MORITARIN 3
...
Episode -1 C
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
ロギと父さんが乗っていたトラックは、いつの間にか目的地に到着していた。そこは、捨てられた都市の中にある、みすぼらしい村だった。
入口には高い二本の石柱が立ち、その間に大きな木の看板がぶら下がっている。
その木の板には『ドトリ村』という文字が、大きく書かれていた。
ロギの胸はどきどきした……そして怖かった……
「ドトリ……? ここが、私が住む場所……?」
正体の分からない不安に、胸がぎゅっと締めつけられる。泣きたかったけど、こらえた。ママのことを思うと、泣けなかった。
トラックはゆっくり村の中へ入り、目的地にはたくさんの人が出てきて、二人を迎えていた。
まるで村じゅうの人が出てきたみたいだった。
「えっ? 父さん、あそこ……」
驚くロギを落ち着かせるように、父さんは今の状況を説明してくれる。
父:ロギ、びっくりしただろ?
ロギ:う、うん……なんでみんな出てきてるの?
父:ああ。父さんが子どもの頃は、こういうのが当たり前だったんだ。
父:つまりな……昔は近所同士、こうやって助け合って暮らしてたんだよ。
父:みんなが一つの家族みたいにな。
ロギ:わあ……不思議……
父:だろ? すごく不思議だろ?
ロギ:うん……でも、よく分かんない。
父:前に住んでたところじゃ、見られなかった光景だろ?
ロギ:うん。
父:ははは。こういうのが、人が一緒に生きるってことなんだ。
ロギ:うーん……そっか……
ロギの頭の中は、ますますぐちゃぐちゃになった。村の人たちの過剰な親切が、あまりにも慣れなくて怖かった。
幼いロギは、どう反応すればいいのか分からない。
トラックが完全に止まり、エンジンが切れると、父さんは急いで車を降りた。
そして初めて会う村の人たちと温かい挨拶を交わしながら、いろんな会話を続けていく。
ロギは思考が止まったみたいだった。
『降りる? 降りない?……』
深くため息をついたロギは、ゆっくりトラックを降りることにした。
ドアを開けて外へ出る。周りを見ると、たくさんの村の大人たちが忙しそうに行き来していて、とても慌ただしい。
ロギは父さんを探す。けれど、すでに人混みに紛れている父さんを見つけるのは簡単じゃない。
じっと立っているのも変だし、歩き回るのも初めての場所で道が分からないから怖い。
いっそ、車に戻ろうか――と悩んでいる。
その時、ロギの目の前で、もっと驚くことが起きた。
村の人たちが自分からトラックに集まり、秩序よく荷物を降ろし、分担して持ち、
ロギが住む家の中へ、丁寧に運び込んでいた。
ロギは「なにこれ……?」という気持ちだった。何人かの大人と目が合ったけれど、特別に気にした様子はない。
[子どもが驚くのを分かっている大人たちの配慮だった。]
ロギは父さんを見つけた。父さんもロギと目が合ったが、少し笑って、また忙しそうに動き回っている。
戸惑ったロギは何度も切実に父さんを見る。でも、父さんはロギに構っていられる余裕がない。なぜなら――
村の人たちがわざわざ時間を作って、引っ越してきた二人の大変さを手伝ってくれている状況で、
少しでも手を止めるのは、失礼だと思ったからだ。
けれど、そんなことを知るはずもないロギは、寂しくて怖くて、疎外感まで感じてしまう。
またトラックに戻ろうか……と思ったが、結局、
日差しが当たって暖かそうな塀へ、ゆっくり歩いていく。もたれて、心の中で思った。
「はぁ……ママ……私、どうしたらいいの……?」
ママのことを考えたら、涙が出そうになった。悲しさを必死で抑えようとした……その時!
遠くのどこかから、ロギと同い年くらいの女の子が現れた。
その子の隣には、もっと小さくて――妹みたいな子も一緒にいる。
二人はロギに向かって、早足で近づいてきていた。でもロギは気づかなかった。
ロギと同い年に見えるその子は、ためらいなくロギに近づき、手を取って嬉しそうに挨拶した。
パイ:やあ、ロギだよね? はじめまして。あたしはパイ。で、こっちはエティ。
エティ:やあ、ロギお姉ちゃん! あたし、エティ!
ロギ:えっ? なんで私の名前知ってるの……? へへ
[気まずそうに笑ってみせた。]
パイはロギの手を握ったまま、ロギの父さんのところへ近づく。そして大きな声で挨拶した。
[今の村はとても騒がしく、落ち着かない。]
パイ:おじさん、こんにちは!
父:おっ! こんにちは。そうだな、おじさんはロギの父さんだよ。
父:今日ロギと一緒に、ここへ引っ越してきたんだ。よろしくな。君たちは誰だい?
ロギの父さんと村の子どもたちが、初めての挨拶を交わす。ロギはこの瞬間も、頭の中がいろいろだった。
父:会えて嬉しいよ。これからロギと仲良くしてやってね。
パイ:うん、おじさん!
パイは少しロギの父さんと話したあと、ロギと一緒に勉強部屋へ行ってるね、と言った。
父さんはまた荷物を持ち上げながら答える。
父:じゃあ、頼むよ。
それからパイはロギの手を離さないまま、勉強部屋へ向かって歩き出した。
ロギは引っ張られるみたいについていきながら、父さんに言った。
「父さん、行ってくるね〜」
でも父さんは、もう忙しすぎた。
ロギ、パイ、エティは勉強部屋へ向かう。互いにあれこれ聞きながら、本格的に話し始めた。
同じ時間、小さな路地から、同い年くらいで体格の大きい男の子が歩いてきた。
その子の名前はレオ。パイの友だちだった。
レオ:やあ、ロギ〜。俺、レオ。
ロギ:え……? また私の名前知ってる……ここ、変だよ〜
レオ:はは……で、ダビはどこ?
ロギ:え? ダビ? なに? だれ?
ダビの居場所を聞かれた瞬間、パイの表情が曇る。
パイ:あのバカ、マンガ見てて来られないと思って、私たちが代わりに来たの。やっぱり来ないよ。そりゃそうだよね。
エティ:バカだって えへへ
レオ:そっか。っていうか……あー、腹へった。お前ら、もう食べた?
パイ:ううん。私たちも勉強部屋行って食べるよ。
エティ:うん!
ロギ:えっ? 勉強部屋でご飯食べるの?
パイ:うん! 勉強部屋行くと先生が、おいしいの作ってくれるよ〜
レオ:マジで世界一うまい〜
パイ:えへへ そうそう。
エティ:毎日、勉強部屋でご飯食べたい。
レオ:わかる!
ロギは戸惑った。
「なに……ここ……?」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
倉庫の開いた扉から、冷たい風がそっと吹き込んでくる。嫌な冷気だ。
見つかったのも不快なのに、冷たい風まで重なって、気分がさらに悪くなる。
巨大な虫が赤い鶏へ大股で近づきながら言った。
「さあ、約束どおり捕まりましたね? では大人しく戻りましょう〜!」
虫は、まるでこういうことに慣れているみたいにぶっきらぼうだ。少し、この状況に飽きているようにも見える。
「モンド! 今回は見逃して。お願い。今度こそタリンの森に行きたいんだ。」
驚くほど取り乱さないモンド。
「え〜、だめですよ〜。約束でしょう〜? ほら、戻りましょう〜。」
モンドは彼の頼みをきっぱり断った。だが赤い鶏は、どうしてもこのまま戻れない。
今回だけは、どうしてもタリンの森に行きたいのだ。
赤い鶏:頼む。俺を見なかったことにして。ね? この恩は絶対に忘れない。お願いだ!
モンドは少し迷ったが、冷静でいることにした。そして落ち着いて言い聞かせると決める。
モンド:私が逃がしても、どうせタリンの森には行けませんよ〜。分かってるでしょう?
タリンの森の周りには、うちの兵がびっしりいます〜。
一歩も進めずに捕まりますよ。次の機会を狙いましょう、イート様〜!
イートは何度も頼んだが、無駄だった。
いつの間にかイートも、断られ続けて気分が悪くなり始め、二人の会話はだんだん感情的になっていく。
イート:こうなったら俺も手はない。お前を倒して、俺は俺の道を行く。
[モンドは呆れたが、今回も落ち着いて答えた。]
モンド:もう過去の栄光から抜け出さないといけませんよ〜。イート様は……全部失ったじゃないですか。
モンド:バラクを震え上がらせたイート様の力は、もう完全に消えてます〜。
モンド:セイジ女王様がわざとイート様を捕虜にして、嘲笑と屈辱の的にしたんですが……
[モンドは惨めになったイートを見て、最後まで言えなかった]
モンド:分かります。生きる希望が必要なんでしょう……。とにかく、いったん戻りましょう。
モンド:戻って、一緒にタリンの森へ行く方法を考えましょう〜。今は方法がありません。本当ですよ〜。
二人の会話は続いたが、意見の差は埋まらなかった。
その時――遠くから、巨大な何かが、今この倉庫から漏れ出している明るい光へ向かって歩いて来ている。
いつの間にか感情がこじれきった二人の会話は、荒い言葉にまで発展していた。
イート:俺はまだ、お前程度なら簡単に捕まえられる! どけ! そんなことしてたらお前、大怪我するぞ!
モンド:ぷっ〜。その姿で誰を捕まえるんですか〜。私だって怒ったら怖いですよ?
イート:食物連鎖ってやつを教えてやる! どこまで図に乗るんだ、虫が!
モンド:やってみたらどうですか〜? その姿でタリンの森に行くって? 笑わせないでください〜。
激しい言い合いの最中、モンドの背後に、巨大な虫の片脚が見えた。
モンドの三倍は大きい虫――メロンが到着したのだ。
モンド:もう! いいです! さっさと行きましょう〜。くだらない会話、疲れました〜。
モンド:それに私がいつ、どこへ行く時も一人で動いてるのを見たことあります?
私も下っ端ですが、幹部なんですよ〜!
イート:[ぶるぶるぶる]……メ……メロン……
[メロンはバラクの戦闘型の虫である。幹部級のモンドより大きいが、最大個体ではない。
バラクは普段、黄色い触角を動物の耳のように自由に動かし、ときに攻撃にも使う。体色は役割によって異なるが、
メロンのような地上戦闘用に分類されるバラクは紫や青系であり、
目と爪が触角と同じ色になることもある。
頭と胴の間には毛が豊かで、かなり暖かそうに見える。バラクの殻は軽いが、丈夫で頑丈だ。
単純な弾丸や鈍器ではダメージを与えられない。]
諦めたようなイートを見つめるモンド。切なさといたわしさを宿して、もう一度、温かい言葉をかけた。
モンド:希望は、きっとあります〜。タイミングを一緒に待ちましょう〜。
モンド:タリンの森へ行く計画、私も手伝います〜。
モンド:だから、まず私と一緒に戻って……そこで、改めて準備しましょう? ね?
イートは切実だった思いと、積み重なった苦労と、消えかける希望の前で、糸が切れてしまった。
モンドの温かい言葉も、絶望に沈んだイートには苦しみを増やすだけだ。
イート:ついに、タリンの森の手前で最後の手段として使うつもりだった秘密兵器を取り出す。
赤くて、長く丸い缶のようなそれは、まるでミサイルみたいだった。
無数の秘密兵器が、イートの背中の後ろから床へどさどさとこぼれ落ちた。
モンド:えっ? それ、何なんですか? いったいどこからそんなに? っていうか!
その小さい体のどこに、あんなに隠してたんですか〜!?
イート:離せ……タリンの森に行かなきゃ……
モンド:落ち着いてください! それで、その武器は何なんですか〜?
イート:これは、ゴルディクのロラン皇帝がバラク退治用に作った殺虫弾だ……下がれ!
[ロランが趣味で作ったものなので効果は分からない]
モンド:殺虫剤で私たちを脅すつもりですか〜? そんなの効くわけないじゃないですか〜。
イート:最後の警告だ!
モンドもついに我慢できず、荒い言葉を吐いた。
その言葉でイートは理性を失い、即座に武器の使用命令とともに作動ボタンを押した。
「ロルロル!」
作動命令と同時に、床に転がっていた武器たちが宙へ浮かび上がり、待機モードで使用者の命令を待っていた。
イート:ぐああ〜! もう我慢できない! 行け!
武器は一斉にバラクへ飛んでいった。イートは、ロランが作った“殺虫弾”と書かれたこの武器が、
殺虫成分入りのガスや液体を噴射するものだと信じていた。だが――
期待を裏切った正体不明の武器は、凄まじい爆発とともに強烈な熱を噴き上げた。
イート:な……なにあれ!?
凄まじい爆発にイートは動揺したが、その瞬間を逃すわけにはいかなかった。
その一瞬を使ってイートは全力でバラクの間を駆け抜け、扉を通って脱出することに成功した。
走る間も、バラクの間をこじ開ける時も、扉を抜けて外へ出る瞬間も、爆発は止まらなかった。
全力で跳んだイートは、倉庫から押し出す爆発の力で、思った以上に遠くまで飛ばされ、
ふわりと着地できた。
イートの耳からは強烈な爆発による耳鳴りが消えない。さらに目眩まで襲う。
意識を失いかけながら、彼は最後の言葉を残した。
「ぐぁ……ロラン! これ、爆弾じゃないか……」[倒れながら]
イートはその場で意識を失った。その間も、背後の倉庫では巨大な爆発が止まらなかった。
「殺虫剤って書けば何でもいいのか……くそ……」[ドン]
♢ ♢ ♢ ♢ ♢
エティが叫ぶ。
エティ:「お姉ちゃん、ここが勉強部屋! 早く入ってご飯食べよ〜」
レオ:「そうだよ、腹ぺこ〜〜」
子どもたちの声を聞いた先生は、急いで扉を開けて外へ出て、手を振りながら嬉しそうに迎えてくれる。
先生:「みんな、なんで今なの〜! 早くおいで、うまいの作ってあるよ。ほら、早く!」
ロギ:「あ……えっと……」
パイ:「こんにちは〜、せんせ〜〜」
レオ:「腹へった〜、ご飯ちょうだい〜」
エティ:「きゃははは〜」[エティはとても楽しそうだ]
ロギは挨拶のタイミングを逃してしまった。そんなロギを見ていた先生が声をかける。
先生:「ん〜、こんにちは、みんな〜。……でも、あなたは誰?」
(ロギを見ながら)
不思議なことに、自分を知らない先生が、ロギにはとても嬉しくて、懐かしい気持ちにさえなった。
-1 C END
本作『MORITARIN』は現在、漫画版の制作も進行しております。
小説とはまた違った形で物語の世界を描いておりますので、
ご興味がありましたらぜひご覧ください。
▼漫画版はこちら
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今後とも『MORITARIN』をよろしくお願いいたします。




