となった。
スクリーンに映し出された映像はかなりはっきりしていて、俺たちがどんなふうにヤマダと会話をしたかがよく見える。
それになぜか音もすごくはっきり聞こえたんだ。
田尻に仲間外れにされて、研究発表の班にいれてもらえなくなったから俺たちの班に入れてほしいってことから始まり、できれば俺らが2人と2人に分かれて、そのどちらかに自分とその他に2人を入れて5人グループを作ってほしいってこと。
そしてその二人ってのが、おとなしくて暗い奴だとか言っていたこと。
それはあまりにも身勝手なんじゃないかと俺が抗議したら、俺が去年怪我をさせられた事件の時にヤマダがかばってあげなかったことを怒っているからだろ、とか言い出して、雄士と咲太郎に非難されたこと。
咲太郎が俺たちに毒されたと言ったこと。
烈にヤマダが何がしたいのかを問われた時に、烈のお母さんの高齢出産の話を持ち出して侮辱したこと。
そして、雄士の素行を持ちだして、奨学金のことで脅したこと。
全部綺麗に流された。
そして、廊下で田尻がこう言ったこと。
ーーー(ちゃんと録ったか?)
ーーー(よし!班には入れてやるから安心しろ。よくやった)
さらに田尻の班の研究テーマ。
『高齢出産と教育費』――
こうくれば、奴らがどんなに卑劣な奴かってことがわかるだろう?
ヨシノ先生が黙り込む。
緑子先生がプルプルと震えてる。ちょっとかわいい。
ん?怒り狂ったようにも見えていたヨシノ先生がやっと笑ってくれた。
さっきから妙な感じだったのに急にどうしたんだろう?
奴らの行いについて何も言わないんだろうか?
いつもの先生らしくない気がするけど。
「なるほど。よくわかりました。ひとまず――あなた方が細かく詰めていたという元々の内容の発表はできますか?急遽変更する前の題目は、なんでしたか、たしか、」
「『いじめ白書/被害者を装う卑劣と仕立て上げられた加害者』です」雄士が答えた。
「それを発表しなさい。実は今回あなた方の発表を楽しみにしていたんです、私は。それがこんなことに――はやく発表なさい」
俺たちは淡々と発表した。
いじめ問題というのは、実際自分がそれを受けても、誰かがされているのを傍から見る羽目になったとしても、その状況を言葉にして発するだけで、ずずんと重くなるものだから、感情をあまりのせずに、なるべくあっさり、さらっと、そして理屈っぽ系の話し方で進めていった。
咲太郎に言わせたくなかった部分は俺が話したし、俺が話しずらい部分は打ち合わせていなくても烈や雄士が話してくれた。
どんな時だってそうやってやってくれる友達がいるってのは、ほんと恵まれてるんだよな。なかなかそういう友達を持てる奴っていないよな。
俺だけがそう思ってるんじゃなくて、こいつらも、あと他のクラスの二人も、同じように思ってくれてるかな?そうでなきゃちょっと寂しいもんな。
こんなことばっかり考えてる俺って結構重くて暑苦しい奴って思われそうか?エリカちゃんとかどう思うんだろう。
自分で言うのもなんだけど、俺らの班の発表はかなり良くできたんじゃないかと思う。
実際、一般的にいじめと呼ばれるような仕打ちを受けた経験者が語る体験談は、その当事者ならではの心の痛みにリアリティがあるし、対処し、克服するまでのプロセスをわかりやすく説明できるからね。
苦しんで辛かった時の痛み、傷ついて落ち込んでいく気持ちもそうだし、切り抜けられたという自信。
そういったものを具体的に説明できるのは経験者だけだからね。
もちろんいじめのターゲットにされたことのない、幸せな未経験者だって、想像力があれば理解できるだろうけど、それだけで完全に共感したり、同じ傷を抱えたことがあるという部分で生まれる連帯感は持てないような気がするんだ。
でも想像することが大事だってのが今回の発表で言いたいことなんだよね。
それと、誰かに言えない人の場合の話―――
本当にどうしようもないほど傷つけられても、それを誰かと共有したり、告白したりしたくない場合の話。
だってそういう状況があるかもしれないだろう?
いじめを一切経験したことがない『幸せな未経験者』だっているわけだから、色々なケースがあるよね。いじめを受けた時の状況なんて人それぞれじゃないか。
俺たちは全員がそれなりに嫌な思いを経験したことがあったけど、助けてくれる奴らがいたんだからかなりマシな方さ。
助っ人が誰もいない場合の方がきっと多いよな?
そのことにも気づいたんだ。
そういう――『誰も助けてくれない状況の中でのいじめの未経験者』である俺たちも、想像力をもたないといけない。
うまい具合に克服できたからって、克服できないで苦しんでいる奴らを偉そうに叱咤激励するのはちょっとな、って思うんだ。
想像力が大事だよってこと!
と、まあ、そんな感じで発表を終えたんだ。
―――が、だよ!
田尻とヤマダの嫌がらせが前段にあったもんで『シーン』と静まり返っちまったぜ。
こんな時はジェントルマンで豊かな語彙力に定評があるこの俺が、うまい冗談を言って笑かさないとだめだな。
例の『雄士の雄姿大爆発』を使うか?
それに持ってくには、あれか!
―――『牛乳ティッシュで雄士の雄姿大爆発』とかか?
いやどうやってこのフレーズまで持ってきゃいいっての?
牛乳ティッシュはしこたま怒られた事件だからまずいだろうな。
それにまずい。緑子先生が泣いている。
ほんと優しい先生なんだよな。
クソ野郎の井福(教師)との結婚話が破談になってマジでよかったせ。
たよりのヨシノ先生もだんまりだし、どうしたらいいのこの状況。
こんな空気を作ってしまった俺たちを救ってくれる者はいない。
でも、こういう時のために先生っているんじゃないの?
ここはもうナニコレ不思議時空になっちまった!
ヨシノ先生も天井を見ている。
やってしまった俺たち。
結構辛い。
―――と、小さな声が上がった。誰?
「俺、この発表すごくよかったと思う。その時の気持ちが伝わってきた。だから、今回拍手がなかったのはきっと良すぎたためだから」
と言ったのは堀川の仲間の三田。
ううっ、ありがとう。ちょっと声がするだけで安心するよ。
「そうそう、押しつけがましくなくて、人を傷つけないいい発表だった。言いたくも思い出したくもなかっただろうに、よく考えてくれててとてもよかった。参考になるよ」
またもや堀川の友達。
話したことはあんまりないけど、こいつも結構いい奴なんだよな。見てりゃわかる。
「うんわかる!拍手がないのはそういうこと。結構ずんときたからってだけだからな。別に暗くなったからとかじゃないぜ?マジでいい発表だった。ところで――『おとなしくて暗い奴』って誰なの?、山田に聞きたいんだけど。もしかして、俺と吉川のことか?班のことで話したろ?俺らと」
んん?っと、林と吉川がヤマダと組もうとしてたのか?マジか。
いやあ、俺のダジャレで空気を揺るがすまでもなく、ざわついてきた。
ちょっとホッとする俺。
と、烈の目がキラリンした。怖い。
「は?林と吉川のことだっての?おとなしくて暗い奴だって?何を言い出すんだヤマダ君は、そうなの?」
烈が質問するとちょっと怖いんだよな。ヤマダめ!怯えろ。
ヤマダ焦る。
「違うよ!そういうことを言ったわけじゃなくって――別に君たちのことじゃ、」
「じゃあ誰だっていうの?おとなしくて暗い奴って。言ってみろよ」と、林くんが吠える。
ついでに吉川も笑う。
「おとなしくて暗くてごめんよ。ヤマダが入れてくれって言うからいいよって言っただけなんだけど、どうしてそんなこと言われなきゃならんの俺ら」
「だから違うって言ってるじゃないか」
おっ、焦るヤマダがちょっとかわいいじゃないか。
「ヤマダは誰と組もうとしてたかって聞いてんだけど?――で、田尻はなんだよ『ちゃんと録ったか?よし班には入れてやるから安心しろ。よくやった』って。これ何なの?お前、何様なの?不気味すぎてキモイんだけど」
おおおう、その通りなんだよな。ありがとう!
しかしヨシノ先生、なんで何も言わないんだろう?
「お前らって、佐倉の親のことを言ってたんだな?最低じゃないか?信じられねえ。正真正銘のカスじゃないか!」
おおう!その通りなんだけど。喜びが顔に出てないかが心配なんだけど、どうよ。俺はまだジェントルマンでいられているか?教えてくれ。
「ああ。なんかさっきの発表を思い出したら気分が悪くなってきたわ。俺はお前らにうっかり拍手しちまったから最悪な気分だぜ」
「マジ、マジそう。気分悪いわ。ついついつられてのお愛想拍手が失敗だったな。お前ら、奨学金をもらうような家になるとどうとか言ったよな?なんだっけか――教育資金が足りなくて、奨学金を借りすぎる不幸な子供をつくるなって言ったよな?俺んちのことかこれ。なんかおかしなこと言ってるなと思ってたんだけど、うちと八木を馬鹿にしてたのか?そう思われても仕方ないよな」
おう!まさにそれ!その通りにムカつくよな。
と、この辺で俺たちの発表の終わり告げてと。
―――「それでは、」
誰も聞いちゃいないじゃないか!
さっきまでの『シーン……』はなんだったの?
ものすごく騒がしいんだけど。
「なんなのこいつら、生まれてくる子供のために無計画な出産はやめろとかって言ったよな?発達障害のリスクとかなんとか!ものすげえこと言ってねえ?ムカつくんだけど。ヤバすぎだろ、失礼だろうがよこのクズ!」
「ほんとだよ。だいたいさっきの録音の中に、佐倉のお母さんのこと言ってたじゃんか!八木の奨学金のことも。完全に嫌がらせのあてつけじゃないか!気分悪、マジで」
「録音にくだらねえ細工しやがって!佐倉がヤクザみたいに脅して睨んだって?佐倉はいつも通りダラダラ眠そうにしてただけじゃねえかよ。八木の言ってることはもっともだし、まともなことしか言ってねえよ!珍しく和泉もハッキリきっぱり話してて驚いたよ俺は。それに久慈が言ってることも当然のことばかりじゃね?」
だよねだよね?その通りなんだけど、なんか俺たちが黒板の前で糾弾されてる気分になって来たんだけど。
「だいたい田尻って何様なの?きっも!それにヤマダよ、お前恥ずかしくないのか?人を罠にかけるようなことをして。顔も見たくないんだけど俺」
「マジ最悪!発達障害とかお前らよくも言えたよな?問題提起のつもりなのか?よく言えたと思うよ俺は。失礼だろうがよ」
「人の脚をわざと痛めつけるような奴らに、お前は弁解する機会を与えるのかよ?お前が公平に裁くの?何がかばってやれなかっただ?てめえの援護射撃はいらねえよ!」
「あいつらを退学させたから八つ当たりか?親分が消えたから困ってんのか?だったらお前も退学しろよ!最低のクソ野郎が!」
いやあもう、なんか俺らがヤンキー13号くらいまでの怖いお兄さんから怒鳴られてる気分なんだけど。
もう立ってるのが辛い。
ヨシノ先生ってばなんとかしてよ。助けて。
って、まだ無視なの?
俺ら四人に対してみたいな糾弾が続いているこの状況。
いつの間にか、もう休み時間に入ってたのさ。
だから他のクラスの連中が見に来てんのよ。
ついでに言うと俺たちの仲間の慶次も燐も見に来てる。
こいつらは笑ってるけど、何も知らない奴らは俺たちがつるし上げられてるように見えるみたい。
悲しいんですけどコレ。
はあ。
おっと、やっとヨシノ先生が出てまいりました。
遅すぎるよ!
「はあ、しかしまあ、ここまで非難されるとはね。廊下の皆さん見てましたか?全部見ていないからわからないでしょうが、可哀そうに、当然の結果でしょうね。あれほどの『嘘と卑劣』を数分間の発表の中に込められるとは驚きです。相手を徹敵的に侮辱し、傷つけ、心を挫かせるような下品で陰湿な言葉で溢れた発表を私は見たことがありません。この学校で教師となり、多くの生徒を見てきましたが初めてのことです」
えええええ!ちょっと、廊下の皆さんが俺たちをものすごい軽蔑のまなざしで睨んでくるんですけど。
笑顔なのは慶次と燐だけじゃないか!
なんなのこの拷問部屋は。
ヨシノ先生、まだ続けるつもりっぽい。ちょっと待って。
「その人本人のことだけでなく、相手の家族や家のことをあなた方は侮辱しましたね。そしてその人の頑張りや才能を否定し、いやらしい下劣な言葉で貶めようとしました。なにが『高齢出産と教育費』ですか!
――このクズが!カスが!このキモスが!みっともないきょろ充が!――
いいですか?私は教師ですから、今、口にしたような汚らしい言葉で非難するようなことはしませんが、たった今、私が参考までに例に出した言葉で、誰かがあなた方を非難したとしてもですよ?私はそれを言った人を軽蔑しませんよ。
あと例にだす言葉をあげるとすると、そうですね、
――みっともないクズ野郎、くそったれ野郎が!目障りなカスが!卑怯な下劣な虫けらが!卑劣なぼんくらクズが!このキモス虫が!うせやがれヤンキーのさんした野郎が!――
というような、恐ろしい暴言を吐く者が出てこようとも、今回の発表のあとでは、私は今のような言葉を発した生徒を叱る気にはなれません。全く恐ろしいことですこれは。見てごらんなさい、廊下の皆さんも驚いていますよ。もしここまでの暴言を吐かれても仕方ない、当然の評価だ、というように思えてしまう、そう感じさせられるような人間がこの学校にいるとういうことが私には信じられないんです。今あげた暴言は決して口にしていいような言葉ではありませんから、皆さんももちろん口を慎むべきです。
暴言を吐くなどということは出来ませんし、当然教師として、人前でこのような荒々しい暴言を吐く気もない私が、彼らをなんと言って注意したらいいのか、本当にわからなくなるほどに、彼らの行いは酷すぎました。彼らからの謝罪の言葉も、言い訳の言葉も聞きたくないでしょうし、もういいですよ。
さあ、そこの四人は着席しなさい。はっきり言いましょう、久慈君、和泉君、八木君、佐倉君、本当に素晴らしい発表でしたよ!」
(廊下側、観客席の皆さんのお声)
―――ええええええ?!
―――はああああ?!
―――狂った!
ヨシノ先生の満足そうな顔ったら!
この誤解を誰が解いてくれるっての?
◇◇◇◇◇
ヨシノ先生の発狂は俺たちの心を救ってくれたんだ。
緑子先生の涙も。
後から聞いたけど、緑子先生のお姉さんは今まさに高齢で妊娠中だそうな。
お姉さんが気にしていて、心配しているようなことを、奴らにしたり顔で発表の中で言われてさ、どんなに悲しかったかって思うよ。
その後のことだけど、ヨシノ先生も緑子先生も、田尻やヤマダの仲良しグループの親を呼びつけることはしなかったんだ。
ただことのいきさつを文字にしてメールしたそうだ。
あまりにも悪質ってことでね。
ここまでのことをしでかす生徒を立ち直らせたことがないってことで、彼らの教育は家庭にお任せしますという文言で締めくくられていたらしい。
田尻もヤマダも他の連中も、今後ヨシノ先生のクラスになることはないって話だ。
学校側としても腫れもの扱いの俺らをヨシノ先生に押し付ける形になってるわけだから、クラス編成には気を遣うだろう。
俺たちは運が良かった。
しかし、注意を受けないってのもキツイもんだよな。
ヤマダも田尻も二日くらい学校を休んだからな。
それでも奴らは登校して来た。
せっかくうちに入ったんだ。卑劣認定くらいじゃ退学なんかしないだろうよ。
卒業したら、うちの学校卒ってことで評価は高いってんだから笑っちゃうぜ。
学校も学歴も仕事も、肩書き任せの人間にはなりたくないって思ったよ。
俺たちはあいつらとは違うんだ。
◇◇◇◇◇
ヨシノ先生の研究室。
「さて、あなた方。あのしおらしい態度はなんだったんです。わざとらしいったら!緑子先生はすっかり騙されて、ずっと涙ぐんでいたんですからね。私は騙されませんがね、すぐわかりました。その鼻のヒクつき、口元の震え、目尻の涙。よくまあ最後まで演じ切ったこと!」
「そりゃないですよ、俺たちだってただムカつくだけじゃなくて、それなりに傷つきましたよ」
こう言ったのは雄士。
雄士が続ける。
「親の、家のことをとやかく言われんのはイヤなものだからさ。あのカス共にうちのことをどうこう言わせたのは俺だから」
「そう思うんですか?馬鹿なことを!八木君、絶対にあなたのせいではありませんよ」
「そうかな?俺が大人しくしてりゃあれほどやってこなかっただろうって思うから」
「まあ、あなたがそう思うならそれはそれでいいですが、私は全くそうは思っていませんから。あなた方の態度は立派でしたよ今回は。それに比べて――私のアレがね。どうも私のアレを伝え聞いた井福先生がお怒りのご様子でしてね。井福先生が一年の頃から可愛がっている田尻君をやり込めたのが気に入らないらしくて、ガーガー言ってるみたいですよ。教頭先生に色々とね」
「本当ですか?そういうことなら、考えがあります。俺たちに任せてください」
「佐倉君、なんかあなたが言うと不安になります。一体何をしようというんです?」
「いやあ実は、あの発表を全部録音録画していたんです。最初から全部。それで、奴らのひん曲がった口元とかも全部ね。それを教頭先生に見せましょうよ。奴らがどれだけ最低の奴らかってことを見ていただきましょうよ」
「それは素晴らしいですね。ですが――それだと私のアレも入ってくるじゃないですか。それはちょっと面倒なことになりますよね。ええ多分」
「いや大丈夫っすよ先生。こういうのは慶次にやらせましょう。あいつはうまいですよ編集が。奴らのブツブツ切れたクソ編集と違って綺麗にやってくれますよ」
「……八木君、それは――私には言っている意味がわかりにくいようですね。まあ先を聞きましょうか」
「はい、そうでしょうとも。先生にはこの中から『アレ』を二つくらい選んでもらってですね、それをうまくこう、輝かせますよ。慶次が」
「なるほど。私を輝かせてくれるお手伝いをしてくれるんですね。彼が」
「そうです。でも、俺たちには選べませんでした。先生は一例としてあげただけですからどれを選んでもいいと思うんですが、できるだけソフトな言葉をと考えると俺たちには難しくて――こちらはアレを書き出してきたものですが、先生が選んでください。この中から二つほど」
―――このクズが!カスが!このキモスが!みっともないきょろ充が!
―――みっともないクズ野郎、くそったれ野郎が!目障りなカスが!卑怯な下劣な虫けらが!卑劣なぼんくらクズが!このキモス虫が!うせやがれヤンキーのさんした野郎が!
「私に選べと?生意気に腕を上げましたねあなたたち」
おわり
お読みくださりありがとうございます。
文章を書いている最中にいきなり地震のアラームが鳴り響いて心臓がキュッとなりました。
ここ数日なんかずっと座っていてもゆらゆらするなと感じていて、自分の体調がおかしくなったのかと思っていたらこれです。怖いですし、本当に気を付けないといけませんよね。
それではまた。




